_・)/ (次話) ポイッ
_-)))コソコソ
目の前には薄赤いボローウインドウがあり上部には、対戦相手のプレイヤーネームと自分のネームが表示されている。
今は準備フェーズ。指定された場所は今まで見たことなかったが、特に問題ないだろう。
メインアームを『イマニシ17』に設定し、サイドアームには何も装備しないまま待機する。
正直、嘗めていると言われてもおかしくはない。
しかし、これが自分のプレースタイル。寧ろ、自分がどういったプレイヤーか知っているのなら本気で来ているということに気がつくだろう。
戦場において、ほんの一瞬油断が生死を分ける。ここはただの仮想空間だが、言い換えれば戦場に
擬似的な戦闘を味わい、最初なら擬似的な死すらも味わうことも出来る。ゲームごときに大袈裟な、と思うかも知れないが日本では実際にデスゲームとなった。
それが、今まさにこの『GGO』で起ころうとしている。死銃の登場によって、よりリアルな戦場になった。撃たれれば死。文字通り死が待っている。
故に、全力。......と言いたいところだが、予選で切り札を出すほど弱いわけではない。過去の情報であれば今の自分は万全の状態で来ているように見えるだろう。
しかし、それは
実際、日本に来てから一度も触ってなかったわけではない。こっちに来てから最初で最後と思って、あちらでやり残していたことをやり遂げるために一度触った。
それは、自分を──『Zamiel』を完成させること。
カウントがゼロに代わり、転送エフェクトが身体を包む。そして、次に視界に入ったのは錆び付いた大きな鉄塔が中央に鎮座しており、その周りには網目上に配管のようなものが囲っていた。
大きな鉄塔に千切れた配線が巻き付いている所から、送電施設跡と考えていいだろう。と、本来ならこんな悠長にフィールドの詳細を考えている場合ではない。
しかし、フィールドを把握するのは重要だ。そのフィールドには必ず
ならば、自分の知っている送電施設で一番酷似している立地を探す。
......送電施設などそんな詳しく見たことは無かった。
とはいえ、一見複雑そうであるがちゃんと規則性のある並びになっている。そして、何よりもシステム上、転送されてから前方の百八十度以内に敵も同じように転送される。
日本のサーバーで有名なプレイヤーの情報には目を通したが、相手のプレイヤーネームはその情報には入っていなかった。
が、相手が有名じゃないからと言って油断するのは危険である。もしかしたら、その相手が今回の試合で
誰しも最初は無名だ。だからこそ、そこから有名になるのだ。
姿勢を低くしながら、壁際に沿って少しずつ中心の鉄塔を目指す。もし相手が背後を取るために大回りして来るとしても、中心である鉄塔に向かっていれば視界に入るだろう。
中心だからこそ、周りを見るのに最適だ。自分にとって全方位は視界内だ。
足音、風の吹きかた、息づかい、視線、武器を構える音、布が擦れる音、そして、何よりも──
──カチャン、と言う音が二時の方向から聞こえてきたと同時に一瞬、光ったと感じた瞬間すぐさま左に飛び込んで身体を鉄塔の下の土台に潜り込ませる。
相手の銃から発射された弾丸が配管に当たる。そして、発射音と弾道の大きさ。それに集弾性に高さから反動が低い物。となると、どうやら相手は短機関銃──サブマシンガンまたはSMGと呼ばれる銃を使っているようだ。
流石に名称などは判別できないが種類だけでも分かっただけで十分だ。相手もすぐこちらを視認、つまり狙える場所まで回り込んでくるはずだ。
素早く立ち上がり後ろの配管が集まって壁のようになった
自分はAGI型と呼ばれる俊敏性が突発しているスタイル──ではないが、まだ五十から三十メートル近く離れている場所から撃たれても回避できるぐらいの
どちらかと言えば、自分はAGI型に近い
寧ろ、
そこで何故、ハンドガンしか使わないのか? その疑問が解消されただろう。ただ、重火器が持てないからだ。下手をすれば自動小銃──アサルトライフルすら持てないかもしれないほど。
しかし、だからこそ使えるものがある。その一度当たれば死んでしまうような耐久性を選び、よりリアルを体感しているプレイヤーに贈られたスキルが。
相手の位置は把握している。後は環境だ。風は吹いてない、視界も悪くない。身体の状態は──絶好調だ。
上半身を傾け
一旦、撃つのを止めて銃を持っている右手を後ろに引く。そして、大きく肩から右腕を振りながらトリガーを引いた。
今頃、相手は困惑しているだろう。
何故、隠れているのに
──何故、その赤い線は
遮蔽物に背中を合わせて一息する。目の前にはコングラチュレーションと言う文字が浮かび上がっていた。予定より
そして、見ていただろう。この戦闘を。何より、死銃がこれを見れば間違い。
転送エフェクトが全身を包み、湧き上がる歓声が聞こえて来ると共に待機エリアへと戻って来た。何やら『チート野郎』と言う声がチラホラ聞こえてきたが気にしない事にする。
何も不正はしていない。寧ろ、これは公式で存在するスキルだ。不正であれば
それに、まだ日本サーバーにはいないがきっと直ぐにもこれを使うプレイヤーは現れるだろう。まあ、増え過ぎたら修正されて欲しいスキルランキング、堂々の一位に輝く未来しか見えない。
まあ、このスキルを発現させるまでが一苦労どころじゃないだろう。絶対に手に入る代物ではない。故に、たったの三人しか使えないのだ。
すっかり聞きなれた言葉を受け流して、近くのバーカウンターに腰を下ろした。ふと、視線を中央のホログラムから、正面に切り替えると予選が始まる前に目があった黒髪の少女の姿だった。
しかし、始まる前とは打って変わって膝を抱えて顔を俯けていた。敗北した、と思ったがそもそも敗者はここに転送されない。なら、あの落ち込んでいる......いや、恐怖している? とにかく、何かあったのかと声を掛けるべく腰を浮かせたそのとき。
黒髪の少女に近づくペールブルーの髪──シノンと呼ばれるプレイヤーが声を掛けた。
彼女もまた日本サーバーにおいて有名なプレイヤーであった。もしかしたら友人同士で参加したのかもしれない。
そんな所に知らない人間が顔を出すのは無粋だろう。というか邪魔だ。
そんな彼女たちのやり取りを見て、視線を外した。もしや、と思ったが彼女が助っ人するべき人物では無いだろう。流石に菊岡さんに女性プレイヤー......それ以前にこういったことを頼める女性の知人を見たことが無い。
まさか、もう敗北してここにいないんじゃないか。と脳裏を過ったが、そのときはそのときだ。それに分からない以上、今のところは一人で進むしかない。
本選に上がれば自ずと分かるだろう。目的は死銃の正体を探る事だ。
腰を上げる。次の試合が始まろうとしていた。
♰
シノンは自分の待ち時間に一戦だけキリトの試合をモニターで観戦する機会があった。あの待機ドームで見せた時の姿とは大きく違い。
彼の戦い方は鬼気迫るとでも形容したくなるほどの、捨て身の特効戦法だった。アサルトライフルを連射する敵に対して、小さなハンドガン──それはシノンが進めてファイブセブンで応射しつつ光剣を持って突進。
アバターの末端部に命中する弾丸は無視し即死となる弾丸、つまり致命弾だけ光剣で防御するという離れ業をやってのけて、ゼロ距離まで接近しアサルトライフルごと切り捨てた。
そんな戦い方をするプレイヤーは第一回、第二回といなかった。待機ドームに広がるどよめきの中で、シノンもまた目を見開いた。
あの調子ならキリトもFブロックの決勝まで上がってくる可能性は十分にある。しかし、あんな無茶苦茶な戦い方をする相手に、自分はどう戦えばいいのか。
また、ドームの中で湧き上がる歓声とどよめき。見てみれば映っていたのは黒一色の上下一体型のライダースーツを着たプレイヤーが、また銃弾を曲げて相手を倒した瞬間だった。
聞くところによるとまるで
......そうだ、彼もいた。キリトだけでない、第一回のBoB優勝者で圧倒的な実力を見せた
彼の前では
どうやって場所を把握している?
戦闘の反応速度は?
銃を構えるまでの速度は?
どう動けば相手を翻弄出来る?
どこをどう撃てば相手を追い詰めることが出来る?
その全てがスキルやステータスだけでやっているわけでは無い。そもそも
百発百中で当てるなど稀である。彼も百発百中とは言わないが命中率が高い。通常でも当てるのが難しいのに
だとしても、いや、そうだとしても私がすることは変わらない。
その試合を頭の中で組み立て、スコープ越しに見える黒い影。その影の頭部に狙いを澄まして静かにトリガーを引いた。
最強と呼ばれるプレイヤーを倒すことが出来れば、私は──
「......いっそ車から降りて走れば、予測線を見て避けれたかもしれないのに」
黒い影の頭部を撃ち抜いた、のは頭の中であって本来は
出て来る様子が無い所から車の中で絶命しているようだ。そのまま黄昏色の空にコングラチュレーションの文字が浮かび上がった。
試合時間、十九分十五秒。準決勝、突破。
どうもお久しぶりです。時間が過ぎるのはあっという間ですね......スミマセンでした。この後は原作通りキリトとシノンの決勝戦です。ええ、変わりません。
それと、名前の件ですが後半からどうせ日本語表記に換えますし、特に変更しなくてもいいかな、と思ってますが......実際迷ってはいます。
本当はザミエルという名前に意味があります。ここまで言うと分かるかも知れませんが。まあ、そこまで本編には関係しませんが。
そして、もう一つ。少し行間を増やしました。こちらの方が読みやすいでしょうか。