彼が侵入して少し経つ頃。
カズマ一行は周囲と出遅れながらも指示をだし、デストロイヤーへの侵入を試みていた。
「ダクネス、お前は重すぎるから登れないだろ!めぐみんはそのまま休んでろ!ウィズは任せる!アクアはやりやがったんだから責任とってついてこい!」
「お、おいカズマ!?ちゃんと『鎧が』と付けろ!それだとまるで私がロープで登れない程の巨躯みたいじゃないか!おい無言で登るな!訂正しろぉ!」
「ね、ねぇ待って!カズマ、前回は頑張ったけど私今回まだなにもしてないじゃない!でもなんか登ってった皆、目がギラギラしてて怖いんですけど!?何かしたいけど正直登りたくないんですけどぉ!?」
実は爆裂魔法の作戦が成功した後、誰もが警戒して気を抜かない緊張感の中、アクア一人だけがおちゃらけた発言をしたのだ。
すると偶然かそれが引き金となったのか、デストロイヤーに次のような警告が発令したのだ。
『この機体は、起動を停止致しました。排熱、及び起動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難してください.....温度調節不可、温度調節不可....内部にいる方々は至急ここから避難してください』
恐らく、放置すると爆発するだろうとのこと。
カズマ曰くアクアが『フラグを立てた』とのこと。
(何故このダ女神はいつもいつも...!)
そんな事を背景に、青筋を浮かべるカズマとアクアは縄を登り終わると。
『そっちいったぞ!』
『ゴーレムは囲め!デカイ奴はロープを使って引きずり倒せ!ハンマー持ってる奴は倒れたところを狙うんだっ!』
そのギラギラした冒険者達は数にものを言わせてゴーレム達を次々と破壊していた。
『おらおらぁ!この街は潰させねぇぞ!』
『覚悟しやがれ、俺達を敵に回したことを後悔させてやるよぉ!!』
ハンマー奮う冒険者、ロープを使ってゴーレムを翻弄する冒険者。駆け出しとは思えない動きでゴーレム達を蹂躙する。
もはや、どっちが侵略者かわからない状況だった。
アクアは何とも言えない顔で呟く。
「なんか...皆おかしいと思うのは私だけじゃないと思うの」
しかし反してカズマのモチベーションは上がったようだ。
「お前ら...!よし、俺もやるぞ。見てろアクア、これがスキルの有効活用と言うやつだ!」
『おい!そっちにデカイの行ったぞ!』
迫り来るゴーレムにカズマは動じず、むしろ不敵に笑った。
(相手はゴーレム。ならば俺の昔のゲームの知識通りなら、盗む系は機械に使うと即死攻撃になる!)
サトウ カズマは冒険者だ。その前は日本でニートをして時間の大半を家で過ごし、そしてもて余していた。
彼は確信した。
その時に得た知識が、この世界では役に立つ。と
「くらえ!『スティール』ッ!」
「え!待ってカズマ、それっ」
アクアが何かを察した様に制止しようとするが、時既に遅し。
カズマの思惑通りスティールは効き、その右手にはゴーレムの頭部が乗っていた。
カズマは上手くいったと笑い、そして。
「ふっ、計算どお、り...?」
そして、ゴーレムの頭部の重さに腕を持っていかれ、カズマの右手を下敷きにする。
「ギャァァ!俺の腕があぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
デストロイヤーの上で、カズマの絶叫が響いた。
「あ~あ、止めようとしたのに」
「カズマさん!?重い物を持っている相手にスティールは駄目ですよ!?」
ウィズは遅れて注意し、アクアは呆れた顔でカズマをみる。
ちなみに、下敷きになった右手にはヒビも入っていなかったそうである。
◆◇◆
そんな喧騒を他所に。
バサッ!
デストロイヤーの内部で、彼は無言で手に持っていた本を床に投げた。
古い書物を投げたことで埃が舞い、そして彼の舌打ちが響いた。
「チッ...日記だからと取ったもののこの本はハズレだったか」
彼は既にゴーレムを掻い潜り奥地に来ており、そしてこの部屋を発見した。
椅子には男の骸骨が寂しそうに座っており、その手には一冊の本があったのだ。
そして、その日記の中身は、実に馬鹿らしいものだった。
要点を省くと。
「何か考えろと無理言われて何も思い付かない時に紙で潰した蜘蛛のウケがよかった。勝手に進む計画の最中、動力源はどうするんだと問い詰める王様に腹をたてて無理難題を返したら難なくこなされ、どうしようもないのでデストロイヤーを造った後にやけ酒で呷り、酔いが覚めた頃には暴走し国が崩壊、まぁ顎に使われるのは腹立ったし清々した!」
といった内容だった。
特に最後の
『これ作った奴絶対バカだろ...おっと!これ作った責任者、俺でした!』
という一文に彼は軽い殺意すら覚えた。
さらに仕組みなどの情報も得られず、読んだのは完全なる時間の無駄であった。
「まさか、デストロイヤーの制作者がここまで間抜けだとはな...まぁいい。知能はどうあれこの技術は本物だ、少ないが情報も着実に情報も得ている、だが...」
まだ、足りない。と彼は呟いた。
それはまるで、餓えて、渇いているような声色で。
爛々と紅い瞳を輝かせ、さらに奥地へと向かう。
(災厄と言わしめた機動要塞の内部で、そこにつまる情報を得られる。こんな好機はもう二度と来ないだろう......一時の富や名声に盲目になる奴等には、それを理解もできないんだろうがな)
彼は他の冒険者を見下して、若干の焦りと、胸に沸く期待と共に走る。
彼もまた『力』を渇望し、盲目となりかけている事に気付かずに。
「もうそろそろ他の奴等も来る頃合いか。まぁいい、どうせ動力源の核がある中枢に向かい辿り着くはずだしな.....なら俺はまだ行っていない別ルートに行くか...っ?」
途端、彼は背後に視線を感じ反射的に振り向いた。
腰の短剣を右手に触れいつでも抜ける用意をながら。
「.....」
しかし、背後には椅子に座る骸...デストロイヤーを作った責任者の骸骨以外には、何もなかった。
「?」
彼は眉を寄せる。
(...巡回のゴーレムか?なら足音は聞こえないな、わざわざ冒険者がここで潜伏するメリットも無いし来るにはまだ早い...気にしすぎか?)
「いや。構っている暇もない、か」
そして、謎の視線の気配よりも情報収集を優先する。
彼は鋭い視線でもう一度だけ周囲を見て、再び背中を向けて走り出した。
『....』
その後ろ姿を、純粋な瞳を通してどこか憐れむ視線があることに気付かず。
彼は、既に盲目になっていた。
◆◇◆
一方で、外。
デストロイヤーを眺めていたヒトミは、下唇を噛んで俯いた。
「....」
その表情は髪に隠れて見えない。
その付近では。
魔力不足で動けないめぐみんを背負っている一人の金髪の聖騎士が片方の拳を握りしめ、恨めしそうにデストロイヤーの上部を見上げていた。
「くっ、カズマめ....!私をオークのような重い女扱いしおって!帰ってきたら覚えていろ!」
「そこまでは言っていなかったと思いますよ、ダクネス」
背中に乗っているめぐみんが呆れたように半目でツッコミを入れた。
すると、めぐみんの視界にハットに隠れたヒトミが映る。
「...ヒトミ?元気なさそうですね、どうかしたんですか」
「...ぇ?」
俯いていたヒトミが、パッと顔をあげた。
「あ...いえ。中に入った皆さん、大丈夫かなって...」
「なんだそんなことか?カズマ達なら心配ない。なんやかんや、腹が立つがやるときはやる男だ」
「えぇ、カズマはセクハラばかりですが、信用は出来ます...おや?そういえばくろぐろ兄さんは何処ですか?見ないですね」
「っ。えっと...ファントムさんは...わからない。ですかね?」
歯切れの悪い答えに、ダクネスは確かにと首をかしげる。
「そういえばギルド以来見ないな...?残念ながらどれほどの弓使いであれ、あの装甲を貫ける力は無いだろう。それを理解したから、今回は引いたんじゃないのか?」
「いえ、多分それはありません」
すると、ダクネスの背中にいためぐみんが即答する。
「何故だ?めぐみん」
すると、めぐみんは落ち込んだ様子で言った。
「実は。私が撃った爆裂魔法ですが、正直に言ってしまいますとウィズの爆裂魔法に及びませんでした....撃った私やウィズしかわからないかもしれませんが。なんというか、手応えが違ったのですよ」
その言葉に、ダクネスは怪訝な顔をする。
「ん?....だが、崩れた部品はこちらには来なかったぞ?つまりは力関係が拮抗しているか、めぐみんの爆裂魔法が勝ったんじゃないのか?」
「はい。だからおかしいのです....ですが勿論、爆裂魔法を使える者など私達二人以外にあの場では他にいません」
「それは、そうだろうな?」
若干ダクネスは濁した。
爆裂魔法の使い手自体、初心者殺しが群れを作る位稀有な存在だからだ。
そんな心中を知らず、めぐみんは続ける。
「つまり誰かが横槍を入れたと思うのですよ.....威力も爆裂魔法には及びませんでしたし、殆んど私のタイミングとズレもなかったのですが」
「えっと...気のせいでは、無いんですか?」
「なにおうっ。私がどれだけ爆裂魔法に費やしてると思っているのですか?その私が言うのですから、間違いはありませんよ」
その声色には倦怠感のせいか力はないが、確かな自信があった。
しかし、とダクネスが苦笑する。
「お前の熱意は伝わっているが.....だが。それで?それはくろぐ...ファントムがやったと言うのか?めぐみん、それは流石に無理というものだぞ?」
「ですがっ、確かに違和感がありましたし...何が起こったかわかりませんが。そんな芸当が出来る冒険者はくろぐろ兄さん以外にいませんよっ」
「でも、それならどうやるんだ?めぐみんに強化魔法を使ったわけでもない、まさか弓で爆発を起こしたと?」
「いえ、方法まではわかりませんが...でも他の冒険者に出来る芸当でもないですし、あり得なくもない、かと」
珍しく、あまり自信は無さそうであった。
ダクネスはさらに苦笑する。
「...っ!」
が、ヒトミは目を見開いた。
心当たりがあったのだ。
それは前に、ゴブリンの群れを倒す際の事である。
彼はウィズの商店で買った魔道具の管に巻き付けた矢を地面に突き刺し、二射目で見事に管を砕き、中に入った爆薬を利用して巨大な爆発を起こして一掃した。
量を入れれば『エクスプロージョン』に負けずとも劣らずの威力すら可能だろうな。
彼はその際にそう言った。
もし、めぐみんが魔法を放つとほぼ同時にそれが出来たら?
否、出来たのだ。それがめぐみんの疑問と直結しているのだから。
何の為か、恐らく...無力化の確率を上げるためだったのかもしれない。
(そこまでして...ファントムさん)
「クルッポー」
「っ...そう、ですか」
ヒトミは鳩の方を見て、悲しそうに呟いてギュッと目を瞑り...立ち上がった。
「.....すいません、行くところが出来ました」
「ヒトミ?」
「うん?どこにいくつもりだ?」
ダクネスにそう聞かれ、ヒトミは振り返って笑う。
「どうしても今、会いたい人がいまして...」
そう言って、ヒトミはそっとハットを外し、大量の鳩を出す。
「っ」
「これは!?」
唐突な事に驚いて目を丸くする二人に、ヒトミは言葉を紡ぐ。
「嫌われるかもしれませんが.....私はそれでも、私が思う恩返しがしたいんです」
バサバサバサバサッ!
二人の視界が、一瞬だけ鳩の白に覆われた。
「「....え?」」
そして気付いた時にはヒトミはそこにおらず。鳩が空を羽ばたく。
ヒトミがいた場所には、白い羽だけが置かれていた。
◆◇◆
そこは、随分とひらけた場所。
他とは比べ物にならない、巨大な扉の前に彼は立っていた。
「...ここが最深部か。大事な書類を隠す一番可能性が高いな」
彼は未だに鳴り響くアラームを無視して扉に手を触れ、止まる。
「っ」
先程とは違う。
確かな気配を、背後から感じたのだ。
「クルッポー」
振り返ると、そこには見慣れた白い鳥の姿が。
彼は扉から離れ怪訝な顔で鳩に近づき、それを見る。
「鳩.....さっきの気配もこれか。なぜ此処にいる?」
鳩は首を傾げるような動作をするだけで、何も語らない。
「『以心伝心』のスキルで、デストロイヤーに乗り込んでからファントムさんに付いて様子を見てもらってたんです....」
「っ...ヒトミか」
彼は一瞬目を見開き、そして声の主の名前を呼ぶ。
声は扉のある背後からするが、彼は振り返らない。
「ファントムさん。止めてください...」
背後のヒトミは悲痛な顔で、乞うように言った。
彼はそれを聞いて、嗤う。
「この際どうやって来たかは聞かないでおくが。それで、何をやめろと?」
「今のそれですよ!もう止めてください」
「それというのは、盗賊のようにデストロイヤーの情報を探るの事か?随分馬鹿げた事を言うな...何故だ?」
「そのやり方は、何て言うか...らしくないですよ!」
「...何だと?」
「いつものファントムさんならもっと淡々として、そこまで必死そうに、辛そうにしたりはしませんでしたよ?」
「っ...!」
その背後からのヒトミの言葉に、彼はピクンと肩を震わせる。
そして、彼は...深い。深いため息をついた。
「......辛そうだと?知ったように言うじゃないか」
心底失望したように、呆れたとばかりにヒトミに向く。
その表情は、いつもの様に呆れて苦笑する。
というよりものではなく、心底ヒトミを嘲た乾いた笑みだった。
冷たい、静かで変な重みすらある、鋭い視線だった。
その刺すような紅い瞳で、真っ直ぐパーティメンバーを見る。
「お前は、俺の何を知っていると言うんだ?」
「っ」
それは、ヒトミを突き放すような言葉だった。
そして、気まずい沈黙を破り彼はポツリと言った。
「......八年だ」
「え?」
唐突な数字に、ヒトミは声が漏れる。
「これは、俺がマトモに矢を射られるようになった年数だ。冒険者になってからじゃない。ガキの頃に弓矢を持って里でいつまでも射続けて、それでようやく戦闘で使えるモノになるまでの年数だ」
「...」
ヒトミは、その言葉に息を飲む。
すると、彼の笑みは自嘲に変わる。
「笑えるだろう?魔法どころか俺は、弓矢の才能も無かった...そして全て本と独学だ。弓矢なんて派手さがなくてダサいと言って、俺の里で使う奴は稀有だったからな...それでも追い付きたい人がいた、だから一人で一から今までやってきた......お陰で冒険者になってアーチャーから『狙撃』スキルを教えてもらった後は、運なんてなくても狙撃は楽だったがな」
彼はそう言って、続ける。
「そしてヒトミは今、レベルはどれくらいまでいった。確か三十そこらだろう?俺は冒険者になってから約三年でやっとそこまでいった...冒険者はレベルが上がりやすいんだがな?」
「そ、それはファントムさんがトドメをくれたり戦い方を...!」
「かもな。だがもうそれは『お前の』だ、『俺の』ではない.....レベルはどうあれ、初期のステータスは残酷だと思わないか?そいつの才能が完全に数値化されるからな。お陰で俺に突出した才能なんてないと突き放される......そして、才能がある奴の殆んどがそれを使いこなせない...『宝の持ち腐れ』だな?」
彼は肩をすくめる。
「ここも同じだ。もし情報がつまった書類があるならその知識がギルドに持っていかれ、ギルドは湯水のように溢れる金を得て。そして知識に肥えている連中が持っていく。そうしたらどうなる?答えは二の舞いだ。下手に才能がある奴等はどうしてか間接的な情報と自分の才能を特に盲信する傾向にあるからな」
彼はヒトミの後ろを指さして言った。
「だが....俺はそうならない。決して『宝の持ち腐れ』はしない。その知識を吸収して有効活用し、今後の俺の為に役立てる」
「っ」
「油断なんかしない。盲信する才能は最初からない。俺にあるのは生きてきて得たこの『経験』と試してきた確実な『知識』だ....例え失敗するとしても、間違え時は見極めている上、反省し次に成功すればそれは失敗ではなくなる」
彼はそう言って、ヒトミへ、扉へ一歩前に出た。
「この機動要塞は実に魅力的だ...その仕組みはまさしく間抜けだろうと稀代の天才が造り出した技術の結晶。何世代も先の技術だ...彼等は目先の危機と腐るほど溢れる金と上辺だけの下らない名声に囚われて、その価値とこの状況をわかっていない......まぁ、俺としては都合がいいがな」
諭すように、ゆっくりと、丁寧に言った。
だが、あまりにも無機質でもあった。
「お前もソイツらと同じだよ、その先にあるかも知れない可能性に気付いていない。そこをどけ、ヒトミ」
しかし、緊張で胸を押さえていたヒトミも引き下がらない。
「っだ、駄目です。ここから先は行かせられません」
扉を守るように、彼の進路に立つ。
「どけろ」
「嫌です。私は今のファントムさんを見過ごせません!」
「お前の勝手なんか知るか」
「駄目です、ファントムさん。戻ってきてくださいよ...!」
「ふざけるな、俺は俺だ。何も変わらない」
「いいえ、今のファントムさんは、違います」
「ならお前の見る目が腐っていただけのことだ」
「いいえ。私の目は腐っていません」
「時間の無駄だなっ、もう一度言う。そこをどけろ」
「嫌です!!」
「っ......!!」
彼は青筋を浮かばせ歯噛みし、吠えた。
「邪魔をするなと言っているのがわからないのかっ!!!」
「ッッ!!」
彼の咆哮に、ヒトミは悪寒がぞくりと走り目蓋が温かくなるのを感じた。
彼は決壊したかのように息を荒げて、ヒトミを睨んだ。
「お前は才能がある!女神にみいられた!そして与えられた...!まさしく選ばれた存在だな?だが。俺は違う!俺がお前を理解できないようにお前に俺の理解はできない!」
「才能があるのは構わないさ!それを生かそうが殺そうがソイツらの勝手だ!!だがお前らは、それを持たない奴の気持ちを考えたことがあるのか!?理解しようとはしたのか!?」
真っ赤な瞳で、殺せるような視線でヒトミを睨む。
「無理だな!『理解できる』は詐欺師の常套句、結局どんなに頑張っても互いを『理解したつもり』にしかなれないんだからな!!お前の行為は善意でも偽善ですらないただの愚行だ!!」
「っ.....!」
「一番気に入らないのは自分すら理解できずに自分の才能を野放しにした上で他の奴等に才能があると妬み吠える奴等だ...!そいつの積み重ねを才能の一言で片付けるのが、俺は腹が煮えくり返るくらい大嫌いだった!」
「それはっ」
「俺には間違いなく才能が無い!ステータスも平凡!紅魔族に生まれて才能もなく、特技と言える代物も持たずに数年を生きてきた...一度で覚えられないから何度も同じ本を読んで知恵を頭に叩き込んだ。森に行って体に毒物か否かを体に染み込ませた。矢を何度も何度も射てマトモ的に当てれるようにまで何年もかかった.....!それでも!そこまでやっても何度も死にかけた!」
「!」
「富も名声なんか知るか!選ばれなくたって構わない!所詮それを享受するのは俺じゃない他人だからな!!」
選ばれない自分、才能の無い自分。
それに比べて恵まれている彼等から、自分はどう映っているのか。
悲観しても仕方ないと割りきって、それでも尚付いてくる足枷。
嫉妬が、自分や周囲への怒りが意思に反して沸々と音をたてる。
彼は肩で息をする。そして少しだけ落ち着いた声色で言った。
「『やれば出来る』は欺瞞だ...才能が無い奴を知らない、それは無意識な暴力だ.....必死にやっても出来ないことはある。死ぬほど積み重ねてやっと人並みに辿り着く奴だっている」
それが、自分だから。
それでも。彼は、小さい頃に憧れを持ってしまった。
追い付きたいという
「それで何もかもを無駄と切り捨てれれば簡単なのにな.....なぁ、求める事の何が悪い?願い求める事の何が悪い?才能がある奴から技術を盗んで何が悪い?お前はここで俺の足枷になって、何が得られる?」
「俺はここで技術を盗み知識をえる。だがそれでも...どんなに積み重ねても才能がある奴等に容易に追い付かれるだろうな?これが笑わずにいられるか?」
ここまで来ても、彼を抜かす冒険者は後を絶たないだろう。
ゆんゆんやめぐみん。ヒトミだって、今は勝っていても数年もしない近い内に彼を優に越える存在になるという確信が彼にあった。
才能がある者が努力をすれば、努力を重ねても届かない場所に行く。
悲観ではなく、冷静に見れるが故に、突きつけられる現状。
努力しても追い付かれる、届かない。
それでもなお、足掻きたい理由がある。
もはや、呪いに近かった。
彼が溜め込んでいた心の嘆きは、あまりにも不遇だった。
「...ファントム、さん」
ヒトミは涙を流しながら、パーティメンバーを見る。
彼の積み重なった重荷は、誰も持つことを許さなかった。
彼自身が、それを許さなかった。
「.....イレイシアで、ある奴が俺を後ろ指をさして『底辺に生きる憐れな運命』だと笑った。理不尽なのは百も承知だが、これが運命などと割り切ってやるものか...!」
紅い瞳は、真っ直ぐであった。だが、そこにはどこか『黒い意志』が揺らいでいる。
彼は息を整えて、矢を
「それに同情なんかこっちから願い下げだ。
それは、先程とくらべて明らかに静かな。
だが確かな殺意のこもった言葉に、一滴の哀しみが混ざっていた。
その彼の胸中を聞いたヒトミは。
それでも、動かない。
「そうか...ならばこのパーティは解消だな。悪いがこれ以上はお前に付き合いきれん、ここでお別れだ」
彼は怒りの感情を抑えるように目を閉じて、無理に落ち着いた声色で言った。
すると、ヒトミは口を開ける。
「それ、でも...私、は。私は、前世では足が動かせませんでした。後天性の、重い病気です」
「....なに?」
片眉を上げる。
「言ってませんでしたよね?昔は普通に歩けたのに突然足が動かなくなったんですよ。でも今は見ての通りです、きっと、いえ絶対に女神様が与えてくれたんだと思います......確かに与えられてばかりにですね、私は」
「...」
彼は、無言でじっと俯いたヒトミを見る。
「確かに私は馬鹿なので、私にはファントムさんの思いも苦しみもわかりません...わかりませんが、でも『理解したい』と思うのは、間違いじゃないと思います!」
「っ」
「...ファントムさん。私は、今までのファントムさんを間違っていないと思います...ですから、これは我が儘と言われて結構です。貴方から嫌われても...スゴく嫌ですが、それでも私は言います」
ヒトミは一拍置いて、顔をあげて言った。
赤くなった目尻で、ハッキリと彼の緋色の眼を見て。
「
「!...ソイツらと、俺は同類だと?」
そのヒトミ言葉に、彼は青筋を浮かべた。
「はい。だから、私が止めます...ファントムさんは前に言ってましたよね...『俺が間違ったらお前が正してくれ』って。それが、今です」
「間違い?お前が止めるだと...?ならやってみろ。お前に教えた技術や知識は、その全てが俺が教えたものだ」
彼は抑えきれない苛立ちの中、それでも感情を押し殺して言った。
今までのヒトミを知っているが故に、パーティメンバーとして接してきたが故に。
だからこそ、絶対に
「...かも、しれませんね」
ヒトミは冷や汗を流しながら、でも笑って小さくうなずく。
「ですが...『マジシャン』はそのタネを明かしません。ファントムさんに教えたのはその極一部のスキルです。ですから...」
「勝てると?...時間は惜しいが、いいだろう」
そう言って、彼は弓矢を下ろした。
「え?」
その行為にヒトミは一瞬戸惑うも、彼は矢を入れた箱の、胸の留め金を外しながら静かに返す。
「勘違いするな。マモトな鏃、毒や麻痺矢はデストロイヤー戦では不要と判断したから持ってきていないだけだ。煙玉や他の管もな。だから移動用のハーネスを腰に付ける容量が空いたわけだが....それに、この鏃では俺も爆発に巻き込まれる。使うとしたらただの脅しだ。さっきみたいな、な?」
彼は自分の弓を地面に放り、矢の入った箱をその近くに投げた。
彼は投げた弓矢に視線を当てながら、仮面のような表情で言った。
「しかし。それが誤算だったな...とんだ伏兵だよ、ヒトミ。ここまで俺の怒りの感情を出させるとはな。この感情操作にはマジシャン冥利に尽きるんじゃないか?」
「...マジックは、人を楽しませる為にあります。怒らせるためではないです」
「そうか。ならこれからお前は人を楽しませる物で人を傷つけようとする訳だな」
皮肉なものだな?と彼は苦笑しながら腰の横に挿していた短剣を抜いて、その刀身を眺める。
「これは付けられる余裕があってな...しかし、お前と会った頃は初心者に毛が生えた位だったが、今では駆け出しのこの街では上位レベルだと自負している」
彼はそう言って指を器用に動かし、クルクルと短剣を回す。
そして彼は指を止め、ヒトミにその刃を向けた。
「殺す気で行くぞ、ヒトミ」
「っ...」
ヒトミはそれに一瞬息を飲み、そして。
「遅い」
「!」
彼はその隙を突いて駆け、ヒトミの肩を短剣で刺した。
その刹那。ヒトミの体は鳩と化す。
「なんだとっ...!?」
彼は目を見開く。
「驚きましたか?ファントムさん」
そして、背後からの声に歯噛みする。
「っ.....ふざけている。訳ではない、か」
振り向くと、刺した筈のヒトミの肩には傷一つ付いていない。
「はい、大真面目です。これから行うのは私のマジックショー。観客はファントムさん、あなただけです.....タネも仕掛けもございません」
ヒトミは鳩に紛れながら、ハットを胸の前に向かわせて深くお辞儀をする。
最中、彼女の脳裏にある光景がフラッシュバックした。
『....あの子ったら、真面目すぎる事があるんだよね~....それに私じゃあ変に気を遣って抱え込んでいる物を吐き出してくれなかったんだ』
台所で、りえりーは椅子を使ってヒトミと並んで楽しい会話をしながら下準備をしていた時。
その言葉は突然放たれた。
『....りえりーさん?』
突如変わった声色に、ヒトミが怪訝な顔で彼女の方を向くが、りえりーはどこか寂しい笑みを浮かべたまま、巧みに包丁を使い暴れていた野菜の皮を剥く。
『こんな事言うのは親としては失格かもしれないけど...ねぇ、ヒトミちゃんにお願いしてもいいかな?ずっと一人で、誰かと見えない壁で接してきたあの子が....勝手に何も言わずに里を出ちゃったあの子が、初めて誰かをここに連れてきた。貴女に』
『...っ』
りえりーは手を止め。自虐的な、どこか切ない笑顔で言った。
『....彼の隣にいてあげて、意見を言える対等な存在になってくれないかな?』
目を開けて、意識が現実に戻る。
「...もう、早すぎますよ?」
そして、ヒトミはボソリと呟いて小さく笑った。
あの時、何も言えなかった自分はどんな顔をしていたのだろう。
(いつも震えてばかり、足引っ張ってばかりの私に、こんな事が出来るかなんてわからないけど....)
「ファントムさん...是非、私の成長をご堪能してください」
ヒトミは帽子を被り、そっと顔を上げる。
(やるしか、ない)
そこに、もう迷いは無かった。
やばい....コメディが翼を生やして飛んでいったぞ...。
「俺を呼んだか?」
ハッ、その声はシリアス先輩!?
「次回はヒトミとファントムが闘うんだろう?俺の出番じゃねぇか!」
うっ、確かにそうですね...戦闘描写にコメディ要素は厳しい....ここはシリアス先輩の独壇場か。
「っしゃぁぁぁぁ!!」
......まぁ、とは言っても残り後篇とエピローグの二話ですがね?
「っ!?」