~演習場~
パンっと音がして海の上で漂っていた標的の中心がキレイに無くなる。今度は連続で発砲音がして的は爆炎を上げて沈んでいった。
皐月「…」
的を海の底に送り込んだ張本人は静かに海の向こうを睨み付けていた。顔は強ばっていて、緊張しているようにも見える。
月乃「全弾めいちゅー。さっすがー」
皐月「ん…最後ズレた。もう一回」
月乃「そう言ってもう5回目ですよ?それに相手も沈んじゃった。もうそろそろ出撃の時間だし」
ちらと月乃は腕時計を見て言う。皐月はしぶしぶと後片付けを始めた。
月乃「…不安?」
皐月「何が?」
あくまでとぼけるか。提督は首をすくめた。
月乃「初めての出撃だからってそんな身構えなくてもいいよ。充分強いんだし」
皐月「…でも」
月乃「今頑張りすぎると疲れて力出し切れなくなっちゃうよ?適度にいかんと」
提督の心配そうな声色に皐月は「分かったよ…」と観念したように口を尖らせ言う。提督はニコリと笑った。
卯月「しれーかーん、さーつーきー!出撃するぴょーん!」
皐月「はいはい」
月乃「今行くよ」
卯月の大声が水平線の遠くにまで響く。二人は笑って手を振った。
―
月乃『私は指令室から通信するね。聞こえてる?』
卯月「大丈夫ぴょん、はっきりと聞こえてるぴょん」
提督が指令室で指示をとばす。卯月は初めての実践に興奮を隠しきれていない。
皐月はと言うと、警戒を全く解かず、キョロキョロと周りを見渡している。旗艦を任され、責務を果たそうとしているようだ。
皐月「あっ」
卯月「何ぴょん?」
皐月「駆逐イ級だ。卯月、殺っちゃうよ」
卯月「皐月…目がガチだぴょん…」
卯月が軽く引いているのにも構わず、皐月は砲をイ級に向けた。イ級もこちらに気づく。
皐月「さぁ、ボクの砲雷撃戦、始めるよ!!」
卯月「睦月型のホントの力、見せてやるぴょーん!」
相手はたった一隻とはいえ油断はできない。イ級には魚雷がある。これが一発でも当たってしまえばお陀仏だ。
皐月「砲雷撃戦用意!」
卯月「うてぇ~い!!」
二人は一斉に砲撃する。イ級は急いで回避しようとするが、間に合わない。
提督の地獄メニューの成果がしっかりと出ている。
ドゴンと砲弾がイ級の体を貫く。イ級は耳障りな声を上げてズブズブと沈んでいった。
皐月は息をついて肩の力を抜く。卯月は初勝利に大喜びだった。
皐月「もー、卯月ってばちゃんと周辺警戒してよ」
卯月「うぷぷ、へーきぴょん。うーちゃんたちに勝てるやつなんていないぴょーん」
皐月「ああもう…」
完璧に油断している卯月に、皐月はやれやれと息を吐く。
と、そこで提督から通信が入る。
月乃『油断大敵だよ卯月?』
卯月「だからへーきぴょんっ」
月乃『けど…イ級を沈めたのは皐月の弾だよね?』
卯月「うえっ!?」
どこから見ていたと卯月は慌てて辺りを見回す。
卯月「どっ、どこから!?」
月乃『どこからだっていいじゃない』
皐月「そうそう」
ネタバレすると、ただ皐月の艤装にカメラを取り付けただけである。
月乃『それで?うーちゃんたちに勝てるやつなんていないぴょん?』
卯月「う…」
月乃『おもいっきり外しといて?』
ズッパリ言う提督。卯月は「ギャアアアアッ!」と頭を抱えて絶叫した。
皐月「司令官…その辺にしときなよ」
月乃『ふふふ…いや、ちょっと思いのほか楽しくて…』
皐月「それは同意するけど」
卯月「うわああああんさつきぃぃぃぃ」
皐月「ああ、ハイハイ」ナデナデ
泣きついてきた
皐月「んっ…」
卯月「ぴょん?どーしたぴょん?」
月乃『敵?』
皐月「うん…そうみたい」
皐月の言う通り、何かおぞましい咆哮が聞こえてくる。電探もなしに敵の存在を察知したのか。恐れ入る。卯月も皐月も、そして提督もその声に顔をしかめた。
皐月「軽巡と駆逐だね」
卯月「三隻もいるぴょん…」
皐月「数の不利は練度で補おう。最初は魚雷で吹き飛ばすよ。軽巡の方が射程長いから気をつけて」
卯月「( ゚Д゚)ゞ」ビシッ
「最大戦速」と皐月が呟く。波が高くなり、風の当たりも強くなった。だが、そんなことに構わず皐月と卯月は敵を睨み付けている。
軽巡「…!」
敵が気づく。駆逐もこちらを向き、戦闘体勢に入る。
軽巡が発砲。
皐月「構うな!全力で突っ切れ!」
卯月「ぴょーん!」
敵の砲弾が卯月の後ろに着弾。卯月が水を被っただけである。
皐月「魚雷発射!」
シューと音がして魚雷が海の中を泳ぐ。それは真っ直ぐに駆逐のもとへ吸い込まれていった。
充分な威力を持った酸素魚雷が爆発する。それは見事駆逐二隻を木端微塵にした。
卯月「最後はお前だぴょん!」
いまだ水柱がたっているのに卯月は軽巡の懐へ潜り込んだ。そして砲を軽巡の顔らしき場所に突きつけ発砲。軽巡は悲鳴をあげて海に没した。
皐月「無茶するなぁもう」
皐月の言う通り、卯月の体は煤だらけで艤装も削れていた。恐らく至近距離で軽巡を穴だらけにしたためだろう。
卯月「イエーイっ!勝ったぴょん!」
皐月「もっと安全に倒せる方法あったでしょ…小破することなかったよ?」
卯月「勝ったんだからいいでしょー。ほら、褒めるぴょん」
皐月「ハイハイ、えらいえらい」
卯月「ふふーん」
妹に撫でられ嬉しそうである。皐月は苦笑した。
―と、卯月が何かに気づいた。
卯月「…あれって、もしかして…」
皐月「あっ…」
―
月乃「ふぅ」
軽巡たちとの戦闘が終わったので、提督はイスの背もたれに寄りかかった。戦闘中、ずっと力を入れっぱなしだったのだ。
月乃「皐月は損害無し、卯月は小破…まぁ、敵にやられたわけじゃないしいいか」
あの練度で海に出してもいいのかと危惧していたが、大丈夫そうだ。皐月も卯月も近海警備はちゃんとできている。心配無いだろう。
卯月「たっだいまぴょーん!」
皐月「司令官、ただいま」
月乃「んお、おかえり~」
立ち上がって二人の顔を見ると、どことなく嬉しそうだ。けれどそれは初めての出撃で勝利したことによる喜びではないように思える。提督は不思議そうに首をかしげた。
卯月「んふふ~、しれーかんにお土産があるぴょん」
月乃「お土産?」
皐月「そう。…入ってきていいよ」
皐月の呼び掛けに指令室の扉がゆっくりと開く。扉を開けた人物を見ると、提督は目を丸くした。
―そこにいたのは…
長月「…はじめまして、だ。司令官。私は睦月型8番艦、長月だ。よろしく頼む」
月乃「…!ドロップ艦…?…あっああ、よろしく長月、私は月乃。ここの提督だよ」
驚きながらも長月と握手をする提督。長月はニコリと笑って敬礼をした。
皐月「軽巡たちを倒したら長月がドロップしたんだよ」
卯月「うーちゃんたちの妹だぴょん!司令官、嬉しいぴょん?」
月乃「仲間が増えて嬉しく思わないやつはいないよ。いやぁ嬉しいねぇ、教官としての腕が鳴るわ~」
提督がそう言うと、卯月はびくりと体を跳ねさせた。提督の言う教官とはもちろんあの地獄の訓練である。卯月はそっと心の中で長月の無事を祈り手を合わせた。
卯月「ご愁傷様ぴょん、長月…」
長月「…?」
皐月「あー、まぁここに来ると司令官の洗礼があるから…」
長月「?何を言ってるんだ姉さんたちは…」
長月が困惑する中、卯月が盛大にくしゃみをした。
(音はこちらの都合でカットさせていただきました。だって女の子とは思えないくしゃみだったんだもん…)
月乃「あはは、とりま卯月たちはお風呂(入渠)しておいで。その間私がご飯作っておくから」
卯月「わーいっおなかペコペコだったぴょん!」
皐月「食べた後訓練だからあんまりご飯食べ過ぎないほうがいいよ、長月」
長月「?ああ」
長月はいまだ姉が何を言っているのか分からず曖昧にうなずいた。そして昼食後、その意味を嫌というほど知るハメになる。
新しい睦月型出せたといっても最後にちょろっと出ただけですね。次からどんどん出していきます!
評価・感想などよろしくお願いいたします