銃弾は曲がらないと誰が言った?   作:ヒャッハー猫

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投稿するんで命だけは勘弁してください。



Fifth bullet

 

 

 予選トーナメント決勝Fブロック。

 

 光剣で銃弾を弾きながら戦うといった前代未聞の戦闘スタイルで注目を浴びている黒髪の少女、キリト。冥界の女神と称される凄腕のスナイパーであるシノン。

 

 その二人が十メートル離れた距離で相対する。

 

 先に決勝戦を終わらせ、どのプレイヤーが本選に出場するのか確認するため待機ドームに戻ってくると丁度その試合が中継されていた。

 

 キリトは左手に弾薬を指に構え、右手は光剣を。対してシノンは対物狙撃ライフルの『ウルティマラティオ・へカートⅡ』を立ったまま構えた。どうしてそんな状況になったかは分からないが、まるでウェスタンの決闘のようだ。

 

 たったあの距離から対物ライフルの狙撃を躱す──若しくは光剣で弾くなど普通に考えて不可能。しかし、キリトはこれまでの試合が物語っている。

 それすらも弾くことが出来ると。

 

 だが、今までキリトが体感した試合の中でもこの距離で、しかも対物ライフルの銃弾だ。弾速も威力も桁が違う。もし弾けたとしても光剣の耐久が持つのだろうか。

 

 これは流石に自分でも無理だ。カスパールだとしても銃弾を捉えれるのが精一杯だろう。そこから銃弾を防ぐ、躱す、など不可能だ。

 

 ──しかし。

 

 不可能と思えば思うほどやり遂げたくなる。

 

 絶対無理だと言われたほうがやる気が増す。

 

 誰もがこの状況で無理だと笑うだろう。そして、シノンが勝つと。

 

 だが、自分はキリトが勝つと思う。いや、思わせてくれる。自分も似たようなことをした。だからこそ彼女はやってのけるだろう。

 

 不可能を可能にする瞬間を。

 

 

 そして、キリトの左手にある弾薬が指で弾かれた。ゆっくりと長く感じる時間で落ちていく。

 

 キン。

 

 という音を響かせた瞬間、へカートから轟音とオレンジ色の炎が迸ると共に凶弾が発射された。それはキリトのアバターを貫き──。

 

「──マジかよ」 

 

 映像に映っているのは斜めに振り上げられた光剣を構えているキリトと腰を下ろしたシノンの姿だった。

 

 やってみせた。不可能を可能にする瞬間を。ゾクリっと背中に冷や汗のようなもの感じる。

 

 しかし、冷や汗を掻いているとは裏腹に身体が昂っていた。

 

 正直言って、まだ日本の『GGO』プレイヤーのレベルは低い。だが、こんなことをするヤツは海外(本場)にもいないし、見たことも無い。

 

 これまで何百人と人知れぞれ特徴のあるスタイルを持つプレイヤーたちと戦ってきた。追い詰められたこともあった。

 

 だが、ここまで化物染みた反射速度を見せるヤツは初めてだった。

 

「これは......下手したら死銃どころの話じゃないかもな」

 

 死銃が彼女を狙う、狙わないは別としてもこれほどインパクトがあったのだ。きっと、警戒はするだろう。

 

 そして、何よりも。もし、自分と彼女が()()()()()()()()()場合。

 

 自分が()()()可能性が高い。自分は近距離、中距離戦が土俵であるが、()()は土俵ではない。戦えるのは戦えるのだが、ここは銃の世界だ。誰が剣などという近接戦闘を想定して戦うだろうか。

 

 能力構成(ビルド)も近接などに多く振っている訳でも無く。使えても精々ナイフと投げナイフぐらいか。

 

 それに、彼女の前ではバレット・カーブなど無に等しい。アレは遮蔽物があるからこそ意味がある。不意を突くからこそ効果が出る。

 

 真っ直ぐ突っ込んでくる相手に対して、曲げる弾を撃った所で意味が無いだろう。それならまだ真っ直ぐ撃った方がいい。

 

 と、なれば。

 

 死銃を調べるどころの話では無くなる。その前に彼女に対する対策をしなければならない。

 

 長遠距離狙撃、いや、アレを持って歩くとなると大幅に移動速度が落ちる。それに、アレはフィールドの端から端までを撃ち抜くような距離で無ければ、如何せん精度がダメだ。

 

 倍率が高すぎるが故に近距離はほぼ狙いにくい。

  

 なら、もう接近させないような立ち回りをしなければならない。今は、思い浮かばないが本選までに考えるしかないだろう。無論、鉢合わせにならないのが一番だろうが。

 

 ......一応、菊岡さんに思っていたより難しい依頼になりそうだと伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 ♰

 

 

 

 

 

 

 

 恭二と公園で話し、出た所で別れた。詩乃は自宅へと急ぐ。BoBの大会まで少し時間があるがその前に銃のメンテナンスや装備の確認にあてるなどの時間が欲しかった。

 

 途中コンビニエンスストアはミネラルウォーターと夕食がわりのアロエ入りヨーグルトを買おうと商品に手を伸ばそうとして、いきなり肩を掴まれた。

 

「きゃっ!?」

 

 咄嗟のことで驚愕と恐怖が頭を占める。しかし、肩を掴んだ人物は慌てたように直ぐ離した。恐る恐る、振り返って顔を確認しようとする前に聞き慣れた声が聞こえて来た。

 

「わ、わりぃ。名前呼んでも気づかなかったから......痛かったか?」

 

「せ、先輩......?」

 

 申し訳なさそうにこっちを見下ろす、茶髪で一見ガラの悪そうに見える先輩がいた。

 

 

 私の悲鳴にも近い声で注目されてしまい、先輩の悪そうな見た目もあって通報されかけたコンビニエンスストアを直ぐ立ち去り、アパートが一緒の先輩と帰ることになった。いつも私は一歩下がった所を歩く。

 

 先輩はさっきの件の事を思ってか、買おうとしていた物を奢ってくれた。自分も買っていたのでまた料理でもする気だろうか。

 

 料理で思い出したが、もしお裾分けをあったらあらかじめ断っておこう。ダイブ前にあまりしっかりと胃にものを入れるのはいくつかの理由によって望ましくない。それを伝えると先輩は苦笑いをした。

 

「あー、そう? まあ、今日は別に凝ったもん作る気は無かったしな。軽めの物で済ませる予定だったし」

 

 そう言ってビニール袋を持ち上げて見せる。そこには野菜を中心、というかサラダ系の料理が入ったパックが詰まっていた。

 

「珍しいですね、先輩がそれで済ませるって」

 

「今日ちょっと用事があってな。着替えたらすぐ出ないと行けないからさ」

 

「そう、なんですか」

 

 ちょっと、残念と思った。

 

 ......残念? なんで先輩がいないと残念だと思うのだろうか? 

 

 ふと、さきほど新川くんと公園で話していたことを思い出す。

 

『シノンはあんな凄い銃を自在に操ってさ......GGOではもう、最強プレイヤーの一人じゃない。僕、あれが朝田さんの本当の姿だと思うな。きっと、いつか、現実の朝田さんもああなれるよ』

 

 そのとき思っていた私のこと。『今の私』のこと。

 

 でも、どうだろうか。

 

 今の私と『今の私』。

 

 先輩と関わりを持ってから、笑い合ったり、騒いだり、言い合ったり、冗談を言ったり......あの時の感情は一時的なものだったの?

 

 久しく笑ってなかった私を心の底から笑わせたのは誰だった?

 

 みんな避けてきた私に手を差し出してきたのは誰だった? 

 

 何かあったとき助けてくれたのは誰だった?

 

 グロッケンの街道であった初心者の少女を見かけた時、世話を焼いたのは、あの時の私と重なって見えたから。その中身が男と知ったときの怒ったのは、その正直なところだったり、人を小バカにしたような態度が少し先輩と似てたから。

 

 でも、それじゃあ、私はまるで──。

 

 

「──朝田? 着いたぞ」

 

「え、あっ......」

 

 名前を呼ばれて顔を上げればいつものアパート前だった。薄墨色に染まるコンクリートの階段を上り、二つめのドアの前で私が止まり、先輩も自分の部屋の扉の前で止まる。そして、いつものようにいうのだ。

 

「じゃあ、また」

 

「......ああ、またな」

 

 笑顔を浮かべる先輩。変わらないこの毎日だけど、私が強くなって一歩踏み出せば......並んで帰れたらいいな、と思う。

 

 

 

 

 

 

 朝田と別れてから、すぐ買ってきたサラダを食べ私服に着替える。時計を見ればそろそろ約束の時間だ。部屋の戸締りをチェックし、問題無いことを確認したら部屋を出て扉をロックする。

 階段を下りれば黒の車が止まっていた。その車の前の席に乗り込みシートベルトをした。

 

「わざわざ休日なのに......すみません。清水さん」

 

 ラフな格好で如何にも専業主婦のような妙齢の女性がニコリと笑みをこぼしながら車を発進させる。

 

「別に問題ありません。このぐらいのことなら」

 

 小さい頃からお世話になった家政婦さんだ。海外に住むことになっても清水さんは自分の家に努めてくれた、漢族総出で恩義がある人だ。

 

「坊ちゃんの生き生きとした姿を見たら、何だかこっちも元気を貰いますよ」

 

「そんなにこっちに来てから落ち込んでました?」

 

「そうです、ね。やはり前に比べると少し」

 

 そうだったのか。清水さんとは、自分では気が付かないことも気が付くほど長い付き合いになる。ある意味、第二の母親と言っても過言ではないほど。

 

 しかし、生き生きとした、というのはいい意味ではあるんだろうが......まさか、死ぬかもしれないスリルを味わっているからとは口が裂けても言えそうにない。

 

 そんなことを言えば母親が文字通り飛んできそうだ。また、変な事を考えていると目の前に病院が見えて来た。

 

「と、ここで大丈夫ですよ」

 

「分かりました、では気を付けて」

 

 病院の駐車場まで行かず、入口で下ろしてもらう。そこから、昨日行った道を通り三階の病棟まで一直線に向かった。昨日と同じ病室に入ればもう三好さんが機材のチェックを済まして、待っていたところだった。

 

「やあ、やあ、最強プレイヤーくん。待ってたよ」

 

「......なんすか、その言い方」

 

 また菊岡さんから変なこと吹き込まれたのかな。......あ、また聞いてないな、助っ人の件。まあ、別に気にしないでいいだろう。

 

 三好さんと世間話を交えながら準備していく。後はアミュスフィアを被るだけだ。

 

「それじゃあ、後はよろしくお願いします」

 

「了解しました。ちゃんと見てるからね」

 

 そう言う三好さんに自分の携帯端末を取り出し渡した。

 

「もし、“朝田”っていう子から連絡あったら外してもいいんで叩き起こしてください」

 

 三好さんは不思議そうにしながら携帯を受け取った。

 

「別にいいけど......もしかして、彼女さん?」

 

「何でそうなるんですか......違いますよ」

 

「本当に?」

 

 クスクス、と笑う三好さんを後目にしてながらアミュスフィアを被る。リンクする前に一度、情報を頭の中で整理しよう。

 

 今回の大会で最も警戒すべきはキリトと呼ばれる彼女。鉢合わせないようにしながら動くのは後半に連れて難しくなるだろう。なら、会った場合、つまり戦闘になったときの対処法はもう考えついている。負ける気はない。

 

 キリトというプレイヤーのせいで少し予定がズレたが、本来の目的は『死銃』だ。実際、目的さえ達成できれば今回は優勝しなくていいと思っている。

 

 優勝出来ないのは少し悔しいがそのためなら敢えて目立つような戦い方をするつもりだ。

 

 それに、自分はもう『Fraternity(フラタニティ)』には入っていない。傷が付くのは自分の名だけだ。

 今さら傷が付こうが付くまいがどうでもいいと思っている。

 

 ただ、これが最後で良かった。こんなにも昂る戦場で終われるのだから。

 

 

 

 この大会が終われば自分は──

 

 

 

 ──Zamielは消える。

 

 

 

 




ソードアート・オンライン フェイタル・バレット発売おめでとうございます。私もしたいなぁ、と思いつつも時間がない。積みゲーになってしまいそうです。
ザミエル作りたいなぁ、って思いながら出来るときを楽しみにしてます。
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