「女神とゲームの超次元」第2話
「雄大なる大地の遭遇」
□ □ □
ラステイションにて夜空がノワールと出会った時同じく気絶していた龍真は目を覚ました。
「ん……ここは?」
上体を起こし、周囲を確認する。どうやら自分はどこかの森の中で倒れていたらしい、龍真の周囲には木々が生い茂っていた。
しかしその森は龍真が知るようなフィールドの森で無い事が分かった。その理由は龍真が立ち上がり目に入った景色が知らない景色だったからだ。
開けた場所があり、そこから遠くが見えるのだが遠くには都市と思われる建物群が見えた。見える建物は白いものが多く、中世ヨーロッパのような建物に見える。周りの自然と建物が合っていてとても良い雰囲気だ。
そんな遠くにある都市を見ながら龍真は不思議に思った。
(おかしい……今まで見た事の無い都市だ。最近の四女神オンラインのアップデートで追加された要素に新しい都市の追加なんて無かったはず……それとも今俺がいるここはバグか何かが生み出した空間なのか?)
自らが知っている情報、そしてここ最近の四女神オンラインのアップデート要素などを一通り思い出し、頭の中で整理してみたがやはりあのような都市の情報はどこにも無かったと龍真は考えた。そこまで考えて龍真はふと思った。
(俺自身には何か変化があるのか?)
まず龍真は自らの姿を確認した。まずは服装、特に変化は何も無い。だが腰にいつも装備しているはずの銃が無い事に気がついた。龍真は二丁拳銃使いだ。接近戦用に短剣も一緒に携帯しているなのだが今はそのどちらも無かった。
(まさか……)
龍真は右手を空中で横にスライドさせる。この動作は普段四女神オンラインで行っているメニューウィンドウを開く為の動作だ。いつもなら鈴がなる音と共にメニューウィンドウが開くのだが今はメニューウィンドウが出現する事は無かった。何回か行ってみたもののやはり結果は変わらない。
メニューウィンドウが開けず、武器無し。この状況でもし、モンスターと出会ったりなどしたらひとたまりもない。まして他のプレイヤーともなれば……そこまで考えていた時だった。
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「はぁぁぁ……やっぱりネプギアちゃんは可愛いですわぁ~」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよベールさん……」
龍真が立っている先から誰か話している声が龍真の耳に聞こえてきた。まずい。龍真はすぐにそう思った。普通ならこちらに歩いて来るであろう他のプレイヤーに助けを求め、この状況を何とかするしかないのだが、今は違う。自分が知らないフィールド、更に今龍真がいる世界は四女神オンラインで無い可能性すら浮かんでいるのだ。助けを求めていきなり襲われでもしたら今の龍真は瞬殺だろう。
(今、この状況で誰かに見つかるのはまずいな……)
龍真は近づいてくる話し声を聞きながら焦り始める。周りを見て隠れるのにちょうど良さそうな草むらが目に入った龍真は素早くその草むらに身を潜める。龍真がフィールドですぐに身を潜ませるのは癖だ。夜空と一緒にクエストに行くと前衛は必ず夜空になる為、後方支援の龍真は時に奇襲を仕掛けて攻撃する事がある。夜空と龍真はギルドに入っていない野良プレイヤーだ。2人でクエストに行ったりする事もあるが、龍真は1人でクエストに行く場合、基本身を潜めて行動するのだ。基本的に前衛は夜空に任せているからだ。そんな事から1人の時はモンスターや他のプレイヤーに見つからないように身を潜ませてしまうのだった。
草むらに身を潜めた龍真は近づいてくる話し声に意識を集中させる。
(話し声は2つか……)
話し声のする方に草むらの中から視線を向ける。こちらに歩いてくる人影が2つ見える。少しずつ2つの人影がはっきりとしてくる。
1人は金髪で長髪、蒼い瞳、大人な雰囲気の女性だ。一緒に歩いている子に抱きついているようだ……その豊満なバストがもう1人の子に押し付けられてむにゅりと服の上からでも分かるくらいつぶれている。服装は黄緑色を基調としたドレスのような服だ。いや、服ではなくやはりドレスだろう。黒のラインがアクセントになっており、腰にはリボンがひらひらと舞っている。ドレスから見える白い脚がとても綺麗だ。
そしてもう1人の抱きつかれている女性は年下でおそらく夜空や龍真とあまり歳は変わらないだろう。紫色で長髪、瞳も同じく紫色。セーラー服風のワンピースを着ている、胸の黄色いスカーフが可愛らしい。頭にはゲームコントローラー十字キーのような髪飾りをあしらっている。
(女性プレイヤー2人……見た所、普通に話しながら歩いているだけだし武器も装備してない。これなら話しかけても……)
2人の様子を見た龍真はそう思った。だが、いきなり草むらからプレイヤーがしかも男性。更に相手は女性2人ともなれば普通に考えたらやばいな……と考えを改め、2人が通り過ぎるまで大人しく隠れておくか……と考えた瞬間─
─パキッ
龍真は何かを踏んでしまう。
(え……)
龍真は自分の足元を見た。そこには小枝が落ちていて、それを運悪く踏んでしまったらしい。龍真は額から汗が流れて落ちるのを感じた。
(やばい……!)
足元から2人に視線を戻すと、立ち止まり2人とも周りを見渡していた。
「ネプギアちゃん。今なにか音がしませんでしたか?」
金髪の女性が当たりを見ながらもう1人の女性に話しかける……ネプギアと呼ばれたその子も同じように見渡しながら答える。
「確かに音はしましたけど……動物が小枝か何か踏んだんじゃないですか?ベールさん」
「もしかしたらモンスターかもしれませんわ。ここは女神として、皆さんを守護する者としてきちんと確認しないといけませんわ!」
そう言うと金髪の女性……ベールと呼ばれた女性は周囲をはりきって探し始めた。その勢いに負けたのかネプギアも別の場所を探し始める。
(まだ見つかっていないけど……小枝を踏んでしまった今、下手に動いたら逆に見つかってしまうよな……)
今度は足元を確認してから身を潜ませ、2人との距離を確認する。ベールの方が龍真との距離が近い。すぐには見つからないだろう……隙を付いて上手く移動するか……と龍真が考えていた時、ベールが近くを探し始める。
龍真は息を潜め、気配を出来る限り消す。相手の様子を伺いつつ移動タイミングを測る。
ふと、ベールの脚が止まる。まだ距離は多少あり諦めたかと龍真が考えたがそうではなかった。ベールの視線がいきなり鋭くなる。見つけられた訳でも無いのに龍真の背筋にぞくりと悪寒が走った。少し草むらを見ていたベールだが不意に右手を上げて、横に振った。
□ □ □
(何だ?何か魔法の類い─)
そこまで龍真が考えた次の瞬間、凄まじい衝撃が龍真を襲う。いきなりの衝撃に龍真は対応出来ずに吹き飛ばされてしまう。
「くっ……!」
吹き飛ばされ木に激突した衝撃で龍真はベールに姿を見られてしまった。
「見つけましたわ……!」
ベールが再び右手を構える。だがまたさっきと同じような攻撃では無く、ベールの右手に光が集まり、凝縮していく。光は長い棒状になり光が弾けた瞬間にベールの右手には槍が握られていた。
龍真は隠れるのをやめ、ベールを見ながら頭を働かせる。
(どうする……?武器は無い、相手はリーチの長い槍……こっちが圧倒的不利だ……)
打開策が出ない龍真は動けない。それを見たベールは槍を構え、一気に突撃して距離を詰めてくる。
(速い!?)
龍真の想像を遥かに超えるスピードで突進してくるベールに驚愕し対応が遅れる。
(しまっ─)
ベールは手にした槍を横一線に薙ぎ払う。ギリギリで両手をクロスさせ防御体制を取ったがやはり大きく飛ばされてしまう。
受け身を取れず地面を転がった龍真は起き上がりベールを見据える。追撃はしてこなかったが、隙のない構えでこちらの出方を伺っている。
魔法の類いでの衝撃、槍での一撃を喰らい、相手の技量がとてつもないものだと龍真は理解している。
(こうなったらやるしかない……!)
こうなった以上、逃げる事は不可能と腹を括った龍真は両手を構え、腰を沈める。ベールも先程とは違う龍真の雰囲気を感じ取ったのか槍を構え直す。
「…………」
互いに動かず出方を伺う。先に動いたのは龍真だ。
力を溜め、地面を蹴る。低体制で一気に接近し、突進の勢いを乗せて龍真は渾身の右ストレートを繰り出す。
「うぉぉっ!」
ベールは冷静に槍の柄で龍真の攻撃をガードする。だが、そこで止まらずに龍真は連続して拳と蹴りを繰り出していく。しかし、ベールはうまい具合にいなしていく。ラッシュの最終撃をも無効化された龍真は一旦距離を取る。構え直し、再び攻撃しようとした龍真の目の前にはすでにベールが迫っていた。
(え─)
何も出来なかった。攻撃も防御も。とてつもない強さという事は分かっていた。だが今の接近スピードは完全に予想外のものだった。
次の瞬間にはもう龍真は倒れていた。頭の中が真っ白になってしまった龍真は完全に動けなくなる。
(勝てない……勝てるはずが無い……)
龍真にはもう打開策を考える事すら出来なくなり手が震える。ベールがゆっくりこちらに歩いてくる。倒れたままの脳裏には絶望しか無かった。そんな龍真の脳裏にとある1人の男の背中が見えた。漆黒の格好に剣を携えたその姿は龍真がよく知る人物─夜空だった。そして龍真はとある日の出来事を思い出す─
□ □ □
「なぁ……本当に出現するのか?その激レアモンスター」
「あぁ、必ず出現するさ」
ある日、いつもの様に四女神オンラインにログインした夜空と龍真はとあるクエストに来ていた。そのクエスト名は「幻の食材を求めて」というクエストだ。クエスト内容はフィールドのどこかに出現する激レアモンスター「ラピッドラビッド」というモンスターを倒し、幻の食材と言われる「ラピッドミート」という食材を手に入れる事が目的のクエストだ。
最近四女神オンライン内で話題のクエストになっているこのクエストは未だにクリアしたプレイヤーがいないという高難易度クエストである。プレイヤー間ではラピッドラビッドの出現ポイントの情報が飛び交っており中にはデマの情報も混ざったりしていた。
龍真はこのクエストをやる予定は無かったのだが今日、ログインした瞬間に夜空がクエストウィンドウを龍真に向かって表示させ、そのクエストが「幻の食材を求めて」だったのだ。夜空はただ一言「行くぞ」とだけ言った。いきなりの出来事、更に行く予定の全く無かったクエストに向かうという展開に龍真は予想していなかったが夜空に急かされ、準備し今に至る。
2人が来ているのは森の奥、龍真ですら聞いた事の無いポイントだった。
どうやら夜空が見つけたポイントらしいが、待機し始めて3時間が経過していた。龍真は様々な事をやりながら暇をつぷしていたがそろそろ我慢の限界に達しようとしていた。
「おーい、そろそろ帰らないか~?もう3時間も待ってるんだぜ……ここには出ないだろうよ」
龍真が夜空にそう言うとポイントに到着してからじっと待機し続くている夜空は答えた。
「そろそろだ……だからもう少しだけ我慢してくれ」
静かに待つ夜空はそう言うとまたポイントの方に視線を戻す。
それから更に1時間が経過した時、龍真はもう帰ろうと夜空に言おうとした瞬間、夜空が龍真を制した。
「来たぞ」
夜空がそう言った瞬間、視線の先に光が集まり凝縮されモンスターの形を取る。シルエットはウサギ……!大きな耳にふわふわの毛、あのモンスターこそがラピッドラビッドだ。
「なっ……!?」
龍真が驚愕している間に夜空は一気にラピッドラビッドに接近し、手にした剣で素早く2連撃を繰り出す。
ラピッドラビッドの体力はあっという間にゼロになり、消滅する。まさに一瞬の出来事。
「ふぅ……」剣を鞘に収めた夜空はメニューウィンドウを操作し、龍真の方に弾いてくる。アイテム一覧の表示の1番上には「ラピッドミート」と表示されている。
「マジかよ……」
驚く龍真を横目に夜空が一言
「この食材は正真正銘S級食材だからめちゃくちゃ美味いぞ」
それを聞いた瞬間、龍真は素早く踵を返し戻り始める。
「なら、早く帰って食おうぜ!夜空!」
走り始める龍真を見ながら夜空もそれを追うように走る。
「分かったから待ってくれよ龍真~」
□ □ □
(あの時、一緒に食ったラピッドミート美味かったなぁ……)
危機的状況なのに龍真はそんな事を考えた。そして思う。
(あいつ─夜空ならこの状況をどうする?)
ベールはもうすぐ龍真の前に来る。だが、龍真は焦らずに考える。
(あいつは……あいつなら……!)
龍真は思い出した。大切な事を─
「……」
(モンスターでは無かった……男性ですか……)
龍真の前まで来たベールはゆっくりと槍を構える。まさか人だとは思わなかったベールだが、攻撃してきたのでベールは迎撃した。先に攻撃したのはこちらだ。しかし、この男性も攻撃してきた。素手と蹴りを混ぜたラッシュだったので多少驚きはしたが、普段は武器を使って戦っているのだろう。防御は楽に出来た。そして今、とどめを刺そうとしている。自らの攻撃を無効化され、意気消沈さたのか倒れたまま動こうとしない。諦めたのか?あまり気が進まないがベールは槍を振り下ろし─血が舞った。
その槍が龍真を貫いてはいなかった。
「ぐっ……」
動かない。どうして?答えはすぐに分かった。龍真が両手で槍の刃を受け止めていたのだ。大量に出血しながらも確かに止められている。
「どうして……どうして受け止める事が出来ましたの?」
初めてベールは龍真に対して問いた。
額から汗が流れて落ち、地面に溜まった血と混ざり合う。手の平に刃が食い込み、肉が裂け血が流れる。手は震えているが龍真は決して離さないようにしながら答える。
「俺は……あいつと、約束したんだ」
「約束?」
「あぁ……どんな状況になっても決して諦めずに進めと……相手を信じて進めって……約束……したんだ……!!」
更に両手に力が入り、逆にベールの手が震える。
「どこに、そんな力が……?」
「俺はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい力で槍を引き寄せる。雄叫びで怯んだベールはつんのめってしまう。すぐに立て直したが、龍真は槍の柄めがけて膝蹴りを繰り出した。
槍に凄まじい衝撃が走り、真っ二つに折れた。
その衝撃で2人は後退する。予想外の膝蹴りを許したベールは体制が崩れ、更に槍も無効化されてしまった。ベールが龍真の方を見ると、折った槍を短剣の様に構え、後退からすぐにベールに向かって走り出していた。
「うぉぉぉぉぉっ!」
龍真はベールに最後の力を振り絞り攻撃しようと突進する。だが、ベールと龍真の間に突如、人影が躍り出た。ベールを庇うように立ち、両手を広げ必死の表情なのは─ネプギアだった。
「ネプギアちゃん!?」
ベールも驚きを隠せなかった。さっきまでいなかったはずなのにどうして……?
ネプギアは龍真に向かって呼びかける。
「やめて……お願い、やめてください!」
「なっ……!?」
突如登場したネプギアに龍真も驚いた様で急停止しようと突進の進路を誰もいない方向変更する。土煙を上げながら、何とか龍真は止まったが限界を超えた龍真はその場に倒れてしまう。ネプギアが慌てて駆け寄り、龍真に呼びかける。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
さっき攻撃しようとした人すら心配してくれるとは……優しい子だな……仰向けに倒れている龍真はネプギアの顔を見ながらそう思った。
「ベールさん!早く、早くしないと……!」
「…………」
龍真の視界にベールが入る。槍を折った衝撃で後退したが、怪我は無いようだった。ベールは倒れている龍真を見ている。その表情は上手く読み取れない表情だった。龍真は空を見ながら大切な相棒の名を呼んだ。
「夜空……」
それを最後に龍真の意識は暗闇の中へと落ちていった……。