「はっ!……もしかしてさっきまでのは夢だったか!?」
目を覚ました遠藤が布団から飛び起きた。
凄く人の悪い夢でも見ていたような気がした。
恋人がいるにも関わらず、プロボースされたと勘違いしたストーカーが恋人に別れろと詰め寄っていく、そんな感じの夢だった。
悪寒も止まらないし冷や汗もダラダラ出る。
……がよく考えると俺の恋人は一夫多妻容認派、むしろ男の俺が拒否しているのにも関わらず女の恋人が積極的な推進派という類を見ない有様だ。
脳内の
個人的に他の嫁候補はエミリーだけで精一杯、勿論ヴァネッサは見ない方向で。
逸れつつあった思考を元に戻して、今回の悪夢を見ることとなった諸悪の根源を思い出す。
ハイリヒ王国の王宮に勤めていて、現在遠藤浩介の専属侍従であるリゼだ。
雫の話によると、トータスにおける恋愛物語において武器の贈り物というものは、戦場に赴かんとする男が好意を抱いている女性に対して手渡すものとして、最高級のプロポーズであるらしい。
元々の由来はお忍びで秘密の逢瀬を重ねた格差ある恋人同士が、無理矢理別れさせられる間際にこっそりと贈られたものだとか。
武器種類は前者の場合だと剣などが多く手渡されていたみたいだが、後者の場合だと隠して所持できるナイフが多かったらしい。
では何故隠し持つことが出来るナイフが多く渡されていたか。
それは迎えに来るまでそのナイフで純潔を守ってほしいと言う意味合いで渡されていたからだそうだ。
それなら剣でも別に問題ないのでは、と思うかも知れないが話の続きはまだ残っている。
もし政略結婚などで純潔が守れなくなりそうだった場合、そのナイフで自害してほしいという想いも込められているらしい。
なにそれ怖いと思ったのはここだけの話である。
逆に見えやすいようにナイフを帯刀している場合は、『私には相手がいます』や『結婚には興味がありません』などという意思表示を表しているようだ。
地球における指輪と同じ扱いみたいだが由来が生々しすぎる。
恋愛物語のこの話のこの場面で贈られた時は良かったなどと嬉々として語る様子は、普段とは違い凄く微笑ましい感じではあったのだが内容がかなり重たい。
時折熱く語っていると素面に戻ったりすることもあったのだが、慌てた様子で言い訳していたりするのが唯一の
要するにリゼは一度俺に苦無の所持権を渡して、俺から貰ったという形に取れるようにしたらしい。
最初の時に言っていたあの『籠絡する』って台詞を本当にサラッと実行していたのかよと思うと少し薄ら寒いものがある。
ただニア曰く、リゼはいつもこんな様子でからかう気しかなく、本当に実行する気はないので安心してくださいとのこと。
一体どこに安心できる要素があるのか小一時間問い質したい。
「まぁ考えても仕方ないか、さて今日はどうしようか」
今日は待ちに待った……というわけでもないが休養日である。
城下町に遊びに行くのも結構、読書をして智を蓄えるのも結構とのこと。
ただ一応、名目上は休養日としているので過度な自主訓練などは控えて欲しいと言っていた。
個人的には早めに迷宮に行って熟練度稼ぎをしたいが、行き帰りで丸一日を要する時点で諦めるしかない。
魔物討伐に至っては狩り尽くしたせいかまともに魔物と出会えなさすぎて効率が悪すぎる。
「自己鍛錬か城下町しか選択肢がない件」
そんな独り言を呟きながらさっさと布団から出て服を着替える。
身支度をしっかり整えて扉を開けるとリゼと出会った。
「あら、お出掛けでしょうか?」
「まぁそんなとこ」
昨日の今日でよく普通に喋れるな、やっぱり異世界怖いわ。
などと思いながら適当に返事を返して廊下を歩き出すと何故かリゼが付いてきた。
「何故、何故に付いて来るのでしょうか?」
「侍従の私がご一緒出来ない場所に行かれるおつもりでしょうか?」
にっこりと笑ってこちらを見て来るが、その瞳には暗に娼館にでも行くんですか?みたいな眼差しが感じられる。
笑顔は武器などと某アイドル漫画で言っていた記憶はあるが、もはや凶器では無いだろうかと最近思い始めている。
「い、いやー、武器の練習をしようかなと」
「訓練所は先程の道を右に曲がりますよ?」
早くリゼから離れようと足早に歩き過ぎたせいか、歩く道を間違えていたらしい。
慌てて思いついた適当な言い訳を紡ぐ。
「ちょっと、外の魔物で訓練を……」
「流石に外の魔物は激減しているのでおやめ下さい」
「……」
選択肢がもう残っていないんですけど。
某RPG並みにいいえを選択しても同じ結果に辿り着く恐怖。
種泥棒離脱の際には何度いいえを押したことか。
思考が逸れるし、なんかもう諦めた。
「……城下町でオススメある?」
悩むのはもういやだ。
もう全部パスだ。
スキップ連打してやるよ。
★☆★☆★☆★☆★☆
「ご存知かも知れませんが、此方がギルドです」
そうして案内されたのは妙にデカデカとしたギルドだった。
一体どれほどのお金が注ぎ込まれているのか考えるのも頭が痛くなるほど無駄に豪華に作られており、絢爛たる意匠も施されていて明らかに利便性を無視した造りとなっている。
神の身許ということで威光を示す為に造られているのかも知れないが、実用性重視になりやすい冒険者はちゃんと利用しに来るのだろうか。
「建物の中は実用性重視ですよ」
どことなくギルドの利用状況について心配していると、勝手に表情を読んだリゼが補足を入れて来る。
そんなものかと考えつつもギルドに入ろうとすると制止させられた。
何事かとリゼの方を見ると小さな声で耳打ちされた。
「(使徒様だと露見すると大騒ぎになりますので、依頼は私が取って参ります)」
そう言うや否や足早にギルドへと入っていった。
侍従姿でギルドへと入って行くリゼを見て思う。
(ギルドに来るまでバレることはおろか、少し先を歩いていたリゼしか視認されているような気しかしなかったんですけどね!)
そんなことを思いながら待ち惚けをすることになった。
待つこと5分、リゼは紙を手にしながら戻ってきた。
あまり待たせてはいけないと思ったのか服に少し皺が入っていたが、一瞬で元に戻す様はある意味侍従のプロとも言える。
「此方で如何でしょう?」
そうして手渡された依頼書の見出しを見て眉を顰めて依頼書を返した。
別に難しいと言うわけでも無いがそう顰めざるおえなかった。
〈捜索対象:子犬探し〉
「此方でしたらでー……城下町の案内も可能ですし同士討ちのオーガですね」
慌てて誤魔化しながらこの依頼の有用性を示すリゼ。
同士討ちのオーガって一石二鳥と同じ意味合いなのだろうか。
つーかデートって言いかけてなかったか。
休養日だというのに、休日に子供のお守りをさせられる父親の気持ちが少しわかった気がする。
「それで子犬の特徴は?」
いろいろ質問したいことはすっ飛ばして本題に入る。
リゼも一応任された仕事と分かっているのか、真面目に仕事内容を語りだした。
「……全身の毛の色がピンクなのが特徴で、大きさは5、6歳の子供くらいと書かれています」
むしろどうやって迷子にさせたのか逆に依頼主に問い質したい。
そもそも全身ピンクで1m級の犬とか見失いようも無い気がするのだが。
つーか子犬ってレベルの大きさじゃ無い気もするのだが。
「補足で書いてあるのですが、出来るだけ傷付けず保護して欲しいそうです」
ああ、これってそういう系の依頼か。
遠藤は空を仰ぎ見て溜息を零した。
★☆★☆★☆★☆★☆
「だいたい町案内は見終わったけど、犬の姿はどこにも無いぞ?」
「変ですね。行方不明になったのは昨日の昼頃みたいなので、まだ近くにいると思われるのですが」
町案内をしてもらいながら探しに出かけたのだが一向に見かけない。
一応街行く人にも話しかけたりしたのだが見かけていないそうだ。
何でもほとんどの人が使徒を見に駐屯地へ向かったかららしい。
そのミーハーな気持ちは凄く分かるのだけど、目の前にそのお目当の使徒がいるのだから気付いてもいいと思うんだ。
どうせ影は薄いかも知れないけどさ。
「ここまで見つからないとなると迷子じゃないかもな」
「仰る通りですね。誘拐の線も考えられます」
あと探していないのは
チラリとリゼの表情を見たが凄く険しいものになっていた。
なにせ仮にも期待された神の使徒でもあるのだ。
いくら強いといってもまだヒヨッコ、魔物を相手にいくら無双しても人と戦うのとはわけが違うとリゼは考えていた。
遠藤からしても以前の強さなら全く問題ないのだが、今の強さで行くとなると少し厳しいものがあると考えていた。
それに更に問題なのが子犬を攫った連中だ。
目的なんてのは知らないが、仮にも1mも大きさがある子犬を白昼堂々と周りに気付かれずに攫うというのはかなりな強さが必要だ。
もしそれが一人や二人なら何の障害でもないが、組織規模となると頭が痛くなるし依頼としても変えなければならない。
最も攫われたなどと言う証拠もなければ、ただの迷子という可能性も捨てられていない。
「スラム街で探すだけならある程度強さもあるので、一度探しにいって見ませんか?」
遠藤は折衷案ということでそう提案した。
それで何の痕跡も見つからなければ依頼失敗で終了。
もし見つけてしまったらその時考えようといった感じだ。
リゼはその言葉の意味と表情を読んで、表層では困った人ですねというような表情をしたが内心苦い顔を浮かべていた。
流石にこうなるのは想定外で、この捜索依頼自体もすぐに終わりそうだからとギルドの受付順番を飛ばして選んできたのだ。
例え見つからなくても街中で聞き込みをしていけば、大体の足取りを掴めると思っていた。
その後に昨日できなかった苦無の練習でも誘おうかと思っていたのに……。
久しぶりに予定が狂って少しイライラするリゼ。
「仕方がないですね。ですが、流石に
「リゼが選んできた依頼を、どうして俺が責任取るんだ……」
不満げにそんなことを口にしているが、最終的にはある程度なら責任はとるだろう。
それが遠藤浩介という人間だ。
そんなこんなで店で買ったサーモンサンドらしきものを食べながら廃れた家々が並ぶ
Q.剣の話って原作と矛盾しない?
A.魔王から剣を貰って嬉々として語っていた様子があったので良いかなと。
ついでに皇帝が邪推したのも新しい黒刀ということにした。
書いた後で気がついたなんて思ってないです。
個人的にマガジンで連載していた某アイドル漫画とても好きです。
神席がほんとよくてボロ泣きした。