この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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書き溜めを整理していたら忘れられていたという。
なんなら時期も合っていないという。
しかしまた忘れるのが怖いので投稿します。




この愉快な祭りに平穏を!

 王都の祭りは、朝から賑わいに満ちていた。

 

 大人から子供、そして冒険者から貴族まで。その広がりは限りを知らない。

 

 

「わぁぁぁぁ.....!」

 

 瞳を輝かせるヒトミもまた、その中の一人だった。

 

「凄いですよファントムさん!出店ですよ出店!」

「そうだな、正直見慣れてるんだが....ところで」

 

 彼はとても通気性の良い格好に、不慣れな気分だった。

 着なれない服に嫌悪感を隠す気もなさそうに言う。

 

「なんだ、この独特な服装は.....落ち着かないんだが?」

「昔の転生者が広めた『甚平』というものです!よく似合ってますよ!」

「この独特な靴.....靴と言えるのかこれは。素足が出ているが」

「『下駄』ですね、それも似合ってまよ!」

 

 別に見た目に関しては聞いていないのだが、と言おうとして止める。

 

 

「やけに詳しいな?お前のは『ユカタ』と言ってたな.....広めたのはお前やカズマと同郷.....いやこの場合は同世界の奴ということか?」

 

 ふむ、と彼は顎に手を置いた。

 彼の考える時の癖である。

 

(不思議だ、この世界もそのニホンとやらの文化の影響ばかり受けている気がする.....ヒトミの話だと他の国も同じという訳ではないのだから、つまりはニホンで.......?)

 

 彼は異様な視線を感じ、ふと思考を止めてその方向を見る。

 

「..........なんだその目は?」

 

 そこには、半目で此方をじいっと見るヒトミの姿が。

 

「似合ってますか?」

「.....ユカタの話か?少し待て、今別の事を考えているからその後でにしてくれ」

「いえ、今教えてくださいよ?」

「とても似合っているぞ。と言えばいいのか?」

「.....最後の一言が無ければ完璧でした」

 

 彼女は見るからに肩を落とす。彼自身が冗談抜きでやっているのが伝わるぶん、さらにショックだ。

 

 彼女の浴衣は黒一色の彼とは違い、華やかな色合いによって飾られていた。

 

「しかしそう言われても、俺ならお前の浴衣も俺と同じ黒色にするからな」

「え!?そ、それはファントムさんとお揃いということですか!」

「いや影に溶け込んで隠密に行動しやすいと思ったからなんだが ..........なんだ、それを狙って俺の『ジンベェ』とやらを選んだんじゃないのか?」

「そんな物騒な目的じゃないですよ!?祭りなんですから気持ち切り換えてください!」

 

 簡単な話、彼のイメージカラーが黒だったので選んだのだが。

 

 基本的に彼は目立たなくするために黒しか着ないのでそんな印象をヒトミに与えていたので、少なくとも影響は受けていた。

 

「にしてもサンテリアさん達は来ませんでしたね.....」

「当然だ。アイツが好きなのは祭りは祭りでも血祭りだからな、むしろ呼ばなくて正解、来なくて正解だ」

 

 物騒極まりない事を彼は淡々と述べ、ヒトミはげんなりする。

 

「流石にそこまで言わなくても........王都で活動して長いんですから仲良くしてください」

「お前を含めて俺は未だに保護者感覚に近いんだが?」

「なっ、子供扱いしないでくださいよっ」

「小遣いやるから、好きなもの買ってこい」

「行ってきます!」

「本当にそういうところだぞお前」

 

 呆れた彼の指摘は聞こえていないらしい。

 ヒトミは笑顔で人混みに消えていった。

 

 そもそも金銭で言えば、安定しない収入の冒険者稼業よりも、国の髄である王都にて手品で成功した彼女の方が持っているはずなのだが。

 

 あろうことか彼女はその殆どを寄付金に回しているので、実際のところは文無し.....とまではいかないがかなり中級冒険者の平均収入に近い、世辞にもお金持ちとは言えない生活を送っている。

 

 彼女はその暮らしに満足している上、時に美学めいたものを感じている節がある。それこそ彼女の祖国で培われた性格というやつなのか。

 

 彼には理解できない一つだ。

 

 まぁ個人の勝手なのでそれは全く構わないのだが。どこぞの店主の様に食べ物に困って綿でも口に入れ始めるのではと、割りと冗談じゃなく危惧していた。

 

 .....さて、ここまで来て誰もツッコミを入れないが。

 

 金があれば古今東西あらゆる素材を買い集めて『実験』をする彼も、健全かといわれれば誰もが唸って首をかしげるだろう。

 

 ◆◇◆

 

 

「ん?」

「おや」

 

 彼は思わぬ邂逅を果たした。

 

「..........なんでここにいるんだ、悪魔(バニル)

「おぉ元上客よ、こんな似合わない所で何をしている?」

 

「元上客.....?何を言ってるんだ?それより悪魔オマエこそ何をしているんだ。セリフをそのまま返すぞ」

「無論、小遣い稼ぎである。ついでに他の出店の調味料をちょちょいと変えて買って食べた者達の不幸や怒りを味わってもいる」

「やることが小さいが的確に嫌だな.....というか営業妨害だろそれ」

 

 彼のジト目にバニルは嗤う。

 

 

「ところで貴様は『元上客』というワードに引っ掛かっていたな?」

 

「おいスルーするな、衛兵に挙げるぞ」

 

「気になるだろう?普段なら焦らすが営業の為に話すことにしよう。実は我輩はとある事情によりー」

 

 パァァァァン!と。バニルの話の腰を折るように、唐突に巨大な破裂音が響いた。

 

 

 

 出し物の類いにしては、やけに近く、音も大きい。

 

 

 

「っなんだ?魔王軍か!」

 

 

 

 まぁ既に、幹部が目の前にいるのだが、ここでの意味合いは敵襲かという意味で。

 

 彼は咄嗟に身構えた。

 

「.....うん?」

「..........」

 

 魔王の幹部であるバニルは無言で下唇を噛み、仮面越しだが伝わる、どこか悲壮感溢れる顔で音の方を眺めていた。

 

「.....あぁすいませんすいません!皆様お怪我はありませんかぁ~」

 

 どうやら、出店の一つのトラブルらしい。遠巻きだが、恐らく店主であろう女性が焦りながらも謝罪しているのが聴こえた。

 

「.....これは『魔力を溜め込む』鉱石で、触った者の魔力を奪うのです.....!ですが鎧や手袋越しでもガンガン吸ってしまって、しかも鉱石の容量を超えてしまうと溜め込んだ魔力の分爆発してしまうんです!なのでアクア様、ペタペタ触らないでと忠告を~っ.....」

 

 どうやら敵襲では無いようだ。しかし彼は安堵よりも先に疑問が浮かぶ。

 

 

「なんだ、あの声に聞くだけで残念な品物の性能.....何か覚えがー」

「あんのポンコツ店主ゅゅゅゅ.....!!!」

 

 思い出す前に、バニルがダッシュで騒ぎのあった出店の方へ向かった。

 

 声色からかなり怒っていることはわかった。

 

(なんだったんだ.....?一体)

 

「ん?」

 

 カンッと、訝しむ彼の下駄に何かが当たり乾いた音が鳴った。

 それは、拳骨並みの大きさをしたゴツゴツとして石だった。太陽の光に反射して妖しく紫色に光っている。

 

 ふと、手に取ろうと触れた。

 

「っ!!なん、だ。これは.....!」

 

 そして、目を見開いた。

 

 紅魔族であるにも関わらず、彼は魔力の保有量が一般人よりも劣る。

 

 

 その元々少ない魔力が一気に吸いとられたのだ。

 

 

 彼は反射的に手を離した。虚脱感に耐えながらも、その鉱石をマジマジと見る。

 

 その妖しい鉱石の中心には、蝋燭のように薄く頼りない光が灯っていた。

 

 先程は、こんな光は無かった筈である。

「魔力を、吸われたのか..........?」

 

 彼は頭を回転させ、ある仮説を立てた。

 

(『魔力を溜め込む鉱石』.....先程の屋台から爆発で一部が此処まで来たのか)

 

「とすると、この光は吸った魔力の量か」

 

 実際、その仮説は正しかった。

 恐らく先程も、間抜けな者が忠告を聞かずに触れてしまったのだろう。魔力量だけはかなりあるようだが。

 

 彼も特に矛盾が無いと感じて、それで納得する。

 

 しかし、と。

 

(鎧も意味をなさないと言っていたな.....こんな品誰が買うんだ、需要ないだろ)

 

 確かに上手く使えれば効果的だ。

 投げて当てる、罠として設置するだけで相手をほぼ無力化、魔法重視の者達には特に致命的だろう被害を与えられる。

 

 しかし、鎧や手袋等を介しても魔力を取り込むのであれば話は変わる。何故なら投げるにしても罠にするにしても持つことが大前提なのだから。

 

 魔法を使って浮かばせようにも、その吸収力を誇るのであればその魔法の魔力を吸いとられてしまうだろう。

 

 どこで手に入れたかはおいておき、そもそもそんな危険な物をどうやって運んだのだろうか。

 

 元々魔力は生命力に近い。威力の代わりに異常な魔力を使う爆裂魔法を使う彼の知り合いが、その魔法を発動する度に脱力して地面に伏すのはその為だ。

 

 彼とその知り合いの様に魔力量に大小はあれどゼロ、つまり魔力が無い人間はそうそういない。

 

 だからこそ運搬方法が気になる。

 分厚い木箱にでも入れて運んできたのだろうか。

 

 それこそ、魔法の適正が常人以下の紅魔族よりも珍しい。

 

 その経緯は不明だが、確定した事はある。

 

「商才が無いなんてレベルじゃないだろうに.....」

 

 そういやアクセルにも似た奴にいたな。と彼は一人の女性を思い出した。

 

 黒字を赤字に、赤字を大赤字に出来る者を。

 

 

 

 .......。

 

 

 

「まさか、だよな?」

 

 

 遠くで、誰かがくしゃみをした。

 

 ◆◇◆

 

 

 

「あれ?おーい、ファントムじゃないか!」

 

 声のする方を向くと、そこには久し振りに見る顔がいた。

 

 黒髪黒目の少年、今かなりの注目(良い意味でも悪い意味でも)を集めているカズマの姿だった。

 

「カズマ。噂は聞いているぞ、相変わらず悪い噂だが」

「お陰さまで.....」

 

 カズマは苦笑する。

 彼は何かに気づいたように怪訝な顔をした。

 

 

「.......ん?連れは一緒じゃないのか」

「んーまぁ.....いやさっきまではいたんだ。いたんだが.....バカが馬鹿やらかして色々とさ、わかるだろ?今探してるんだよ」

「そうか、大変だな」

 

 カズマそう言ってさらに疲れたような顔をする。どうやら既に何かあったらしい。

 

 彼はこういうときは深く詮索しないことにしている。

 優しさというより、巻き込まれたら面倒だからだ。

 中々に薄情である。

 

「にしても意外だな、甚平まで着て......ファントムはこういう行事には参加しないタイプだと思ってたんだけど」

「目立つのが嫌なだけでそういうわけでもないぞ?まぁ、確かにヒトミに半ば無理やり連れてこられたのは事実だが」

「リア充滅びろ.....って、そういやヒトミは?今の話を聞く限りだと側にいるはずだろ?」

 

「小遣いあげたら屋台に飛んでいった」

「子供かっ」

 

 カズマは、人混みを見ながらぼやいた。

 

「.....なんつーかなぁ、好きになれないんだよなぁこういう雰囲気」

「意外だな?カズマはアクセルで起きる殆どの喧騒の中心にいたと記憶しているが」

 

「うんさらっとバカにしないで?否定しにくいから」

 

 

 カズマは小さく嘆息する。

 

「こういう祭りってさ.....人は無駄に多いし、大体いるのはカップルばかりだし、しかも同級生とかと一緒だと『あれ?コイツ意識してなかったけど意外と可愛いんじゃね?しかも案外俺に気があるんじゃね?』とか思って勇気振り絞って告白したらフラレて今後気まずくなるんだよなぁ」

 

「..........経験があるのか?」

「察してくれ、賢いだろファントム」

 

 死んだ目をするカズマに、これ以上聞くのは野暮だった。

 面倒だからではなく、これは優しさだった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 カズマと別れ、そろそろヒトミを探すことにしたファントム。

 

 なんとなく経験から、彼女が買い物を終えた頃だろうと感じていた。

 

 会わなければ最悪の場合、こちらが迷子扱いされかねない。別に大きな支障は無いが、中々に癪だった。

 

 こんな事なら集合場所でも決めておくべきだった、と彼は少し後悔した。

 

 正直ヒトミに関して過保護になっている彼だが、自覚はない上にツッコミを入れる者もいない。

 

「..........ん?」

 

 人混みで、ふとある人物が目に映る。

 

 細身の男だ、ローブで全身を隠していたがかなり挙動不審で、というか行き交う人々を恨めししそうに睨んでいた。

 

 しかし、見覚えのある目だった。

 それも、つい先程。

 

「あぁ」

 

 それの正体がわかり、彼は男をつけることにした。

 

 

 

 

 

「なぁ、君」

 

「.....なんか、用すか?」

 

 彼が声をかけると、男は振り返る。

 男は、死んだような目で彼を見ている。

 目尻は若干赤い。

 

 

「色々言いたいことはあるんだが.........祭りを壊すつもりなら止めてくれないか?」

 

「っ........はい?」

 

 

 突拍子もない彼の発言に、男は目を剥く。

 

「な、何を根拠にー」

「ローブの中に杖を忍ばせているだろ?」

「っ」

「それにあれほど挙動不審ならば、警戒してしまうだろ?」

「そ、それだけでっ」

「それと、目だな」

 

「.....は?」

 

 彼は言った。

 

「さっき偶然あった知り合いが似た目をしていたぞ?リア充?とやらに対する嫉妬か怨恨か。まぁ知り合いはそこまで視線は強くなかったがね」

 

 

 彼の言葉、主に『リア充』というキーワードに男は反応した。

 

「嫌いなんだよ.....祭りなんかっ!」

 

 拳を震わせて、彼はダァン!と強く地面を踏んだ。

 

 

「なんだよ!人は無駄に多いし、大体いるのはカップルばかりだし、しかもパーティーメンバーとかと一緒だと『あれ?コイツ意識してなかったけど意外と可愛いんじゃね?しかも俺に気があるんじゃね?』とか思って勇気振り絞って告白したらフラレて今後気まずくなるんだよぉ!!だから俺がこの祭りを台無しにしてやる!これ以上の悲劇を生まないためにもなぁ!」

 

 唾を吐きちらしながら、男は叫ぶ。

 

「どこかで聞いた内容だな.....なんだ。先程告白して、フラれたショックで逆ギレして祭りそのものに八つ当たりをしようとしているのか?」

 

「う、うるせぇ!」

 

 図星らしい。

 

 そしてへんな使命感もあるぶん余計にたちが悪かった。

 

「俺の崇高な計画を知ったお前は只じゃおかねぇ!これでも俺は王都でも有名なウィザードとしてやってんだ!」

 

 

「崇高かどうかはおいておくが、俺も冒険者をやって長いがお前を見たこと事無いぞ。名前は?」

 

「はっ、言うわけー」

 

 隙だらけのその男に、彼はあるものを放った。

 

 布に包んで腰にぶら下げていた『それ』は、布ごと放たれ、布がヒラリとほどける事で顕になった。

 

 その拳ほどの大きさの鉱石はやんわりと放物線を描き、戦闘職でもないウィザードは、それを避けようとせず容易に受け止めた。

 

 というより、受け止めてしまった。

 

「アバババババッ!!?」

 

 そして。奇声にも近い悲鳴と共に、ウィザード大量の魔力を一気に吸いとった。

 

 

 脱け殻のようになった男の手からポロリと『眩く輝く』鉱石が溢れる。

 

 

 既に限界だとばかりに光る鉱石。

 

 このままでは先程と同様に爆発するかもしれない。

 

 彼はそれを思い切り上に蹴り上げた。

 その鉱石は、鍛えていた彼の脚力によって家々よりも高く打ち上げられた。

 

 

 彼は自らが蹴り上げた鉱石を目で追いながら言った。

 

「.....不憫に思うが、お前の計画には同意できない」

 

 

 パァァァァン!!と。

 爽やかな破裂音と共に、空に紫色の花を咲かせた。

 

 

 それを眺めながら、彼は言葉を紡ぐ。

 

「わざわざ休みをつくって、祭りを楽しみにしていたツレが悲しむからな」

 

 ウィザードは既に、気絶しているようだ。

 

 鎧を通すというのであれば、実質『肌を合わせなければよい』だけの話だ。

 

 彼のように腰からぶら下げるなり、鏃、槍や剣にでも打ち直せば十分な価値を見いだせるだろう。

 

 

 使い捨てになるが。

 

(使い方さえ間違わなければ、戦闘での用途は多くありそうなんだがな.........)

 

 しかし、落ちていたとはいえ勝手にネコババした品であるので、もう会うことはないだろう。

 

 鉱石を蹴った事でジンジンする足先の痛みと共に、彼は迷子探しを再開した。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 結論から言うと、ヒトミは直ぐに見つかった。

 

「ファントムさん!見ましたかさっきの花火!?スゴかったんですよ!」

 

 ハナビ?とは。

 

 聞きなれない単語と共にヒトミのテンションが上がっているのは見て察したが、反して彼は冷ややかな視線を送る。

 

「........何をしているんだ、お前達・は」

 

「おやこれはこれは迷子のくろぐろ兄さん、お久し振りですね」

 

「いい。いいぞ、その冷たく刺すような視線.....っ!」

 

 ニヤニヤと笑いながら、こちらを見る黒髪黒目の少女と。

 

 ビクビクと体を震わせながら、悦に入る変態ダクネスがヒトミと同行していた。

 

 そして、深くフードを被った、めぐみんと同じか、それより少し下くらいの少女を見て.........一瞬目を見開き、嘆息する。

 

「特に.....何をしておられるのですか。アイリス様」

 

「ファントム様!見ましたか先ほどの.....ハナビ?というのですか。こう、光が天に上って、パァァァァン!と凄く綺麗でした!」

 

 

 ピョンピョンと跳ねながら、金髪と共にフードからチラチラとに輝かせている瞳が見える。

 

 明らかにはしゃいでいた。

 

「.....」

 

 

 例の事件を除き、王女と話す機会等殆んど無いのだが、彼はヒトミと似た雰囲気を感じた。

 

 

 何故、王女が護衛も連れずにここにいる?

 そう視線で彼女達に訴えると、めぐみんは何故か得意気に胸を張る。

 

「何を隠そう、祭りというのを間近で見たいというアイリスの希望を叶えたのですよ」

 

「一応聞くが、カズマはそれを知っているのか?」

 

「勿論知っているぞ。今は迷子になってしまったがな」

 

「.....そうか」

 

 ファントムは既に、この一行に関してのみ深く考えるのを放棄する事にしていた。考えれば考えるだけ複雑になる、解こうとしてかえって絡まる糸のように感じるからだ。

 

「.....ん、アクアはどうした?」

 

 

 自称女神の姿が見えず、彼は左右を見渡すと。

 

 

「ここだぜ........ファントム」

 

 すると人混みから、何故かボロボロでのびているアクアと、それを背負ったカズマが現れた。

 

 

 

「色々あったんだよ..........くそっ、重いな」

 

「お疲れ様です、カズマ」

 

「っと。めぐみん、か.....」

 

「.........」

 

 カズマとめぐみんの視線が交差して.....二人はそっと視線を離した。何故か頬が少し赤くなっており、どこか恥ずかしげな表情を浮かべている。

 

(..........うん?)

 

 彼は別に、鈍感ではない。

 

 むしろ性格や職業柄、観察力に長けていると言っても過言ではない。

 

 

 今回の事件を未然に防げたのもそれが大きい。

 

 しかし、本能的な何かがそれを否定する。

 

 この二人の反応が。

 

 しかも本物の妹の様に(疑問)接してきた彼女が、そういう(・・・・)事になるのだろうか、と。

 

「.....へぇ!」

 

 同様に察したヒトミは驚いて、しかし顔を明るくさせる。

 

「..........は?」

 

 そして彼は、目を丸くした。





一応宣伝。
先日より新作を投稿しておりますので是非読んでください。

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