過去のアビスゲート卿から   作:旅人アクア

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Flag.1 <異世界召喚>

「はぁー、……あの出来事は夢だったのか?」

 

「影の薄い浩介がいきなり目立ったもんだから、いったい何事かと思ったぜ」

 

「健太郎ぉ〜……」

 

 

 頭をガシガシ掻きながら思わず呟いてしまった言葉に、親友の野村健太郎(のむらけんたろう)はからかうように言って話しかけて来た。

 

 先程の授業中にどうやら居眠りしていたらしい自分は、盛大にビクッと反射して立ち上がり、周りをキョロキョロしてしまうという失態を犯してしまった。

 

 この生理現象を医学的にはジャーキング、またはヒプニック・ジャークと呼んでいるらしい。

 

 そんな医学知識を思い出しながら、今日一日は確実にからかわれるであろうゴシップネタに少し遠い目をする。

 

 しかも更に問題なのが、畑山愛子(はたけやまあいこ)先生が行う社会科の授業中に寝てしまったと言うことだ。

 

 少なくとも、愛ちゃん隊のメンバー(秘密裏にファンクラブが結成されてるらしい)には少しの間は白い目で見られること間違いなしだろう。

 

 ついこの間なんて、コンビニで完全に反応しなくなった自動ドアを見て嘆いている所を見られたというのに、……この世界はあんまりではないだろうか。

 

 ……ん?つい昨日、三回に一回は反応したような気がするのだが……。

 

 

 

 まぁ寝落ち自体に関しては常習犯がいるせいか、そこまで咎められることもなく軽い口頭注意で終わった。

 

 そのことについては、少しばかり彼に感謝しなければならないだろう。

 そう考えて、チラリと彼の姿を見やる。

 

 彼は南雲ハジメ(なぐもはじめ)、常日頃から睡眠不足なのか徹夜しているのか、いつもフラフラになりながら始業チャイムが鳴るギリギリに登校しては、授業中のほとんどの時間を睡眠時間として使っている。

 

 今もお昼休憩だと分かって起きたのか、鞄から10秒チャージを取り出して、ものの3秒もかけず飲み干していた。

 

 10秒チャージを取り出そうとする時間も極端に短かく、無駄に洗練された無駄の無い無駄な探り方は、ある種修練の賜物といえようか。

 

 そんな情けない彼は、夢の中では恋人の為に神を倒し、世界の救世主“魔王”として君臨していた。

 

 

「……南雲がどうかしたのか?」

 

 

 永山重吾(ながやまじゅうご)が自分の視線を追ってか、そう聞いてきた。

 

 それに対してどう応えたものかと迷っていると南雲が白崎香織(しらさきかおり)と遭遇していた。

 

 良かったら一緒に弁当をどうかな?と彼女らしいハキハキした声がクラス中に通る。

 

 

「夢の中でも相変わらずな、鈍感っぷりでも発揮してたのか?」

 

 

 いつも通り嫌そうに眉をひそめて南雲を見る健太郎。

 

 それもそうだろう。

 

 クラス中のほとんどの人が南雲に対して敵愾心を持っている。

 

 それは平凡な容姿のくせして、どうしてアイドルが如き人と親しくなれるのだ!などという嫉妬心(一部の人はそうかも知れないが)からではない。

 

 これだけ好意のアピールをしているのにも関わらず、全く気が付かずにアクションを取らない事に対して苛立ちを覚えているのだ。

 

 今も彼の食生活が気になった風を装って“2個目”の弁当を差し出そうとしている。

 

 それを理解せずに受け取ろうとしない南雲に対して、誰が怒りを抱くな等という戯言を吐けようか。

 

 白崎さんに助けられた人は数多くいるのだ。

 

 

「……いや、むしろ囲ってたよ」

 

「「……は?」」

 

 

 記憶を思い出してポツリと出た台詞に二人とも思考を硬直させる。

 

 そうなるのが普通の反応だよな、と思いつつ苦笑した。

 

 そうして南雲の周りに天之河光輝(あまのがわこうき)八重樫雫(やえがししずく)坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)が集まってくる。

 

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだまだ寝足りないみたいだしさ。香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるとか俺が許さないよ?」

 

 

 爽やかに微笑みを浮かべながら、歯が浮きそうな台詞を吐く光輝にキョトンとする香織。

 

 

「え?どうして光輝くんの許しがいるの?」

 

 

 その発言に雫が口を手に当てて、お腹をくの字に曲げる。

 

 まぁ確かに許しを得る必要があるのかと言うと疑問な所だ。

 

 勿論そういう意味で言った訳ではないだろうが。

 

 

(白崎さんに好かれなければ、……もう少しマシだったんだろうなぁ)

 

 

 などと思っていると突然、光輝の足元に白銀に光り輝く魔方陣が現れた。

 

 その異常事態に直ぐに周りのクラスメイトは気がついたものの、突然の出来事に魔法陣に目を奪われたまま金縛りにでもあったかのように硬直した。

 

 ただし遠藤だけはこの事態に素早く理解した。

 

 

(自分の記憶を疑いたかったけど……、やっぱり俺は過去に戻っていたんだな)

 

 

 頭痛を抑えるように手を当てて大きくため息をつく。

 

 徐々に輝きを増していった魔法陣【異世界召喚陣】は、一気に教室全体を満たすほどの大きさに変わった。

 

 自分の足元にまで異常が迫ってきたことでようやく硬直が解けたのか、有象無象の悲鳴をあげるクラスメイト。

 

 

「皆!教室から出て!」

 

 

 生徒との談笑を楽しむ為に教室に残っていた愛子先生が咄嗟に叫ぶも、それと同時に魔法陣の輝きが爆発したかのようにカッと光った。

 

 

 

 

 ――――そして、誰もいなくなった。




敵愾心について独自解釈をぶち込んだ。
ぶっちゃけ幾ら不真面目で平凡な容姿だからと言って殺意はないと思う。
なので鈍感に対して切れてる事にした。
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