今日はクラスメイトにとって初めての訓練である。
と言っても魔物と戦うのではなく、支給された武器の使い方や身の守り方、戦闘の際の心構えなどを習うのが目的だ。
午前は武器の使い方などを学ぶ実技時間、午後は魔法陣の作成方法などを学ぶ座学時間となっている。
貴方は知っているでしょうけど――――とリゼは皮肉げに時間割を紹介してきた。
ちなみに敬語を辞めないのは、誰かに見られた場合に備えてらしい。
前回のリゼは途中から明らかにタメ語だった気がするのだが、女心なんて理解しようとするだけ無駄と妹で分かっているので追求はしない。
偶にくる筋肉痛に顔を強張らせながら朝食へと向かった。
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訓練開始の鐘は未だだったが多勢のクラスメイトが、思い思いにグループに別れて待っていた。
これからの訓練に期待と緊張で眠れなかった人もいるみたいだ。
勇者パーティーは前の方で待機していたが、光輝と雫はもらった剣を握りながらどこかぎこちなく試し振りをしている。
二人とも習っていたのが剣道であるから、西洋剣っぽいの武器に感覚が合わないのだろう。
それでも徐々に調整しながら武器を正しく振っていい音を奏でさせるのは天才たる由縁か。
少し羨ましいと思うが無いものをねだっても仕方がないので、重吾や健太郎と共に武器の振り方を考える。
重吾の天職は重格闘家、健太郎は土術師だ。
実際に武器を振る機会なんてほとんどないし、実際に余り無かったが、覚えておいて損は無いという考え方だ。
そうこうしているとメルド団長がやってきて訓練開始の鐘がなった。
「今からハイリヒ王国の騎士剣術を覚えていく。とは言っても無手や魔術師からしたら何の意味があるんだと思う者も居るだろう。実際、ある程度の基礎が出来たら天職に合わせた訓練に変わる。では何故覚えるか、それは武器を扱う者と対峙した時の対処法や魔力が無くても身を守る術を覚える為だ」
そこでメルド団長は生徒達をしっかりと見ていった。
実際、武器を持つ者と対峙するとき、人はどうしても萎縮する。
いくら上位世界の人間といっても、戦いと無縁だった人達の足が竦まないはずはない。
その萎縮が仇となったり、味方の足を引っ張ったりする。
それらを避ける為に剣の基礎技術を学ぶのだ。
「自分の身を守る為だからしっかり覚えてくれ。それではまず剣の素振りから始める」
こうして生徒全員が一定の間隔を空けて整列し、剣を降り始めた。
理にかなっているし個人的にも賛成なこの訓練だが遠藤は顔を顰めずにはいられなかった。
何せ前回で一度はしっかり覚えた騎士剣術だ、暇な事この上ない。
正しく振れるなら稽古の意味もあるのだが、そうすると何故初めて剣を握って初めてこの地に訪れたというのに、どうして正しく騎士剣術を使えるのかという事になる。
更に光輝や雫よりも早く修めると今度はクラスメイトから嫌疑がかけられる。
仮に未来のことを説明するにしても今では無いはずだ。
わざと初心者が間違えやすい振り方をしつつ、全体の空気に混ざりながら午前の訓練を終えた。
昼食を取りに訓練施設を出ると専属侍従達が待っていた。
まず影の薄さ的に見つけてもらうのは無理だろうな、と自虐して更に自分の言葉でダメージを負いながらリゼを探していると後ろから声がかかる。
「そちらではありませんよ、遠藤様」
そこには遠藤にしか見えないように呆れ顔をしながら近付くリゼがいた。
待ち合わせで先に見つけてもらったことのない(ラナやエミリーは除く)遠藤は地味に感激し、心で涙した。
「何故嬉しそうなのか理解に及びませんが……、昼餉を摂られたあと何かご予定はありますか?」
「いや、今日は特に予定は無いけど」
「畏まりました」
そう言って遠藤の一歩後ろに控えるリゼ。
何かやらかしたか?と思いながら昼食を取りに向かった。
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「どうして訓練で手を抜いていたんです?」
昼食を摂ったあと自室へ戻るとリゼにそう詰問された。
因みに昼食を摂ったあと一時間くらいは休憩が出来るので今はその時間である。
「どうして訓練のこと知ってるんだ?」
「偶々通りがかったときにお見えしたからです。はぁぁ、素人のように振る舞うのは構いませんが、どこの初心者が騎士剣術の間違えやすい動きを全て網羅しているんです? 貴方様は頭が足りないのですか?」
うっ、それは確かにそうだ。
間違えよう間違えようと考えていたがそれは流石にまずい。
自分の頭の具合が心配になっていると更に言葉が続く。
「それに逆に下級騎士団員でも間違えるような動きに関してはどうして間違えないのですか。思わず目を疑いましたよ。一応そのことに気がついているのは私だけみたいなので問題はありませんが……」
遠藤は更に凹んだ。
斥候の役割をしたり偵察や諜報活動をしている自分が、そんな初歩的なミスを犯していたという事実に哀しくなる。
最後の言葉で自分の影の薄さで問題なかったのかとそれはそれで哀しくなる一方でとある疑問を抱いた。
「にしても騎士団員やあのメルド団長すら気が付かなかったのに、どうしてリゼは気がつけたんだ?」
「これでも貴方様の
それは実力じゃなくて元からです。
訓練の賜物でもなんでもありませんし、戦いとは無縁の時から使えます。
なんてことを思っていると、話題に上がった派生技能[+捕捉]であることを思い出した。
(最初から[+気配遮断]を使えば良かったんじゃ)
ステータスプレートを弾いて落胆する遠藤であった。
午後の訓練へと向かう為に外に出ると、丁度南雲も自室から出たところだった。
南雲は遠藤に気がついたのか走り寄ってきた。
「遠藤くんもこれから向かうところ?」
「……っ、ああ。午前の訓練の疲れも引いてきた所だし、そろそろ向かおうかと思ってな」
南雲と
南雲は言おうか言わまいか迷っていたみたいだが口を開いた。
「昨日はありがとう」
「……ん? ああ、別になんてことないよ」
ほとんど忘れていたがステータスプレートの時のことについてだろう。
あの時に出た言葉は無意識に咄嗟に出たものだったから、感謝されても何か違う気分になる。
可哀想だからとか義憤にかられてとかそういうものではない。
本当によく分からないのだ。
そんなことを考えていると南雲は伏し目がちになりながらポツリと呟く。
「遠藤くんは強いね」
果たして南雲はどういう意味で言ったのだろうか。
なんとも言えない空気のまま座学を行う教室の前に辿り着いて、扉の前で遠藤は南雲と別れた。
その後遠藤は重吾達と合流し授業を受けた。
但し授業は受けたがまともに受けるのではなく、[+気配遮断]を使用して小太刀を振り回しながら授業を受けた。
(……少しくらいはおかしな気配に気が付いてくれても……)
この方が強くなる為に便利なのだと言い聞かせる。
例え近くを歩かれても全く気づかずに通り過ぎていく教鞭をとってる人を見て、目の端に光るものが溢れたりはしていない、断じて。
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授業が終わり、夕餉を摂ったあとまたリゼに頼んで外へ出た。
時折聞こえるようにやはり不味い気が……なんていう声が聞こえても気にしない気にしない。
昨日とは違う場所に向かっているとリゼが話しかけてきた。
「何を焦って魔物を狩っているのですか?」
確かにリゼにとっては不思議なのかも知れない。
レベル1でありながら数多の魔物を単独で狩れる技術が持っているのに、その技術を使って目立とうとはせずにむしろ際立てないように動いているのは。
更に目立つ気がないというのに連日連夜魔物を狩って強化しようとしているのは殊更おかしいだろう。
(とりあえずリゼには話してみようか)
そんなことをリゼを見ながら考えてみた。
昨夜、魔物と戦っている最中にあえて習っているはずのない王国の騎士剣術を使っているところを見せたが、騎士団員からは何も言われていないのを見るに黙っていてくれてるようではある。
あとでまとめてバラす気なのかも知れないが、少なくとも今は問題無いはずだ。
最終的にはクラスメイト達にもバラしていく予定なので多少は良いだろう。
そんな言い訳ごとのように考えながら自分が逆行していることを話そうとした。
「それは、――――」
「? どうかされましたか?」
未来のことを話そうと口パクになり言葉が出なかった。
側から見れば金魚が呼吸のために口をパクパクしている物真似にしか見えないかも知れないが、本人はいたって真面目である。
(未来のことが……喋れない?)
それは小さくとも衝撃的な事実だった。
時間の鐘を追加。
というか時計の描写の記憶がないんだけど、どうなんだろう。
あと逆行していることを話せないようにした。
簡単じゃんね、話せたら。