この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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ω・`)
(´・ω・`)ノポイッ =(次話)

)≡3≡3


サブタイ語呂悪い.....。


この黒い盗賊に窮地を!

「......」

  彼は困っていた。

 

  というか、軽く恨んですらいた。

 

  何を?誰に?と聞かれると、該当するものが多すぎて答えに窮する程には。

 

  確かに色々あった。

 

  様々な偶然が重なり、結果としてそれは起こった。

  それは否定しない。

  揺るがない事実なのだから。

 

  しかし、しかし。と。

 

  彼は何度も読んだ号外を、死んだ目で眺めていた。

 

『~速報!謎の盗賊数名が王城に侵入、金品を漁り逃亡か!?現在首謀者とおぼしき数名には懸賞金かかり捜索中~』

  なんと、王都の城に忍び込んだ不届きものがいるらしい。

 

  その下には、恐らく懸賞金であろう金額とお尋ね者の特徴が。

 

  盗賊率いる銀髪の首領 二億ヴァリス

  黒マントの男 一億ヴァリス

  仮面の男 七千万ヴァリス

 

 

 

『黒マントの男 一億ヴァリス』

 

 .....はて、魔王の幹部の懸賞金はいくらだったか?

 

  彼はそう思った。

  勿論記憶している。

  戦闘したことがあるベルディアが三億。

  彼はその三分の一の金額を掛けられた訳だ。

 

(.........まだ、安い方だ)

 

  これは彼にしては稀の、現実逃避だった。

 

 

  確かに、彼は偶然にも王都の厄介事に首を突っ込み。

  そしてとある魔法具を利用した悪どい計画があると知った。

 

  なんでも体と精神を入れ替える道具らしく、入れ替わった状態で元の体の主、つまりは別の精神が入った自分の体が死ぬと、入れ替わったその体を維持できるというものだ。

 

  つまり、意味合いは少し変わるが事実上の不死になれる。

 

  そして厄介事というのは、とある貴族がそれを利用しようとした企みを阻止したいというものだった。

 

  善意というよりはヒトミに引きずられる形で参加したのだが。

  己の持つ全力と道具をつかい建物を駆け上がり、潜入して、気配を消して、さらに囮までやった。

 

  思った以上に世間の反響を呼んだらしい。

 

  それがこの金額である。

  ちなみにヒトミには表の方でスパイ紛いの事をしてもらったので懸賞金はない。

 

  どこぞの長い青髪の様に、肝心なところで何かをしでかしてボロが出そうだったからというのは秘密だ。

 

  回想を終え。

彼はとても冷静に自分の立場を振り返った。

 

  彼は今、冒険者として金を稼いでいる。

  また同時に、若い冒険者に教鞭を取っている。

 

  そして昨日、盗賊になった。

 

  冒険者であり、講師であり、盗賊である。

 

..........どうしてこうなった?

 

  特に三つ目だ。

  正体がバレれば王都では即捕まり信用も地位も失うだろう、だがかえって彼の故郷ではかなりウケが良さそうだ。

 

  絶対に隠蔽しなくてはならない。

 

  もしバレれて故郷の妹分の一人がそれを題材に小説なんて書こうものなら彼はそれを読んで燃やして灰をジャイアントトードに飲ませるだろう。

 

  いつバレないかヒヤヒヤとかはしないが、彼のメンタルは確実に抉り取られていた。

 

  目立つのは構わない、羨望を受けるのも問題ない。

  腐れ縁もあって国のためとはいえ泥を被ったのはまぁ致し方ないという事にしておこう。

 

  罵声は聞きなれた、無粋な輩になぶられる前にし返せばいい。

 

(だが、里の奴等にだけは察せられたくない.....!!)

  しかしこういった形で有名になるのは頂けないという。

 

  有名になり帰郷する気恥ずかしさとは全く別。

  なんというか、同族から同類に近い目で羨望を受けるのが嫌だった。

 

  本気でキラキラした眼差しで見られる。

  曇りない眼差しで。

 

  これはもはや確定事項であった。

 

  紅魔族では考えられない非常に一般的な思考の持ち主である彼としては、阻止したいものがあった。

 

  だが、それは叶わない。

  何故ならこの案件はカズマ一行も噛んでいるからだ。

 

  つまり、つまりだ。

  典型的な紅魔族のめぐみんが、この事態をどう思うかなんて火を見るより明らかである。

 

  それ以来カズマ一行は数日王都に滞在するらしく、はたりと会うたびにめぐみんが凄くニヤニヤしながら見てくる。

 

「おや~?黒いマントのくろぐろ兄さんではあっや、やめ.....いたい、いたいですやめてくださいあぁ.....!!」

 

  その度に眉間を指でグリグリ押しているのだが、反省の色は見られない。

 

 ◆◇◆

 

「あれ、ファントム君!少し振りだね」

 

  ギルドで手頃な依頼を探していると、懐かしい声が聞こえた。

 

「........クリスか」

「そうだよ、ギルドでなんて奇遇だね。普段は講師の仕事で忙しいんじゃなかったの?」

 

「休みは度々貰うさ。腕も鈍るしな」

「それは教える側としての意地かな?大変だね」

「別に、教えることも学べることも無くなれば手を引く予定だ。そのつもりで契約もしているからな」

「......変わらずサバサバしてるなぁ君は。そうだ、決まってないなら君も来ない?今から受ける依頼は結構割がいいよ」

 

 

  彼女の提案に、彼は難色を示す。

 

「次は貴族か?断る」

「違うよ!君の中で私はどんな扱いなのかな!?」

「盗賊だが」

 

  即答されて、クリスは肩を落として軽く手を振る。

 

「.....違う違う。今回はちゃんとした依頼だよ」

「税を払わない悪徳貴族の財産か」

「国公認という意味じゃないからねっ!?敬愛なるエリス教徒はそんなことしません!調査。新しく発見された洞窟の未踏場所の調査だよ、モンスターが出たときの護衛が丁度欲しかったんだ。秘密を共有している君なら信用も出来るしね?」

 

  クリスは意地悪くウィンクする。

 

  既にお察しだろうが。

  クリス、彼女こそ『盗賊率いる銀髪の首領』である。

  彼女の職業柄、隠密な行動や潜入は相性が良い。

  彼も『潜伏』スキルを初めとして長年の練成があるが、本職には及ばない。

 

  さらに細い体型も恵まれて狭いところもお手の物だ。

 

「.....今私の体型をバカにした?」

「?まさか、何故だ?」

 

  クリスは胸を隠すように手を当てながら体をよじり、少し頬を赤らめて言った。

 

「.....なんでもない」

  半目だが、クリスは一応警戒を解いた。

 

  彼からしたら彼女は本当に天職だろうと考えていた。

  悪意は無い、多分。

 

「それと依頼の件だが、有り難く受けさせて貰うよ。試したい道具もあったしな」

「了解、じゃあ今から直ぐに行けるかな?頼りにしてるよ」

 

 ◆◇◆

 

  洞窟の奥に入り、二人は探索を始めていた。

 

「そこに宝箱があるぞ」

 

  基本的には彼がモンスターや宝箱を発見、モンスターならば彼が撃退か倒し、クリスが彼の見つけた宝箱の鑑定をしながら罠を発見する。

 

「ん~これは罠だね。見過ごすのが無難かな」

「.....どうやって判別したんだ?」

「企業秘密だよ」

「そうか」

「あれ、やけに聞き分けがいいね?」

「連れのお陰で、その言葉には強く出れない」

「あ~.....『手品師』だっけ?確かにタネがバレたら色々面倒だもんね」

「まぁ教えてくれるんだがな」

「ダメじゃん」

 

  そんなやり取りをしながら、彼等は進む。

 

「殆んど下に続く一本道だな.....どうなってるんだ?」

「確かに変だね。なんかモンスターも罠も少ないし、宝箱も偽物ばっかり。拍子抜けしちゃうな」

「警戒は怠るなよ」

 

「勿論わかってるよ.....ねぇ。ちなみに君が試したい道具って何?」

「見たいのか?」

「そりゃ気になるよ」

 

  彼は一度周囲を見た後で掛けていた片眼鏡を外し、クリスに渡す。

「着けてみろ。少し魔力を取られる感じがするが気にするな」

「?う、うん」

 

  言われるがままクリスが眼鏡をかけると、目を見開いた。

 

「す、スゴいよこれ!?何で『千里眼』も無しに暗闇でこんなに見えるの!?」

「知り合いにつくってもらった魔道具の効果だ。空気中の魔力の流れを読み取って、暗い空間でも見えるようにした」

「へぇ..........あれ、これは便利だけど。でも君は『千里眼』のスキルがあるよね?あんまり需要がなさそうだけど」

「まぁな」

 

  冒険者の『千里眼』のスキルがあれば暗くても視界には困らない。

  別として、彼は暗かったり視覚が頼れなくても、音の反響を頼りにその輪郭をなんとなく把握できる様に訓練してある。

  暗所への対策は万全だ。

 

「なら、どうして?」

「野外の夜に活動するときは便利だからだ。それは遠近もほぼ自由に調節出来るからな、今使っているのは試運転みたいなものだよ」

「へぇ、確かにこれがあれば『千里眼』スキルはいらないし。遠くも見られるから君の場合なら矢を射つのに便利そう」

「まぁな」

「他にもあるの?」

「あぁ。だが使う機会はなさそうだがな」

 

  その後も洞窟の散策が進んだ。

  と言っても、殆ど直線上に進むだけで迷うこともない。

  暗い洞窟内で、カツンカツンと音を立てながら二人は歩く。

 

「.....ねぇねぇ、ヒトミちゃんとの関係はどうなの?」

「なんだ突然」

「いいじゃんか教えてよ。あの偏屈と馬鹿正直で長い付き合いの二人がどうなったかって、アクセルでも気になってる人達結構多いんだよ?」

「かなり心外なことを言われた気がするんだが」

「それで、何処までいったの?キス?ハグ?まさか手を繋いで終わりだなんてないでしょ?」

 

  彼の話を無視して迫ってくるクリス。

  意外にもその手の話に飢えている様だ。まぁ彼女の周囲の人間関係を見ていれば話題がないのは納得できなくもないのだが。

 

「残念だが期待するものはないさ。俺もヒトミも会う暇がそう無いしな」

「またまた~本当はどこまで......ってどうしたの?」

 

  彼が、ふと止まった。

  つられてクリスも止まり呼び掛けるが、返事はない。

 

「..........」

「ちょっと、だんまりはあんまりじゃ.....来てるの?」

 

  彼は厳しそうな、疑問を持った顔で前後を見る。

  クリスは少し不安げな声で聞くと、彼は頷いて小さく言った。

 

「.....まずいな」

「え?」

 

  彼はクリスに向けて、言った。

「前は行き止まりだ。そして後ろからかなりのモンスターが来てる、このままでは追い詰められるぞ」

「えっ」

 

  彼は顎に手を置いた。

 

「しかし理由がわからん。偶然にしては数が多すぎる、俺たちの居場所が割れたにしても原因があるはずだが.....」

「そんな余裕がある状況じゃないよねっ」

 

  そう言ってクリスが歩こうとした刹那、コツンと足に何かがぶつかり目線を下げる。

 

  そして、固まった。

 

「.....ね、ねぇ。下見て?」

「下?」

 

  彼も下を見る。

  そこには、白骨化した人の骸が転がっていた。

  片眼鏡越しに見ると、それは先に行けば行くほど増えている。

 

  成る程、と彼は納得したように言った。

 

「単調な一本道と偽者宝箱で奥まで誘導して数で潰す。この道自体が罠か。単純だが効果的だな」

「そんな悠長に!?」

 

  クリスは目を丸くする。

  徐々にクリスにも彼の言う大量の気配が感じ取れて、恐怖が扇動される。

 

「ね、ねぇどうしよう。割りと冗談じゃない量だよ!?」

「慌てるな」

「ひょっとして、方法があるの!?」

 

「いや、ないが?」

「えっ?」

 

「爆発や煙は巻き込まれる上に洞窟が崩れる可能性もある。トランプを使っても物量に負ける。矢は限りがある、接近戦は分が悪い。盾になるクルセイダーと魔法使いがいれば力で押し通せるかもしれないが、生憎そんな面子でもないしな」

 

「じ、じゃあ」

「だからこそ冷静になれ。焦っても死ぬだけだ..........だが考える時間がほしい。奥に進むぞ、引き続き周囲の罠に警戒してくれ」

 

  彼は、落ち着いた口調でそう言って歩き出す。

  歩調は少し早めに、追い付かれないための速度だ。

  クリスも徐々に冷静さを取り戻して彼に続くが、終始落ち着いた彼に疑問を持つ。

 

「ど、どうしてそんなに冷静なのさっ」

「どうして?言ってすぐ出来ることではないのは承知だが..........俺は運があまり良くない。だからこそ策を練らなければ、偶然が重なって生きて帰る事なんてほぼないからな」

 

  そして言葉を紡ぐ。

 

「死ぬわけにはいかない。なら極力死ぬ努力などせず生きる策を練る、それだけだ.........走るぞ、後ろの速度が少し上がった」

 

  彼はそう言ってクリスの手を握り、速度を上げた。

  呆然としていたクリスは、この状況にも関わらず小さく笑う。

 

「はは.....君は凄いね、本当に」

 

  そして少しすると、直ぐに壁にぶつかった。

 

「ね、ねぇ。さっきの試したい道具には効果的な物はなかったりしない?」

「既に試した、地雷と言う程じゃないが踏むことで作動する罠をしかけた........だが焼け石に水だな。むしろ数が増えているんじゃないか?」

「そ、そんな.....じ、じゃあ私の持つ道具でなんとか」

「いや、見たがお前の腰の薬品を調合して上手く事が運んでも有毒ガスしか発生させれない。前に言ったろ?俺達もガスを吸うはめになる」

「有毒ガス作れるの初耳なんだけど......実はこの先に隠し部屋とか?」

「押しても引いても反応はしていないだろう?魔力で反応するなら既にしている、二人合わせても足りないのかもな。それにこの壁を掘るにも間に合わない」

 

  万事休す、そんな文字がクリスの頭を過る。

  クリスの顔がみるみる歪んでいく。

 

  彼は変わらず悩む仕草のまま壁を背に、つまりは迫り来るだろうアンデット達の群れを見ながら考えていた。

 

「距離は五十くらい、か.....来るのは後数十秒だな」

 

  既に、大量の足音と唸り声が響く。

 

  クリスは、彼に深く頭を下げた。

 

「........本当にゴメン。まさか、こんなことになるなんて」

「気にするな。予期しない事が付きまとうのが冒険だからな、むしろ今の今までが上手くいきすぎていた位だ」

 

  彼はポツリと溢す。

「.........それもアイツと会ってから、だったか」

 

  彼は脳内に一人の女性を思い浮かべてから、少し間を空けて嘆息を漏らして笑う。

 

 

(こんなときにまで過るのか、アイツは)

 

 

「クリス」

「.....なに?」

「俺は諦めることにした.....お前には詫びる」

「え?」

 

  その言葉にクリスは目を剥いた。

  だが、続けて言ったのは予想外の言葉だった。

 

「ずっと前から一つ方法があった。俺は『安全に』この状況を抜ける方法を考えていたから保留にしていたが、やめだ。少し、いやかなり強引に行く」

「え、と?」

「命の安全は保証してやれないし時間もないから説明は省く、とりあえず俺に出来る限り密着して掴まっておけ」

 

「え。こ、こうかな?」

「いや、弱い。もっと強くだ」

 

  彼におぶさる形でクリスは体を密着させた。

  クリスがさらにその力を強くしたのを確認して。

 

「まぁ、後はお前の言うエリス神にでも祈れ」

「えっ?あ、う、うん!」

 

  少しぎこちない返事が帰ってきたが、彼が疑問に思う余裕はない。

  既に数メートル先までアンデットの群れは迫ってきているからだ。

 

「始めるぞ」

 

  彼は腰から一つの管を取り出す。

 

  そして、さらに。

  胸のポケットからヒトミから譲渡された一枚のトランプを取り出して。

 

「.....息を吸い、口を固く閉じておけ。目もついでに閉じておくと、まぁ怖い思いはしなくてすむ」

「んっ」

 

  そうクリスに言い終わると彼は息を吸い。

  管を、指に挟んだトランプを使って横に切り行き止まりの壁に投げる。

 

  同時に前方のアンデット達に向かって駆けた。

 

 

 ..........実は、薄く目を開けていたクリスは見た。

  後ろに放り投げられた管は綺麗に真っ二つに切れて宙を舞い

 

「えっ?」

 

  そして。

  その小さな管からは考えられない量の水が溢れ出てきた。

 

(っ)

 

  刹那。

  突然溢れ出た水が、音と共に全てを呑み込んだ。

 

 

 ◆◇◆

 

 

(なにが、起きたの......これっ!?)

 

  クリスは咄嗟に目を瞑り、頭を彼の首元に押し付けて体を強張らせる。

 

 

  水の勢いは留まる事をしらず二人を、アンデットを、偽の宝箱を、そして瓦礫等を押しながら水の無いところへと押し進む。

 

 

  最終地点はどこか?

  そんなのは決まっている。

 

 

 

 

 

 

  ボコッ。

 

  すると、洞窟があった付近の林の地面が盛り上がり。

 

  そして。

 

  ドォォォォォン!!!!

 

  轟音と共に、地面を跳ね上げて噴水のように噴き上がった。

 

  水が抜ける空間ということは、つまりは外だ。

  丁度柔らかい地面が逃げ場のない水の抜け道となり、水圧で押し出されたのだ。

 

  そして少ししてそこから、二人が飛び出した。

 

 

 

「.....っぷはぁ!死ぬかと思ってぇぇぇえ!!?」

「っ、てっきり入り口に戻ると思ったんだが。高いな」

 

  クリスは目を開けてその高度に直ぐに驚愕し、彼も少し予想外だと発言をする。

 

  そして、そんな事を言っている間に、重力に逆らう時間は終わり。

  二人は急速に落下する。

 

「や、やばいよこれ!?受け身をとれる高さじゃー」

「五月蝿いぞ」

「そんな悠長にぃぃぃぃ!!?」

 

  ガサガサて葉にぶつかりながら、勢いは死なずに徐々に地面が迫ってくる。

 

  もうダメだ!とクリスが目を瞑った。

 

 

 ..........。

 ........。

 .....。

 

 

 .....が、一向に激突した衝撃が来ない。

 

 

 

「おい、クリス。もう目を開けても平気だ」

「..........?」

 

  彼にそう言われ、恐る恐る目を開けると。

 

「..........っこれ。どうなってるの?」

 

  地上十数メートルで、二人は宙に浮いていた。

 

  浮いている、というより。

  ビョンビョンと軽く宙を縦に上下していた。

  その上下は徐々に収まり、やがて止まった。

 

  クリスの問いに、彼は答える。

 

  「道具の一つだ。高所からの緊急脱出用の簡易鉤爪ゴムロープだ。これを木に引っかけて落下の勢いを殺した.........ワイヤーだと反動で体の負担が強いからな」

 

  彼は落下の最中腰から黒いロープを出して、咄嗟に近くの枝に引っ掛けてたのだ。

  そのお陰で落下中の勢いはゴムに吸収され、地面に激突する危機は去ったのだ。

 

  現に彼の腰先からは黒いロープが天蓋にまで伸びている。それを見たクリスは、どこか呆気に取られていた。

 

「.....落ちるあの一瞬でやったの?」

「重力が掛からなくなった時にやった。近くに手頃な枝があって助かったよ」

 

  頭の中で漸く状況を整理できたクリスは、苦笑した

 

「君、何を目指しているのさ.....?」

「冒険者だが」

「いや、いや」

 

  彼の背中で、クリスは首を横に振る。

 

「暗視に脱出のロープって私よりも盗賊めいてるよ.....待って、アンデット達は?このままだと近くの人達に危害がー」

 

「心配ない。この水はお前も知っている、俺の知り合いの自称女神が浄化した代物だ。恐らくあの洞窟にいたアンデット達は全て成仏したんじゃないか?後これを入手した訳は聞くな、察しろ」

「......あ、うん。そうなんだー」

 

  思い出したようにアンデットの行方を気にしたが、問題ないと知り安心..........もとい事情を聞いて呆れる。

 

「でも、良かったぁ.....君がいて本当に助かったよ」

 

  クリスは苦笑した、とりあえず危機は去ったと。

  そう、勘違いして。

 

「本当、なんなら今からでも助手にしたいくらいー」

「なぁ..........クリス。デリカシーに欠ける質問だと思うがするぞ」

「え?何その前置き」

「体重は何キロだ?必要なことなんだ、言ってくれ」

「え?」

 

  クリスは、固まった。

  若干体を絞める力が弱くなった気がした。

 

「必要なんだ」

 

  少し間をおいて、クリスは答えた。

 

「.........四十前半」

「俺は六十五で、道具を合わせておよそ七十だが........さて。お前が嘘を言うことでこの道具の正確な耐久度が計れないんだが。それは困るんだよ」

 

  今度は背後からの視線が少しきつくなったのを感じた。

 

「もしかしなくても.....私が嘘ついてると思ってる?」

 

「背負った感覚で、ヒトミの方が軽いからな」

「嫌だよ尚更言わないよっ!!」

 

「暴れるな、落とすぞ。ロープは頑丈だが耐えられるとは限らないからな。誰かの重さで」

「私そんなに重くないからね!というかさらっと落とそうとしないでよ!?」

「暴れるな、そんなに暴れると重さに関係なくー」

 

  バキッ。と天上から何か嫌な音が聴こえた。

 

「「あっ」」

  二人は、二度目の落下をするはめになった。

 

 ◆◇◆

 

 

  結論から言うと、泥と葉っぱだらけでギルドに帰った二人のクエストは成功扱いだった。

 

  何故かというと、元々散策の目的は『行方不明者』の捜索を兼ねていた為だったらしい。

 

  大量の骸や落ちていたそれらは、つまりは罠によってその命を手放す事になってしまった者達の末路だ。

  その内情が把握できなかった為に、散策という形で依頼として出されていたのである。

 

「つまり、未踏の場所じゃなかったんだな」

「そう。未踏の場所は誰にも触られてない宝が多いからね、見つけていたけど報告しないでそこに入って儲けようとして..........って事なんだろうね」

「まぁ、気持ちはわからなくもないがな」

 

  新しい場所の発見は、確かにロマンに溢れる。

  誰も行ったことの無い道を自分で探索し、一財産を得る事を夢見る冒険者は少なくないだろう。

 

  そんな気持ちが裏目に出たのが、今回の依頼に繋がったのだ。

 

  律儀な冒険者が報告をしてくれなければ、今も行方不明者は出ていたかもしれない。

 

「あのアンデット達も偶発的なのか?それとも誰かの意図があったのか?」

「うぅん。原因は不明、何せ帰還者が二人しかいないんだもん」

「そうか。是非調べたいんだがな」

「ま、その洞窟も無くなっちゃったんだけどね?」

「誰かさんのせいでな?」

「誰かさんのせいでね?」

 

  二人の視線が交差した。

  そして、小さく笑う。

 

「にしても危なかったね~君のあれがなきゃ今頃私達がアンデットになってたかもね」

「そうだな。正直水圧で死ぬか壁に激突して死ぬか溺死するか落下して死ぬ可能性の方が何倍もあったが、幸運にも助かったな」

 

「今のは全力できかなかった事にするね?」

 

  今回の冒険でクリスも少し逞しくなった。

  正確には、スルースキルが上がった。

 

「でも凄いね、あそこまで動じないなんて。コツとかあるの?」

「コツじゃない。心の持ちようだ」

「へぇ、どんな?」

 

  彼は言った。

 

「最低限しか人も物も信用しない事だ」

 

「うん?どういうこと?」

「言葉のまんまさ。下手に仲良くなった相手だと、警戒が薄くなり背中が空くだろう?それと同じだよ。慣れた頃が一番危険だ、常に警戒して、状況を自分で付与して対策する。現に重いからと言って俺の道具が一つでも欠けていたら助からなかったかもしれないからな。それが全力で生きることに繋がる」

 

「背中って。そんな物騒なの冒険者って.....」

「例えばの話だ、少し脱線するが。冒険者に限った話ではないだろう?金や命のやり取りになると性格が出るのは事実だ。イレイシアに行けばよりわかるぞ」

「丁重に遠慮しておくよ。でもそっか、君が強い理由はそこにあったんだね」

 

  クリスは笑う。

  少し、乾いた笑みで。

 

「でもさ、寂しくない?そんな生き方って」

 

  彼女は彼に隠している事がある。

  それは誰にも言えないが、それは彼女が彼を気にかけるには充分な理由だった。

 

「そうか?悪いが俺にはわからないな」

「私も友達は多い方じゃないけど、信用できる人は多ければ多いほど良いでしょ?それに君の生き方は、言い方が悪いけど疲れそうだよ」

 

  その言葉に、彼は言う。

「勘違いしているようだが、俺は最低限と言ったろう?」

 

  続けて言葉を紡ぐ。

 

「一人でも本気で信用して背中を任せられる相手がいれば、それで僥倖だと思うが」

 

「っ..........そうだね、その通りだよ」

 

  クリスは目を丸くして、そして穏やかに笑った。

  盗賊や義賊、否冒険者が見せる様な類いではない、まるで包み込むような、母親に近い類いの笑顔だった。

  少しその笑顔に呆気に取られる。

 

「本気で言える君は凄いよ、とても立派だ」

「誉めてもなにもでないぞ?」

「その言葉だけで満足さ」

 

 

  何に満足したのだろうか。と彼が聞こうとしたが、先にクリスが口を開けた。

 

「それでそれで?君はもう、その一人は見付けたのかな?」

 

  彼女の笑みはイタズラな、いつもの雰囲気に戻る。

(.....何だ?さっきの感じは。まるで別人だぞ)

 

  怪訝な顔をしながらも、彼は呟くように答えた。

 

「まぁな」

「へぇ、誰かな?」

 

  疑問に思いながらも食いついたクリスに、まぁいいかと彼は肩をすくめる。

 

「さてな。ゴリラか、何処か抜けている相棒か、出来の良すぎる妹や弟分達かもしれない。それか気の合う知り合いのパーティーの誰かかもしれないし..........想像に任せるよ」

「えぇ........」

 

  クリスはつまんないとばかりに口を尖らせる。

 

  それを見ながら彼は。

  どこか楽しそうに、小さく笑う。

 

 

 

 

「..........あ、ファントムさん!それに、クリスさん!?王都にいたんですか?」

「っヒトミか?今日は休みだったのか?」

「少し振りだね~あ!ねぇ聞いてよヒトミ。ファントム君って気になる女の子がいるみたいだよ?」

「え!?」

「ちょっと待て。その言葉には誇張と語弊がー」

 

「ファントムさん」

「.....なんだ」

「ちょっとこの吊るしたコイン見てくれます?」

「絶っ対に断る。出したコインと吊るし糸をしまえ。催眠に頼るなと前に........というか懐かしいなそのスキル」

「いいから見ましょう!全て終わった後でこのコインをプレゼントしますから」

「餌で釣るならもっとマシな物を用意しろっ」

 

  その後、強行手段に出そうなヒトミを彼はなんとか宥めた。

  終始、クリスは柔らかい笑顔で二人の喧騒を見ていた。

 

 

 

「彼の心配はいらなそうですよ?先輩方」




お久しぶりです。
読みにくかったらすいません、見直しましたが完全に深夜のテンションでいきました。

わかりにくいかもしれませんので流れとしては
アクセルで知り合ったクリスが王都に

ひょんな事からカズマと共に手伝うはめに

割愛

全てを終えて、
まだ王都にいたクリスと一緒に依頼を受ける(ココ)

クリスの盗賊編は割愛。今話はその後の話。
何故なら彼の出る幕が多すぎて長いので。



さて、本題ですが。
流石に新作をサボりすぎたので、こっちは暫く休みます。

逃げてくるかもしれないけど(ボソッ)。

新作はいつだろう..........現在は肉付けと推敲で二月に出せればいいかな?って進度です。

お楽しみに。
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