カラフル・Eyes ~モノクロ~   作:個人情報の流出

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リメイク前もここは短かったけれど、リメイク後もかなり短くなりました。ごめんなさい。
 上手いこと区切れるのがここだったのです。切れ目弄ろうとも思ったけど、というかかさ増しのために展開変更に合わせて弄ったけど、これが本当にちょうど良い切れ目なんです。
許してください、何でもしますから!


煙る。

「もう逃がさねぇからなぁ、クソ坊主……!」

 

 店主の憎しみのこもった目が俺を射貫く。なんだか殺されそうな勢いだ。これはなかなかマズいかもしれない。俺はまだ子供だ。大人には力じゃ敵わない。これが真っ正面から対峙している状態ならまだなんとかなるかもしれないが、俺は今胸ぐらを掴まれて持ち上げられている。このままじゃ完全に捕まるか、殺される

 なら、ここは『切り札』を相手に見せてでもどうにかするしか無い、か。

 

「やめてよ! お坊さんを離して!」

 

「るせぇ! 黙れ化け物が! ギャーギャー喚くんじゃねぇ!」

 

 店主が大きく拳を振りかぶった。それを見た希望が大声を上げる。が、それに反応した店主の怒声によって、希望は黙り込んでしまった。

 だけどまあ、助かった。その一瞬だけ隙があれば充分だ。

 俺は『目を見開く』。それと同時に、俺の存在が霞む。姿が、存在が世界から薄れて行く。そして、店主が俺に向かって拳を振り下ろそうとしたその時には。そこには俺は居ない。そこにあるのは、煙。実体の無い煙だけだった。

 

「な、なんだとぉ!?」

 

「お坊さん……?」

 

 これが俺の切り札。自分の体を煙にすることが出来る能力。そんな能力を、俺は目覚めたときから持っていた。これが何なのか、何故使えるのかは全くわからない。ただ、使い方だけを知っていた。それだけだ。

 煙になっている間の俺には、誰も触れられない。実体が無いからだ。いくら煙を掴もうとしても、その手は空を切るだけ。決して俺を捕まえることは出来ない。しかしそれと同時に、俺からも何かに接触することは出来なくなる。当然だ。

 店主の手から抜け出した俺は、煙から姿を元に戻す。そして正面から、動揺した店主のガラ空きの腹を目がけて、回し蹴りを叩き込む。

 

「ぐぉあ!?」

 

 店主は情けない悲鳴を上げ、思いきり体勢を崩した。そして位置が低くなった顔面にもう1発、渾身の蹴りをぶち込んだ。

 

「っがぁ!?」

 

 店主が大きく吹き飛んだ。顔面への強烈な一撃に、転がりながら悶え苦しんでいる。

 

「……お前もか」

 

「あ?」

 

 洞窟に店主の汚い声が響いた。妙に憎しみのこもった、汚い声が。

 

「お前も! そこの化け物の仲間かこのクソガキィ!」

 

 店主は叫びながら立ち上がる。顔面に蹴りを食らって、鼻の骨も折れているはずなのに、どんな根性してんだよ、コイツ。

 

「殺す……! 殺す! やっぱりこいつらは危険だ! 閉じ込めるだけじゃ生ぬるかったんだ! ガキだからって情けをかけるのは甘かったんだ! 殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺……」

 

 店主が。その続きを言うことはなかった。俺が思いきり店主のタマを蹴り抜いたからだ。

 

「いい加減耳障りなんだよ。黙れクソじじぃ」

 

 とうとう限界が訪れたのか、店主は膝をつき、そのまま倒れた。起きる様子はない。気を失ったのだろう。

 しかし、参ったな。この店主には俺の切り札を見られた。このまま生かしておいては俺の存在がバレる。殺したところで騒ぎになるし、どのみちこの村を出て行かなければならないかもしれない。

 ……それに、今も牢屋の向こうで俺のことを心配そうに見ている希望に、人を殺すところを見せるのは……きっと、正しいことじゃない。

 

「お坊さん、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。こんなやつに負けるほどヤワじゃねぇよ、俺は」

 

「お坊さん、その。さっきの、って?」

 

「……ああ。あれか」

 

 煙の力。それについてはよくわからない。こいつに説明できることも、そんなに無い。

 

「生まれたときから持ってたってだけだ。それ以外はわからない。能力も煙になれるだけ。くだらないだろ? 役に立つけどさ」

 

「……そう、なんだ」

 

 希望はさっきまでの元気がどこかにいったようにしょんぼりしている。言いづらそうに、言いづらそうに、俺に向かって次の句を告げる。

 

「……私、と。同じなんだね。お坊さん」

 

「……は?」

 

 同じ? 俺と、希望が?

 

「まさか、お前の言ってた塗りつぶすってやつ……!」

 

「うん。お坊さんみたいな、不思議な力」

 

「それを見せたから、お前はここに捕まってるってのか?」

 

「……うん」

 

「……そういうことかよ、クソが」

 

 店主の言っていた、化け物、捕まえるだけじゃぬるかった、殺す、という言葉。それは、希望に向かって言っていた言葉でもあったのか。だとすれば。

 この店主をここに放置していれば、希望は死ぬ……?

 

「……はは」

 

「お坊さん?」

 

「はは、ははは、ははははははは……!」

 

 ……そんな。そんな馬鹿なことがあるわけがない。人が、生きるため以外で人を殺すなんて、そんなこと。

 

「ねえ、お坊さん。私、大丈夫だよ」

 

 希望は、泣いていた。

 その頬に一筋涙が伝って、声が震えていた。何かを、覚悟しているようだった。

 

「どんなに酷い目に遭っても我慢できるから、私。我慢しなきゃ、いけないから。だから、気にしないで。ここにいると、危ないよ?」

 

 希望の声が、表情が、決意が物語っている。ああ、そうか。ここの村の奴らは、やるんだな。本当に、希望のことを化け物だと思ってる。ああ、そうだ。

 化け物退治は正しいことだもんな。

 

「希望、待ってろ」

 

「……?」

 

 俺はリュックの側面に装備していたロープを取り出し、店主を縛り上げる。店主は起きてもここから動くことが出来ない。だから、すぐに希望をどうこうすることは出来ないはず。

 俺は牢に飛びつき、扉を探す。幸いすぐに見つかった。扉には南京錠がついており、それを壊せば簡単に開けることが出来そうだった。

 

「希望。すぐに戻ってくる。それまで待っててくれ。……一緒に、逃げるぞ」

 

 俺は馬鹿だ。大馬鹿だ。無償の善意なんて無い。無関係の者に手をさしのべる奴なんていない。そう思っていた。実際にそうだった。だから、自分のために生きることが正しいことのはずなのに。

 今の俺は。自分の身を危険に晒しても、この少女を助けることが正しいことだと感じている。

 

「お坊さん!」

 

 俺は自らを煙に変え、猛スピードで洞窟を飛び出した。希望の声が聞こえたが、今は無視だ。時間が惜しい。ねぐらに戻って、南京錠を破壊するための道具をとってくる。そして、希望を連れてねぐらに戻り、頃合いを見計らって希望と共に村の外に出る。そんなプランだ。

 この事態を村の人間に知らせに行く人間は居ない。眠っているし、起きたとしても動けないから。だから間に合う。成功する。きっと、あの白い少女を助けることが出来る。

 

 俺はひたすらに森を駆けた。煙になっている今、駆けるという表現が正しいのかはわからないが、とにかく駆けた。ねぐらにたどり着き、道具を持って、ねぐらを出る。その後は、元来た道を戻った。

 体感時間が長い。もう、何時間も経ったかのように思える。不思議な時間の流れの中、俺はやっと、希望のいる洞窟にたどり着いた。

 

「希望! 戻ってきた! ここを出るぞ!」

 

 煙から人に戻り、一緒に持ってきたライトで洞窟を照らし、一目散に牢屋へと走った。そして、牢屋の目の前までやってきた。

 

「希望……?」

 

 そして。俺はそこに広がっていた光景に目を疑った。店主が居たところには切れたロープが放られているだけ。牢屋の扉は開いていて、それで。

 昨日も、今日も、牢屋の中に居たはずの希望は。まさしくその牢屋から、姿を消していた。

 

 tobecontinued

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