過去のアビスゲート卿から   作:旅人アクア

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Flag.14 <初めてのおつかい:中編>

 再開発地域(スラム街)

 

 それはどの街にも存在すると言っていい区画。

 

 掃き溜めのような負犬共が群がり、掃き溜めのような残飯を貪る。

 

 明日壊れるやも知れぬ家々を有り難がり、そこらに落ちている布や板で雨風凌げる崩壊寸前の家畜小屋を作り出す。

 

 されど確かにそれは遥かにマシのようで、家すらなき浮浪者共は雨に打たれ、そして時折雨を焦がれる。

 

 安全な場所というものは存在せず、道端の石ころよりも軽い命。

 

 日々誰かから何かを奪い、そして誰かから何かを奪われていく。

 

 そこに善悪という生温い精神論なんてものは存在せず、ただ強きものが全てを奪い弱きものが全てを奪われる弱肉強食の境地。

 

 腐りきった場所で一分一秒でも生きながらえようと抗いながら、生涯の生きとし時間を削りとっていく。

 

 その区域でしか生存できない彼らは確かに憐れではあるのだが、それ以上に目先の利益しか見えない間抜けでもある。

 

 奇跡を祈ることしかしない癖に奇跡がやってくるのを待っている。

 

 奇跡は祈るものではなく、もぎ取るものだということを彼らは知らないのだ。

 

 知っているものはいち早くその場から抜け出し、残されたものの嫉妬を受けることになるだろう。

 

 簡単な話、落ちる奴はいつまでたっても這い上がれないし、立ち上がれる奴は努力をして這い上がっている。

 

 

 だがそんなクズと称すべき者たちにも、奇跡という蜘蛛の糸を垂らす純粋な善人が現れなかったわけではない。

 

 無垢で純粋で頭が花畑な善人たちは『彼らは不運なだけなんだ』と本気で信じ込んでいた。

 

 本当に不運なだけならさっさと這い出てくるはずではあるのだが。

 

 それでも僅かながら救われたりする他力本願な奴らもいたりするのだが、大体のクズはそのまま寄生し甘い蜜を吸い続ける。

 

 何せ働かなくても与えてくれるというのだ、動く理由などない。

 

 目先の利益にしかとらわれない馬鹿共は明日を知らない。

 

 善人たちは搾り取られてからようやく気づき始める。

 

 彼らが相手にしていたのは人間ではなく、人間の形をしているだけの“ケダモノ”なのだということに。

 

 

 余談ではあるが猿の破壊実験というものをご存知だろうか。

 

 まず、ボタンを押すとバナナが出る仕組みの機械を設置しておく。

 

 最初のうちはバナナが出るので押すが、ある日押してもバナナが出ないように設定するとボタンを押さなくなり興味を失う。

 

 しかし出なくなるのをランダムにすると猿はボタンを連打するようになり、やがて出ない設定にしても延々とボタンを押し続けるようになるとか。

 

 パチンコ依存症も同じ原理らしい。

 

 この実験に動物愛護団体が文句を言うのなら、まず人間の被害者たちを無償で保護してやって欲しい。

 

 

 話が本題からかなりずれたが、要するに浮浪者共は人の形をしてした“ケダモノ”だと言うことである。

 

 

「おい、あそこに場違いなネーちゃんがいるぞ」

 

「顔もスタイルも悪くねぇ、頂こうぜ」

 

 

 下卑た声が路地裏の先、崩れた家々に座る浮浪者共が囁く。

 

 だが彼らは“ケダモノ”であるが故に危険を察知するアラートを持っている。

 

 

「いや、おい、待て。あの服どこかで見たことあるぞ」

 

「たしか国に仕えてる奴らが着る服じゃなかったか?」

 

 

 少しばかり智があるものが足りない頭を使って囁き抑制する。

 

 だが“ケダモノ”であるが故に目先の獲物に飛びつかんとする。

 

 

「つってもどーせ女だろ。袋叩きにしちゃえばいいんだよ」

 

「はっはっは。ちげーねー」

 

 

 瞳孔を開く浮浪者達は目の前の餌に耐えきれずそう先決した。

 

 もう少し悩んでしっかり考えれば分かったかもしれない。

 

 第一に、“普通”の人はこんな所に足を踏み入れないと言うこと。

 

 第二に、“彼女”は戦闘ができると言うこと。

 

 第三に、嫌悪しそうな女性が“一人”でくるだろうかと言うこと。

 

 

「やめておいた方がいいぞ。中身はただのガチレズだから」

 

「何ビビってんだよ。あんな女も手出し出来ねーようじゃおしめーだろうがよ」

 

「むしろガチレズの方がいいじゃねぇか。いい感じで喘ぐかも知んねーだろ」

 

 

 相手の会話にごく自然に混ざっても総スルーなのが遠藤クオリティ。

 

 

「聴こえてますよ遠藤様」

 

 

 ちゃっかり耳がいいのも侍従クオリティ。

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

 そうして一方的な蹂躙は始まった。

 

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 遠藤は血だまりと化した道を前に溜息を吐いた。

 

 現在、遺体は証拠抹消のため絶賛火葬中である。

 

 

「だから注意したんだけどなー。あいつら聞く耳持たない上に俺すら視認できないとか……こっちが凹むわ」

 

 

 念の為認識されにくいように動いたのだが、一本道の裏路地で隠形すら使ってないのに全く気が付かれることなく後ろに回り込むことが出来た……出来てしまったことに哀しくなる。

 

 推測だけど、おそらく地球に戻ってからも幾度となく使いこなしていたせいかスキルがなくてもそれっぽい擬似が出来ているみたいだ。

 

 例えば魔王は射撃のスキルとかは全くないにも関わらず、精密射撃が得意であったり、弾丸を弾丸で止めるなどという曲芸染みた動きも出来たりする。

 

 要するにそれと似たようなものだと考えていいだろう。

 

 今の俺は自転車の補助輪を外した状態で、持ち前の影の薄さを使って隠形スキルっぽい動きができるということだ。

 

 ……なんか使える力を自己分析しているだけなはずなのに心がどんどん抉られるような気持ちになるのは気のせいだろうか。

 

 [+暗器術]や[+投擲術]も派生技能は獲得していないのに似たようなことが出来ている時点でおそらく確定じゃないだろうか。

 

 ただ、魔力を運用して行う系統のスキルは無理みたいだ。

 

 恐らく技能自体が魔法陣の役割をこなしているのではないだろうか。

 

 ……ここら辺は最早憶測でしかないし検証しようがないからいいか。

 

 早急に答えを急ぐ必要はないし、その時考えればいいだろう。

 

 

「貴方様、処理が完了致しました」

 

「……ん、あとは地面に埋めておこう」

 

 

 考察をしながら書いておいた魔法陣を起動して土に埋める。

 

 だが、やはりというか魔力をある程度取られてしまう。

 

 個人的には書いている途中で失敗したなーと思ってはいたが、すでに描き始めていたので止めるのも恥ずかしいと仕方なく書き上げた。

 

 これが魔王のアーティファクトであるなら即行だし高威力だし低燃費で済む。

 

 魔王のアーティファクトは便利すぎて慣れた後が怖いと思っていたが、それを今まさに痛感していた。

 

 

「……貴方様?如何なさいましたか?」

 

「いや、なんでもない。さっさと探しに行こう」

 

 

 今更悔いたところで手に入るわけではないし、うん、諦めよう。

 

 今後はできるだけ一箇所にまとめてからしよう。

 

 先ほどみたいに大雑把に放置した状態だと非常に手間がかかる。

 

 ちなみに敢えて見せつけているのは、国に仕えていそうな二人組がスラム街に入ったという情報を走らせて不用意な戦闘を出来うる限り避けるためであり、出来る限り命を奪わずにする為である。

 

 そのお陰か二度目の戦闘以降近寄るものはいなくなった。

 

 

 そうしてスラム街に入って子犬の捜索をしてから40分後、如何にもスラム街のトップに君臨していますというような風貌の輩が現れた。

 

 

「ワレ、ナニこの忙しいタイミングで人の島荒らしよるんや。宮仕えならさっさと城に帰ってお利口さんに尻尾でも降ってろ」

 

「荒らしてなんかはいませんよ。一応注意はしましたし先に攻撃しかけてきた人しか始末はしていません」

 

 嘘ではなく本当の事実である。

 

 1戦目は全員だったので全員死亡だったが、2戦目は情報を聞いていて怯えていたのかすぐに降参する人も現れてその人達は始末しないで帰しておいた。

 

 ゴミは処分しても国は構いませんよ?――――などリゼはいい笑顔で言っていたが無用な騒ぎを起こす気はあまりない。

 

 既にかなりな騒ぎを起こしているのではなどと思われているかもしれないが、入る時点でこうなるのは既定路線だった為増えてはいない。

 

 裏方に何度か侵入したから分かるのだが、許されないラインさえ超えなければ大概のことは大丈夫である。

 

 

「あ゛あ゛あ゛ん?」

 

(大丈夫大丈夫、きっとここも同じだって信じてる)

 

 

 内心冷や汗だくだくであったが侍従によって鍛えられたポーカーフェイスにより焦った顔を見せずに済んだ。

 

 個人的にはさっさと回れ右をしたい所存、しかし隣を見れば勝手に逃げようとした日には色々待っているような目をしている。

 

 

「貴方にだって引けない時はあるでしょう?」

 

 

 なんでこんな事をしているんだろうという思いが脳裏を駆け巡る。

 

 そもそもただの(全身ピンクで大型の)子犬の捜索ではなかったか。

 

 依頼を破棄した方が軽かったのではないだろうか。

 

 どうせリゼのギルド成績に傷が付くだけ……うんこっちの方がマシかもしれない。

 

 更に下の状況があったかも知れないなどと考えると気持ちが一瞬で平常心へ戻る。

 

 そんな睨み合いの平行線の中、スラム街のボスが顎でクイッとある家を指した。

 

 

(入れという事だろうか。え?わざわざ敵陣地に潜り込むのか?え?マジで言ってるの?……ええい!男はどきょ……やっぱもうちょっと待って)

 

 

 心を落ち着かせていると何故か率先してリゼが向かい出した。

 

 気を使ってか罠がないか調べる為の尖兵として先に入っていっているのかも知れないがちょっと待って欲しい。

 

 心配していたのは順番ではなくて入るか入らないかなんだよ。

 

 平然そうに入っていく様子を見ながらぼけっとする訳にはいかない。

 

 

(畜生!乗りかかった船だ!これ以上は男が廃れる)

 

 

 もう十分廃れている気もしないでもないがまだ大丈夫。

 

 いつだってヒーローは遅れてやってくるものという言葉もあるくらいだ。

 

 

 そんなこんなで案内されて入っていた二人とスラム街のボスと思わしき人物。

 

 だがこれと言って心配していた罠というものはなく、むしろスラム街のボスと思わしき人物が着席した途端大きなため息を吐いていた。

 

 

「テメェらの言い分は分かるんだが、もうちっと抑えてくれ。こっちの面目も保てねぇだろぉが」

 

 

 そう言ってまた深いため息をついていた。

 

 その疲れは重役につかされているのにボーナスすら出ず、こき使われているような社員の顔だった。

 

 二人が戸惑っている中対面に座っているスラム街のボスらしき人物が話し出す。

 

「本来はボス案件なのに今はいねぇしよ。今日くらいは任されてもいいかなどと思っていたが、なんでこの日に限ってテメェらみてぇーな輩が来るんだよ。副なんてジャンケンで負けただけだぞ畜生め」

 

 その……ドンマイ。




理論上、魔力操作を一度覚えた連中なら似たようなことは出来ます。
ただ魔力を外に出す媒体が必要なので結局耐え得る肉体が必要だったりしますが。
例えば魔王のスキルを初期化しても精密な操作はできませんが魔力自体は操作でき、訓練さえ積めばなんとかなります。
ですが魔王の肉体も元に戻すと使用できなくなります。
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