この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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違うんです.....完結はしているんです.....
言い訳は後書きにてするので.....

とりあえず、お久し振りです。
そして少し早いですが、明けましておめでとうございます!


愉快なアフターストーリー集
この遠距離な二人に祝福を!


 

「..........はぁ」

 

  朝露の残る早朝。

  まだ外は暗く、冷たい風が吹く。

 

  そんな中で、二つある人影の一つが嘆息を漏らした。

 

「ファントムさん、ため息は幸せが逃げますよ?」

「なら残念だが、ため息しなくても徐々に俺の幸せは逃げてるぞ.....というかこの程度で幸せが逃げるのか?」

 

  その男女二人は、王都から出て少しした所の茂みの中を歩いていた。

  男が先行して道を開き、女は男の袖を指でつまみながら進む。

 

  はたから見たら二人のカップルに見えなくもないが、

  残念ながら、そんな関係ではなく迷子防止である。

  彼の嘆息の原因も、呆れから来ていた。

 

  彼女、ヒトミは少し複雑そうな顔をする。

「久し振りに一緒になれたのに.....なんかこれ、子供扱いされている気がします」

「なら方向音痴もしくは直ぐものに飛び付く癖を直せ。本業は冒険者で合ってるよな?」

「失礼な..........あ、せめて手を繋ぎません?」

「モンスターが来たときに対処しにくい」

「お姫様抱っこは?」

「話聞いてたか?片手から両手を塞いでどうするんだ」

 

「.....子供っぽくないですか?なんか袖を掴むのは」

「大人になりたいならまず俺から離れても安心できる様になれ」

 

「ではいっそ私を背負いません?」

「..........もしかしてさっきから、触れてる箇所が多いのが大人だと思ってないか?」

  ヒトミは頬を膨らませる。

「むー、何ですかファントムさんわかったような言い方して。まるで経験があるみたいな」

 

  彼はとある人物の影響を受けてから、ずっと弓を握って生きてきた。

  不器用ながらにひたすら鍛え続け、他をおざなりにしてでも力と知識をその身に叩き込んだのだ。

 

  つまり、冒険者として以外の知識や経験は皆無に近い。

  と、ヒトミは考えている。

 

「いや、あるからな?お前の言うお姫様だっこも含めて」

「..........え?ええ!?」

  が、その返答は意外なものだった。

 

「おい、声がでかいぞ」

「え、いやだって.....嘘ですよね!?」

  淡々としている彼に、ヒトミは目を剥いて声をあげる。

 

「あ、相手は!?相手は誰ですか!」

「いや、まずは声の音量を低くしてくれ。頼むから」

「どこの女狐さぐむぅ!?」

「お前は.....一から教えないとダメか?大声を出すな、わざわざ敵を呼び寄せるのは前衛職の仕事なんだぞ?俺達が剣や盾、重厚な鎧を着けているように見えるのか?」

  振り向き様にヒトミの口を塞いで、彼はそう言った。

 

  内心で「ファントムさんのガードの固さは要塞並みですよ!」と言おうとしてやめたヒトミは偉い。たぶん。

 

「ここは比較的モンスターの発生は少ないが、ゼロな訳じゃない.....もし億が一にでもオークが出てきたら俺はお前を見捨ててでも全力で逃げるぞ」

「.....あー、そういえばそんな事もありましたね」

  彼の死んだような目を見て、彼の手をそっと外したヒトミが苦笑する。

  あれは酷かった、と珍しく彼は身震いした。

  思い出したくもないのか、再び歩き始めた歩調は早かった。

 

 

  彼は大量の雌オークに追われた経験があるのだ。

  目をハートにして、無限に近い体力で追い回され。

「抱いてやるぅぅ!!」「オスだ!オスダ!!!」「搾り取ってやるからまでぇぇぇ」と叫ばれながら。

  挙げ句隠れても匂いで追跡され。

  倒しても倒しても無限に湧いてくる。

 

  本気で貞操と命の危機を感じたと後に彼は語る。

  恐らく数年一緒にいたヒトミが彼の『本気』を見たのはあれで二回目だろう。

 

  ちなみに女性であるヒトミに実害は皆無だった。

  彼は知らないがむしろ一緒にオーク達とお茶をしていた始末である。

  魔王の幹部ベルディアの愛馬を手懐けた過去といい、謎のコミュニケーション力をヒトミは持っていた。

 

  そんな事を思い出していたヒトミは、まさかと言った。

「.....え?ひょっとしてオークを相手にしたんですか?」

「やめろ!それだけは間違いでもやめろ!」

  思いっきり否定された。

  本当に嫌だったらしい。

「ちょファントムさん、声が大きいですよっ!?」

 

「いいか?頼むから『名前を呼んではいけないその

 モンスター』の話題は出すな」

「そんな湧いて出る訳じゃないんですから........無駄に必死ですね、そんなに誰かバラしたくないんですか?」

 

  ファントムは呆れた様に、半目で拗ねそうなヒトミをみる。

「ほぼ全部お前にしただろうに.....待てよ。そうか、そういえばヒトミはあの時に気を失っていたか?覚えているわけもないか」

「えっ?ちょ。ちょっと待ってくださいよ」

「他と言われてもな。めぐみんは何度も背負っていた、ゆんゆんはよく迷子になって手を繋いで家に帰してた.....まぁ構ってほしくてわざとだと知ってからは放っておいたが」

  一瞬だけ彼の顔に影がさす。

 

「え.....と。ファントムさん、私にそんな美味しいイベントをしてたんですか?」

「イベント.....?まぁな。デストロイヤーの件で脱出するときにやったぞ」

「なんと.....つまりファントムさんは私が知らない内に私の体にイロんな事を」

「してないからな?出来る状況でもなかった、出来てもしないしな」

「.....ちっ」

「今舌打ちしたよな?」

 

  二人の間に、少しの沈黙が訪れた。

 

「なんだか、懐かしいですね。二人きりで冒険なんて」

「.....そうだな。王都では予定が合わないからな」

「たまに予定が合っても基本的にアルタリアさんが一緒ですしね。それも楽しくていいんですけど.....アクセルの頃が懐かしいです」

「今の方が大分.....マシになったか?」

「冗談でもそこは頷いてくださいよ」

  そういうことではなくてですね、と訂正する。

「彼処にはお世話になった人達がいるじゃないですか」

「まぁな。カズマ達なら名前を着実に上げている。たまに王都に来ているらしいぞ?」

「次会ったら連絡ほしいですね、またアクア様と遊びたいです」

「.....周りの迷惑を考えろよ?特に俺とカズマの」

  ヒトミには見えないが、真顔で彼は言った。

 

「.....あれ、そう言えば今回は何をするんですか?」

「お前は.....聞いてなかったのか?」

  彼は本日二度目の嘆息を漏らす。

 

「俺の生徒の一人が、洞窟に大切なものを落としたらしくてな。それを探しに来たんだ」

「........」

「ヒトミ?」

  返事がない、気配はするので彼は振り返らないが。

 

「ちなみに、生徒さんは女の子ですか?」

「そうだが?」

「.....」

  返事がない、理由は定かじゃないが嫌な気配がするので振り返らないが。

 

「?それで、依頼として出すには恥ずかしいから俺に頼んできたらしい.....どんな物なんだろうな?小さな箱に入ってるらしいが」

「小さな箱ですか?」

「あぁ。依頼として出して、不粋な冒険者に中身を見られたくないんだろ?そういう輩もいないわけではないしな、ゴリラとかは周囲の否応なしに箱を開ける。その点俺なら任せられるらしい」

「随分、信頼されてますね」

「いいように使われている気もするがな」

  彼は別に疑問を持っているわけではないがヒトミは少し嫌な予感がしていて、内心穏やかではなかった。

 

「別の先生ではダメだったんですか?」

「さぁな、別にダメという訳じゃなくて頼みやすいんだろう。今日は空いていたしな。俺も断る理由もない、元々アイツとは顔見知りなのもあるが」

「?それは、どういうー」

  彼の言葉の意味がわからず、聞こうと思った刹那。

 

「見えてきたぞ」

  茂みを抜け、二人の眼前には洞窟があった。

 

  着く頃には、陽が昇っていた。

 

 ◆◇◆

 

  洞窟の前で、彼は荷物の確認をしていた。

「全く........貴重品なら家に置いとけば良いものを。探索の依頼でもあったのか?」

 

  彼は現在、新米冒険者達の教鞭を取っている。

  新米の冒険者達も、学費や生活費稼ぎ、そして何より得た知識を使うために難易度に合った依頼を受けるのだ。

 

  王都では彼の持つ知識や経験を重宝する者も少なくない。

  元々物事を咀嚼する彼の癖が功を奏して、現在の職に至る。

  まぁ、性格が性格なので教師生徒共々好き嫌いはハッキリしているそうだが。

 

「良し、何も落としてないな.....ヒトミは大丈夫か?」

「あっ、は、はい」

「?.....その生徒の話だとそこまで奥にはいってないそうだから、直ぐに見つかればいいんだが」

  ヒトミの反応に怪訝な顔をするが、彼は話を続けた。

「そう、ですね」

「ヒトミは入り口から探してくれ、俺は少し奥から探してくる」

  そう言って彼は洞窟の奥に入っていった。

 

 

「.........おかしいです」

  ポツリ、と探す素振りをしながらヒトミは言った。

(女の勘というやつですかね.....すごく嫌な予感がします)

 

  彼の話を聞く限りでも、不審な点が多い。

『顔見知り』というのも、なんだか気になる。

 

 ..........結論から言うと、ヒトミは直ぐに箱を見つけた。

  どこか高そうな容器は土埃を被って、恐らく落としたそのまんまであろう形で発見された。

 

  どうやって見つけたかというと、彼女の『チート』だ。

  忘れかけているが、彼女は異世界から来ており、その際に神様から『超凄いトランプ』を貰っている。

 

  名前だけならば全く伝わらないが、かなりの高性能。

  敵ならば何でも斬れる、投げても帰ってくる、無くしても戻ってくる、耐水耐熱耐圧なんでもござれの、彼いわく一家に一枚は欲しい代物である。

 

  そして今回そこに、ダウジング機能が追加されたのだが。

 

  ヒトミはそんな事、気にしていなかった。

  否、気にする余裕がなかった。

 

「..........マジ、ですか」

  罪悪感を感じながらもその箱を開けて、中身を見ていたから。

  そこには女性にしては少し大きいサイズの指輪と、一枚の紙が入っていた。

 

(指輪.......それにこの手紙)

『毎日本当にありがとう、口には出せませんがいつも感謝してます』

  丁寧に開けるとそんな文字が書かれていた。

  明らかに女性の字であろう可愛らしい丸字だ。

 

  嫌な予感が、加速する。

 

  これは、これは。

  ヒトミの頭をフル回転させる。

 

(サプライズラブレター.....なのでは?)

  愕然とする。

 

「いえいえいえ。落ち着きましょう」

  ショックを受けるのには早い。

  まだ彼宛と決まったわけでもなければ、ましてやその女の子が彼に想いを寄せていると決まったわけではないのだ。

 

  しかし、しかしだ。

 

  指輪である。

「女の子友達では?」

 

  明らかに女性サイズではない。

「これは行き過ぎた友愛表現とか?」

 

  彼に信頼を置いているとか。

「それは一生徒、一教師として誇らしいですよね!」

 

  何故自分で取りに行かない?

「ファントムさんの方が探すのが上手いからとか!?」

 

  顔見知りらしい。

「イレイシアとか、アクセルで知り合った子かもしれませんよね!?ほら、あの人は少し性格がー」

 

  その上で信頼されているのでは?

「..........」

 

  その上で信頼されているのでは?

「そ、それは「ヒトミ、見つかったのか?」うわっひゃぁ!?」

  彼の声が、背後から聞こえてとび跳ねた。

  出したことないような奇声と共に。

 

「なんだあるじゃないか。見つけたなら言ってくれ。これで次の日から探す手間が省けたな..........そういえば先程から何か言っていたか?」

「えっ」

「もしかして.....既に見つけたこと知らせようとしていたのか?」

「え..........あ、そ。そうですよ!?中々返事がこないなーなんて思っちゃってました!」

(あ、危なかった。セーフです!)

  ヒトミ自身慣れない誤魔化しにかなり脂汗を流しているが、彼は。

「そうか、悪いな?では戻るとするか」

「は、はいぃ」

 

  彼と久しぶりに二人きりだったというのに、別の事でチャンスがあっという間に過ぎてしまった事にすら気付かず。

 

  ヒトミは、悶々としたまま王都に帰るはめになった。

 

 ◆◇◆

 

  王都に戻り、二人は真新しい大きな建物の前で止まる。

  そこが、彼の職場である。

 

  冒険者を育成する学舎。

  老若男女問わず、中には中堅と呼ばれる冒険者でも通っている者も少なくない。

 

「悪かったな付き合ってもらって」

「い、いいですよ」

「.....なんか目が泳いでないか?」

「き、きにしないでくだひゃい」

  噛んだ。

「そうには見えないが.....詫びと言ってはなんだが、見ていくか?見学くらいなら許可を貰えば可能だろう。お前も一冒険者として学べることがあるだろうしな」

「いいんですかっ!?..........あー。いえ、今回はやめておきます」

「?そうか、じゃあ悪いがこれを届けてくるからな、またな」

「は、はい」

  彼もそれ以上は詮索せず、背中を向ける。

 

  そして、ヒトミはそれに尾けていった。

  基本的に隙がない彼も、流石に生徒達が多いこの数ではヒトミには気付かないだろう。

  そしてその推測は正しかった。

「なぁ.....なんだあれ?」

「誰か潜伏の練習してんじゃね?真面目な奴」

「見えまくりだけど.....」

  この学舎の生徒達からの目線はすごかったが。

 

  すると、その時はやって来た。

  彼は立ち止まり、誰かに箱を渡すのが見えたのだ。

 

  話が聞こえる位置までスススと前進する。

 

「本当に.....先生、ありがとうございます!!」

  そこにいたのは、長い赤い髪を後ろに纏めた可憐な少女がいた。

  軽装で、しかも背中には弓と矢を入れる箱がある。

 

  内心で「彼とお揃いですと!?」と叫ぶヒトミを余所に。

  深々と頭を下げる彼女に、彼は苦笑した。

「気にするな、だがもうなくすなよ?」

「はい!今日はお休みなのにワザワザ.....ありがとうございました!」

 

  そして、立ち去ろうとした彼を呼び止める。

  その頬は紅潮していた。

「あの、それで先生。箱の中身みました?」

「いや?見てないが.....どうかしたのか?」

「良かった.....じ、実はこれをあげたい人物がいまして。相談できるのはよく知ってる先生だけで.....」

 

(ま、まままままさかここでするんですか!?)

  唐突な展開に、咄嗟に口を塞いだヒトミは目を丸くする。

 

  ヒトミは葛藤する。

  もはや、確定だ。

  となると問題は、彼がお付き合いを了承するか否か。

 

  彼に限ってそんなことはない.....と言い切れるだろうか?

  もしや飢えているのでは?

  昔の彼ならあり得ないが、今の彼は良くも悪くも物腰が若干柔らかくなっている。

 

  昔の彼なら「それは俺に得があるのか?」等と言って一蹴.....そもそも、教師にもならなかったろう。

 

(「彼氏彼女の関係か.....確かに気になるな」とか言って付き合い始めるのでは.....!?)

  ヒトミは案外あり得そうだと、失礼だが考えてしまった。

 

(で、でも。邪魔するのは.....!!)

  彼女の顔を見れば、本気かどうかなどわかる。

  かなり本気なのは、火を見るより明らかだった。

 

  それを邪魔するのは、少し、否かなり気が引ける。

「実は、これをー」

 

「やっぱ無理ですぅぅぅ!!」

  ヒトミは駆ける。

 

  自己犠牲の優しさよりも、己の恋路のためにー!

「あれ?ヒトミじゃねぇか!」

 

「.....ぁえ?サンテリアさん?」

  しかし、背後から聞き慣れた声をかけられて止まる。

 

「久し振りだな.....ん?何でここにいるんだ?もしかしてクロに呼ばれたのか?」

「え。いや、これは.....あっ、今はそれどころじゃないんですよ!ファントムさんがー」

  突然の知り合いに狼狽するヒトミ、

「お姉ちゃん!?」

  少女が騒ぎに気づいてこちらをみると。

  サンテリアを見て驚愕した。

 

 

「..........へぇ?」

  思わず、ヒトミから間抜けな声が漏れた。

 

  メルティアはサンテリアに駆け寄る。

「どうして!?わざわざ来てくれたの?」

「おお!たまにはな.....メルティア。勉強頑張ってるか?」

「うん、先生の教え方上手なんだよ!」

「なんだ来ていたのか.....まぁ、誰かさんとは違って覚えが早くて助かる」

「んだとぉ.....?まぁ、元気そうでなによりだ!」

  アルタリアは難なく会話のなかに入っていった。

 

「??」

  ヒトミは完全に蚊帳の外である。

 

「うん!.......それで、ね?.....はい!」

  モジモジしながら、メルティアと呼ばれた少女はその箱を渡す。

 

「えっ」

  サンテリアに。

 

  怪訝な顔をしたが、箱を開ける。

「なんじゃこりゃ.....指輪に、手紙か?」

「ほら、私って姉孝行が出来てないから.....家事とか、そういう形でしか返せないけど。実は毎日感謝してて、その。頑張って依頼をこなして安物だけど.....大好きだよ?」

「っ.....バカ妹、その気持ちとお前が元気なら充分だってのに」

  サンテリアは見たことない程柔らかく笑い、メルティアの頭に手を置く。

  そしてメルティアは涙目で嬉しそうに笑った。

 

 

 

「..........あ、あれー?」

 

  それをどこか穏やかな顔で眺めている彼に、ヒトミはどこか脱力してフラフラとした足取りで近づく。

「あ、あの。ファントムさん?」

「?いたのか、てっきり帰ったと思っていたんだが」

「アハハ.....それよりも気になるんですけど」

  何から聞こうか、と悩んだ挙げ句。

 

「サンテリアさん、妹がいたんですか?」

「年差はあるがな.....?なんだ、てっきりアイツから聞いていると思っていたんだが」

「え、えぇ......!?」

  ヒトミはサンテリアとメルティアを交互に見る。

  燃えるような赤髪と瞳の色は同じだが、身長といい体格といい。

  正直全く似ていない。

 

  サンテリアに至っては、最悪母親よりも父親に間違われそうな勢いすらある。

 

「訳あって親とは離れていてな。サンテリアが食費を稼いで妹を食わせているんだ。アクセルにいた数日だって仕送りしてたんだぞ?」

「そ、そうなんですか?」

「まとまった金が出来てイレイシアから一緒に越してきたらしい、メルティアも冒険者を目指すならばついでにってここで通ってるんだが.....どうした?俯いて」

「そ、それじゃあ顔見知りって」

「まぁ、サンテリアと冒険していたら知り合うだろう?」

 

「..........そ、そんなぁ~」

  ヒトミはへなへなと脱力して、膝を着く。

 

  つまりは、全て自分の行き過ぎた勘違いだったのだ。

  変に警戒して悶々としていたのがバカらしく感じる。

 

  すると。ふと、大量の視線を感じた。

「なぁ、やっぱあれマジシャンのヒトミさんじゃないか!?」

「あ、マジだ!!本物だ!先生とパーティー組んでるって噂マジだったのか!?」

「サインもらおうぜ!」

  ヒトミを知っていた生徒たちが、指差して言った。

  それは伝播し。まるで光の速度で広がっていき、人の群れは更に大きくなる。

 

「あっ.....」

  波のように押し寄せる人に、ヒトミは思考が一瞬止まった。

  が、ヒトミと人の群れの間に一人の人影が立った。

  彼だ。彼は見透かすような瞳で、生徒達を見る。

 

  そして彼は、全員が聞こえるように少し声を張り、淡々と言い放った。

 

「うるさいぞお前ら、これ以上俺のツレに構うなら次の俺の講習は実技体育にするぞ?」

 

 

「「「「.....」」」」

  一瞬にして、喧騒が嘘のように止む。

 

「よ、よぉし、勉強がんばるかぁー!」

「座学大好きだぜ!!」

「おい早く戻れよお前ら!!先生の気が変わったら終わりだぞっ!!?」

  生徒達は合わせたかのようにクルリと百八十度回る。

  そして集まるときよりも早く、生徒達は各々の教室へ駆けていった。

 

  あまりの掌返しの早さに、唖然とするヒトミ。

 

  彼は嘆息を漏らし、そんなヒトミに向き直る。

「......悪いな。ヒトミ、アイツらも有名人が来てはしゃいだだけなんだ、許してやってくれ」

「あ、いえ。助かりました」

「俺は今日は空いてるが、メルティアも教室に戻れ」

「あの、先生..........体育は嘘ですよね?」

「さぁな?お前らの授業態度で嘘かどうか決めてもいいぞ」

「えっ.....じ、じゃあね姉さん、先生!ヒトミさんも!私色々応援してますから!」

「おう!またなメルティア」

「あぁ」

「あ、ありがとうございます!」

  メルティアも手を振りながらパタパタと教室へ走っていった。

  若干小走りなのは気のせいではないだろう。

 

  そんな彼女を見送った後で、彼はヒトミを見る。

「そういえばヒトミ......今日は具合が悪かったのか?」

「ふぇ?」

「朝方から難しそうな顔をしていただろ?」

「っ」

  ヒトミは息を飲む。

 

「風邪の類いではないのだろうが、悩みか?」

  なんとなく、気付かれていた様だ。

  彼の観察眼は、全く衰えていなかった。

 

「え、えぇと」

  どうやって説明したものか。

  ヒトミは、なんだか散々な今日を振り返る。

 

「本当は、悩みがあったんですけど.....」

(大変だったけど.....でも、楽しかったかな)

 

「いえ、何でもないですよ。もう解決しました」

「?そうか」

「はい」

  怪訝な顔をする彼をみて、ヒトミは微笑んだ。

 

「なぁに二人の世界に入ってんだよ?」

「あっ、サンテリアさん」

「どうしたゴリラ?」

「誰がゴリラだ..........ったく。ま、邪魔物は失せることにするぜ、妹の元気な姿も見れたしな」

  サンテリアはそう言って立ち去る。

 

  余談だが、二人が向かっていた洞窟は『縁結びの洞窟』と言われており、実は姉の話からヒトミの想いを察して、影で応援していたメルティアの計らいだった。

  それを知ったヒトミが内心でメルティアを「師匠!」と呼ぶのは、まだ先の話。

 

 

「なんだ?妙に聞き分けが良かったな........まぁいいか、ところでヒトミ。これからどうする?」

「は、はい?」

「ずいぶん時間が空いたからな.....今までの冒険者生活から、一人仕事ばかりで疲れるだろ?俺は慣れてるが、たまには羽を伸ばせ。愚痴くらいなら付き合うぞ」

「........」

「どうした?やっぱり調子がー」

「いえ、そんなに優しいファントムさんが珍しすぎて驚いていました!」

「帰るか、解散」

「わぁぁ!待ってください冗談ですから!!.....そうだ!気付いたら新しいスキルが増えていたんですよ!舞台でやるわけにもいかないので、是非ファントムさんに見て欲しいです!」

「『マジシャン』のスキルって結局仕事に繋がるだろ..........まぁ、お前がいいなら付き合うさ」

「ありがとうございます!それでは行きましょ「あれ、くろぐろ兄さんではないですか!?」.....え?」

 

  二人が外に出た刹那、懐かしい顔に会った。

「めぐみんにカズマ?王都に来ていたのか.....それにしても二人だけか?珍しい組み合わせだな?他のパーティーはどうした?」

 

  カズマはキョトンとして、そしてヒトミの方を見て顔を明るくさせる。

 

「ヒトミ様!?お久し振りです!畏れ多いですが是非また私にマジックを見せてくださいね!」

「え?あ、はい.....はい?」

  思わず了承したが、流石のヒトミも首をかしげる。

「ということは、貴方がくろぐろ先生ですね!初めまして、お噂はかねがね。会いたいと思っていました!」

「.....初めまして、だと?カズマ、じゃないのか?」

  彼も目を丸くしながらカズマ(疑問)の握手に応じた。

 

「はっ、そうでした。今はお兄様の体でしたね.....混乱させて失礼しました」

  すかさず、カズマは彼の手を放し深々と頭を下げる。

 

  もはや、悪寒すら感じる。

  自分の非を認め、素直なカズマ。

  口調も変だが、何より全身から漂わせる悪気がない。

  隙あらばパーティーメンバーの胸元等を見るような下心を一切感じさせない。

  スッキリした、とても礼儀正しそうな好青年に見える。

 

(まるで、別人じゃないか.....?)

 

  既に、混乱状態の二人。

  ヒトミは「?.....?」と何度も瞬きし、彼はすっと目を逸らした妹分の方を見る。

「おい、どういう状況だ?」

 

  目を逸らし、そして泳がせている。

  指をツンツンと合わせている。

  彼はめぐみんと付き合いが長いが、かなりわかりやすい。

  何らかの負い目があるということだ。

 

「え、えっとぉ.....これにはふかぁい訳があってですね?私の意思ではないのですよ!?今このカズマは.....じゃなかった。カズマの『体』には、実はー」

 

  観念したように、めぐみんは言った。

 

「.....精神だけ入れ替わっていて。今カズマの体にはアイリス姫の精神が、この国の第一王女が入ってます」

 

 

「「.....はっ?」」

 

  この後、この出会いをきっかけに二人は王都を巻き込む大きな陰謀や喧騒に足を突っ込む羽目になるのだが。

 

  それはまた、別の話。




さぁて、言い訳の時間です(遠い目)
リクエストから数日。
「この作品にアフターストーリーの需要あったのか.....こうしちゃいられないんじゃね!?」
と書きためていた他作品を放って書いていたらこの有り様。

クオリティ?なにそれ美味しいの?
時系列?後付け設定?知らないな上等で書きました。

作風や口調が忘れていそうなので読み直して誤字脱字のパレードに赤面しながら思い出して書きました。

サンテリアは『ゴリラ』というのだけは覚えていた私、もはやサンテリ.....おや?誰か来たみたいなのでこの辺で切りましょう。

誤字脱字があれば、報告願います。

リクエストがあればまたやる
.....かも(強調)

感想・高評価はいつでも歓迎です。
では!
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