過去のアビスゲート卿から   作:旅人アクア

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Flag.21 <アビスゲート卿 vs 盗賊 前編>

 時は戻って遠藤vs盗賊との戦いに戻る。

 

 否、アビスゲート卿の戦いが幕を開ける。

 

 

 

「レディース&ジェントルマン! 深淵卿の舞踏会へようこそ――」

 

 頭をだらんと下げていたかと思えば突如くわっと顔を上げてそう言い放った、遠藤もといアビスゲート卿。

 

 いきなり戦っていた相手の雰囲気がまるっと変わり、思考を停止させる盗賊と魔物たち。

 

 そんな戦うべき相手が混乱しているのを良いことに、何度かサングラスをクイッと上げながらターンを決める。

 

 格好良くターンを決めれたのだが、ターンのキレとスピードが僅かに落ちていることに少し哀しそうな表情をする遠藤。

 

 先ほど壁に勢いよく衝突したせいで、やや運動機能が落ちていると気が付いていないようである。

 

 

「はっ、ただの虚仮威しだ。いけっ!」

 

 

 香ばしくダンスをしている最中に、思考停止から立ち直った盗賊は魔物たちへ指示を下した。

 

 背中から四本の触手をはやした体長六十センチ程の黒猫と、先ほど倒した魔物と同じキメラが目にも止まらぬ速さで襲い掛かる。

 

 香ばしいポーズを取りながらどこか悩んでいる遠藤は、一切の回避行動をとらず黒猫の触手攻撃をそのまま受けて胸を貫かれた。

 

 間断なくキメラも空間の揺らぎだけを残してそのまま噛みつく。

 

 胸を貫かれ噛みつかれ項垂れている遠藤をみて、長年やってきた冒険者としての勘が焦燥感を募らせる。

 

 しかし、その一方で目の前の現実は冒険者としての勘を否定していた。

 

 ポツリと現実を確認するかのように盗賊は呟く。

 

 

「やったのか……?」

 

「それはフラグ()だ」

 

 

 その呟きの解答は突如、盗賊の後ろの方からやってきた。

 

 咄嗟に振り向こうとした盗賊だが、視界がコマ送りのように飛んでいった。

 

 

「なっ、ぐふっぅぅ」

 

「――深淵流暗殺体術・脚撃之型 飛燕煉脚(深淵の鳥は三度蘇る)

 

 

 三つの激しい衝撃と痛みに襲われて身体全体がくの字の状態に曲がりながら、そのままの勢いで壁に激突した。

 

 パラパラと壁の材質が周囲へ飛び散り、壁はその衝撃で抉れていた。

 

 蹴った張本人は相手がどうなったかを見ることなく、身体の機能を確認していく。

 

 

「ふむ、継戦能力に問題はないな」

 

 

 全く調整する必要がない靴だというのに、つま先を地面にトントンしながら一人勝手に頷く。

 

 そんな様子を見た魔物たちは、仮とはいえ自分の主人がやられたということに間違いはなく、主人に仇なす輩を排除せんと憤慨しながら地を駆けた。

 

 

「ふっ、威勢のいい奴らだ。観客(ギャラリー)がいないのが少々残念だが……まぁいいだろう。真の深淵の力を刮目せよ!」

 

 

 黒猫の触手攻撃に対して自分の身体を二重三重にぶれさせることで難なく回避しつつ、踊るように攻撃を躱して時折ダンスのようにクロスを入れる。

 

 

「まだまだだな! 姿形無き深淵を捉えたるには全く力が足りていない!」

 

 

 ふっと言いながら幾度も見事に避け続ける遠藤。

 

 空間の揺らぎには関してはいち早く反応し、煙を使ってその場から離脱した。

 

 離脱する瞬間、遠藤は三日月のごとく笑みを浮かべていた。

 

 それとほぼ同時刻に盗賊の意識が覚醒する。

 

 先ほど壁にぶっ飛ばされていた盗賊は、三半規管も一緒に揺らされていたのか、くらくらになりながらもなんとか凹んだ壁から這い出る。

 

 

「っくっそ、……奴はどこだ!」

 

 

 視界の揺れを頭を強引に振ることで徐々に直しながら辺りを見回したのだが、奴の姿がどこにもない。

 

 喰らったというならば理解出来るが、魔物たちは依然として臨戦態勢を解いていない。

 

 きょろきょろと見回していると、唐突に()()()()声が降ってきた。

 

 

「やはり静寂な闇夜は素敵だ。お前はそう思わないか?」

 

 

 盗賊が空を見上げるとそこには先ほどまで戦っていた奴が、上半身を軽く仰け反りながら片手にはサングラスを添えて立っていた。

 

 魔力を行使してならば大道芸や演劇で見たことはあったが、奴の周りには魔力痕のようなものが一切見当たらない。

 

 本来あるべきものがないという理解を超えた現象(超常現象)に盗賊は本能的に慄く。

 

 ……実は演出の為だけに残り少ない苦無を使用して、見えにくいワイヤーを張ってその上に立っているだけだったりする。

 

 いついかなる時でも全力で演出するのがアビスクオリティである。

 

 

「どうやって空に立っていやがる……」

 

「ふっ。重力などという軛に自由を奪われるほど、深淵は甘くはない」

 

「重力……?」

 

 

 そこからか、と思わずずっこけそうになる身体を起こしつつ、気を取り直して一度サングラスに手を添える。

 

 大事なピースが欠けているが、状況があまりにも似ているのでやらせて頂こうと、ゆるりと一回転し、全ての夜を抱かんとばかりに両手を大きく広げる。

 

 そしてあの夜告げた言葉(うた)をもう一度と言わんばかりに語り出す。

 

 

「俺は満月よりも三日月の方が好きだ。夜の帳を振り払うほどではなく、しかしながらもこの素晴らしき暗闇に繊細な彩りを残す。僅かな弧を描く三日月は、まるで神が微笑んでいるように見えないか? ……残念ながら今は月の影すら見えないが」

 

 

 そう、実は身体の不調以上に悩んでいたのが、月の女神が隠れていることであった。

 

 凄く不満そうな顔をしながらも、魔王みたいに月を造ることはできないので仕方くこの状況に甘んじた。

 

 雲にお隠れになっているとかならば力技で引きずりだすために、様々な技を使って雲を取っ払っていたのに、などと考えているのは実に狂気である。

 

 そんな風に考えていることなど露知らず、盗賊は「神」という言葉に過敏に反応した。

 

 取り残されたカンテラの細々とし光で映し出されている遠藤の姿はどこか神秘的であったにも関わらず、反吐が出るとでも言わんばかりに地面に唾を吐き捨てる。

 

 

「神なんざいねぇよ、クソが。神がいるならソイツは冷酷で残忍で自分勝手に行動するような、とんだ悪人な奴だ」

 

 

 あまりにもドストレートで的を射た言葉に、内心かなり驚く遠藤。

 

 全く持ってその通りな悪人が、今現在この世界の宗教神になって崇められているとは誰が考えようか。

 

 今でこそ、人間族に利があるように語っているが、最終魔人族の魔王として人類を滅ぼそうなどとしているとは誰も思いつくまい。

 

 真理を見出した貴重な人ではあるが、力を振るう意味を見失ってしまった彼を()()()()生かしてはおけない。

 

 ゆるりとワイヤーの上だと思えないほど器用に回転しながら小太刀の持ち手を後ろへ回し、上半身を軽く仰け反りながらもう片方の手で盗賊に指差す。

 

「例え何があろうとも罪無き人々に手をかけた時点で、そんな言葉は荒唐無稽な戯言へと成り下がる。力は己の意思をもって振るわねばならない。今のお前の剣には何が籠っている?」

 

 憮然たる面持ちと悲壮たる気持ちを胸に、サングラス越しに盗賊の()()()濁らせた瞳を見つめる。

 

 己が生きるためというならば、仕方がないだろう。

 

 己が守るためというならば、それもまた仕方がないだろう。

 

 その時はまたこちらの想いを通さばと力を振るうだけだ。

 

 だが、今の盗賊の剣には怨嗟の想いしか籠らせていない。

 

 神に裏切られたという憤りで他の感情を塗りつぶし、力の欲望に溺れよう潜り混んでいる。

 

 そもそも違和感があった。

 

 なぜ彼は強い人を探していたといった?

 

 なぜ王宮前で目立つ争いをした?

 

 なぜ王国騎士団団員アランを王宮近くに捨て置いた?

 

 彼は分かった上で泥に沈み、わざと()()()()()()()()()()

 

 

「……弱いのが悪いのさ。弱い奴は毟り取られるだけだ」

 

 

 微かに剣先を震わせて不安定だった心が揺れ動いたが、それでも盗賊の想いは変わらない、変えてはならない。

 

 快楽に酔わなければならない。

 

 傾きかける気持ちを神への想いで塗り潰して、今持っている武力を確認して血で染め上げた手を再度思い出す。

 

 

「……それがお前の答え(意思)か。……ならば深淵の冷たくて優しい(かいな)に抱かれるが良い」

 

 

 なおも変わらぬ想いに、唇を噛みそうな気持ちが募って行く。

 

 冷たくて大きい石が胃の中に詰め込まれていくような感覚を味わうが、迷いなどはなく小太刀も震えない。

 

 誰が発端かを分かっていても、最早立ち止まることはできなくなった。

 

 今まで結果を噛み締めて前に進むしかない。

 

 遠藤の視線と盗賊の視線は交差する。

 

 終焉というのは誰にとっても分りやすく、そして目に見えるような形で終わらなければハッピーエンドとは言えない。

 

 ああ、なんて世界はままならないのだろうか。

 

 この寂寥感はこれからの遠藤にとって大事な軛となる。

 

 

「(知るべきことではない事があるとは誰が言ったか。……俺だな)」

 

 

 遠藤は吐く気持ちを無理矢理飲み込んで小太刀へのせる。

 

 盗賊もまた震えることなく剣先をこちらへ向ける。

 

 

「――疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート。いざ、参る」

 

「――その力、試させてもらう」

 

 

 想いは交わることなく交差する。

 

 知る故に程遠く、知る故に離れていく。

 

 戦場は激化する。

 

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 メルド団長は早くいかんと地を駆けていた。

 

 

 一度めの伝令を受けて即座に王宮へと駿馬で向かっていったのだが、フードを被った者から強襲を受け、馬という足を外されてしまった。

 

 待ち伏せからの襲撃に相手の戦闘能力を高く見積もって、迎撃態勢へと移ったのだが、これが最初の間違いであった。

 

 フードを被った者は初めからまともな戦闘などする気はなく、遅延戦闘に徹頭徹尾務めていた。

 

 更に恐ろしいのが、バレないように的確に馬を追い立てつつも王宮騎士団相手に遅滞戦闘を行う技術と戦力で、もし一人であったならばと想定すると背筋が凍るような気持ちに掻き立てられる。

 

 選択ミスは、多大な時間を浪費させる結果となった。

 

 しかしながらも嘆く事などせずに、殲滅態勢へと直ぐ様移行させたのは見事な冷静さであった。

 

 ただ惜しむらくは地の利のない人物が()()()()()()()()()()を推測出来なかったかであろうか。

 

 迎撃態勢から切り替わって素早く敵を追い詰めたと思ったら、目の前で幻覚のように姿と気配が消え去った。

 

 教科書通り警戒態勢を取ろうと動きかけるが遅延戦闘が目的だったことを思い出し、してやられたという気持ちに襲われる。

 

 だが後悔する時間などもなく足もいなくなった為、走って向かうこととなった。

 

 

 その道すがら二度めの伝令を受けた。

 

 それは『王宮前で使徒様らしき人物が交戦している』という情報だった。

 

 うすうす嫌な予感はしていた。

 

 何故だか食堂で報告を受けた時から胸騒ぎが止まなかったのだ。

 

 だからこそ、あの臆病共が考えた方法を使ってまで戦場に出ないよう隔離を行った。

 

 それなのに結果はこれだ。

 

 何か込み上げそうな気持ちになるも必死に抑えて飲み込む。

 

 ……いやまて、伝令では使()()()()()()()と言っていた。

 

 仮に光輝達だとするならば認知度は高いはずで、分りやすく『光輝』もしくは『使徒』だと断定するのではないだろうか。

 

 そもそも光輝達ならば『使徒達』と()()()だと分かるように伝えるのではないだろうか。

 

 では一体誰が交戦しているというのか。

 

 

 ふと昨日の【魔物との実戦訓練】が記憶から蘇る。

 

 光輝や雫も目立っていたが、それ以上に目立っていた人物がいた。

 

 名は【遠藤浩介(えんどうこうすけ)

 

 捕獲した魔物を見て気絶する姿はどこか痛々しく、戦いを知らない彼らにこれから戦争というものを教えていかなければならないのかと、良心の呵責に苛まれた。

 

 だがそれでも、せめてどんな事があろうとも、自分自身の身体をどのような環境でも守れるようしてやらなければ、などとそんな風に気持ちを切り替えた。

 

 

 そして始まった【魔物との実戦訓練】

 

 先の気絶を踏まえて、治癒師などの回復魔法を扱う生徒達には訓練と称して魔物達を少しだけ回復させた。

 

 それでも生徒達は弱々しい魔物達に恐怖し、覚束ない様子で戦う彼らを見て見ぬふりをする。

 

 時にはあまりの恐怖に怯えて詠唱すら出来ない子もいた。

 

 やはりもう少し時期を見た方が良いのではと、国に上申する内容をすら考えていた。

 

 そんな時に始まったのが遠藤浩介の実戦訓練だ。

 

 

 凄まじい。

 

 遠藤浩介の実戦訓練の様子は一言に尽きる。

 

 王国騎士剣術を習って一週間そこらの拙い動きではなく、精鋭には全く及んでいないが、少なくとも中級と呼んでいいような技術力を身につけていた。

 

 更には一瞬だが、派生技能を行使していたような気配を感じた。

 

 どう考えても一週間で身についていい代物では無いにも関わらずだ。

 

 極め付けは魔物に攻撃する際に一切躊躇いがなかったことだ。

 

 最初の攻撃は躊躇って剣の腹でしたように見せていたが、動きから察するに当たる直前で力技でむりやり手を捻っていた。

 

 行動のみを見れば躊躇っているかのように感じるが、かけらも悩むことなく突撃してしまい、慌てて倒しそうになったのを止めたと言った感じだ。

 

 他の大体の生徒達はまぐれとか運が良かっただけと囃し立てていたが、王国騎士団からしたら異常としか言い表せれなかった。

 

 故になんとか冷静を装いながら、初魔物討伐という建前で休日を作って会議を行っていた。

 

 そして今日の夕食、また新たに舞い込んできたのが訃報というわけだ。

 

 

「(リゼですら止められない相手なのかっ)」

 

 

 リゼは普通の専属侍従で通らせているが、実は国家間の密偵としても重宝されている情報や戦闘の専門家だ。

 

 性格にやや難ありと言伝で聴いてるが、そんなもの簡単に目を瞑れるほど唯一無二の優秀な存在なのだ。

 

 そのリゼに事前に頼んでおいたというのに遠藤浩介は普通に戦場にいるのか。

 

 

「(何に於いても全てが足りなさすぎる!!)」

 

 歯噛みしながら王宮前へと足早に向かった。




難産でした。
描くたびに盗賊の気持ちが変わるという摩訶不思議な事態に遭いまして。

Q.盗賊の気持ちは?
A.良い感情も悪い感情もごちゃ混ぜになっています。
勿論最初はただの命令でしたし作業のように殺そうとしました。
ただ、圧倒的武力をもってスラム街の住人を初めて殺めた時、今まで眠っていた鬱憤が嘘のように晴れだした、という感じです。
そのままわざと歯止めを外し、圧倒的力に酔いしれるようにしたという感じです。

最後に盗賊を擁護しようという考えで書いたわけではありません。
むしろ勝手に死んでろとしか思っていません。
都合上、語らなければならないので語っているという感じですね。
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