過去のアビスゲート卿から   作:旅人アクア

21 / 23
Flag.20 <甘さという鎖>

 時は少し遡り、光輝が貴族専用の仮牢屋に連れていかれた時まで遡る。

 

 

 

 光輝は茫然自失といった状態で先へ先へと歩みを促されていた。

 

 彼の歩みを促しているのは両隣にいる二人の衛兵達だ。

 

 先程メルド団長に急いでことの報告をしようとし過ぎたあまり、使徒達全員が集まっているにも関わらずアランの訃報を伝えてしまった。

 

 その罰として、本来ただの木っ端な伝達役にも関わらず光輝の監視任務を受けている。

 

 最も失態の度合いから考えると罰としてはかなり温情なものなので文句はないみたいだが、やはり宗教上の神たる(しもべ)を牢屋へ連れて行くのはかなり心苦しそうである。

 

 そもそも【ハイリヒ王国】は聖教教会本山の麓に位置している。

 

 日本で敢えて例えて言うならば、仏壇の前で孫を逮捕し連れて行く感じだろうか。

 

 従順な信徒であればあるほど実はかなり厳しい罰という、宗教国家ならではの罰である。

 

 因みにメルド団長は使徒の御前ということを踏まえての措置なので、思惑通り一部の生徒以外はかなり温情な措置だと認識している。

 

 光輝は歩みを止めることなく文句も言わずに仮牢屋の扉の前までは来たが、入るのを躊躇っているのか扉の前で動かなくなった。

 

 

「すみませんが、……やはり見逃してくれませんか?」

 

 

 突如茫然自失の状態から立ち直って、光輝は唇を噛み締めながら言った。

 

 実はメルド団長の行いを裏切りだと感じている自分と仕方がないことだと感じている自分がせめぎ合っていたのだが、扉を前にして一旦保留(現実を無視)という形をとっていた。

 

 だが、そんなことを言われても困るのは二人の衛兵達の方である。

 

 自身の減給くらいならば全く構わないのだが、メルド団長の話を聞く限り放って置けば王国騎士団団員アランの為に仇討ちに行くらしい。

 

 使徒様は確かにお強いが、まだ一週間しか修行が出来ていない子供に毛が生えたようなものである。

 

 そんな使徒様をまざまざ死地に送らせる真似ができようか。

 

 なので『逃亡対策リスト(光輝専用)』の策一つ目を講じることにする。

 

 

「すみません、私にも家族が居るのです」

 

「すみません、私にも養わなければならない兄弟がいるのです」

 

 

 悲痛そうな面持ちでそう答える。

 

 温情作戦である。

 

 もちろんだがバレる可能性があるので嘘は言っていない、ただ妄想を膨らまさせるだけだ。

 

 その言葉で光輝が一瞬硬直したのを確認した衛兵達はすぐさま扉を開けて光輝をかなり豪華な仮牢屋へ押し込む。

 

 そして急いで扉を閉じて魔法で鍵を施錠する。

 

 ドンドン扉を叩く音が聞こえるが、緊急時を除いて無視していいというのが()()()()で定められている。

 

 仮牢屋の声はこちらへ聞こえるが、逆は聞こえないという素晴らしい仕様であるが緊急ボタンを押すとどちらも意思疎通はできる。

 

 実はこの仮牢屋は使徒が来るまではある者の専用軟禁場であった。

 

 貴族専用の仮牢屋と名目上ではそう謳ってはいるが、その者のために作られたと言っても過言ではない。

 

 今では初恋の人に為に自ら勉学に励んで稽古にも精をだして、おうh……母親も泣いて喜んでいるとか。

 

 そのまま頑張って頂きたい所存であると、頻繁に捜索に駆り出される衛兵達一同は切に願っていおります。

 

 隣の監視部屋に入った衛兵達は、つい最近の過去を遠い記憶のように思い馳せながら、何処に隠れていたのが見つけにくくキツかったという苦労話に花を咲かせているとノックが入る。

 

 因みにワースト10辺りで光輝は一度大人しくなった。

 

 

「はい! どなたですか!?」

 

「私だ」

 

(メルド団長!?!?)

 

「今開けます!!」

 

 

 急いで衛兵達が監視部屋の扉を開けると、苦虫を噛み潰したような表情をしたメルド団長が仁王立ちで立っていた。

 

 怒鳴りつける一歩手前といった感じで、衛兵達は四の五の言い訳をいう前に慌てて謝罪する。

 

 

「「すみませんでしたぁ!!」」

 



「な・に・が・だ?」

 

 



 眉間にこれでもかと皺を寄せて、青筋を立てながらピクピク眉が動いている。


 

 選択肢を間違えれば更に怒られるパターンだと、衛兵の一人が代表して急いで答える。

 


 その回答には隣の衛兵もコクコクと頷いた。

 

 



「使徒様達の前で不用意な発言をしたことです!!」

 



「それもあるが……今は違うだろがッ!!」



 

 

 メルド団長が声を荒げたことによって更にビクッとする衛兵達。

 

 真っ青な顔をしながらも頑張って背筋を無理矢理伸ばしているが、脚がガタガタ震えていた。


 

 その子羊みたいな挙動に頭が痛いとでもいうかのように眉間の皺を解しつつ、大きな溜息を吐いた。

 そして出来るだけ声の調子を落とし抑えながら話した。



 

 

「〝虚偽の拒絶〟というアーティファクトが扉の横に設置されてあるのだが、知らなかったのか?」



 

 

 扉の横に備え付けられている赤い物体を指で指し示すが、何も知りませんといった感じで何度も首を縦にふる衛兵達に一度言葉を失うが、メルド団長はしっかりと効果の説明をしだした。



 

 

「……このアーティファクトはな、対象が虚偽の報告を行うと〝アラーム〟という音が鳴り出す仕組みだ。ただし本人が黙秘を続けていたり、嘘を嘘だと認識していなければ反応しないがな。……これは兵士ならば誰でも知っていると聞いていたが……」

 

 

 ここで一区切りし二人の衛兵の顔を見る。

 

 

「……これは衛兵全員に再教育が必要みたいだな」

 

 

 この台詞に二人の衛兵達はドバッと嫌な汗が溢れ出る。

 

 このままだと遠くないうちにサンドバックの練習台になってしまう。

 

 必死に言い訳を考えているとメルド団長は又してもため息を吐いた。

 

 今日一日で何度ため息をつかなければならないのだろうか。

 

 

「馬鹿なのかお前達は……。使徒を守護している最中に再教育できるわけがないだろうが」

 

 

 頭を掻きながら衛兵達の馬鹿さ加減に呆れ果てているが、いい加減本題に入らないと終わりそうにないので無理矢理話題を捩じ込む。

 

 

「このまま話しているとお前達の説教だけで一夜が終わりそうだから、一旦全てを忘れて後回しにさせてもらう。さて、なぜ私がここへ来たかという理由だが……入れ」

 

「失礼します」

 

 

 メルド団長が手をパンパン叩くと()()()()()()()()()()()亜人族の奴隷が監視部屋に入って来た。

 

 その光景に衛兵達はあんぐりと口を大きく開けて固まってしまった。

 

 亜人族自体は【ハイリヒ王国】ではかなり珍しいものであることは間違いないがいない訳ではない。

 

 いくら神の御許といえどもそういう人たちがいない訳ではないし、必要な場合もあるので証明さえしていれば目を瞑ってもらえる。

 

 だがしかし、奴隷制度を余り快く思っていないあのメルド団長が、亜人族の奴隷を連れて来たことに驚きを隠せていなかった。

 

 

「これからこの奴隷を連れて仮牢屋に入るが、他言無用だ。バレたら首が物理的に飛ぶから肝に命じておけ」

 

 

 驚きようのあまりコクコク頷くことも出来ず、先程の光輝と同じようにただ呆然と見ていた。

 

 

 

「メルドだ。入るぞ」

 

 簡単にノックをした後返事を待つことなく中へと押し入った。

 

 メルドと言われ睨もうと立ち上がった光輝だが、隣に何故か亜人族と呼ばれる少女がいた。

 

 白に近い色を灰色の髪を持っており、頭には髪の分け目から猫耳みたいなものが生えていた。

 

 身体も服装も貧相かつ喉に首輪も付けられていて、いかにも奴隷といった様子に光輝は無性に腹が立って来た。

 

 奴隷制度というものを紛いなりにも勉強はしたが、未だに納得できていない光輝にとってあまりにもこの状況は印象が悪すぎた。

 

 キッと光輝はメルド団長を睨みつけるがそよ風のように微動だにしない。

 

 

「人質だ」

 

 

 何をいっているんだ、何故この少女が人質になるんだと目を点にする。

 

 だが奴隷少女の次の動きに光輝は有無を言わさず察してしまった。

 

 わなわな手が震え、握りすぎた拳から血は垂れ流れ、頭は煮沸しそうになるほど怒りに燃えていたが動けなかった。

 

 否、動くことなど光輝は光輝たる故にできなかった。

 

 それは光輝を押しとどめる最終手段にして最強の切り札。

 

 

「この部屋から出ようものなら、この奴隷には自ら命を絶ってもらう」

 

 

 それは自殺だ。

 

 奴隷少女の手には鋭利な刃物が一本。

 

 それは決して光輝に向けるために持っているのではなく、自らの命に向けられるために持たされたもの。

 

 光輝の拳から血が出ているのを悲痛そうに見つめるその瞳は光輝をさらに縛り付ける鎖となる。

 

 

「何故だ……」

 

 

 光輝は自分に返ってくるダメージすら厭わず思い切り壁を殴り付ける。

 

 

「どうして……、一体どうしてここまでするんだ!!!」

 

 

 パラパラと壁の材質が少しだけ崩れ落ちるが、仮にもここは国が認めた牢屋なのでいくら使徒の力といえど壊せるほど柔くはない。

 

 睨みつける光輝の目を真っ直ぐ返しながらメルド団長は答える。

 

 

 

「それはお前が使徒だからであり――」

 

 

 普通の人ならば壁を壊すことですら困難だろう。

 

 普通の使徒でさえ今の段階では壁を壊すことはほぼ無理だろう。

 

 上級魔法ですら意図も簡単に壊すことは余りにも難しい。

 

 

「――聖剣に認められているからだ」

 

 

 

 だが光輝は〝勇者〟で聖剣に認められた彼ならば、この仮牢屋を壊すことなぞいとも容易く出来るだろう。

 

 例え聖剣を取り上げたとしても聖剣の名を呼べば手に剣がやってくる。

 

 きっと扉をどんどんしている途中で光輝も気がついたのだろう、その抜け道を。

 

 だからこそ彼は途中から暴れることなくじっと待っていた。

 

 メルド団長もその抜け道に気がつくだろうと凡そ見当がついていた。

 

 だからこそ、嫌われると分かり覚悟しながらも奴隷を連れて来て人質として彼の部屋の角で立たせることにしていた。

 

 

「奴隷、命令だ。

 1.光輝が近づいて来たら自殺しろ

 2.光輝がこの部屋から出ようしたら自殺しろ

 3.明け方までずっと光輝を見張っていろ

 お前の生死に関わらず命令を遂行したならば、報酬として母親を探し出し解放してやる。神に誓おう」

 

 

 彼女はコクリと頷いてじっと彼を見つめ出した。

 

 メルド団長は忘れていたと追加命令を出す。

 

 

「ただの脅しでは無いと分かるように首皮一筋切っておけ。その方がきっとお前も死ぬことはない。後で傷跡残さないように手当てしよう」

 

「分かりました」

 

 

 ツーッっと奴隷少女の首筋から赤い血が流れ落ちる。

 

 ポタポタと豪華な絨毯に赤いシミが作られていく。

 

 メルド団長が仮牢屋から去ろうとした時、後ろから声がかかった。

 

「メルド団長……!! あんた……見損なったぞ!!」

 

「なんとでも言え。私は人類を、お前達の命を守らなければならないんだ」




Q.メルド団長苛烈すぎませんか?
A.この状況に陥ったら実行してくれると信じてる。

Q.アビスは?
A.予想外に光輝視点が長引いた。
2000文字で終わる予定だったんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。