銃弾は曲がらないと誰が言った?   作:ヒャッハー猫

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Eighth bullet

「キサマ......ッ!!」

 

 マントの奥から見える赤い目が更に光を増したように見えた。それは正しく怒りを表しているのだろう。目の前に立っているザミエルに。

 

 彼は間違いなくGGOナンバーワンプレイヤーと名高いザミエル。だが、そんな彼がなぜ私を守るようにしているのだろうか。

 

「カスパール!!」

 

 彼がそう名を叫ぶと強化された聴覚から聞こえて来る風を切りながら近付くナニか。それが銃弾だと気が付いたときには死銃の左肩を掠める。

 死銃はとっさに大穴が空いたビルに転がり込んだ。そこに牽制するようにザミエルがハンドガンとは思えない重低音のする拳銃を連射する。

 

 逃げるならチャンスだ。目の前で私を守るように牽制している彼も私が逃げやすいように立ち回っているのが分かる。

 

 どうして? 

 

 なんで?

 

 そんな疑問が浮かび上がる中、逃げようとするが、それ以前に立つ闘志が根こそぎ奪われてしまっている。ザミエルには悪いがとてもじゃないが逃げれそうにない。

 

 最早、思考らしい思考すらできず、目の前で死銃と撃ち合っているザミエルを見ていることしか出来なかった。

 

 そんなシノンの左腕を誰かが掴み上げ、シノンの背中に掌を当てる。よろめく暇もなく、そのまま右肩のへカートごと、二本の腕で抱えられてしまう。

 

 直後、体が潰れてしまいそうなほどの加速感。あっという間の出来事に困惑しているなか自分を横抱きにしているプレイヤーを見る。

 

 黒曜石のような瞳と、風になびく長い黒髪。

 

 .......キリ、ト。

 

 呼びかけようとしたが、声が出なかった。少女と見まごう美貌に、あまりにも必死な表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 ♰

 

 

 

 

 間違いない。目の前にいるこのプレイヤーが『死銃』だ。本来の狙いとは大きくズレたがこうして相対することが出来たのだ。問題は無い。しかし、一つ言うことがあるとすれば。

 

「カスパールのヤツ、()()()()()やがったな」

 

 まさか、あれで貸しは返したなどと言うつもりか。カスパールならほぼ外さない距離であったろうに。貸しとはカスパールとの戦闘の時の話だ。。

 

 銃を弾き、彼女は抵抗出来るわけもなく戦い自体は自分が勝った。後はトドメを指すだけだった。しかし、その時に見えたこの状況にカスパールを無視して向かったのだ。

 

 その時、後ろから武器を回収したカスパールが不服そうに追って来たので、掻い摘んで依頼の状況を説明すれば、もう一戦する約束をして手を貸してくれるらしい。しかし、一度だけ。そんなもの彼女にとってどうでもいいらしい。文句を言いたい所だが、今は死銃だ。

 

 未だ、ビルの大穴に身を隠しているであろう死銃を廃車の物陰から見つめる。道路の真ん中で腰を下ろしているのは隙だらけだが、後方に敵はいないことは確認している。

 後は、側面だがビルが並んでおり撃たれること可能性は低い。

 

 カスパールも一度きりの共闘だったから、次会うときは敵同士だ。少なくともこの戦闘が終わり次第は手を出してこない。

 

『ナイトシェード』をホルスターに戻し、腰の後ろで交差するように収められている二丁の銃を引き抜く。

 

『CZE Cz75』これもハンドガンに分類されるものだが、これにロングマガジンを付け弾数を大幅に増やしている。SMGほどの集弾性は無いものの感覚としてはほぼSMGに近い。

 

 そして、何よりハンドガンである。だからこそ、曲げやすい。

 

 一向に出て来る気配が無いが警戒しているのか、それとも抜け道を見つけ奥に抜けていったのか。だとしても相手の実力が未知数なため下手に動くことは危険だ。

 だが、俺達の前で遮蔽物に隠れようと、それは意味が無いに等しい。

 

 両手に持った『CZ75』を左側に持って行き大きく右上に流すように振りぬく。連射されて放たれた数十発以上の銃弾がひと塊で死銃が隠れたビルの大穴に吸い込まれていった。

 

 しかし。

 

「......おかしい。何故、何も反応が無い?」

 

 確信に近いものを感じて堂々と大穴に近づけば、思った通りそこには誰もおらず自分が撃った銃弾と電子スタン弾が入っていたと思われるマガジンが落ちていただけだった。

 

 その現状に思わず舌打ちをする。

 

「チッ、どういうことだ? いつの間に消えた?」

 

 目を離した覚えは無い。ここから出るには必ず自分の視覚に出てこないといけない。しかし、死銃は跡形を無く姿を消した。

 

 出し抜かれたことに怒りを覚えながら、死銃の実力の高さに舌を巻く。ヤツは自分と戦うような素振りを見せて、どうやったかは知らないが上手く自分をそこに縫い付けた。

 

 勿論、自分も狙いの一人だと思う素振りを見せている。だが、今の狙いはあくまでも、キリトと逃げていった彼女──シノンということだ。

 そして、もう一つ。

 

「はぁ、まさかあの光剣使いが助っ人だったか......せっかくコイツを持って来たんだが意味無かったか」

 

 彼女対策として持ってきたが、試合よりもお互いが本来の目的を達成するべく最終的には協力関係になる可能性がある。もしかしたらもう出会う機会が無いであろうプレイヤーとこの大舞台で闘って見たかったものだ。

 

 とはいえ、今はそんなことを思っている場合ではない。

 

 如何に彼女とはいえ、流石に人一人庇いながら戦うのは難しいだろう。いや、シノンもきっとスタンから解けているだろうから、状況的には有利だと思うが......。

 

「ホント、どうやって掻い潜りやがった? これじゃあ、俺は元トップギルド所属とはいえ、名折れだな」

 

 謎が残るが今は急いで彼女たちと合流しよう。死銃が姿を消した謎も、もしかしたら彼女が何かしら掴んでいるかも知れない。

 

「急ぐか」

 

 まだまだプレイヤーが残っているが、気にしてはいられない。シノンをこうも執拗に狙うということは、少なくともシノンを殺せる準備が整っているということ。

 

 ならば、これ以上犠牲者を出させるわけにはいかない。一度、マップを見たとき一人のプレイヤーが『DISCONNECTION』になっていた。これが、死銃の犯行であれば現実世界で一人犠牲者が出ているということになる。

 

 言い難い胸騒ぎを感じながらその場から走りだした。

 

 

 

 

 

 ♰

 

 

 

 

 

 ザミエルが時間を稼いでいる間に逃げ出したキリトたちは無人営業のレンタル乗り物屋で三輪バギーが一台だけ走れそうな奴が残っているのを確認した。しかし、乗り物はそれだけでなく、四つ足の大型動物のウマが数匹繋がれていた。

 それは、生きた本物では無く、金属のフレームとギア類を剝き出しにしたロボットホースだった。

 

「馬は......無理よ。踏破力が高いけど......扱いが、難しすぎる」

 

 三輪バギーも乗りこなせる者はほとんどいないが、ロボットホースはバギーの比ではない。キリトはシノンの言葉にすぐに頷くと、一台だけ健在の三輪バギーに走り寄った。

 

 エンジンを掛ける。シノンをリアスステップに乗せ、自分はシートに跨るやいなやアクセルをかけた。

 

「シノン、君のライフルであの馬を破壊できるか!?」

 

「え......」

 

 ようやく痺れが薄れてきた右手で、左腕に刺さるスタン弾を苦労して抜きながら、シノンは背後のロボットホースを振り返り、やっと悟る。キリトは、ぼろマント──死銃があの馬で追ってくることを危惧しているのだ。

 

 幾らなんでもザミエルが負けるなんて......と言いかけた言葉を飲み込む。もし、死銃がザミエルとは戦わず迷彩を使って追って来たら? いや、もしかしたら負けている可能性だってあるんだ。

 見えない相手にどうやって戦えというのか。

 

「わ......解った、やってみる」

 

 いまだ震えが残る両腕で、右肩から降ろしたヘカートを抱える。銃口を、ほんの二十メートルほど先に冷たく佇む金属馬に向ける。

 照準せずとも、スキル補正だけで必ず必中する距離だ。後はトリガーを引くだけ。そのまま指に力を──

 

 ──がちっ。

 

 トリガーが引けない。

 

「え......なんで......」

 

 何度やっても、引き金は溶接されてしまったかのように動きはしなかった。

 

「......引けない......なんでよ......トリガーが引けない......!」

 

 自分の喉から漏れた声は、細く掠れた悲鳴だった。まるで、氷の狙撃手シノンではなく、現実世界の朝田詩乃が泣き叫んでいるかのような。

 

「シノン! 掴まれ!」

 

 いきなり強く声が響き、同時に伸びて来た手が左腕を握った。導かれるままキリトの胴を抱く。その直後、バギーは弾かれたように道路へと飛び出した。

 

 キリトがシフトペダルを蹴り飛ばすたび、ぐんっという加速感がシノンを引きはがそうとする。懸命に細い体にしがみつく。

 

 たちまちトップギアに達したバギーは、廃墟に甲高い咆哮を響かせながら、メインストリートを疾走しはじめた。

 

「くそっ、まだだ! 気を抜くなよ!」

 

 反射的に後ろを向く。破壊しそこねたロボットホースが飛び出すのが眼に映った。乗っているのが誰かなど確かめる必要もなかった。

 

 不吉な烏の黒翼のように、マントが大きくはためく。背中にライフルを背負い、両手で金属ワイヤーの手綱を握っている。馬の動きに合わせて体を上下させている様は熟達した騎手のようだ。

 

「なん......で......」

 

 乗れるはずがない。それなのに、闇色の騎馬は路上に転がる廃車を滑らかに迂回し、時には飛び越え、バキーとまったく同じスピードで追いすがってきていた。

 その姿は、もはや自分と同じプレイヤーではなく、シノンの中から溢れた恐怖の具現化とも思われた。

 

 廃墟を貫くハイウェイには嫌がらせのように次々と障害物が現れ、バギーに限界の高速コーナリングを強いた。条件は追跡者も同じのはずだが、障害だらけのこのコースでは四つ足の機械馬にわずかなアドバンテージがあるようで、スムーズに廃車を回避して追い上げてい来る。

 

 その上、こちらは二人乗りだ。現状バギーの方が明らかに加速が鈍い。

 

 距離がついに百メートルを切った、と思われた時だった。死銃が右手から手綱を離し、真っ直ぐこちらに向けた。握られているのは黒いハンドガン。『五四式 黒星(ヘイシン)

 

 全身を凍りつかせ、スッテプに伏せることもできずに、シノンは拳銃を凝視した。奥歯が震えて、かちかちと不規則な音をたてる。

 音も無く弾道予測線《バレット・ライン》の真っ赤な線が指先に触れる。その直後、銃口からオレンジ色に発光し──

 

 カァン!

 

 と高い衝撃音を引きながら、致死の弾丸がシノンの右頬から離れた空間を通過した。ライトエフェクトの微粒子がちりちりと空間を漂い、頬に触れた。その瞬間、シノンはドライアイスを押し付けられたような冷たい痛みを感じた。

 

「嫌ああぁっ!!」

 

 今度こそシノンは悲鳴を上げ、背後の死神から眼を背ける。

 

「やだよ......助けて......助けてよ......」

 

 赤ちゃんのようにぎゅうっと体を縮めて、弱弱しい言葉だけ繰り返す。死銃は、バギーに追いついてから確実に命中させる作戦に切り替えたのか、銃撃は止んだものの蹄の音がじわじわと大きくなる。

 

「シノン! 落ち着け! 俺たちには仲間がいる!」

 

 仲間? このバトルロイヤルで仲間なんているわけが......いや、守ってくれたプレイヤーがいた。あの時、助けてくれた人がいた。

 キリトの背中にうずめている顔を上げると、横から後ろと同じような機械の騎馬が駆けて来る。一瞬、ヤツかと怯んだが違った。

 

 

「──時間は稼ぐがこっちはコレの扱いに慣れてない! 油断はするなよッ!」

 

   

 それはとても見覚えのあるプレイヤーだった。ザミエルが銃を死銃に向ける。しかし、中々狙いが定まらないのか四苦八苦していた。

 前は前で女性プレイヤーが必死な表情でロボットホースを制御しようとしている。速度が上がったり落ちたりしていた。まるで、ただ跨がっただけのような、そんな感じだった。

 

「分かっている! 頼むぞ!」

 

 キリトがそういうとザミエルはシノンを一瞥して、視線を死銃に戻し銃を構えた。

 

 

 

 




Wanted要素が少ない気がする......。
それと、後から追ってきたザミエルたちですが、普通に追い付かないと思いますが、そこはどうか割りきってほしいです。申し訳ございません。
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