後半一部ノリに乗ったせいでまだまだ続きます。
こんなはずじゃなかった。
「あ、ありえん……」
それがようやく王宮前に辿り着いたメルド団長の言葉だった。
他の王国騎士団団員達も同じような思いなのか、否定することはなく開いてしまった口を塞ぐことが出来ていない。
それも仕方がないことだろう。
彼等はトータスの住民であり、地球の価値観なんてものは知る由もない。
そして王国騎士団所属ゆえに、効率重視というごく一般的な当たり前の常識を持っている。
そんな普通な彼等が、あの動きを見て混乱しない訳がなかった。
何せ魔力痕を残さずして空を翔び交う能力があるというのにも関わらず、時々あまりにも無意味なターンを繰り広げたり、地球でよく見られる(見られない)ジョジョ立ちのようなポーズをとるのだから。
オタクな魔王を、追いかけていたあの二人なら行動を理解できたかもしれないが、少なくともこの王国騎士団団員達にはなんらかの儀式や呪術をやっているように見えたことだろう。
突如聞こてきた黒装束の高笑いに大の大人がビクッとしているのが良い証拠だ。
そして黒装束は様々な訓練や討伐を送ってきた王国騎士団でさえ、見たことがない魔物達と戦っていた。
空間の揺らぎしか見せずに素早く飛ぶ得体の知れないナニか、背中に4本の触手を生やした猫のような魔物、そのどちらも知っている魔物の特性に似てはいたがこれ程なまでに強くはなかった。
敵対している人間もいたのだが、彼等の視界に入ることはほとんどなかった。
それほどなまでに黒装束の使徒と奇怪な魔物の戦闘は、頭のおかしい動きと強さをしていたのだ。
どちらが頭がおかしく、どちらが強いのかは言うまでもないが。
★☆★☆★☆★☆★☆
猫の触手攻撃を躱し、空間の揺らぎを察知し、時折ピンポイントに入れてくる盗賊の攻撃をなんとか避ける。
踊る時間はあれども攻撃に転じるには絶妙に足りていない。
例え踊ることなく攻撃に移ったとしても、攻撃を受けているのはおそらく俺だろう。
何故かいつの間にかできるようになっていた[+夢幻]と[+顕幻]を駆使しながら、時折[+幻踏]で攻撃を紙一重に躱し続ける。
凄く余裕そうな表情を保っているが、事も無げな表情の裏では千日手のような状況に焦燥感を募らせていた。
なにせ未だに隔絶的なまでにレベルが足りていない上に、最初の攻撃の余波を受けた影響がいまなお残っている。
そもそも一発でもまともに攻撃を受けたら再起不能になりかねない動きをしているゆえに、精神的疲労が過剰な速度で溜まっていく。
躱すことが困難な攻撃は出来るだけいなして躱しているのだが、やはり受けきれそうにないほど強い。
オワタゲーを生身で冷静に行えているだけ100点満点だと内心諸手を挙げて賞賛していた。
「ふっ……!」
猫の触手と相対しながら視界の端で見えた空間の揺らぎから急いでバックステップで離れる。
瞬間、頬に攻撃の余波がかすめてひやりと汗をかく。
更に問題なのが、魔物達が俺のスピードに徐々に適応していることだろう。
迷宮の時ほどの賢さではないが、幾度か背筋を冷やりとさせる攻撃を何度も放ち出し始めている。
深淵化の影響で体力面的な問題はどうにかなっているが、このままだとジリ貧になる一方で、いずれ俺の動きに完全に対応しきったキメラが攻撃を仕掛けてくるに違いない。
何よりの欠点だが、現状切れる手札が何一つ残っていない。
勝ち筋が全くないというのはかなりキツイ。
いや、勝つことを諦める訳ではないが、切り返す手札が欲しい。
それだけで――
転がるカンテラのみが照らすこの暗闇の中、全方位に意識を傾けていたことで敵よりも先に見つけることができた。
たった一瞬だけだが王国騎士団がこちらを見て止まっている。
その情報がある一点の可能性を導き出す。
チャンスはたった一度きり。
それは諸刃の剣というには余りにも分が悪く、死ぬかほんの少し有利になれるかというものでしかない。
「……ふっ、フハハハハハハハハ!」
いきなり高笑いを始めたことに戸惑う盗賊と魔物達と王国騎士団達。
ちょっとなぜお前らも引き気味になるというツッコミを堪える。
「久しぶりの修羅場というものはこうでなくてはな!」
わざと高く笑ったことにより一度溜まっていた緊張感を吐き出す。
これより死地へと参ろう。
「(なぁ、ちょっとあいつヤベェんじゃね?)」
盗賊よ!
そんな憐れむような目で呟かないで!
魔物もコクコク分かったかのように頷かないで!
ちょっぴり卿から本心が出た瞬間であった。
★☆★☆★☆★☆★☆
高所で佇むフードを被った人影。
高所ゆえかフードが風ではためき続けて、余りにもうざかったのかうざったそうにフードを外す。
それは人間族の戦争相手であり、忌むべき神敵である魔人族の女性、カトレアであった。
視線の先には黒装束の使徒とカトレアが差し向けた盗賊が戦いを繰り広げていた。
「召喚時にはレベル1だって話だったのに、これ程なまでに早いスピードで強くなるとはねぇ。それとも元々強かった?」
そんな独り言を呟きながら風で靡く髪をかきあげる。
情報収集のために時々街へ訪れていたカトレアは、大して強くなるはずがない基礎訓練ばかり行っていたことを知っていた。
あんな剣術は基礎中の基礎で、部下にすら劣ると舐めきっていた。
上手くいけばこのまま盗賊が勝ってしまうかもな、と今晩の晩酌の量を心配をしていた程であった。
だが蓋を開けてみればどうだろう。
善戦も善戦、レベル差的に無理なはずなキメラ一体を屠り、盗賊とキメラと触手猫を相手に負けず劣らずの戦いをしている。
魔物といえば……とチラリと隣にいるキメラに視線を投げるカトレア。
そのカトレアの視線を受けて、コテンと首をかしげる様に体全体を傾ける。
愛着心が湧きそうになる気持ちを抑える為かゴホンとわざとらしい咳をする。
「そう言えばこの魔物達には名前がないのよねぇ。闘っている最中に名前が無いというのは
ただ独り言を呟いてるだけなのに一部言葉を強調する。
実は魔人族ではペットを飼うという習慣が無い。
戦争中ということもあって作らないという事もあるのだが、そもそもペットを作ろうにも野生の動物には必死の形相で逃げられてしまって作るという場面まで持っていけていない。
故に今までペットという習慣はなく、魔物の使役も単なる武器の手段として使っていた。
そんなところに革命のように現れたのが、魔物を強化するという神代魔法を獲得したフリードである。
最初のうちは今までと同じ様に武器として使っていたのだが、知性を獲得した魔物は魔人族に懐くような動きを見せ始めた。
初めは困惑していた魔人族達であったが、徐々に使い魔は浸透しだして、最終的には人間族でいうペットブームが起こった。
そのしわ寄せが一番やって来たのがフリードである。
フリードも愛着をもって自分の魔物を世話していたが、神代魔法を使おうとするとなるとフリードしかいなくなる。
最初のうちは自分と同じような趣味の人が増えると冷静そうな顔をしながら、裏では満面の笑みを浮かべていたのだが、ペットブームが巻き起こるとそうもいかない。
神代魔法を探すのに真っ先に立候補した理由はそれではないかとーー
閑話休題
いまはペットブームが起こる前であるが、発端はこの名前を付けようというカトレアの何気ない一言のせいである。
フリードの首を真綿で締める事になる名前の議題をどうあげようかと考えながら遠藤をじっくり確認するカトレア。
傍目からは見れば、ただ躱しているだけのように見えるその動きに感嘆の声を漏らす。
「あれはこっちに欲しいね」
アレをただ躱しているだけと、そのまま早計に受け取る奴は馬鹿に違いない。
躱す技量もかなり必要であるしそれも十二分に長けているが、何より素晴らしいのは躱せる隙間を作り出すことである。
楽な方へ楽な方へと避けていれば、とっくに連携で詰んでいる。
要所要所で自分を俯瞰しながら、敵の攻撃を誘導しつつ避けれる道を作り上げている。
更にステータスの差というどうしようもない問題を前にして、一発でももろに喰らえば終わると分かっているのに、躱し切って躱し切って攻撃のチャンスを伺っている。
諦めない心が尚良い、敵ながら素直に賞賛せざるおえないとカトレアはあの使徒にそう結論を下した。
「にしても攻撃を躱しながら途中で無意味に何度か回っているが、あれは何かの策か? いやそれともチュウニビョウという奴か?」
実はカトレア、調査中に一度だけ使徒と接触していた。
勿論、調査中は人間族にバレないように色々化けて、細心の注意を払いながら調査を行なっていた。
調査内容は遠目からどのような訓練をしているかという確認で、盗賊からではなく自分の目で確認したいと思ってカトレアは王都に訪れていた。
なので対象には全く近付く予定はなく、むしろ見られないように行動をしていたつもりだった。
粗方使徒の訓練を群衆に紛れながら拝見して、止まったり歩いたりしながら考察を頭の中でまとめつつ適当に道を歩いていると、運悪くチンピラとで出遇わせてしまった。
何かしら下品な言葉と視線を投げかけられていた気がするが、潜入中は大体そんなもので気にも留めていなかった。
その事が癪に触ったのかチンピラ共は脳足りんで詰め寄ってくる。
ああ、事後処理が大変だなーとカトレアは面倒くさそうにしていると突如こちらへ走ってくる音が聞こえた。
一瞬衛兵かと眉を顰めそうになりながら視線を向けると小柄な少年がいた。
160cm位だろうか、童顔な様子から14歳くらいであろうか。
チンピラ共や自分より背の低い少年何を血迷ったか割り込んで来た。
「あの〜。相手も嫌がっているみたいですし、勘弁してあげてもらえませんか?」
困ったように八の字になった眉と、口元で浮かぶ苦笑いがやたら様になっている様子からかなりの苦労人にといった感じが伺える。
魔法を教えてくれた先生もよくこんな表情をしていたなと場違いな感想を抱く。
それ程なまでに興味はないのだ。
「あぁ!? なんだてめぇ、関係ない奴は引っ込んでろ! ぶっ殺すぞ」
「あぁ、いや、まぁ、確かに関係ないですけど……で、でもですね。流石にお互いが合意の上の方でやられた方が、後の差し支えがないかなぁ〜と思うと言いますか……」
しどろもどろになりながら困った表情でペコペコ下げる少年。
なんとなくイライラしてきたカトレア。
場の空気を読まないようなのらりくらりな態度に苛立つチンピラ共。
「じゃぁ、てめぇが代わりをよこせよ」
「それは無理っす」
それはもう真っ正直に返している少年に呆れそうになりながら、どうしたものかとカトレアは迷う。
そもそも返事を適当に返して殺しておけばよかったと、最終的には殺すという物騒な考え方をしていると、チンピラ共は少年の前に詰め寄って啖呵を切る。
それでもなお青褪めながら退こうとしない少年。
その様子に街行く人達が徐々に野次馬のように群がり出す。
人間族の性根の腐った根性に辟易していると少年は何故か挑発しだした。
「どうか、ご勘弁を。でないと、僕にも考えがありますよ?」
「ハッ、やんのか? いいぜ、かかってこい――」
実は魔法がちゃんと使えるのだろうか。
なんて、そんなことを考えているカトレアの目の前で、度肝を抜かれる光景を目にする事になった。
「まっことにぃ! 申し訳ぇ、ございませんでしたぁーーーー!!!」
チンピラ共の言葉を遮って物凄い声量の謝罪が城下町に響き渡る。
――それはもう見事に華麗な土下座が繰り広げられた。
土下座のスペシャリストと言っていいくらいの綺麗な土下座だ。
体が砂や泥がつくことを全く躊躇せず、見ず知らずの他人の為に、自らの頭を下げる稀代の
「んなっ」
「は?」
思わずカトレアも思ったままの言葉が溢れる。
その『は?』という言葉は何故に出て来たのだろうか。
魔人族の為に人間族が?という思いだろうか、見ず知らずの他人の為に人間族が?という思いだろうか、一度もそんな事をする奴がいなかったのにという思いだろうか。
言葉をなくして土下座をかます
半殺しにはしてやろうと構えていたチンピラ共も、あまりに見事な土下座に二、三歩退いていた。
集まって来ていた野次馬も何事かと集まり出し、光景を見てドン引きしている。
そんなことはお構いなく、というか見えてないのかトータス全域に響けと言わんばかりに叫び出す。
「まぁこぉとにぃ !まっことにぃ! 申し訳ぇございませんでした! いくら、彼女がぁ、旦那を亡くして茫然になってしまった結果ぁっ、貴方様の言葉を無視してしまったのだちしてもぉ! それはぁ、貴方様の言う通りぃ、決して許されない所業ですぅうう! まさにぃ、エヒト様をも恐れぬ悪行ですぅううう!!」
「え、あぁ、いやぁ、お、おう」
チンピラも狼狽える。
カトレアもかなり狼狽える。
勝手に人の旦那を殺さないでいただきたい。
それでもなおエヒト様に届けと言わんばかりに謝罪の言葉は止まらない。
「本来ならぁ!貴方様のおっしゃる通り、彼女の命や私の命どころか、家族親戚田中の命を以って誠意を見せるべきところ!」
「い、いや、そこまでは言って――」
いや待てタナカは別に悪くないだろうとカトレアは心の中で突っ込む。
チンピラ共は公衆面前の視線に耐えきれず慌てて口を挟もうとするが少年の言葉という刃は追撃から逃げることを許さない。
「しかぁし! しかぁし――」
がそれ以上に、旦那の馴れ初めの捏造に耐えきれないカトレアは、少年を抱えると小道へ消えた。
その後、少年と笑顔の
流石に何をする気も失せていたカトレアはそのまま返した。
独自設定を語り出したら止まらなくなったから閑話休題で無理矢理切った。
後半も長引きそうなのでユザパした。
野生の動物には危険察知能力が備わってるので魔人族のような高魔力を持っていると逃げ出します。
ハジメ?ユエ?ペット飼ってないし問題ない!
魔人族という属性の問題にしておく!
Q.通報したのか?
A.通報したところで聞いてくれると思いますか?