この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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初めまして、ハーメルン初心者です。
のんびり妄想の書き溜めを吐いていくスタイルです。

...このすば三期っていつ放送なのかな?

一月二十三日 サブタイトルを変更しました。


この転生者に女神のチートを!

 キリリ…ッと何かを引く音が聞こえる。

 

 的の先にはジャイアントトードと呼ばれる蛙。

 

 それは大の大人すら容易に丸呑みにできるその巨体は、ドスンドスンと跳ねながら草原を移動していた。

  こちらからはまるで逃げるように背中を向けており、隙は多い。レンズ越しに獲物との距離を微調整し、そして。

 

 

「『狙撃』」

 

 

 彼は小さく息を吐き、矢を放った。

  バシュゥン!と何かが鋭く風を切り、ジャイアントトードに命中し、さらに矢は腹部を貫通して地面に刺さる。

 

「…よし。悪くない」

 遠距離からの自分の弓の技量に、一人小さく喜んだ。

 そして彼は一人静かに、ジャイアントトードの死体()を後にした。

 

 

 ◆◇◆

 

 

  彼は『イレイシア』の冒険者である。

  ジャリジャリと地面の上を歩き、人の流れが激しい大きな建物に入る。

 

  そこは木製で出来た建物からは素朴な木の匂いと、そしてむせ返るような酒の匂いが充満していた。

 

  慣れない最初こそ顔を歪ませたが、この匂いにも慣れてしまえばなんてことはないと彼は思っている。

  そのまま入り口から離れ、受付にいる笑顔の女性に向かう。

 

  そして「おかえりなさい」と丁寧に頭を下げる女性に、一枚のカードを見せた。

 

「いつものジャイアントトードのクエストを終えたから、精算を頼む」

「はい、わかりました」

 

  彼女は笑顔で受け取ったカードを確認する。

  そのカードは特殊な物で、本人の実力を数値化する代物だ。

 

『スキル』と呼ばれる特殊な技能も条件次第では訓練なしに習得をする事が出来る。

  熟練度は別だが。

 

  さらにカードには倒した怪物の数も記載されるのだ。故に『モンスターを○体狩ってほしい』という依頼などは虚偽の報告は出来ない。

本当にうまく出来ていると彼は思っている。

 

  そしてしっかり確認し、頷いて彼に麻袋を手渡す。

 

「はい、お疲れ様です。く……『ファントム』さん、それでは依頼金の十万エリスです。ご確認ください」

 

  名前を呼ぶ際に一瞬別の何かを言いだしそうだったが、彼は気にしない。

じゃりじゃりと音の鳴る麻袋の中身を確認する。

 

「確かに」

 

  確認を終えて、すぐ別の依頼を受けようと掲示板の方へ歩いて行こうとするが。

 

「あの!ファントムさん、一つお願いがあるんですが..……」

 

  すると唐突に彼女、受付嬢に止められた。

  名前はアリンという、他の受付嬢と比べて比較的若く『笑顔が一番!』がキャッチフレーズの彼女だが、珍しくその表情は曇っていた。

 

「何だ?」

「その…お願いといいますか、『依頼』という形式で受けてほしいものがあるんです」

 

「依頼……名指しでモンスターの討伐か?俺よりも適任者がいると思うんだが」

 

  そう言って彼は後ろを振り向く。

 

  昼頃から酒を浴びている、彼と同じ冒険者達だ。

  一人で活動する彼よりも、酒癖が悪くてもその冒険者達の方が適任であると彼は言う。

 

  アリンは首を振る。明るい赤色の髪がフワリと舞い、柑橘の匂いが彼の鼻孔をついた。

 

「いいえ。その……不思議なお話なんですが『てんせーしゃ』と名乗られる方がここに来まして、今相談室にて待機していただいているのですが。冒険者に強い関心があって是非お話を、と」

 

  アリンの説明に、彼は眉をひそめる。

  つまりは、話を聞けばいいらしい。

 

「……それでなんで俺なんだ?尚更俺じゃなくてもいいじゃないか」

「いいえ……適任かと!それに、ファントムさんはかなり博識な方なので。てんせーしゃ?についてご存知かなと」

(博識……?それは違う、ここの冒険者に脳筋が多いだけだろうに)

 

  そんな言葉を飲み込む。変なところで聞き耳をたてられているかもしれない。

 

  あくまでも弓使いである自分には、例え酔っぱらい達でも近接では多勢に無勢と知っている為である。

 

(しかし『てんせーしゃ』だと?そんなの知らないけどな―――?)

  いや、と彼は思い出した。

 

「知り合いから聞いたことあるな。確か『黒髪黒目で

  色々規格外な奴、童顔の傾向もある』って、名のある冒険者に多いとも聞いたような気がする……」

 

  そもそも母数は少ないらしいが、と付け加える。

 

  ちなみにその知り合いも色々規格外なのだが。

  彼女(・・)が言うことには基本下らない嘘はないので、興味はあまりないものの素直に聞いて頭の片隅には置いていたのだ。

 

  ちなみにその知り合いはせっせと成果を挙げて今は国の核である『王都』で冒険者をやっている。今も元気にやっているだろうか。

 

「流石ファントムさんです!」

「……だが、それだけだぞ?それ以上はなんとも。その特殊な奴等の情報に関してはあまり助けにはなれそうもない」

 

 アリンは期待通りだと言わんばかりに目を輝かせて手をとった。しかし彼は呆れたように付け加える。

 

「そ、そうですか……ですがやはり!是非『彼女』の相談者になってくれませんか?」

  アリンは残念と項垂れた後に顔をバッ!と上げた。

 

  急な動きにいつか首を痛めそうである。

 

「なぁアリン、やはり適任は俺じゃないと思うぞ?大きな冒険譚も無く、弓以外に関してはボロボロだしな?近接技と汎用魔法を少し使える程度だ」

「それでも十分です!」

 

  必死そうな彼女の形相からは、一筋の汗が流れていた。

  というより、流石にここまで来ると彼に無理にでも任せようとしている気がする。

 

  それを察した彼は怪訝な表情で、静かに言った。

 

「………本音は?」

「その……冒険者の人は、色々粗雑な方が、多いので…素行や悪い噂を聞かないファントムさんに、お願いしたいんです……」

 

  おずおずとしながらアリンは言った。

  あぁ、と彼は納得した。

 

  彼等は昨日に狩りに行って、朝から彼が帰ってくるまでの間ずっと酒を呑んでいた。

 

  別にそれが悪いわけじゃない。

  個人の時間の使い方は自由だし、彼等は初心者の冒険者が集まる『アクセル』から離れ、この街『イレイシア』で稼げる腕を持つ冒険者なのだから。

 

(まぁ、俺の場合故郷から直でこの街に来たんだが……)

 

  アクセルとイレイシアでは同じモンスターでもスペックがこちらの方が少し上らしい。

  耐久とか精神面とか。

 

―――何故精神面も違うのかは不明だが。

 

  明らかにトドメを刺したのに関わらず。

『俺は、負けない!』的な感じでたまに起き上がってくる事がある。

  アクセルではない事例だそうな。

  そのお陰か冒険者側が悪者に感じる事もたまにある。

 

……まぁ棲み家や命を奪ってる分、悪者に違いはないのだが。

 

 

  閑話休題。

  イレイシアの冒険者ーーー彼等はそれなりの実力を持つ冒険者であり、そして同時に『雑な冒険者』の代表例でもあるのだ。

 

  同年代の冒険者達がいたアクセルの冒険者を『雑魚』呼ばわりする程度には実力を持ち、そして驕っている傾向が強い。

 

  その点でいえば、モンスターより厄介である。

 

  正直、駆け出しの多いアクセルの方が大人しいかもしれないとすら彼は思っていた。

  何故かアクセルには中堅レベルの冒険者も多いらしいが、愛着でもあるのだろうか。原因は不明である。

 

「そういえば彼女って言ったな?ならば同性の女の方が話しやすいんじゃないか?」

「この街、女性の冒険者……ほぼ居ないですよね?」

「……そだな。昔はいたがあれもゴリラだった、すまん忘れてくれ」

 

  イレイシアに女冒険者は少ないのもまた、事実である。

  というか殆どいない。いるにはいるもののマトモな奴というワードを付けると皆無となる。

 

「わかった。そのてんせーしゃとやらも気になるし、話だけなら俺でよければ受けよう」

「っありがとうございます!!」

 

  そう言って彼はアリンの依頼を受けることした。

  好奇心があったのもあるが、何かアリンに申し訳ない気持ちになったからだ。

 

 

 余談だが、そのゴリラが例の王都にいった知り合いである。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

  案内されたドアの前に立ち、アリンはノックをして開けた。

「ヒトミさん?冒険者の方をお連れしましたよ」

 

(ヒトミというのか―――ほぅ?)

 

  ソファに座っていた者は、噂通りの姿だった。

  黒髪黒目、そして、恐らく年より若い童顔なのであろう彼女。

 噂は本当だったのかと彼は内心で思った。

 

「あ!」

 

  ヒトミと呼ばれた彼女は目を輝かせてスクッと立ちあがり、ズカズカと早足で来て彼の手を取った。

 

「貴方が冒険者ですね!?会えて感激です!!」

 

 まるで宝石の山でも見ているかのような、そんな感じ。

 あまりの勢いに、彼は少し引いた。

 

「っあ、あぁ……凄いがっつきだな?」

「はい……朝にギルドに来てからこんな調子でした」

 

  アリンも苦笑する。ヒトミと呼ばれた彼女はブンブンと手を上下に振っていた。

 

「とにかく、まぁ。よろしく」

「はい!私は『アイガサキ ヒトミ』って言います!ヒトミと呼んでください!!」

「そう、か………俺は『ファントム』って呼んでくれ……それでヒトミ。その言っていた『てんせーしゃ』って何なんだ?興味がある」

「『転生者』ですね!分かりましたえぇ説明しますよ!夜が明けるまで!!」

「……今、昼ですよ?」

 

  アリンは窓から外を見て乾いた笑みを浮かべた。

  どうやら彼女は一日ぶっ通す気らしい。彼の気が少し遠くなる。

 

「いや、流石にそこまではいい。だが、話には付き合うよ。君も話したいことがあるんだろう?」

「はい勿論です!三日三晩語り合いましょう!」

 

  延長が入った。

  素性はわからないが彼女の体力は冒険者並みにあるようだ。

 

「で、では。私はお茶を用意してきますね」

「お願いします!」

「逃げるのか………アリン」

 

  こうして、てんせーしゃ...もとい『転生者』である彼女と彼の会話が始まったのである。

 

 ◆◇◆

 

 転生者とは。

 簡単な話、別の世界からやって来た者達である。

 彼等が住んでいた世界から訳あって離れ、生きていた世界とは全く別の世界、つまり彼女の場合は『日本』という世界からこの世界に来たという訳であった。

 

「―――つまりまず、世界はここの一つではないと?」

「はい!神様に会ってお話ししました!」

 

 彼女は背筋よくハキハキと喋る、面接だろうかと勘違いしそうになる程に。

 冒険者が好きなのも含めて受付嬢に向いていそうだと彼は思った。

 

「……ん?待て、神様に会ったと?」

「はい。フリューゲルと名乗ってました!あの人から『チート』を貰ったんです!」

「……悪いが色々付いていけない。待ってくれないか?」

「はい待ちましょう!」

 

 彼は顎に手を置き、脳内で話を整理する。

 

「……つまり信じがたいが、君は世界を移動する際にそのフリューゲル?という『神』に会った。その時に『チート』を………その、なんだ?チートって」

「う~んと、ですね。凄い能力です!」

「アバウトだな。凄い能力って一体―――あぁ、成程な」

 

 彼は腑に落ちた。ヒトミの話はゴリラの彼女と合致する。

 チート、つまり色々規格外とは、そういう神に授けられた能力の総称だと。

 

 最強クラスの武器や魔法、肉体を得てこの世界に来るらしい。

 

 代わりに魔王を倒してほしいと言われるらしい、その代償というか、転生の義務なのだろう。

 

(もはや夢物語だな。全て嘘という可能性も踏んだが、容姿も聞いた話も合致するか……それに、アリンの見る目が間違えているというのも考えにくいしなぁ)

 

 まぁ話を聞くだけだしな、と彼は割り切ることにした。

 しかし、彼は眉を寄せる。

 

「なんというか……ズルいな。神から力を貰って無双か?」

「そういう人も多いらしいですね、この世界にも転生者は一人や二人ではないので」

「そんないるのか……もはや妬ましいな」

 

 目の前で申し訳なさそうにする該当者がいるが、彼はやはり素直に妬ましいという感想を抱く。

 

 その話が本当なら自分の努力に泥を塗られる気分だった。

 まぁだからと言って何かするわけでもない。

 むしろそれ程までの力を持つのなら返り討ちに逢うのがオチだろう。

 

―――真正面ならば。

 

「ファントムさん?」

「……ん?すまない。それで、君は何を貰ったのか聞いても良いのか?」

「はい、私は『コレ』です!」

 

 そう言って、彼女はポケットからあるものを取り出す。

 小型なのか、と少し驚いている彼は更に驚く羽目になった。

 

 

 

  カードの束だった。

 

 

 

  なんというか、色んな絵札がついている、紙のカードの束である。

  ポカンとして、彼はそれに指をさす。

 

「………何だそれは?」

「『トランプ』です!」

「トランプ?」

 

  即答された。

  見慣れない、明らかに薄っぺらいカードだが凄い効果があるのだろうか。

 

「それは、凄いのか?」

「はい!私トランプが大好きで、よく小さい子と遊んでいたんです!」

「………遊んでいた?」

 

  まず遊戯の類いという点に、彼は首をかしげる。

 

「これは『超凄いトランプ』なんです!凄いでしょう!」

 

  えっへんと、それなりな双丘を張る彼女を見て。

 

「そう、だな」

 

―――彼は、とても反応に困った。

 一旦思考が止まる。

 

(……つまり聞く話では最高位の武器や能力を選べる中、彼女は遊び道具を選んだと?)

 

「質問だが、何が凄いんだ?」

「具体的にはなんとも。ただ女神様が『カタログに無くてもなんでもいい』と仰ったので迷わず即決しました!」

 

(カタログ?本なのか?そんな物件みたいなノリで選ぶのかそのチートとやらはっ)

 

「それで、凄さについて何かわかったのか?」

「はい、全く傷んだりしないんですよコレ!?防水性にも期待できます!」

 

(―――何の話だ?家庭用品の話か?) 

 

「ヒトミは、何か武器とか能力とかを得ようとしなかったんだな?」

「はい!トランプ一筋です!!」

 

(………成程、わかった。馬鹿だなコイツ)

 

  彼は内心で呟いた。

 

 それもそうだろう。

 神から得られる力と言われて、遊戯の類いを貰ったのだから。

 

 そんなに好きなら一から自身で作れば良い。

 量産はさておき、そこまで難しくはなさそうだ。

 

(しかし、まぁ……選ぶのは本人だからな)

 

  何より目の前にいるのは他人である。それも話を聞く限り一般人だ。

  冒険者でもない一般人なのだから、まぁ神様とやらの約束は反故にして魔王を倒す気が無いのだろうと彼は思った。

 

「それで私、冒険者になって魔王を倒したいと思うんです!だから冒険者の方に色々聞こうと―――」

「嘘だろ!?」

「えぇ!?」

 

  思わず彼は叫んだ。相談室に野太い声が響く。

 

「馬鹿か、馬鹿なのかヒトミは!?お前っ……いやだってそれはカードだよな?ただの紙だよな?」

「ただの紙じゃありません。防水に耐久に優れてしかも再生紙の様な手触りなんですよ!?自然を考慮されたまさしく神の代物です!」

「『神』じゃなくて『紙』だ!ちょっと凄い紙だ!武器にもならないだろ、どう使うんだそれ!」

 

 冒険者人生で数少ない驚きを今ここでしてしまった事も気にせず、彼は声を張った。

 

「おぉ!よくぞそれを聞いてくれました...!見ていてください」

「……なに?」

 

  そう言って彼女は、カードを慣れた手つきでテーブルに弧を描くように広げる。

 怪訝な顔をする彼に「一枚引いて絵を見てください」と薦めた。

 彼は疑問に思いながらも無言で端から五枚目を一枚を引き、裏返して絵を見る。

 

  そこには赤いハートが三つ書かれていた。

  ちなみにその間、ヒトミは此方の行動を一切見ていない。

 

「確認しましたか?では元の場所に戻してください」

「はぁ………?」

 

 引いたカードを戻せと。

 意味のわからぬまま彼はそのまま戻すと、ヒトミは視線を此方に戻した。

 

「では見ていてください!」

 

  そう言って再び流れるように弧を回収、束になったトランプをシャッフルし始める。

 

 

 

 ババババ、サッサッサ。

 

 

「「……」」

 

  二人が無言の中、トランプが踊るように位置を変える音だけが室内に響く。

 

  ふぅ、と一息を吐いたヒトミは……再び器用に均等に弧を描いた。

  しかし、今回は絵が表に、見えるようにしている。

 

  するとヒトミは口を開けた。

 

「ファントムさんが選んだ絵は、そこにありますか?」

「はぁ………!?いや、ないな」

 

  彼は目を通すが、全く赤いハートが三つ書いてあったカードが見当たらない。

 

  黒色の四角形を斜めにしたり、逆さのハートの凹みに何か刺したような絵はある。

  先程見たハートの絵柄も数枚あるが、ハートの三だけは見つからない。

 

  不思議そうな顔をして彼女を見る彼に、ヒトミはニコニコ笑い。

 

「貴方のカードは……」

「っ」

 

  ヒトミはそっと彼の首筋に手をやり、突然のことに少し驚く彼を他所に……離れたときには一枚のカードが彼女の手にあった。

 

「な!?」

 

  目を丸くする彼に、そのカードの絵を見せる。それは―――

 

 

 

 

 

「ハートの三、ですね?」

 

 

 

 

「……確かにそうだ!驚いたな」

「どうですか?これがトランプの力です!!」

「成程確かに凄い―――凄いがこれお前の技術だろうが!!トランプ関係ないだろ時間返せ!」

 

  どや顔のヒトミに彼は吠えた。

 

「何だこの時間!?お前の器用さだけが伝わったぞ?いや凄かったんだが冒険者はそんな真似しない!」

「これをやって驚いた隙にモンスターの背後からブスリですよ!」

「発想が雑だ!しかも少なくても二人必要だろそれ!?そもそもモンスターはトランプをしない!」

 

  はぁ、はぁ…と肩で息をする。

  少しして落ち着いた口調で、彼女に言った。

 

「……チートはやり直しが効くのか?」

「いいえ。多分もう神様には会えないかと」

「なら、伝道芸でも目指せ……この街には確か『花鳥風月』という宴会芸をネタで使える奴がいる。教えてもらえ、冒険者にはまっっったく必要ないが、それも組み合わせれば十分に食ってはいける事を約束するよ……後はそうだな、あまりその身の上は他人に話すな。嫉妬されるか頭がおかしい奴扱いされるぞ」

 

 はぁ、と大きく息を吐きソファに身を投げた。

 

「話を聞く限り、ヒトミはかなり平和な世界に生きていた。そんな奴がほぼ丸腰でいきなり冒険者になるなんて……自殺行為だ。それでも時間が掛かってもいいなら止めはしないがな」

 

  少し棘がある言い方で、相応しくないとキッパリ告げた。

 

―――所詮、他人である。

 

  今日限りの出会い、転生者の情報だけでも収穫だと。

  すると彼女は、少し不安げな顔をする。

 

「私は、冒険者になれないんですか……?」

「なれないとは言っていないだろう。だが近道をできるのに勿体無い事をしたと言ってるだけだ」

「そう、ですか!なら私は冒険者になります!」

「っ………そう、か。なら止めないさ。話にも終わりだ、それじゃあな」

 

 ソファからやけに重くなった腰を上げて、ドアに向かう。

 

「待ってください!まだ聞きたいことが!」

「何だ?冒険者についてならさっき話したと――」

「冒険者って、どうすればなれるんです?」

「……」

「……」

 

  その後彼女の登録代を奢るハメになるのを、彼は知らない。

 

 ◆◇◆

 

「で、ではヒトミさん。この資料に個人情報を書いてください……その後でこのカードをお渡ししますね。このカードに触れるとステータスと呼ばれる、貴女の攻撃力から運まで数値化されますし、冒険者であることの証明書にもなります」

「はい!」

 

  そう言ってヒトミはペンを走らせる。

  その時に彼女に適した『職業』をアドバイスするのも受付嬢の仕事だ。

 

  ちなみにその受付嬢アリンは今、そそくさとヒトミの後ろで腕を組みながら見物している彼の隣に来ていた。

  すると彼女は小声で、複雑そうな顔で言った。

 

「……ファントムさん。私、確かお話することをお願いしたんですが.……一言も勧誘してなんて言ってないんですが……?」

「俺は悪くない。冒険者のデメリットは伝えたし、というか最初から登録するつもりだったらしいぞ」

「そうなんですか?私てっきりファントムさんが薦めたとばかり……」

「まぁ、流れとしてはわからなくもないが。彼女との話は為にはなったぞ」

 

(宝の持ち腐れとか、転生者の事とかな)

 

「はぁ、それはよかったです?」

 

  その言葉の真意を理解できなかったアリンは小首を傾げるが、詳細を語るつもりは彼には無いらしい。

 

「書き終わりました!」

「あ、はい。それではこのカードに触れてください」

「わかりました!」

 

  書き終わったヒトミにカードを渡すと、愉快なリアクションをする。

  正確には飛んだり跳ねたり「何か色々出てきました!!」と叫んだり。

 

 正直うるさい。

 

  無論異世界なので言語も違うのだが、彼女は神から前もってその解決策を貰っているらしい。チートとは別で。

 

 

 

「………本当に、特別扱いされてるな」

 

 

  彼はポツリと呟く。

 どこか諦めに近い目で、虚無感に苛まれながら。

 嬉々として冒険者カードをマジマジと見ているヒトミを見ていた。

 

 

「レベルは一ですね!」

「それは、そうだろうな」

「……レベルというのは、この世のあらゆる者が持つ魂、その魂の一部を生命機能を停止させることで記憶するんです。つまりは経験値ですね、普通は目に見えませんがそのカードは吸収したものを数値化できます」

「おぉ!凄いですね!!」

(詳しい原理は誰も知らないけどな)

 

「では、私に見せてください……えっ?」

 

 アリンはカードを受取り確認する。そして、固まった。

 

「「?」」

「えぇ……と。ステータスは平均値よりも全体的に上です、攻撃は低いですがそれを差し置いてもかなり優秀かと思われます」

「おぉ!凄い私!」

「それで、何かあったのか?ヒトミ、俺も見るぞ」

「?はい、どうぞ」

 

 はしゃぐ彼女を横目に、アンリのリアクションが気になった彼はカードを見ようとアリンに近づく。

 

「えぇ、と。大体これなら遠距離から中距離の上級職業には就けるんですが。カードにこんな記載がありまして」

「?……これはっ」

 覗くと、そこには一つ、職業の中に見慣れない文字があった。

 

 

 

 

『マジシャン』と。

 

 

 

 

「マジシャン―――手品師って、あの手品ですよね?」

 

  確認するように質問してくるアリンに対して、彼は小さく顎を引いて答える。

 

「だろうな。しかしなんというか、お似合いだな?」

 

 先程のカードによる、一連の器用さを眺めた彼は思わず苦笑する。

 

 

  同時に、迷うことなく彼女はこれを取るであろうと確信した。




どうでしたか?
次の話は三日後に投稿します。
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