いくら目を覚ましても元の世界に戻れていない。
そんな当たり前な事にいつも少しだけ落胆しながらも、布団から起きあがって寝間着の服からささっと着替えた。
昨夜は魔物討伐をせずに、苦無の練習をしていた。
いくら実戦レベルで使えるとは言っても本当に扱いづらい。
着地点が苦無ごとに変わるし、振り回すのも微妙にずれるし、複数の苦無を同時に扱うと手元の感覚が狂ってくる。
魔王アーティファクトの異常さを今一度認識する事になった。
投擲の感覚を修正するのにいくらか手間取ったが、なんとか昨日のうちに仕上げた。
そして今日はクラスメイト達が初めて魔物と対峙する日である。
少し寝惚けた状態でベットに座って苦無を弄っているとノックがかかる。
「……どうぞ」
「失礼します……相変わらず器用ですね」
扉を開けたリゼが俺を見てそう呟いた。
今は手首を中心に苦無を回しているところである。
頭が働いていなくてもこれくらい出来るようにならないと、疎外感を感じる羽目になるのだ。
親には何度器用に産んでくれてありがとうと思ったか分からないくらいには練習を繰り返した。
「これくらいは出来ないとな、……その……困るんだ」
そう言って苦笑したのち一瞬で苦無を服のうちに隠した。
見紛う事なき早業にリゼの顔が引き攣る。
あんた達の世界は戦いと無縁の世界ではなかったのか。
そんな思いがリゼの表情からあふれ出ていた。
(ちょっと組織を潰しに行ったら世界を救うはめになるくらいには)
ベルセルク事件を思い出しつつベットから立ち上がる。
軽く身嗜みを整えてこほんとワザとらしい咳をすれば、引き攣った表情を元に戻して今日の日程について話し始めた。
なんでもリゼの説明によると、今日は屋外訓練場を使う予定だったらしいが予想以上に魔物の遭遇率が低いため急遽他の駐屯地を使う事にしたらしい。
そんな説明をしながらリゼはジト目な視線を向けてきた。
「……魔物の徘徊が少ないってのは良いことなんじゃ?」
あくまでシラを切って更に問題ないかのように振る舞う。
たとえ毎晩狩っていた場所が屋外訓練場の近くであっても関係ない。
いやー魔物の数が減ってみんな嬉しいのでは、という表情を向けるとリゼはどこかぎこちない表情をした。
疑問に思っていると、話そうか迷っていたリゼは意を決めて話し出した。
「これは国の情報ではなくギルドの情報ですが。街周辺の魔物が減少した為、冒険者達は遠出をするようになったそうです」
その言葉でなんとなく察した遠藤は難しい表情をする。
リゼはそんな顔を見ながら言葉を続けた。
「身の丈に合わない動きをしていた冒険者達が原因ですがね。実際魔物の被害は減少していて助かっている住民は多いみたいです。それに亡くなった方々は血の気の多い粗野な人たちが多いので、何も問題ないでしょう。あるとすれば冒険者が少し減ったことくらいでしょうか」
そう言い括ったリゼをみて、改めて人の命の軽さを認識する事になった。
話そうかと迷っていたのは亡くなった冒険者に対して何かを思っていたからというわけではなく、単純に遠藤に話して大丈夫だろうかというものだった。
トータスは本当に生き辛い世界だ、そう思わずにはいられない。
そんな風に考えているとこほんと咳をする。
「話が逸れました。つきまして
まだ情報収集していると疑われているのだろうか。
未来のことを話せない現状、そう誤認していてくれる方が助かるが。
「それと今回の訓練には私も参加させて頂く事になっています」
そういえば前回のリゼも屋外訓練場に参加していた。
確かメルド団長曰く、女子生徒に気を使ってある程度戦闘ができる女性をかき集めていたらしい。
そんな風に記憶を掘り起こしていると、リリィの近衛騎士が浮かんだ。
「そういえば、リゼの友達の闇属性魔法が上手い子も参加するんだっけか」
「……っ、それはリリアーナ王女に就いている近衛騎士の事ですよね……。どうしてそれを貴方は極秘事項をご存知なんですか」
極秘事項だったのか。
そういえば今のところはリリィの近衛騎士だから、あまり漏れてはいけない情報だったのだろうか。
雫から離されて光輝達と世直し旅をしているイメージしかない遠藤にとっては、リリアーナ王女の近衛騎士という印象の方が薄い。
どこか責めるような視線を遠藤に向けていたリゼだったが、何も言わないのをみて肩を竦める。
「仕方がないでしょう。ひとまず訓練を行う駐屯地へ向かいましょうか」
そうして二人は遠藤の自室を出た。
★☆★☆★☆★☆★☆
「急遽変更になって済まない。本来なら屋外訓練場で行うのだが余りに周辺の魔物の数が減少してしまっててな、少なくなる事自体10年に1度あるかないかなのだが……時期外れだが恐らく今年なのだろう。そんなわけで反対側の駐屯地まで来てもらった。みんな初めての魔物との戦闘という事で緊張するかもしれないが周りの私達がサポートする。だからあまり緊張せずに頑張って欲しい」
メルド団長は生徒達を見回してそう締めくくった。
クラスメイト達はどこか不安げな表情だが、初めてのファンタジーな戦闘ということもあってか興奮している人は多い。
そんな様子を客観的に見ながらも冷や汗を拭った。
それは初めての戦闘に緊張しているという訳でもなく、屋外訓練場周辺の魔物の減少が自分という事に汗をかいている訳でもない。
(昨日、この周辺で苦無のテストをしたんだよなー)
若干どこか遠い目をする遠藤。
魔物を討伐した訳ではない、魔物を標的にしただけである。
結果は同じかもしれないが過程が違うので全然違うはずだ。
ちょっと気分が乗って、テストの量を明らかに超える回数投擲したのもきっと問題ないはずだ。
ちゃんといんぺ……後処理もしたし大丈夫。
[+深淵卿]も発動していたような気もするけど、覚えていないので気のせいだ。
「魔物が少ないのは面白くねぇなー、折角訓練して来たのに」
「あ、ああそうだな頑張って来たのにな」
健太郎はそんな風に愚痴りながら拳を振り回す。
相槌を打つがどこか素っ気ない感じになる。
そして遠藤と健太郎の会話は地味に話がずれていた。
「……こういう時もある」
すみません、自然現象ではなく人為的なものです。
良心の呵責に胸が苛まれながら、魔物を捕獲しに行った騎士団員達に祈りを捧げる。
(どうか大量に見つけて来てください。胸が痛いです)
どう考えても自業自得であるが、祈るしか方法はなかった。
その願いは変な方向に叶う事になる。
1時間後、結構な数の魔物を捕獲したらしい騎士団員達が現れた。
クラスメイト達は気を沈める為に自主練をしていたが、流石に飽きて来たところだったので丁度良いタイミングではあった。
しかし、前回よりも時間がかなりかかっている事に関しては自身の問題なので良しとしても、その前回よりもかなり上回る魔物を確保していたのは驚きだ。
「団長! この周辺もあまり魔物を見かけませんでしたので奥地に行ったのですが、奥地へ向かうと大量に傷付いた魔物が発見出来ました!」
「ご苦労! ……魔物の縄張り争いでもあったのか」
そんな風に首をひねったメルド団長。
何があったのかおよそ理解したのか、離れたところで女性騎士と共に待機していたリゼがこちらを睨んで来て目を逸らす。
昨日は苦無の練習をするから大丈夫だといい、一人で向かったのだ。
[+気配遮断]を行使して苦無をテストしに行ったので、そもそも王宮外に出たと思わなかったのだろう。
出なければ先程の予定変更時に何か言っているはずだ。
俺は何も知らないし関係ないと言わんばかりに健太郎達と魔物について話す。
「どの魔物が強いんだろうな」
「どれが強い以前にエゲツねぇ程ズタボロだぞ、むしろ魔物の生命力の方が恐ろしいんだが」
「……魔物も意外とタフだな」
遠藤の言葉に健太郎と重吾はそう返した。
それ程なのかと騎士団員達が確保してきた魔物を注視すると、予想を遥かに超える酷さだった。
見るのも痛々しい程傷付いており、骨が見え隠れしている魔物もいる。
あまりの酷さにあれを殺さなければならないのかと別の意味で恐怖している生徒もいた。
魔物も必死に抵抗しているが、あまりの弱々しさに庇護欲すら誘っているように見える。
そんな傷だらけの魔物を見て内心混乱する。
(あれ本当に俺がしたのか!? 俺って虐待的嗜好でも持ってたのか!? 怖いんですけど!?)
自分に対してかなり引き気味になっている遠藤にさらに追い討ちがかかる。
――――アレを殺すのはちょっと……。
――――流石にあれは可哀想な気がするよぉ〜しずしずぅ〜
――――あんな状態にした魔物ってどんなんだ……。
クラスメイト達の中からそんな声が聞こえてきた。
すみません、魔物は最初から俺の中にいたようです。
度重なる精神ダメージと衝撃により意識の手綱を放しはじめた。
「おいぃ!! 浩介ぇ!! 口から白いもん出てんぞぉ!?!?」
「団長ぉ! まずいですぅ!! あまりにも悲惨でズタボロでやった魔物の神経を疑うような姿の魔物にショックで魂が出かけてる生徒がいますぅ!」
「かふぅぅ!!??」
「おい!? トドメを刺してどうするんだ!! 遠藤!! しっかりするんだ!!!」
「はふぅ〜」
「綾子ちゃん!?!?」
「団長! 他の子ももらい逝きしかけてます!!」
「一時中止にする!!」
魔物との実戦訓練は一時中断される事になった。
再開できたのはおよそ30分後である。
その間遠藤は元の世界でエミリーと楽しく談笑をしている夢を見ていた。
★☆★☆★☆★☆★☆
魔物が檻から出された。
最初に見た時の状態よりも、明らかに血行が良くなって快活に動いている。
治癒師の練習台という体裁で、ある程度回復させたのだ。
例え回復させても懐くどころか凶暴的な視線と行動に、ようやく魔物に対して緊張し始めるクラスメイト達。
光輝も最初は討伐に反対していたが、今の攻撃的な状態を見て渋い顔をしている。
(これは盗賊の代わりになるのでは無いだろうか? ……いや、ならないか)
目覚めた遠藤だが、魂を飛ばしていた時の記憶は物の見事になく、いつの間にか魔物との実戦訓練が始まっている状態だった。
健太郎と重吾が心配そうな顔をしていたが何が起きたか理解していないので意味が分からない。
どうして倒れていたのか聞いてみると「知らない方が良いこともある」と諭された。
よく分からない。
とりあえず魔物と単独で戦闘しているクラスメイト達をぼーっと眺める事にした。
今魔物と戦っているのは
クラスメイト達は三つのグループに別れて、一人ずつ戦う順番制となっている。
「いやぁーー!!」
突然優花が甲高い悲鳴をあげた。
詠唱していたみたいだが、徐々に近づいてくる魔物に恐怖して錯乱してしまったらしい。
近くにいた女性騎士がサクッと処理しに行ったのだが、慌てていた優花は女性騎士もろとも魔法を爆発させた。
自分のした事に青ざめていた優花だが、煙が晴れるとなんともなさそうに立っている女性騎士が現れた。
明らかにホッとしている優花に団長が注意する。
・周りをよく見て味方が前に出たら攻撃を中断すること
・慌てていたのならとりあえず空に向けて魔法を放つようにすること
・いつも通り動けるように努力すること
だいたいそんな感じの事を優花に対して指導をしていた。
そんな話の最中に、女性騎士がその場からサッと退いたが動き方がおかしい気がする。
「健太郎、あの女性騎士どう思う?」
「可愛いんじゃねぇか? …っ、す、少なくともこの世界ではだけどな!」
辻綾子(つじあやこ)の聞こえる範囲だと気がついたのか唐突に言葉を後付けした。
そんなバレバレの反応に重吾がニヤニヤする。
重吾はからかう為にわざと健太郎に聞いていたと思っているみたいで、女性騎士の方はあまり見なかった。
(多分あれって捻挫だと思うんだよなー)
「遠藤浩介!前へ」
メルド団長に呼ばれて思考を一旦中止し、魔物との戦闘に備える。
念のために息が乱れてないか、心臓の音が早くなっていないかなど確認するがいつも通りだった。
さて、これが初めてクラスメイト達の前で見せる戦闘である。
下手に何かバレないように注意しよう。
「ちょっと行ってくるわ」
「頑張れよ!!」
健太郎は誤魔化すように応援し、重吾はニヤニヤしながらも頷いた。
名前を呼ばれた事に地味に感激しながらも檻の近くへと向かった。
最初は愛子先生をもらい逝きさせようとしてたんですが
さすがに一週間経ってたら農村地回ってるよなーと。
あと本当なら就寝まで書くつもりでしたが長い上に書ききれない。
そのせいでタイトルも変えなくてはいけなくなった……。orz
いつかは毎日五千字目指して頑張って行きたいところです。