銃弾は曲がらないと誰が言った?   作:ヒャッハー猫

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Sixth bullet

 

 第三回BoBが始まる三十分前。

 

 出場者リストの上から順に名前を確認し『死銃』というネーム、若しくは、近しい名前を探していく。

 

 しかし、余りにも不効率な上に確証が得られない。そもそも『死銃』に関する情報が少なすぎる。

 

 容姿。プレイヤーネーム。有名なプレイヤーなのかどうか。何時頃からGGOをプレイしているのか。 

 

 何万人、何十万人といるプレイヤーの中から探し出すのはとてもじゃないが無理だ。

 

 もっと絞り込めるような情報があれば話は変わってくるだろう。

 

 一つ気になる点と言えば......出場者リストの中にとても見覚えのあるプレイヤーネームを見た気がするが見間違いだろう。

 

 アイツが来ているわけが無いし、来たとしても予選トーナメントで顔を出すだろう。そもそもアイツは海外にいるはずだ。

 

 予選トーナメントでも戦闘の中継は見てないし、姿も確認できなかった。

 

 だからこそ、アイツじゃない。そう強く頭の中で区切りを付ける。少し不安を覚えながら歩いていると、見覚えのある黒髪の少女──キリトとシノンが何やら話し込んでいた。

 

 そうだ。まだ人に聞いたりしてなかった。キリトはともかく日本サーバーにおいて長くいるであろうシノンなら、何か話が聞けるかも知れない。

 

 しかし、予選であそこまで睨まれていたから無視されそうだが、試合が始まる前に集めた情報と彼女が持っているかも知れない情報が、もしかしたら『死銃』を特定するのに値するピースの一つかも知れない。

 

 女性を引き込めるような話術なんてものは無いが、試合前の情報交換みたいなもんだと思わせれば何とかなるかも知れない......多分。

 

 少し緊張しながら近付こうとしたときだった。前に割って入る人物がいた。

 

How are you(ご機嫌いかが)?  Zamiel(ザミエル)

 

 思わず絶句した。

 

 

 

 

 

 

 固まった自分を引きずるように人気の無い場所まで連れ込んだのは、ブロンドの美しい髪を無造作に後ろに流しただけの女性プレイヤーだった。

 

 彼女は近くにあるベンチに腰掛けるように顎で命令する。渋々と言った形で真ん中に腰を下ろすと、舌打ちをしながら横にズレろと、いう意志表示を表情に出す。

 

 端正な顔付きから染み出す怒りの表情は現実の彼女の顔を彷彿とさせた。

 

 素直に横にズレると荒々しく横に座る彼女。チラリと時間を確認すると、試合が始まるまでの時間は話すぐらいなら余裕が出るほどあった。

 

 こう無言なのが一番心苦しいのとさっさと終わらせたいこともあり、率直に聞きたいことを聞くことにした。

 

「なぁ、なんでお前......日本(こっち)のサーバーにいんの?」

 

「......」

 

 しかし、彼女は足を組み堂々とした態度を崩すことはなく、ずっと正面を見て黙っているだけだった。

 

「......まあ、この際お前がどうやってこっちに来たのかは別にいい。だが何の狙いがあってここにいる? まさか、わざわざ文句を言う為に来たのか? それなら試合が終わってから聞くからさ」

 

 やはり、反応は無くただ黙っているだけだった。

 

「はぁ、なんだよ。言いたいことがあれば言えよ。前見たいに」

 

 何度か彼女がこういう風になったことがある。しかし、それは現実世界の話であってこんな風に仮想世界(GGO)では初めてだった。

 GGOではトッププレイヤーとしてのプライドがあったからだろう。 

 

 それに、前はすぐ彼女は言いたいことをいった。それは成長した証拠であったし、自分がこの世界を通じて色んなことを伝えれたことが出来た証拠でもあった。

 

 だが、これでは前に逆戻りだ。彼女はもう自分がいなくとも大丈夫だろうと思っていた。仲間も友人も『Fraternity(フラタニティ)』もあったというのに。

 

 しかし、こうしてわざわざ追って来て、更には試合にも出てきた。

 

 恨んでいるのか。それとも、何かを伝えるために来たのか。彼女のことが分からなくなった。

 こうして頭を悩ませていると彼女は立ち上がって何も言わず歩いて行く。

 

「お、おい! ホント何なんだよ!?」

 

 その自分の荒上げた声に反応したのか、それとも元からそのつもりだったのか。彼女は立ち止まり背を向けたまま言った。

 

「決着」

 

「は?」

 

「まだ決着が付いてない。だからアンタに勝って私が最強の座を貰う。悪魔(ザミエル)を消し去ってやるから」

 

 そう言って、彼女は待機ドームへと向かって行った。

 

 思わず唖然として間抜けな表情をしたが、言葉をよく理解すると自然に笑いがこみ上げて来た。

 

「......何だ、言うようになったじゃん。──

 

 

 ──『Casper(カスパール)』」

 

 

 何の偶然か。Zamiel(悪魔)とその悪魔に魂を売ったCasper(人間)が出会ったとき、もう一人の仲間は運命と言っていた。

 

 もし、これも運命だと言うのなら。

 

「悪いが勝つのは悪魔()だ」

 

 本当に人を殺せるかも知れない死銃。自分と並ぶ腕を持つCasper(カスパール)。更に今まで見たこと無い戦い方を見せるキリトに有名な日本プレイヤーたち。

 

 今までいろんな戦場(しあい)を駆け巡ってきたが、これほど危機感を感じる戦場(しあい)は始めてだ。

 

 死ぬかも知れない。

 

 最強の座を奪われるかも知れない。

 

 これで心躍らないのは難しい話だ。今にもここで誰かと撃ち合いほど昂っている。

 

 自分も彼女の後を追うように待機ドームに入って装備を確認する。銃の手入れも万全だし、不足している物無い。

 

 体調は──

 

 

 ──今までになく絶好調だ。

 

 

 

 硝煙の匂いと銃声が鳴りやまない戦場は直ぐそこにある。

 

 第三回BoB。稀に見るほど激しい撃ち合いが始まろうとしていた。

 

   

 

 

 

 

 ♰

 

 

 

 

 

 

 迫りくる銃を最小限の動きで躱して射撃を行う。

 

「ぐあっ!?」

 

 相手はまさか自分が避けれるとは思っていなかったのだろう。反撃も予想せず棒立ちのままの所を二発の弾丸が撃ち込まれた。

 

 そのあり得ない衝撃を受け敵は尻餅を付く。だが、彼もすぐ体制を立て直そうと銃を構えるがそこに自分がいるわけも無い。後ろで銃を構えれば敵も気が付いたようだ。

 

 だが、そう気が付いたときには大型ライフルのような重低音が鳴り響いたのだった。

 

「やっと一人か」

 

 黒く光る拳銃を下ろし、マガジンを変える。

 

 拳銃にしては銃身が長く、グリップもそれに合わせて長い。全体的に大きく、ズッシリと重量感がある銃──『ナイトシェード』をレッグホルスターに仕舞う。

 

 これが自分の切り札の一つだ。

 

 『ナイトシェード』はベレッタ92FSと呼ばれる拳銃とM1911をハイブリットして造られた物であり、これを手に入れるために何度もみんなで迷宮に潜った。

 

 そして、これが日本に行く前に餞別として貰った拳銃だった。

 

 実質、これを使いきれるのなら拳銃の中において最強と言わしめるほどの威力を持つ。

 

 この『ナイトシェード』の特徴的な所は、.357マグナム弾を扱うことができ、それを二十ラウンド入ることが出来る優れモノだ。

 

 つまり良く使われるオートマチックのハンドガンを扱うように、マグナムと同じ威力を弾を撃つことが可能なのだ。勿論、反動を制御するためにSTR(筋力)が必要だ。

 

 逆にさきほど戦った彼の耐久力には目を見張るものがあった。あの距離でナイトソェードを銃弾に、それも二発も耐えきれるほどVIT(体力)を持っていたとは驚きだ。

 

 予選で使った『イマニシ17』だったらどうなっていたことか。

 

 やはり持ってきて正解だったと思いながら腰にあるポーチから薄べったい端末を取り出す。

 

 本大会が始まってから、もうすでに三十分近くも経った。最初の『サテライト・スキャン』で見た時、カスパールは反対側の砂漠辺りにいた。進行方向からするとどうやら一直線に自分に向かっているようだった。

 

 自分も一直線に向かって行くなか敵を探していたのだが、十五分ごとに見れる『サテライト・スキャン』二回目を見て確信した。

 

 カスパールとの距離が順調に詰まっているなか、周りにいる敵が少なすぎる。否、避けているのだ。

 

 寧ろ、自分とカスパールを当てるように誘導しているかのような動きを見せる者いた。

 

 先ほどのは本当に運の無い鉢合わせのようなものだろう。彼にとって。

 

 もし、このままのペースで行けばカスパールと鉢合わせるポイントは──

 

「──都市だな」

 

 このフィールドの中心でやり合うことになる。廃墟都市を舞台にしたフィールドであれば()()()にとって十八番。ホームグランドにも等しい。

 

 自分達、『Fraternity(フラタニティ)』は建築物や障害物がある場所ほど本領発揮できる場所だ。

 

 つまり、自分にとって、カスパールにとって。どちらも最も戦いやすい状況で闘うことになるだろう。

 

 だが、こっちもあの時よりかは成長したとは言え、あっちはずっと現役のままだ。戦法も手の打ちも分かり切っているが、ブランクの差が出るかもしれない。

 

 それに、もしかしたら戦闘スタイルが変わっている可能性も高い。

 

 まあ、だからこそ面白い。

 

 次の『サテライト・スキャン』までに目的地の都市まで足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♰

 

 

 

 

 

 コンクリートの短い階段の上部、市街地からは見通せない位置にキリトと並んでうずくまり、シノンは今日四度目の『サテライト・キャノン』を待った。

 

 右手に衛生端末も握り、右腕のクロノグラフを睨む。午前八時五十九分五十五秒。そろそろ、このバトルロイヤルも後半戦になっているだろう。

 

 実際、今でも廃墟都市では銃声や爆発音が繰り返し響いている。そして、時間がジャスト午後九時になる。

 

 端末のマップ上に白と灰色の光点がいくつも浮かび上がった。

 

「キリト、あんたは北からチェックして!」

 

 この時点で他のプレイヤーには自分たちが組んでいると気が付いただろう。十五分以上も近接戦闘が続くことはほぼあり得ない。

 

 そして、もう一つの高速で動きながら二つの点が並んでいる。

 

「シノン、これは俺達と同じように組んでいるのか?」

 

 キリトが二つ点に触れると『Zamiel』と『Casper』と表示された。他にも表示された名前と位置から察するに。

 

「いえ、多分、この戦闘音はこの二人ね」

 

 先ほどから聞こえて来る銃声の正体が分かった。ザミエルだけでも脅威だというのに。それに同じスコードロンのカスパールもいるとは思いもしなかった。

 

 予選の時に噂になっていたが素顔を誰も見たことがなかった上に、まさかもう一人トッププレイヤーが来るとは思っていなかった。それに予選ではザミエルとは打って変わって、彼らの代名詞とも言えるバレット・カーブを一度も撃たなかった。

 

 それも助長してか、誰もカスパール本人とは思わなかったらしい。

 

 が、今は本人だと良く分かっただろう。ザミエルと撃ち合えるのはGGOにそう多くない。自分もその中に入っているのかは直ぐ分かる。死銃を終わらせ、キリトも倒す。そして──

 

 ──というような雑念を振り払う。今は死銃に集中しなければ。もし、探している名前が両方ともこの街にいなければ、自分たちの推測が根本から間違っていたことになる。

 

 いや。

 

「「......いた!」」

 

 と叫んだシノンの声はキリトの声とシンクロしていた。町の中央にある円形建築物の外周部。絶好の狙撃ポイントで陣取っていた。

 

 『銃士X』

 

「今この街にいるのは『銃士X』だけだわ」

 

 シノンの囁きに、キリトも張り詰めた声で応じた。

 

「ああ、『スティーブン』はいないな。つまり、『銃士X』が『死銃』だということだ。狙っているのは、多分......」

 

 キリトが、自分の端末に指を置く。示されているのは中央のスタジオからやや西に離れたビル上の光点──名前は『リリコ』だ。

 

 『リリコ』が他の場所に動くには必ず『銃士X』の射界に入らなければならない。あの黒い銃で撃たれるまえに、死銃を阻止しなければならない。

 

「援護頼む」

 

「了解」

 

 シノンもそれだけ答え、身体を浮かせる。銃士Xを狙える場所まですぐ移動し、シノンは両眼で視力強化スキル『ホークアイ』の補正により、朽ちかけたコンクリートに縁の奥にちか、っと光る物が見える。

 

「......いた、あそこ」

 

 間違いない、ライフルの銃口だ。

 

「どうやら、まだ『リリコ』が出て来るの待っているみたいだな。......よし、シノンは通りを挟んだ向かいのビルから狙撃体制に入ってくれ」

 

「え......、私も一緒にスタジアムに......」

 

 思わず反論しかけたがキリトは強い視線で遮った。

 

「これが、シノンの能力を最大限に活かす作戦なんだ。ピンチの時は君がその銃で援護してくれると信じているから、俺は恐れることなくあいつと戦える」

 

 シノンはその言葉に頷くこと以外何もできなかった。キリトは微かに微笑みを浮かべてると、腕時計を一瞥する。

 

「俺は、君と別れてから三十秒後に戦闘開始する。その時間で足りるか?」

 

「......うん、充分」

 

「よし、じゃあ、頼んだ」

 

 そして、キリトは躊躇うことなくスタジアムの南ゲート目指して駆けていった。その細い背名が遠ざかるのを見つめながら、シノンは胸の奥に奇妙な感覚が生まれるのを自覚していた。

 

 緊張? 不安? いや違う。これは心細さ?

 

 何をバカな!

 

 奥歯を噛み締め、強く自分を叱咤する。

 

 私は、BoB本大会に優勝しこの世界で最強のプレイヤーになるという目的を達成するために、ただ合理的に行動してるだけ。未知のシステム外能力で混乱させている『死銃』は速やかに排除しておきたいし、それまではキリトと一時的に協力するのもやむを得ない。

 

 それに成功すればキリトは敵に戻る。次、遭遇したときは躊躇なくトリガーを引き、倒し、忘れる。

 

 何故なら、もう二度と会うことはないのだから。

 

 シノンは、あくまでも普段と同じく冷静に行動しているつもりだった。

 

 しかし、心のかなりの部分がいつもと違う思考に占められていたのかも知れなかった。それを自覚した時にはもう遅かった。ビルの壁面の崩壊部をくぐる寸前、背筋を強烈な悪寒を感じ、振り返ろうとしたことすら出来ずに路面に倒れ込んだ。

 

 ──何......どうして......!?

 

 一体、何が起きたのか、すぐには分からなかった。

 

 咄嗟に避けようと目の前のビルに飛び込みかけたのに、足が動かなくてそのまま棒倒しになったのだ。どうにか動かせるのは両目だけ。ダメージを受けた前腕部を確かめる。

 

 腕に刺さっていたのは、直径五ミリ、長さ五十センチ程度、根本部分が甲高い振動音とともに、青白く発光している。これは──

 

 電磁スタン弾。

 

 あの時、ペイルライダーを麻痺させた特殊弾と同じだった。今狙っている銃士Xは違う。スタン弾が飛来したのは逆方向、つまり南から飛来してきたのだ。先ほど見た衛生スキャンで少なくとも自分を攻撃できるプレイヤーはいない。

 

 理解出来ない。誰がどうやって。

 

 その問いに答えたのは、言葉ではなく、両目で捉えることが出来た一つの光景だった。

 

 明らかにそれまで存在したんかった、南に約二十メートル離れた空間にじじっと光の粒が幾つも流れ、まるで世界そのものが切り裂かれたように何者かが現れた。

 

 ──メタマテリアル光歪曲迷彩!!

 

 光そのものを滑らせ、自身を不可視化するという謂わば究極の迷彩能力だ。

 

 しかし、あれは一部の超高レベルのネームドMob(モンスター)だけが持つ技だったはずだ。

 

 ばさり。

 

 と風に翻るダークグレーの布地がシノンの混乱極まる思考を遮った。完全に姿を現した襲撃者をシノンはただ唖然と見つめた。

 

 羽毛のマントに、頭部を完全に覆う同色のフード。あの『ぼろマント』──

 

 

 ──『死銃』。

 

 

 

 




まず、変更点を。前から言われていた名前を今更ながら変えました。

Zamieru → Zamiel

Kaspar  → Casper

申し訳ございません。

そして、今回いきなりカスパールが出てきて混乱したかも知れません。少し事情で予選で出すことが出来ず、そのまま強引に入れました。また会話が日本語ですが、ちゃんと英語で話しています。流石に書く気になれないです。
これも本当に申し訳ございません。

そして、原作の部分を結構、省力して書いていますのでご了承下さい。

矛盾点や不明な点が今回からあるかも知れません。少し急ぎ足で書いていますので。
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