この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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タイトル語呂悪いなぁ...


この紅魔の彼に静かな帰郷を!

 

「...ここが紅魔の里ですか?」

「あぁ。変わらなすぎて腹が立つが、そうだ」

  ヒトミはウキウキしながら聞き、彼は死んだような目で答える。

 

  二人は、紅魔の里に来ていた。

  ここに来るまでに馬車は使っておらず、ゆんゆんの『テレポート』という魔法を使って一瞬でここまで来たのだ。

  まさしく馬車泣かせである。ちなみにゆんゆんはめぐみんと勝負をするらしく、この場にはいない。

 

  正直、ヒトミを押し付けようと考えていた彼は渋々了承した。

「とにかく、俺は鍛冶屋に向かう...ヒトミは観光だからな、遊んでいろ。ここは退屈だけはしないことを約束する」

 

  そう言って背中を向けようとすると、ヒトミはキョトンとした。

「え?なら待ちますよ、ファントムさんの事」

「は...何故だ?」

  聞くと、ヒトミは胸を張って言った。

「私サンテリアさん程じゃないんですが、方向音痴で地図読めませんから!」

「胸を張るな.....それは、トランプにでも教えてもらえ。ほら、行きたい場所を指定すれば飛んでいく的な機能はないのか?『噴水近くまで連れていけ』とか」

「ちょ、流石にそんな事できませんよ...あれ、出来ました!?出来ましたよ!?なんですかこのトランプ!?」

「それはお前が言うな...というか、本当に出来るのか...」

 

  フワフワと浮かぶヒトミのトランプに二人が驚いていると、二人の少女が二人を見つけて近寄ってきた。

  一人の長いツインテールの少女がニコニコと笑いながら口を開けた。

「...もしかして旅の人ですか?でしたらようこそ紅魔の里へ!観光なら私的には広場の本物の勇者にしか抜けない剣をオスス...あれ、くろ兄?」

「いや俺は観光では...ん?」

  そこで初めて、彼は二人の少女の顔をマトモに見た。

 

「くろ兄?くろ兄だよね!?」

「嘘!くろ兄さんじゃない!」

  もう一人のポニーテールの少女も声を上げる。

  二人の紅魔族の少女に驚かれ、そして彼は二人を見て黙考する。

  というか、思い出そうとしていた。

(ツインテールにヘアピン、ポニーテールにリボン...それに二人セットでの俺の呼び方...)

「お前らふにふらとどどんこか?」

「ふ、ふに?...どど?」

  横にいたヒトミが頭にクエスチョンマークを浮かばせるが、放置。

  基本、紅魔族の名前は受け入れられないことが多いのだ。

 

「随分、大きくなったな?」

「わぁ!やっぱりくろ兄なのね!?」

「凄い、くろぐろ兄さんが帰ってきた!これは里中に知らせなっ」

「待て!」

「「っえ!?」」

  途切らせ、彼は咄嗟に二人の肩を掴む。

 

  そして顔を近づけてあまり大きくない声で。

「...いいかお前ら、実は今回は忍びで来ていて今日中に帰る予定だ。必要以上にあまり目立ちたくないんだ、協力してくれるな?」

「「...お、お忍び」」

  二人はその言葉を復唱する。

 

  そして、目を輝かせた。

「...いいね兄さん!それなんか良い!」

「うんすごく良いと思う!わかった、なら誰にも言わないね!」

「あぁ、頼む」

  彼も頷き、二人を交互に見る。

 

(ふむ。しかし、めぐみんやゆんゆんもそうだが数年経つだけでここまで変わるものか....?)

  彼の中では、ふにふらとどどんこは自分の腰程度の幼気な少女たちだったはずだ。

  しかしこの数年で二人は彼の胸辺りまで身長を伸ばし、顔立ちも女性らしい柔らかい雰囲気を漂わせる。

  出るところも出ている、まだ十二歳という数字を疑う。

(女の成長が早いとはこのことか...)

 

  一人納得していると、おいてけぼりになったヒトミが小さく笑う。

「いや~くろぐろ兄さんモテモテですね~?扱いにも慣れてますよ」

「なんだその口調は。言っただろ、よくあやしていただけだ」

「どうですかね~」

  ガシッ

「...んっ?」

 

  そうヒトミと会話していると、今度は彼が二人に肩を掴まれた。

「「兄さん」」

「な...なんだ?あやしていたと言う表現が気に入らなかったのか?だがあの頃のお前らは」

  二人は首を振り、声を揃えてヒトミを指さす。

「「その人、誰?」」

「...え?私ですか?」

 

「ヒトミか?俺のパーティメンバーだ。俺は里を出てから冒険者になってな、帰郷ついでに来たいと言うから連れてきたんだよ」

  彼はスラスラと話始めるが、二人は何故か震え始める。

「パーティメンバー....?」

「つまりは、パートナー...?」

「おいまて、止めろ。無茶な邪推するな、嫌な予感しかしないぞ」

  だが、年頃の少女二人は「あ、あ...!」と驚きに染まっていた。

 

 

「「くろぐろ兄さんが女の人を連れて帰ってきたっ!!?」」

 

  二人が声を揃えて叫んだそれに、彼は軽く動揺する。

「っ!声がでか...!」

  そして、紅魔族達が眼を醒ました。

  というか、色々醒ました。

『くろぐろ...今くろぐろと聞こえたぞ!!』

『あのくろぐろが帰ってきたのか!?』

『どうなってる!?覚醒したのか!?』

『魔王でも倒してその首を持ってきたのか!』

『なに!?親父を見つける旅に出たんじゃないのか!?』

 

「...くそ」

  誰も「おかえり」と言わない点、しかしある意味歓迎されているのは間違いあるまい。

「...わぁ、沢山来ましたね?」

  ヒトミは呆けたように言った。

  彼はとてもヒトミを放っておきたいが、そういう訳にもいかない。

  彼はヒトミの肩を掴み、スキルを発動する。

「『潜伏』ッ」

「あ、あれ?くろ兄!?」

「くろぐろ兄さん!?」

  逃げの一手だった。

 

 ◆◇◆

 

「...に、逃げ切りましたかね?」

「事態は最悪だ。しかし恋愛事に敏感で思い込みが激しいのは、小さい頃から全く変わっていないようだな...」

  彼はふぅ、と一息つく。

  すると、背後から別の女性の声が。

 

「...フム、兄さん。再会を喜ぶ前に二人でそのまま動かないでくれるか?何かこう、インスピレーションが降りてきそうなんだ」

  すると背後から声が聞こえ、彼はげんなりした。

 

「羽ペンの音...そしてその淡々とした口調に覚えがあるぞ、お前はあるえだな?」

  彼がそう言ってふりかえると、一人の少女が噴水の縁に座っていた。

  そのあるえと言われた人物は頷き、そして筆を走らせる。

「如何にもあるえだよ兄さん、しかし名乗りは後にさせてもらおう。今は...!来たぞ来たぞ!筆が乗ってきた!」

  そして二人を無視して筆を走らせ始めた。

 

  再び、ヒトミはおいてけぼりだ。

「え、と。ファントムさん?この人は...?」

「名前は言ったが、あるえだ。同年ではゆんゆんの次に優秀だったらしい、見ての通り本を書くのが好きらしくてな...よく長編小説を読まされた」

「ど、同年...?」

「うむ。兄さんはブツブツ文句を言いながらもちゃんと感想とか指摘してくれるから重宝していたよ...全く、別れの手紙も私の作品の様にもう少し凝ってくれればいいものを」

「羊皮紙何枚使わせようとしているんだお前は」

  やれやれと頭を振るあるえに、彼は半目でツッコミをいれる。

  ちなみに容姿は大人びており、正直にいってヒトミとタメと言われてもあまり違和がない。

  これはヒトミが童顔なのか、それとも出会う彼女達の成長がはやいのか、はたまた両方か。

 

(どちらにしても、怖いくらい性格が変わってないなコイツら)

「さて、俺はもう行くからな」

「待ってくれ兄さん!兄さんがいない間に私が書いた本を...何故走るんだ兄さん!?」

「ファントムさん!?あの、まっ...?」

  彼は光の速度で逃げ出した。

 

  ヒトミはそれを追おうとすると、あるえに肩を掴まれる。

「ファントムさん...だと?見たところ貴女はくろぐろ兄さんと縁があると見た。その時の話、深く聞かせてもらえないか?」

「......え?」

  その目は、まさしく面白い玩具を見つけたそれだった。

 

 ◆◇◆

 

  ドアベルが響く。中には髭面の男一人しかいなかった。

「ゆいゆいさんは留守か...相変わらずの寂しいな、ひょいざぶろーさん?」

「おぉ!くろぐろじゃねぇか....!?大きくなりやがって...出ていってから楽しくやってるか?」

「それなりに。しかし里の奴等は体だけ大きくなって、中身が変わっていないように見えますが?」

「ハッハッハ、そういうな。めぐみんはどうだ?元気にやってるか?」

「心配なく、めぐみんは元気ですよ。固定のパーティだって入りました」

「!そうかそうか...不安だったが、めぐみんはちゃんとやっているか...」

  彼はそう言って笑みを浮かべる。彼は娘大好きなので、目に入れても痛くないという程には溺愛している。

 

(よく冒険者になるのを了承したな?)

  彼は内心で呟くが、きりがないと予測して切り上げる。

「話を戻すが。わかっていると思うが、何個か頼み物がある」

「俺の魔法道具だろ?ったく...お前が頼むのはいつもダサいデザインだからあんまり好きじゃねぇんだよな...」

「だからアンタの家は貧乏なんだ」

「アクセルか。ならウィズって奴いるだろ?アイツはわかってるねぇ...」

「...あんた一枚噛んでたのかよ」

  思わぬ繋がりに彼は閉口する。

  思ってる以上に世間は狭いようだ。

 

「だがよ、例の眼鏡に関してはあるぜ?」

「そうなのか?ならば付けてみても?」

「勿論、ほらよ」

  そういわれて渡されたそれに、彼は固まる。

「待て。これはもう眼鏡と言うよりも...なんだこれは?」

「改良してみた...『すかうたー』って名前にしようと思ってんだけどよ、売れると思うか?」

「思わないし改悪するな。奇抜で付け外しが不便すぎる上に変な数字が浮かんでいるんだが...直してくれないだろうか?金に色は付ける、頼むから」

「っ金だと!?背に腹は代えられねぇ...さっさと終わらせるから家に帰ってろ」

  ちなみにこの家は極貧だったりする。理由は言わずもがな。

 

「それと『ゴブリン殺し』にも寄る予定だしな。夜までには終わるだろう?取りに来るよ」

「ん?そうなのか...ならあっちによろしく伝えとけよ?」

 

 ◆◇◆

 

  武器店『ゴブリン殺し』より。

「...おい、かたすけさん」

「ん~?どしたくろ坊...気に入った弓でもみつけたか?」

  店主のかたすけは、のんびりとした口調で言った。

 

「いや...なんだこれは?何故この弓はここまで奇抜なんだ?」

  彼が持っていたそれは、黒一色で弧を描いている弓だった。

  そこまでは、いいのだが...何故か手に持つところ以外、前後に長い刺が生えている。

「トゲトゲした方がかっこいいだろ?」

「射つ時に腕に刺さり、不便極まりないんだが」

「それはあれだよ、根性だよ」

「喧しいわ」

  腕は悪くないが、紅魔の里ではあまり需要がないこの店。

  紅魔族は魔法使いばかりのためであるが、コアなファンがたまに買いに来るそうだ。

 

(しかしひょいざぶろーさんもかたすけさんも、腕は悪くないのが腹立つな...)

  彼は額に青筋を浮かべながら交渉し、渋々で刺を取ったら買う所までこぎつけた。

 

 ◆◇◆

 

  一方、ヒトミは。

「成程...二人はイレイシアで出会い、半ば無理矢理に兄さんをパーティにしたのか」

『おぉ...くろぐろやるじゃねぇか』

『キャー!それで今までずっと一緒なのね!?』

「ずっとという訳ではないですが...」

「ふむ、流れとしては...悪くないな、ここに色仕掛け(ラッキースケベ)の一つでもあればさらに良かったんだが。私的には実はヒトミが神の使者とかいう使命もありだと思う」

「アハハ...まさか、ですよね?」

 

  そこは、既にヒトミを一目見ようとするギャラリーで集まっていた。

  彼の姿が見当たらないので、先程追いかけていた者や騒ぎを聞き付けた者ほぼ全員が此処に集まってきたと言っても過言じゃないだろう。

 

「しかし職業がマジシャンとは興味深い、観客もいることだし見せてくれないかな?」

「おぉ...!勿論ですよ!むしろリクエストされた方が嬉しいくらいです!鳩でも出しますか?トランプマジックしましょうか?」

『カッコよくて派手なのがいい』

「えっ...り、了解です!」

  全員の声が被り、ヒトミはすこしおどけた。

 

 ◆◇◆

 

  彼は一人、ある一軒家の前に立っていた。

「.....」

  鍵を回して。キィ、とドアを開ける。

  ドアを閉じ、鍵を掛けて部屋に上がった。

 

  ここは彼の家だ。家族と棲んでいた家なのだ。

(母さんなら俺を見つけ次第飛び付いてくるよな....)

  そしてそろそろと警戒しながら進むが、

「...?」

  誰も彼を迎える者はいない。

 

「!」

  彼は不思議そうに周囲を見渡し、ふとテーブルに置かれた手紙を見つけ、開いた。

 

『面白そうなので私も旅に出ることにしたよ!旅の話を楽しみにしてね!パパに会ったなら原型無くなるくらい殴ってね!母より』

 

  短くそう書かれた文字を見て、彼は苦笑する。

「...物好きめ。まぁ、この親あって俺がいるのか」

(土産話はこっちが持ってきてると言うのに)

  ちゃっかり後半の文章は読み飛ばす事にした。

  やはり根に持っているらしい、当然と言えば当然だが。

 

  母親は遠出している様だ。まぁヒトミがいる半面もあり都合がいいのか、と彼は少し無理に納得させた。

 

「しかしアイツは大丈夫だろうが、平気なのだろうか...っ」

  ヒトミを案じた、刹那。

  彼の視線が、一気に鋭くなった。

 

  彼は自身を落ち着かせるべく、息を吸って...

「っ」

  吐くと同時に振り向き、同時に腰の投げナイフを背後に向けて投げた。

 

  回転するナイフはそのまま背後に飛び。

「ほぅ、よく気付いたな」

 

  そして、壁に当たらず何者かによって止められた。

「やはり母さんではなかったか...勝手に入って来るとはな」

「これは失敬。フハハハ、これは実に美味な悪感情だ!」

 

  その不敵に笑う姿は、全く掴めないものだった。

  背広の紳士のような風貌に、目を隠すような、左右を白黒で塗られた仮面を付けていた。

 

  彼は予備の投げナイフをそっと掴む、

「...同族でもないな?顔に付けた悪趣味な仮面を売りにでも来たのか?ウケがよくて儲かりそうだ。まぁ、俺は絶対に買わないがな」

「フハハハ!まぁそう警戒するな紅魔の変り者よ。仮面は売ってもここで貴様の喧嘩を買いに来たわけではないのだ!そしてこれは非売品だ!」

  誰が少しうまいことを言えと。彼は内心でツッコミを入れる。

 

「しかし、警戒するなだと?不法侵入を知らない輩を敵対視しない方がどうかしているだろう?」

  彼が笑うと、男は少しトーンを下げて返した。

「だとしたらこの里の奴等は殆んどどうかしているぞ。寄り道で他の家を回ったが、我輩の嫌いな嬉しい感情ばかり。マトモな反応をしてくれたのは貴様が初めてだったぞ?」

「.....」

  閉口する、反論できなかった。

  紅魔族ならむしろ『何だこの展開は、なんか知らんが燃えるぞぉぉぉぉ!!!』とでも言って上級魔法をバンバン撃つだろう、撃つに違いない。

  それでも明日には壊れたり欠けたものが復活している。軽い恐怖すら覚えるレベルで。

 

  やれやれと男は肩をすくめる。

「全く。ちゃんと躾してくれ、悪感情が我輩の好物なのだからな。その点、ここはある意味地獄だ」

「おい、何故俺が叱られているんだ...それよりも本題に入るとしよう、お前は何者だ?」

  彼は瞳を紅くしてナイフを掴み、そう聞いた。

 

「フッ...我輩の名は」

「...」

「名乗らん。何故ならその方が面白そうだからな!我輩の事はX(エックス)とでも呼べばよい!」

 ...イラッ。

「おぉ悪感情!そしてナイフが飛んできたわ!フハハハ!!愉快愉快!」

「少なくとも故意な分、アイツよりも厄介なのは把握した」

  彼は歯噛みして、投げたナイフを指で挟み弄ぶエックスに言った。

  すると、エックスは嗤って言った。

 

 

「ほぅ、アイツとは『イレイシアの街で出会いパーティメンバーとなった転生者』の事か?」

 

  ピクン、と彼は眉を寄せた。

  紛れもない事実、そして極僅かの者しか知らない情報の筈だからだ。

  エックスは彼を見てニヤリと嗤う。

「どうした、まるで鳩が豆鉄砲食らったような顔をしておるぞ?」

「それはフェイクで放てる内容じゃないな...なぜ知ってる?」

「フハハハハハ!さてこの情報、どこで仕入れたと思う?本人に聞いたかもしれないぞ?もしそうならば聞いた本人は今頃、どうなっているかな?うん?」

「っ」

  わざとらしく、煽る口調だ。

 

  彼はエックスを睨み、そして腰の短剣を握る。

(嘘だな。ヒトミは今同族と戯れている、そう仕向けた(・・・・)...情報は本人に聞いたか、まさか読心術の類いか?)

「!...ほぅ」

  エックスは感心したような声を上げる。それで彼は確信した。

「後者が当たりか。お前が只者で無いのはわかったが、それを承知で聞こう。俺に何の用だ?」

「フハハハ!やるな貴様。ならばそれに敬意を評して我輩の真名を教えてしんぜよう!」

 

  エックスと名乗った男は手を広げ、そして顔を覆う。

「我が名はくろぐろ!紅魔の例外に「殺す!」おぉ素晴らしい悪感情頂いたぞぉ!そして自分の室内で矢を射つとはな!フハハハハハハ!!」

  真名を語ることはなかった。

 

 ◆◇◆

 

  夕暮れ時。

  なんとか紅魔族を満足させ終えたヒトミはくろぐろの家と道を案内され、家の前に来た。

 

  そしてヒトミが家に入ると。

 

  リビングで彼は床を向いて倒れていた。

「ファントムさん!?...どうしました?そんな死んだ目をして」

  目を丸くして駆け寄って起こすと、彼は気絶をしていた訳でもなく、ただ倒れていた。

 

  そして、その瞳に光はない。

「気にするな、何も...何も聞くんじゃあない」

「...はぁ。わ、わかりました?」

  家での騒動を知らないヒトミは、首をかしげながらも了承した。

 

  彼は話題を変えようと、体を起こしながら聞く。

「...紅魔の里は、どうだったんだ?」

「いい人達ばかりでした!マジックも喜んでくれましたし!途中から『爆発しないのか!?』とか『星を降らしたり出来ないの!?』とか聞かれて...流石に困りましたが」

「まだ可愛い方だ。それで済んで良かったな...ん?」

  彼は木製の椅子に腰掛け、ふと疑問が生じてヒトミを見る。

 

「俺は家の鍵を掛け忘れたのか?まさか...いや、アイツは消えたしな」

「アイツ...?あ!そうです酷いですよファントムさん!言ってくれればいいじゃないですか!?」

「は?いきなりなんだ?」

  ヒトミは酷いといいながらクスクスと笑っている。

  まるでイタズラをする子供のような含みのある笑いだ。覚えの無い彼は片眉を上げる。

 

  するとそのタイミングで、ドアからもう一人の人物が顔をだした。

 

「っ」

  彼は息を飲む、その人物は黒髪黒目、そしてヒトミの胸ほどしかない身長の女の子だった。

「まさか妹がいたんですね!道理でめぐみんさんやゆんゆんさんの扱いがうまいと思ってましたよ!道案内も鍵もあの子がやってくれました」

  そう言ってヒトミは彼女を見るが、彼はどこか、ぎこちない。

 

  数回ヒトミと彼女に視線を向かわせ、嘆息。

「そう、か。旅から帰ってきてたのか...ヒトミ。先に言っとくが、俺に妹はいない」

  その言葉に、ヒトミは一瞬固まる。

「はい?では、この子は?『くろぐろの家族だ』と言っていましたよ?」

「間違っていない。それはな...」

  すると、彼女はヒトミを通り過ぎて彼に飛び付いた。

「っ」

  椅子に座っていた彼は、そのまま抵抗せずに椅子ごと後ろに倒れる。

 

  驚くヒトミを他所に、彼女はニヒッと笑った。

「くろぐろ~久しぶりね!手紙読んだ?」

「つい先程...旅に出ていたのか?」

「その通り!まさか帰郷したと同時に会えるなんて!これはもう運命だね!私感動しちゃうよ~しかも、女子まで連れちゃった訳だ!」

「パーティメンバーだ...からかうのは止めてくれ。数年ぶりなのに、全く変わらないな」

  彼は呆れた様に苦笑する。

 

  二人の会話に、完全にアウェイなヒトミ。

「え、と?ファントムさん?」

「あぁ悪い...紹介しようヒトミ。この人は」

「おっとくろぐろ!ここは私が名乗る番だよ!」

  そう言って制止し、彼女はヒトミの前に立ち、無い胸を張る。

「我が名はりえりー!くろぐろを女手一つで育て上げた、紅魔一番のバツイチの女だよ!」

  だよ、だよ...とエコーし、ヒトミは固まる。

  ある一部分を理解できないと復唱する。

「ぇ...バツイチ?」

「そうだ、妹じゃない」

  彼は深く嘆息し、目の前のロリを見る。

 

 

「...俺の、母親だ」

 

 

「え、えぇぇぇ!?いやいや無いですよ!これはマジックですか!?ドッキリですか!?カメラは何処ですか!?」

  ヒトミは声を上げて周囲を見渡す。

  彼は起き上がりながらそれをなだめた。

「落ち着け。気持ちはわかるが、落ち着いてくれ」

「んじゃあ、私はご飯作ってくるね!久し振りに息子にお料理か~お客さんもいるし腕を振るっちゃうよ~!」

  そして彼の母親、りえりーは散々かけ回した上で我関せずと言った様子で台所に向かおうとする。

「いや母さんも弁護に回れよ?ヒトミがショートしているんだが」

「やだ母さんなんて...昔はママ~ってヨチヨチ駆け寄ってくれた癖に~今だってそう呼んでいいんだよ?」

「喧しいわ、何歳の話だそれ」

「並ぶと姉弟みたいだったなぁ、五歳だったかな?」

(くそ...何故俺の父親は合法ロリに...!!)

  彼は拳を握る。

 

  そして、ヒトミは再起動した。

「昔のファントムさん...?気になります!気絶している場合じゃないです!りえりーさん!是非お話を!」

「待て、それでいいのかお前は」

「ママで構わないよ~?お話ならご飯の時にしよっか...あ、ひょっとしてヒトミちゃんは料理出来たりする?」

「少しなら...手伝えます!その間に教えてください」

「いいよ、なら台所に行きましょ~」

「あ、おい待て!誰の勝手で俺の過去を赤裸々にされなければならないんだ!」

「母親の特権だよ?後で旅の話も語り合いましょ~さて行きましょうかヒトミちゃん?」

「はい!」

  男子禁制!とでも言わんばかりにはねのけられ、彼は一人取り残された。

 

「.....」

  静かになった居間で、彼は天井を仰いだ。

 

  いつの間にか、外は夜の帳が降りていた。

 

  同族に追い回され、武器や魔道具を改造され、最後の最後まで名乗らなかった変人に黒歴史を曝け出されて振り回され、挙げ句母親の手によってヒトミにまで知られる。

 

  彼は、ふぅ。と嘆息。

「......夜風、浴びるか」

  冷たい風を浴びるべく外に出た。

 

 ◆◇◆

 

  それは、数刻前の話。

「...近い内に、アクセル街に嘗てない災厄が降りかかるぞ」

  真剣な声色で、エックスはそう言った。

 

「...それは俺の目の前にいる奴ではなくてか?」

「フハハハ、違うな。我輩よりももっと大きなものだ...ま、その時が来れば自ずとわかるさ。貴様は特にその影響を受けるだろうな」

「読心どころか予知もあるのか...?もはや。隠すつもりも無くなったのか、お前は魔王の幹部クラスだろう?」

「ほぅ?何故そう思う?」

「むしろそれで下っ端なら、人間はとっくに滅んでる...それにベルディアが倒された時期も鑑みれば、倒した奴の調査か埋め合わせが目的なのは明白だ」

  彼が力なく言うと、エックスには笑う。

「フハハハハハ!!左様!我輩こそ魔王の幹部の一人、バニルである...!む。おや?何故悪感情を出す?その推察は見事当たっているぞ?」

  彼は半目で渋々言った。

「...わざわざ言わせる気か?無駄にためておいて名前をすんなりと言ったのが、単に気に入らなかっただけだ」

「なるほどな、これは僥倖!」

「....それで疑問だが、何故それを俺に話したんだ?魔王軍なのだろう?むしろこの場で俺を殺す方がいいんじゃないか?」

「その話だが、魔王様の目的もそうだが...我輩は人間の殲滅なんてもの望んでいない。むしろ人間の悪感情を求める我輩にとってはそれは逆に致命的であると思わないか!?」

「成程、お前のその問題な性格故にか...なら喜べないな。お前の信条もそうだが....つまりは近い内に起きる事態は人間の殲滅に直結する事態でもある訳だな?」

「御名答!いやぁ話が早くて助かる!まぁだからといってこれ以上の助け船は出さないがな!フハハハハハハ...ふむ?貴様、今回は絶望しないのだな?」

  悪感情が来ないことにバニルは怪訝そうに彼を見る。

 

  彼は息を吐き、一言。

「嘗めるなバニル、助けなど無しに逆境なら幾度も潜ってきた。修羅場も何度も乗り越えてきた。それにアクセルの冒険者は、一癖も二癖もあるのは身をもって知っているからな」

  紅く染まった瞳の視線でバニルを刺す。

  その視線を受けながらも、バニルは感嘆する。

「ほぅ...挑むのか、災厄に。言っておくが貴様が屠ってきた今までのモンスターとは、桁も格が違うぞ?」

「ならお前の忠告は、一応胸に留めておこう。信じる要素がないからな、嘘ならばそれで終わりだ」

「フハハハハ!貴様こそ嘗めるなよ?我輩は本気で人を小馬鹿にしても、煽っても、絶望させても、虚偽はせん」

「...それもどうなんだ?まぁ参考程度にさせてもらうよ」

  そう言って、二人は見つめあう。

 

「ならば、精々絶望に挑むがよい」

「あぁ、精々醜く足掻かせてもらうとしよう」

 バニルは不敵に笑い、彼は苦笑する。

 

  そして、バニルはそっと手からある物を取り出した。

『嘗めるなバニル、逆境なら幾度も潜ってきた。修羅場も乗り越えてき....』

「ところで先刻の恥ずかし~い発言を我輩が開発した録音機で全て録ったのだがどうす」

「この場で死ね。いや殺す」

「フハハハハハハ!!頂いたぞ悪感情!ではまた会おう!」

「二度と来るなっ!」

 

 ◆◇◆

 

  砂となって消えたバニルの方を見ながら、彼は呟いた。

「『災厄』か...何が起こるんだ?」

  彼は一人、夜風に波打つ草原に腰を乗せていた。

 

(サンテリアを呼ぶべきか...?それか、ウィズの店の壺と滅茶苦茶な魔道具を使う事も視野に入れておくか...今までの貯金の大半を使う可能性も考慮するべきなのか)

  バニルを信用する、というよりも『万が一に備える』と言った様子で、彼は全財産の大部分を果たす気でいた。

「確実に備えておくか....魔王の幹部がただ煽りに来るだけとは思えない...奴ならありえるな」

  彼が考えていると、ヒトミが来た。

「ファントムさん、ご飯の準備が出来ましたよ」

「わかった、すぐに行く」

  彼は立ち上がり、ヒトミに並んで家に向かう。

「....ファントムさんって子供の頃、りえりーさんとお散歩するのが大好きだったんですね!?それに花が好きだったって本当ですか?」

「...黙れ。頼むから黙れ。もう、飯は外で食ってこようか」

「りえりーさんは『外で食べてきたら里の真ん中で本気で泣くよ?』と」

「あの容姿で本気で泣くつもりか......八方塞がり、なのか」

 

  近い内に、アクセルに起こる危機。

 

  その前に、彼は高すぎるハードルを越えなければならなかった。

 




次回から、デストロイヤー篇です。

・三日後に、一日に朝昼晩で一気に投稿。
・一日待って、三日連続で投稿。
これ、どっちがいいですかね?

感想欄の多数決できめようかなと、
ちなみに無かった場合は前者にします。
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