カラフル・Eyes ~モノクロ~   作:個人情報の流出

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『魅力的』な少女。

「さて……これからどうすっかな」

 

 観光地でもあるマリアクアンは夜でも明るい。所々の街灯や、電光掲示板がまばゆいばかりの光を放っている。だが、明るいからといって安全とは言えない。今夜の寝床を見つけるのにあまり時間はない。そろそろ、俺と希望が二人だけで歩いているのは不自然な時間帯だ。俺だけならまだいい。家出中の不良少年にでも見られて普通の人間は無視をするし、警察に目をつけられたって逃げるのは簡単だ。だが、幼い子供である希望を連れているなら話が変わってくる。最悪、誘拐にでも間違われたらたまったもんじゃないし、希望をつれて逃げられるとは思えない。

 この町に野宿ができる場所は存在しないだろう。裏路地にしたって危険だ。まともに眠ることなどできやしない。

 ホテルなんかは絶対に無理だ。正面から泊まるなんてできやしないし、仮にできたとしても金がない。空き部屋に勝手に忍び込むのも希望がいるから不可能だ。

 ……今から空き家を探す? 馬鹿言え。タイマとやらのせいで使えなくなったあの空き家を見つけたのは一年前で、その時はまともにねぐらとして使えそうな所はあそこしかなかった。それなのにたった一年で何が変わるっていうんだ。忍び込める空き家なんて見つかる保証はないし、希望がいてはそれを探す時間もありはしない。

 ……八方塞がりだ。俺は頭をがりがりと掻いた。思い付く案はすべて俺が一人であることが前提のもので、今まで一人で行動してきたツケを払っているような感覚だ。人一人増えるだけでここまで選択肢がなくなるとは思わなかった。……これ以上案は浮かばない。危険ではあるが、今夜は俺が寝ずに希望を守る形で路地裏で野宿をしようか。幸い、最低限の荷物として寝袋は持ってきている。不潔な地面に寝転がって寝なければならないなんてことはない。

 ……そんな生活がいつまで続けられる? もしも丁度いいねぐらが見つからなかったら、その間俺はずっと寝ないで生活するってのか?

 

「お坊さん? 大丈夫?」

 

 おにぎりを食べ終わった希望が、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。俺はいつの間にか俯いていたらしい。……大丈夫。大丈夫だ、きっと。明日、町中を探せば空き家の一つくらい見つかるだろう。だから……なんとかなる。今日は野宿にしよう。

 

「ああ、大丈夫だ。今日だが、人に見つかりづらい路地裏で野宿にしようと思う。少し危ないが心配するな。お前が眠ってる間、俺が辺りを警戒してるから大丈夫だ。……寝心地悪いがそこは我慢してくれって感じだな」

 

「それ……お坊さんは大丈夫なの? 今日はよくても、明日とかは? 明後日とか、寝る場所がもし見つからなかったらどうするの?」

 

「……それはその時に考える」

 

「ええ……それで大丈夫なの……?」

 

「今まで俺はそれでなんとかやってきたんだ。大丈夫だろ」

 

「本当に?」

 

「……ああ、本当だ」

 

 希望が真剣な顔をして詰めてくるもんだから、俺は思わず目をそらしてしまった。くそ、こいつ本当に頭が回る。俺の懸念も見抜いてくるし、後ろめたさも見抜いてくるのは正直やめてほしい。そうなんだわかったって、そう言ってくれりゃ楽なんだが……。どうする? どうやって説得を……

 

「あ?」

 

 目をそらした、その目線の先。やや遠巻きだが、あからさまに俺と希望を見ている女がいる。年齢は高校生くらいか。マリアクアンに旅行に来たのが丸わかりな、やや大袈裟なリュックを背負ったその体躯は、触れたら折れてしまいそうなほどに細いのに、なぜか不健康さを感じない。背中辺りまで伸ばされた赤い長髪が、女の雰囲気を華やかにしていた。……それだけに、長く伸びた前髪が左目を隠しているのに違和感を感じる。服装は地味なのに、どこか目を引かれるような。町を歩いている時にすれ違ったら思わず振り返ってしまうような。そんな魅力的な女だ。

 

「お坊さん?」

 

「……おい、見えるか? あの女……俺たちを見てる。場所変えよう」

 

「わかった」

 

 ひそひそ話でここまで終えると、俺と希望はなるべく速やかに移動するべくベンチから立ち上がった。……その時。

 

「あ、あの。あなたたち、二人だけ、ですか? 兄妹? 親御さんは?」

 

 くそ、話しかけてきやがった。面倒な。

 

「はぁ? 別にあんたには関係ないよな。あんまり人の事情に首突っ込まないでくれよ。じゃあな」

 

 可及的速やかに会話を終了させ、希望の手を引いてその場から立ち去る。走らなくてもいい。こちらに会話の意思がないこと、そして、こいつらを相手するのは面倒くさそうだということを相手にわからせれば、ほとんどのやつはそれ以上俺たちに突っ込んでこない。……例外は。

 

「あ、ちょっと! ま、待ってください!」

 

 よほどのお人好しか、なにか企んでるやつかのどっちかだ。しっかし追いかけてきやがったか。本当に面倒だな。ここで追いかけてきたってことは、敵であることも警戒しなきゃならん。

 

「……今日は厄日だな、クソ。おい、走るぞ! あの女、なにか企んでるかもしれねぇ。なるべく複雑な道を通って撒くんだ。……お前に配慮してる余裕はないかもしれねぇ。だから、転ばずついてこい!」

 

「う、うん!」

 

 希望の返事が聞こえたと同時に、一気にスピードをあげて走り出す。俺は裏路地や、街灯の届きづらいところを積極的に選んで走る。右へ。左へ。裏路地をつかってUターンして、真っ直ぐ。また左へ。しばらく走ったところで、繋いだ手の先から息の上がった声が聞こえてきた。

 

「おぼ、さん、ごめっ……はっ、はっ……はや……」

 

「……しゃあねえか、一旦止まるぞ。転ぶなよ」

 

「はっ……は……ごめん、お坊さん……」

 

「いや、謝らなくていい。思ってたよりも長く走れてたから大丈夫だ」

 

 希望が音を上げたために一旦停止。すばやく辺りをうかがう。かなり複雑なルートを通ってきた、と思う。土地勘のない旅行者なら、とても追いかけられないだろう。

 

「ち、ちょっと……どうして逃げるんですか……?」

 

 と、思っていた。前方の曲がり角から、その女が現れるまでは。こいつ、先回りしてきやがった……!

 

「お前、どうやって……!」

 

「私が、先回りできた理由、ですか? それは……これ、です」

 

 そう言って、女は軽く目を見開いた。それは、俺もよく知る動作。目の力を使うときのそれだった。

 

「……! ってめぇ!」

 

 女の目の色が黒から暗い紫に変化するのと、俺が能力を発動し、煙に変わるのは同時だった。何をされるかはわからないが、敵だってことは確定した。なら、なにかをされる前に倒すしかない。……ちらりと、脳裏に先ほどの黒い男、タイマとの戦闘が思い起こされる。あいつに俺の攻撃は通じなかった。この女にも通用しなかったら……?

 いや、いや、いや。考えるな。相手は同年代の、しかも女だ。絶対に、さっきのようなことにはならない。だから……ありったけを込めて突破する! 女の懐に飛び込み、煙化を解除。霞から実態に変わった俺は、すでに蹴りの姿勢を取っている。決して攻撃されるということを認識させない、呼び動作を完璧にスキップした状態で……蹴り抜く!

 ……しかし、手応えがない。俺の蹴りは女には当たらなかった。

 

「ひっ……!」

 

 その女が情けない声を出しながら、尻餅をついたから、という理由で。

 

「いきなり攻撃してこないで、ください! び、びっくりした……私、あなたたちと、戦う気なんてない、です」

 

 青ざめた顔でそう言う女の目は、すでに黒に戻っていて。何か能力が発動した形跡もない。……まあ、だからといってこいつの言うことは信用できないし、警戒を解く気もないが。

 

「自分から仕掛けてきておいてなに言ってんだお前」

 

「そ、そんなつもりはない、です。私の力、戦いには、向かないですから。ただ、私が、あなたたちに追い付けた理由を、説明しやすくなるから使っただけ、です。それに、こうして、私とあなたたちが、同じであることを、わかってもらえたら、大抵は、警戒されないんですけど……」

 

「おい。おい待て。お前、なんで俺たちがそう言う力を持ってるってわかったんだ。どこで知った?」

 

 あの家から着いてきているのでもなければ、俺と希望が能力を持っていることを知る機会などないはずだ。

 

「だから、それも、一緒に説明するために、能力を発動させたんですけど……まあ、いいです。とりあえず、説明、させていただけますか?」

 

 俺は何があってもいいように、希望の近くに戻ってから頷いた。

 

「そうですね、では、まずは私の名前と、身分から。私は、寵姫(チョウキ)といいます。瞳に魔法を宿す者……カラーズ能力者を、保護し、世間から、身を隠しながら暮らす、施設の者です」

 

 寵姫と名乗った女は、先ほどの少々怯えた目とはうってかわって、鋭い意思を宿した瞳で俺たちを見据える。

 

「私の《色》は紫。魔力感知の、カラーズ能力を、持っています。私の目は、あなたたちから、カラーズ能力を、使った痕跡を、捉えました。だから。私は、あなたたちを、仲間として、保護したい。……私と共に、『カラフル園』に、来ませんか?」

 

 寵姫のその発言に、俺はなにかうすら寒いものを感じた。自分勝手な、偽善の匂い。無償の善意に近い提案。……正直、胡散臭い。

 俺は、こいつの言うことを信用できない。してはいけない。経験と直感が警鐘を鳴らしているのを、俺は確かに感じていた。

 

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