過去のアビスゲート卿から   作:旅人アクア

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Flag.10 <何も効果はなかった!>

 檻が開け放たれたと同時に駆け出てくる犬型の魔物。

 

 流石奥地にいたというだけはあってかこの付近にいる魔物よりも外観的には強そうであった。

 

 但し騎士団員達に弱らせられて捕獲されていたせいか、思ったよりも速度は出ていない。

 

 徐々に迫ってくる魔物をギリギリまで見極めて、弾かれたように前へと踏みこみながら[+幻踏]を使用し残像を残す。

 

 そしてそのまますれ違いざまに、地面に這わせるように右薙の状態で振っていた小太刀を下から上へ斬り上げようとした。

 

 早く倒し過ぎたらヤバいんじゃ――根性で振っていた小太刀の刃先を腹に向きを変える。

 

 

「きゃふぅっん!?」

 

 

 残像に戸惑っていた魔物は、そのまま吹き飛ばされた。

 

 何度かバウンドしたのち、魔物は息が絶え絶えになりながらも震える脚でなんとか立ち上がった。

 

 そんな様子を見ているとなんか可哀想になってきたので、魔物の体力が戻る前に近付いて首を撥ね飛ばした。

 

 血飛沫がかかりそうなのをささっと避け、小太刀を軽く振って血を拭いとった。

 

 

「メルド団長。魔物の戦闘訓練出来ました」

 

 

 少しだけ褒めてもらえるかなと淡い希望を抱きながら、終わったことを快活良く団長へ告げると団長の表情は固まっていた。

 

 一手で終わるところを二手に増やしたのだから多少は問題ないはずだけど。

 

 黙って待っている遠藤を見てメルド団長は気を取り直した。

 

 

「おぉ…、見事な手際だったな!」

 

 

 何か忘れているような気がする。

 

 大根が無いおでん並みに何か重要なことを忘れている気がする。

 

 少し間の気絶で何か記憶が飛んでいたのだろうか。

 

 そんな事を考えながら振り返ると、クラスメイト達は口を大きく開けて嘘ぉ!?とでも言いたげな顔をしていた。

 

 残り2グループの戦闘音が異様に大きく聞こえてくる。

 

 

(……そんなに早く終わらせてしまったか? んイヤイヤでもでも光輝も雫もこのくらい早かったし)

 

 

 心の中で咄嗟に言い訳をする。

 

 きっと大丈夫と思いながら戻ろうとする遠藤。

 

 

 事実、光輝や雫は他のクラスメイト達と比べれば素早く仕留めていた。

 

 だがしかし光輝や雫は魔物に対しての畏怖や、生き物を殺すことに対しての戸惑いがあったため少しだけ時間がかかっていた。

 

 そして反対に、かなり時間はかかったものの躊躇わずに仕留めていた人はいた。

 

 だがしかし躊躇わずに仕留めた人は、自分の力に酔っていたのか嬲り殺しにしていた。

 

 細かく言うなれば、『素早く』『躊躇わずに』仕留めたのは遠藤だけである。

 

 遠藤としては最初の一手目の時点で別の意味で躊躇っていたが、二手目の容赦の無さに何人かのクラスメイト達はドン引きしていた。

 

 

「すげぇな浩介! 流石天職が〝暗殺者〟なだけはある!」

 

「……浩介もやれば出来る」

 

 

 親友の健太郎や重吾は素直にそう褒めてくれた。

 

 二人とは一緒に練習していたこともあってか、遠藤の実力を知っても驚くどころか納得の表情をしていた。

 

 そんな親友達の様子を見て、モブが突然実力を出したっぽく見えるから驚いていただけかと納得した。

 

 そして少しだけ嬉しそうに親友達に声をかけた。

 

 

「これで少しは影の薄さも――――」

 

「「それは無理」」

 

「……そうかよ」

 

 

 揃って言われたことにがくっと肩を落とす。

 

 魔王の右腕となってからも影の薄さは変わらないが、たまには希望があっても良いと思うんだ。

 

 

 

 その後、全員魔物との実戦訓練が終わりその場で解散することになった。

 

 親友達には用事があるので先に帰ってほしいと伝えた。

 

 

「そこの女性騎士さん?」

 

 

 午前午後両方を使った初めての魔物との実戦訓練が終わった後、みんなが思い思いに帰るなかでリリアーナ王女の近衛騎士、将来は光輝の監視人(厄介払い)になる人に声をかける。

 

 

「……なんでしょうか? 使徒様」

 

 

 顔色は変わっていないが、やはり動き方がぎこちない。

 

 これで捻挫じゃなかったらどうしよう、凄い小っ恥ずかしい気持ちになりそうだと思いながら尋ねる。

 

 

「足、捻挫されていますよね?」

 

「っ!? ……バレていましたか」

 

 

 良かった、やはり思い違いではなかったみたいだ。

 

 いや、思い違いの方が良いのでは無いだろうか。

 

 実は思考があまり上手くまとまってくれていない。

 

 綺麗なお姉さんということもあるが、いずれ雫の義妹達(ソウルシスターズ)になり様々な暗躍をするのだと思うと震えが止まらない。

 

 

「俺のクラスメイトがご迷惑をおかけしました。お詫びと言ってはなんですがちょっとあそこの椅子に座ってもらえますか? こう見えてある程度なら治療できるんですよ」

 

 

 そう言って先の椅子を指した。

 

 流石に一応今の所はリリアーナ王女の近衛騎士なのだ。

 

 地べたに座らせるわけにもいかないだろう、所々クレーターや土地が掘り返されてたり水溜りが出来てたりしてるし。

 

 

「っ、すまないっ」

 

 

 そう言って歩き出そうとしていた女性騎士だが、どう見ても結構限界の表情っぽい感じだ。

 

 迷っていつつも考えてはいたのだが、流石に見ていられないので後ろから両腕で抱えあげた。

 

 

「え、使徒様!?」

 

 

 女性騎士が驚きの声をあげる。

 

 その驚きの声が響いて腕にも直接やってくる。

 

 

(結構重い! 装備のせいだろうけど結構重いんですけど! 腕力なさ過ぎなのか!?)

 

 

「ちょっと恥ずかしいかも知れませんが我慢してください」

 

 

 どちらかといえば自分自身に言ったような気がする。

 

 にっこりと精一杯微笑んでいってみたが、結構必死でギリギリだったりする。

 

 白鳥は水の中では必死に泳いで頑張ってるんですよ! なんてことを愛子先生が言っていた気がするが今味わっている。

 

 

「だ、大丈夫ですよ!」

 

(今更降ろせる訳がないだろ!)

 

 

 漢の尊厳に関わっている気がするのだ。

 

 ここで降ろしたら負けだと深淵卿が言っている気がする。

 

 

(え?深淵卿?)

 

「ふっ、問題ない。羽のように軽いではないか」

 

 

 いや、重たいです結構重たいです今すぐにでも降ろしたいです。

 

 そして何故無駄に[+深淵卿]が発動した!? 結構限界一杯だったからか!?

 

 突然、口調が変わって女性騎士は混乱している、遠藤も混乱している。

 

 

「人を守りたる騎士の羽を休める場所がないなんて、そんな酷な世界ではないさ」

 

 

 深淵卿は今日も絶好調だ、元に戻った時が怖い。

 

 良い言葉っぽいこと言ってるけど、今の深淵卿はグラサン持ってないからね。

 

 女性騎士は混乱しながらも取り敢えず遠慮しようとする。

 

 

「今の使徒をお守りするのが私達の役目です」

 

「それならば、これで問題ないだろう?」

 

 

 そう言って一瞬片手を開けてポケットからグラサンを取り出した。

 

 どうして持っているのかがわからない、記憶にはないんだが。

 

 グラサンを指で弾き飛ばしてシャキンと装着した。

 

 地味にかっこいいと思ってしまったのが無性に腹がたつ。

 

 

「今はただのアビスゲート卿だ」

 

 

 ただのアビスゲートってなんですか?

 

 私にはよく分かりませんので詳しく教えて頂きたいです。

 

 いえ、やはり教えてもらうと精神がブレイクしそうなので遠慮します。

 

 

 その後、[+深淵卿]の状態を意地でも続けながら捻挫の治療を行った。

 

 だって、正気でいられる気はしないから……。

 

 地球で覚えた治療技術とトータスで覚えた治療技術の複合技に、疑問の表情を浮かべていたが、効果がすぐに現れると驚いたような顔をした。

 

 魔王考案の魔方陣も含まれているので効き目が凄かったりする。

 

 そんなこんなで女性騎士を王宮まで送り届けて、自室に戻り小一時間隅で膝に顔を埋めていた。




遠藤くんが動いた結果により秘密結社(ソウルシスターズ)の発足が遅れます。
ちなみに女性騎士は義妹(ソウルシスター)にならない訳ではなく。
確実にどの世界線でも雫がいる限りなります。
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