この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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有言実行、アクセルに来ました。


このアクセルの街に祝福を!

  駆け出し冒険者が集まる街『アクセル』

 

  そんな街に彼が向かったのは、何か理由があったのかと言われれば、あまり大きな理由はない。

  そもそも彼は、イレイシアの街で冒険者となり実力をつけている。

  かといって、彼は王都でもそれなりの立ち位置にいられるか、と聞かれれば迷わず首を横に振る。

 

  ゴリラの知り合いがパーティを組むなら話は別だが。

  そう何度も彼女を頼るのは、彼としてはあまり気が進まなかった。

 

  だからといって、他の街も癖が強い。

  アクシズ教団が蔓延る『アルカンレティア』に行こうものなら、間違いなく自殺行為だ。それに女神アクアを崇拝する気持ちは彼にはない。

 

  神がいても選ばれない限り見てるだけじゃないか?

  そう主張する彼は、比較的無神教であった。

  正確には『神はいたところで俺には関係ない主義』である。

 

  いてもいいし、いなくてもいい。

  いたらどうせ見てるだけだし、と。

  彼は紅魔の血統であるはずだが魔法の才に恵まれず、冒険者として生きている、中々なリアリストであった。

  だがヒトミの話を聞きそれとなく神の存在は掴んだ。

 

………それはつまり、問題言動や行為が目立つアクシズ教団が祀る『女神アクア』も存在する可能性が十分にあるという訳で。

 

  むしろ、アルカンレティアに行きたくなかった事に拍車を駆けた。

 

  王都は国の核だ。

  彼が知らない事、魔道具と呼ばれる特殊な器具も多いだろう。

  好奇心はとてもそそられるが、しかし、行きたくない。

 

  それは知り合いも含め………同族(こうまぞく)に会う可能性があるからだ。

  なんやかんや優秀な力を持つ彼等は重宝される為、なんやかんやで有名になる彼等。

 

  魔法の才が殆んど無くて、ステータスも攻撃と素早さに置いて平均よりも良心の範囲で上程度しかない彼等とは比べ物にならない。里では世代関係なく羨ましがられたが、それが嫌であった。

 

  才能が全てではないが、綺麗事の様に努力だけで全て決まるわけでもない。

 

―――そもそもその論だと才能がある奴が努力したらどうなるのか。

 

  少なくとも、彼等の様にカッコいいに生きる部族達にそんな悩みは葛藤は稀にも生まれないだろうが。

 

  閑話休題。

  その点アクセルは、理由は定かではないが中堅の冒険者もいるために多く新しいスキルも得られる可能性が高い。

  上級は職業柄、極めるのは無理なので中堅位が丁度いいのだ。下手に慣れている者達よりも得られることが多そうでもある。

 

  スキルポイントも着実に増えているのだから、何にしようかと迷い楽しめる余裕だってあったかもしれない。

 

―――思わぬ連れが出来なければの話だったが。

 

 ◆◇◆

 

  馬車使いと別れを告げ、二人は冒険者ギルドに来ていた。

 

  ヒトミが一人座って待っていると、彼はヒトミの元に歩いて来て彼女の冒険者カードを渡す。

 

「手続き……というか挨拶はしてきたぞ、レベルを見られて複雑な顔されたがな」

 

  まぁ仕方ないが、と言って彼女に対面する形で座った。

 

「レベル……そう言えばファントムさん、レベルってどれくらいなんですか?」

「聞いてどうする?」

「ただの好奇心です。私はレベル七ですけど、そう言えばファントムさんはどれくらいなのかな~って」

「四十八だな………まぁ、レベルだけならそれなりに高い方だろう」

「え!凄いです!!」

「五年近くずっとやってるからな、それに冒険者は他と比べてレベルの伸びが早いんだ。ステータスはあまり増えないがな」

 

  カードを一瞥してポケットにしまった。

 

「ちなみに歳は!?私は十八です!」

「何故唐突に歳を……二十一だが。それが?」

「おぉやはり歳上でしたか!大人ですね」

「二十代なんて全然大人じゃないさ。お前も後二年経てばわかる」

 

  そんな他愛ない会話をギルドでしていると。

 

 

 

 

 

「―――あーっ!くろぐろ兄さんじゃないですか!?」

 

 

  彼の背後から叫び声に近い甲高い声が響いた。

 

「っ」

 

  反射に近い速度で振り返ると、そこにいた少女に目を丸くする。

 

  小さい背丈と同じくらいの杖、黒と赤でデザインされたローブにトンガリ帽子、極めつけに左目に十字を切った眼帯をしている少女がいた。

 

  トンガリ帽子の陰で顔は良く見えないが、彼は何となく誰か察した。察してしまった。

 

「私を覚えていますか!?覚えていますよね!?ですが敢えて、我が名はめぐみん、爆れ「人違いだろ」……な、なんですとぅっ!」

 

「俺はお前を知らないから、人違いだ。それに俺の名前は『ファントム』っていうからな、そんなヘナヘナした名ではない」

 

(今………爆裂って聞こえた気がしたんだが、まさかな?)

 

  淡々と返す。一抹の疑問を残して。

  しかし少女も負けない、手をブンブンと振る。

 

「い、いえいえ私が小さい頃にお世話になった人を忘れるはずがありません!!置き手紙と共に消えた、貴方は間違いなくくろぐろ兄さんですよ!」

「いやだから人違いだ」

「黒髪……ひょっとあの人、紅魔族ですか?」

 

  ヒトミは首を傾げる。

 

「知らん」

 

  彼は目を合わせないよう必死である。

 

「本当に久しぶりですね!!元気でしたか!?やはり冒険者になってたんですね!」

 

  少女の怒濤のラッシュに、彼は青筋を立てた。

 

「……おいめぐみん!何してんだお前!?」

 

  少し茶のかかった黒い髪の青年が走って彼等の元へ。

  風貌は明らかに駆け出しといった感じだ。腰に挿してあるショートソードが揺れている。

 

  彼はすかさずめぐみんの頭を帽子ごと下げさせ、自分もブォンブォンと頭を下げる。

 

「すいません俺のツレが!本当にすいませんした!!」

「気にしてないさ、しかし彼女を早くどこかにやってくれないか?理由は……わかるだろう?」

「あぁ、本当に悪かった!ほら行くぞめぐみん!!」

「あぁ聞いてくださいよカズマ~!!くろぐろ兄さん!私は諦めませんからねぇぇ……」

 

  カズマと呼ばれた青年がめぐみんをドナドナしていく。

 

「「……」」

 

  急に訪れた静寂の中、ヒトミは目をパチパチさせる。

 

「ファントムさん。良かったんですか?」

「あぁ……いや、良くはないが」

「ファントム!?何ですかその名前はくろぐろ兄さ「いいから早く来い!」くぅ良い名前ですねぇぇ……」

 

  どうやらまだ足掻いていた様だ。めぐみんは視界の端から現れて、そして消えた。

 

  どうやら、いや予想はしていたがこの名前も彼等の琴線に触れるらしい。と彼は口を結ぶ。

 

「……疲れた、今日は宿をとって寝る」

「あ、はい」

 

(ファントムとかくろぐろとか……すごく改名したい。冒険者カードに名前を馬鹿正直に書いたあの時の俺を本気で殴りたい)

 

 

ーーー無難、平凡。

 色々特殊な彼にとっては、先程の青年のような姿が彼の望みであった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

  翌日、日を経て心のさっぱりした彼はヒトミに言った。

 

「さてと。悪いがヒトミ、今日一日は別行動にしてほしい」

「え?構いませんけど……何かあったんですか?」

「何て事はない。試射の場所決めと、街の把握だよ。地図だけじゃわからない事も多いからな」

 

  そう言ってヒトミに二つある地図の内一つを渡す。

  彼の方は既に中古の様にしわが出来ていた。きっと既に一通りの目を通してあるのだろう。

 

(本当に真面目ですね……ファントムさん)

 

  ヒトミは口に出さないが、内心少し呆れていた。

 

「じゃあ私は、美味しい食べ物屋さんを探します!そうすれば地図の情報も入りますし、手分けしましょう!」

「なら、頼んだ。なんならマジックで路銀でも稼いでこい」

「では夕方に落ち合いましょう!!」

 

  そう言ってヒトミは走っていく。

 

  ヒトミなりの気遣いもあったろうが、

  彼女も彼女で新しい場所に心を馳せていたようである。

 

「……さて」

 

  その背中を見送った後、息を吐いて後ろの壁際まで歩いていく。

 

「何をしているんだ?ゆんゆん」

「ひっ、ひゃい!?くろぐろ兄さん……?」

 

  ひょいと角を覗く。

  そこにいたのは、黒髪赤目の少女だった。

  何故か涙目で、目が紅く光っていた。

 

  紅魔族なのは一目瞭然である。

  しかしあまり彼は嫌悪を示さない。

 

 むしろ「まぁめぐみんがいるし、いるかもなと思ってた」といった感じである。

 

  先日彼に絡んできた少女、めぐみん。

  めぐみんと目の前の少女のゆんゆんは紅魔族であり、二人はライバル関係にある。

 

―――と言ってもゆんゆんが一方的にそう思っているとも取れるが。

 

  ゆんゆんが勝負を吹っ掛けて、卑怯な方法で金銭的にひもじいめぐみんが何度も勝ちゆんゆんが泣く泣く飯を奢るのは記憶に新しい。

 

  ちなみに彼が嫌悪を示さないのは、変な話だがゆんゆんが『紅魔族らしくない』からにある。

 

  彼女は族長の娘という立場にありながら、紅魔族の名乗りやその性格傾向に疑問を持つ、所謂『一般人』であった。

  無論、部族間では変人扱いされたりその後ろ向きな性格が祟る場面も多々あったが。

 

 しかし大体それを解決するのは、めぐみんだったり。

 仲悪いようでそんなことない二人の絆は固い。

 

 ポン、ポンと頭を撫でる。

 

(大きくなったなぁコイツも……まぁ、めぐみんが来たから自分もこのアクセルに来たというところだろうな)

 

  アクセルにいる理由も見当をつけていた。

  余談だが胸はヒトミより大きい。確かめぐみんとタメで歳は十二の筈なのだが。既に成人女性レベルにある。

 

(流石にこの歳差では……野暮だよな)

 

  一瞬目線を下げ、すぐに上げて理由を聞く。

 

「さっきからずっと見てたな?まさか話しかけるタイミングでも探していたのか?」

「………」

 

  図星らしい。顔を赤らめて俯く。

  彼は小さく息を吐き、励ました。

 

「少しは自信を持て、お前は優秀なんだから。そして俺の目が悪くなければお前は『才能を使いこなせている』んだからな」

「っ」

 

  彼女は努力家な点も、彼がゆんゆんを嫌いじゃない理由だ。

  しかし、酷だがそれ以上の介入はしない。

 

  彼がじゃあなと言って背中を向けると、呼び止められた。

 

「あのっ。どう、して出ていっちゃったんですか?兄さん」

「?……置き手紙に全部書いたと思うんだが」

「『旅に出ます』ですか?説明不足すぎますよ。何故か皆『やべぇ、魔王倒してきそう』とか『なんか凄い魔法を覚えてきたらどうする?』とか呑気な事言ってましたけど、私は心配したんですよ?」

 

(あ、やはり琴線に触れたのか。あの文言)

 

  内心で勝ち誇る。

  さりげなく周囲の反応が心配ではあったのだ。

 

「悪かったな。でも俺は彼処に居たくなかった、あの人に出会ってから―――というか一般的な価値観を得た俺には。あそこは苦痛でしかなかったんだ」

「そう、かもしれないですけど……」

 

  苦痛な点は、否定しないようである。

 

「それに知ってるだろう?俺は魔法の才能も体が特別頑丈な訳でもない……あそこにいても、劣等感しか生まれない。だから出ていった」

 

ーーいつか、教えてやるために。

 

『魔法を使わなくても、自分は……自分達(紅魔族)は凄い』ということを。

 

  格好よさよりも大切なものがあることを。

 

  そんな決心は声に出さず、内心で留める。

  話を戻し、彼は背後を見て眉をひそめた。

 

「……それでお前、仲間はいないのか?」

「うっ」

 

  彼の言葉がゆんゆんの胸に刺さる。

 

「魔法が使えるお前は俺みたいに後衛向きじゃないんだ。確かにどちらでもいけないこともないだろうが……もし近接で麻痺でもされたらどうする?誰も助けてくれないぞ」

「う、うぅ……わかって、る。よぉ」

 

  自分の服の裾を握り、涙目でウルウルしている。

 

……マジで変わらんのか、コイツ。彼はそう思った。

 

(大人びていると言っても十二歳にさっさと変われと言う方が間違いなのか……?ふむ。だがこの性格は、案外使えるか)

 

「なぁ……ゆんゆん、お前はここの地形に詳しいか?」

「え?は、はい。いつ通行人に聞かれても確実に答えられるように、一通り覚えたよ?」

「……そうか、なら道案内。頼めるな?」

「っうん!!勿論!付いてきて!」

 

  彼女は嬉し涙を流し、先行する。

 

(通行人とか…いや、予想通りなんだが。理由がなぁ)

 

 めぐみんなどの紅魔族とはまた別の意味で残念な子だ。彼は故郷にいたときはかなり苦労したことを思い出す。

 

 その背中を見て、彼女が将来悪魔と友達になろうとか言わないことを祈った。

 

 ◆◇◆

 

「!」

 

  ドアベルが鳴り、ピョコピョコと茶色の癖っ毛が跳ねる。

 

「それで。ここがウィズさんの魔道具店だよ、ここの店主さんがとっっても優しい方なんだよ」

「いらっしゃいませ~あ、ゆんゆんさん!こんにちは……えぇ、と。貴方は?」

「どうも店主さん、初めまして。この街で暫く滞在しようと考えている者だ―――ファントムと呼んでくれ」

「そうでしたか!初めましてファントムさん。私はウィズと申します」

 

  ウィズと名乗った柔らかい笑みを浮かべて握手に応じる。

  彼はウィズがとても包容力に溢れてそうな印象を受ける。

  丁寧な口調に態度、そして売り子に必要な整った容姿。

 

  今は朝早いので人はいないが、店はさぞ繁盛しているだろうと思った。

 

「くろぐろ兄さん……?ファントムって」

「気にするな。だが次からそう呼ばないと返事しないからな?」

「?」

「改名した、冒険者カードまでは無理だが」

「!そんな事できるなら、私も改名を―――兄さん、私の名前呼んでくれる人、いるかなぁ?」

「俺に聞くな」

 

  正直ゆんゆんの改名は問題があると彼は思った。

  恐らくゆんゆんと彼以外にマトモに話せるめぐみんは「面倒ですねゆんゆん」なんて言いそうである。

 

  つまり、改名しようが意味がない。

 

  お茶を淹れてきたウィズが、二人を見て笑う。

 

「仲がよろしいんですね。二人はどんなお関係なんですか?」

「くろぐろ兄さん「ん?」………ファントム兄さんは私とめぐみんと同じ紅魔族なんです。私達が小さい頃はよく遊んでもらいましたので、まるで本当のお兄さんみたいだなって」

「紅魔族ですか……?成程、確かに黒髪で黒目ですね。それに妹思いでお優しいんですね」

「別に。遊んでとしつこいから付き合っただけだ」

 

  遊びの内容も、今考えると恥ずか死できる。

(なんなんだ『適当な言葉を叫んでそれを説明する』って。俺や大人も混じってやるもんじゃねぇ……三日は止まらなかったし、里で流行ったし)

 

  実は彼、その頃には既に『あの人』に出会っていた彼は世間一般的な価値観を持っていた。

  故に、その手の遊びは同時に拷問の類いに感じた。

 

 

  過去に表情を歪めながらお茶をすすり、ふと店内に視線を回す。

 

「魔道具……か、殆んど見たこと無いな?これでも詳しい方だと思っていたが。特にあの壺はなんだ?」

 

  彼は床にサイズ別の壺がズラリと並んでいるのを指差す。

 

「あの壺は特殊な空間魔法を掛かっていまして、あの壺の中には制限なく、壷の口の入るサイズのものなら生き物を除いて何でも入る代物です」

 

  すると商人スイッチが入ったのかウィズがすらすらと説明する。

 

「それは凄いな。制限が無いのか?」

「はい!ですが取り出せないので割る必要がありまして、割ったらもう使えない上に、入っていた物が一気に溢れます」

「溢れる………それは、使えないな」

「で、でも凄く頑丈なんですよ!?ジャイアントトードが乗っても大丈夫です!」

 

  バインと服がはち切れそうな胸を張るウィズに淡々と返す。

 

「―――だったら無理しないと取り出せないんじゃないか?あのサイズだと荷物にもかさ張るしな」

 

  割れない上に割らないと中身を取れないとはこれ如何に。

 

「一応聞くが、値段は?」

「あそこに並んでいるのは、一番安いので十万エリスですね」

「…………」

 

  彼は無言で、ゆんゆんに視線を移す。

  彼女はサッと視線を明後日の方に。

  何も言えないとばかりに。

  むしろ言いたくないとばかりに。

 

  彼は別の商品に目を移す。

 

「……あの眼鏡は?もはや魔法道具にすら見えないんだが」

「あれは『相手のステータスが見えるようになる』眼鏡ですね。掛けることでモンスターのステータスだって数値化して見えるんですよ!」

「ほう、それは凄いな」

「はい!代わりに掛けたら視力は三日後にほぼ無くなりますが、どうでしょうか!?」

「ーーどうしようもないな?使って視力を失うとかもう呪の類いだろそれ」

「でも、頑丈なんですよ!?その上耳にかける部分が曲がるんですよ!?ほら!」

 

 デザインよりも見るべきところがあるのではないだろうか。

 彼は内心で呟く。

 

  視線をゆんゆんに向ける。

  ゆんゆんはとうとう口笛を吹き始めた。

  ちなみに口笛を教えたのは彼であり、中々に上手い。

 

  練習する時間が有り余っていたのだろうか?聞かないが。

  彼は息を吐き、窓の外を見る。

 

「………日が、明るいな」

 

  軽く現実逃避を始めた。この二回のやり取りで、なんとなく人がいない理由を察したのだ。

 

(成程。店主の人当たりはよくても、絶望的に商才は無いようだ)

 

「あ、あれはどうです?『やる気に溢れるハチマキ』結べばやる気に溢れて気持ちだけなら何でもできますよ!三日三晩外さない限り夜も眠りません!ちなみに外れません!ダイエットにぴったりですね!」

「過労死するな。それ」

 

  彼の呆れた言葉を溢した、その刹那ドアが勢いよく開く。

 

「たのもー!」

「あ、アクア様!?」

 

  水色の長髪の女性だ、服装も青がベースである。

  何故か羽衣まで付けている、しかし彼は容姿ではなく。

 

 

「―――『アクア様』?」

 

  彼女の名前の方に引っ掛かりを覚えた。

  誰もが知っている、紅魔族にならぶやっかい者共『アクシズ教』の連中が崇める神の名前だ。

 

  というかなんなら石像を見たことがあるが、どことなく似ている気がしなくもない。

 

  さらに。

「おや!くろぐろ兄さんではないですか!?何をしているんですかここで?」

「なっ」

 

  ひょっこりとめぐみんがやって来た。思わず露骨に表情に出る。

  続いて例の青年と、金髪を後ろで結んだ鎧の女性が店に入る。

 

「……めぐみん!?」

「えぇ、ゆんゆんまでいるのですか?」

「なによその嫌そうな反応!それに、までって何よ!?」

 

  二人の喧騒を他所に、青年は軽く手を上げる。

 

「よぉ、また会ったな?」

「……そうだな。君がめぐみんの保護者だったんだな」

「ほ、保護者ですとぉ!?」

「いや本当に大変だよ……アンタの話も聞いてるぞ?めぐみんが世話になっていたそうだな!よろしくなくろぐろさん」

「ちょ!カズマ!?否定してくださいよ!」

「名前はファントムにしてくれ。その名前は、好きじゃない」

「ん?そうなのか……そういえばあの独特の自己紹介はしないんだな?」

 

「何故わざわざあんな長くしなければならんのだ」

「!」

 

  その発言に、カズマは少し意外そうに口を開ける。

 

「へぇ……!アンタもゆんゆんみたいな感じか?」

「まぁ、そんなところだ。正直ファントムという名前も、あまり好きではないんだが」

「紅魔族なのに……か。驚いたな。仲良くなれそうだ!俺はカズマって言うんだ、よろしくなファントム」

「あぁ。よろしくな、カズマ」

 

  ウィズとは別の、今日二度目の握手を交わす。

 

「納得いきませんが……ところでくろぐろ兄さん」

「ファントムと呼べ」

「む……ファントム兄さんの、職業は何なのですか?」

「『冒険者』だ。それがどうかしたのか?」

 

  すると、ウィズ含めた全員が目を丸くする。

 

「冒険者!?あんた、俺と同じ冒険者だったんだな?」

「何だ?めぐみん、俺に魔法の才能が無いことは教えてなかったのか?」

「いえ、ですが他のステータスは高いかと……」

「特出したものは無かったぞ。精々攻撃と素早さが平均以上なくらいだな」

 

  ちなみに『狙撃』は本人の運で的中率が左右する。

  彼はその点運は平均だが、実力、もとい『経験』で弓の腕をカバーしていた。

 

「プークスクス!アンタ紅魔族のクセに全然駄目なのね。この私アクア様みたいに最初からカンストした存在を見習いなさいな」

「ちょ、アクア!」

 

  お茶を飲みながらアクアと呼ばれた彼女は笑う。

  カズマが咎めようとするが、手で制止した。

 

「いいさ。その通りだ、自称で水の女神を騙る女」

「え……自称?今自称って言った!?」

 

「……俺は人並みの才能が無いからな。だから村を出て強くなろうとしたんだ、俺を変えてくれたあの人を越えるためにな」

 

  その真剣な、少し赤みがかった瞳に周囲が息をのむ。

 

「そんな事が……くろぐろ兄さん、そこまで思い詰めていたのですね」

「だから、ファントムと呼べと」

「取り消してよ!ねぇ!自称ってところを取り消してよぉ!」

「……それに、今はレベルは四十八だ。弓兵にしては高いと自負し、幅広い知識とそれなりのスキルを修得している」

 

  まぁ、ここの魔法具は一つも知らなかったがな。と内心で呟く。

 

「よ、四十八っ!?何でわざわざアクセルにいるんだ?」

「そのレベルで駆け出しの街に来てはいけない理由があるのか……?まぁ初心に帰るという点もあるが、今ここにはいないが連れが駆け出しだから来たということにしてくれ」

「あぁ!ねぇ取り消してよ!お願いだからぁぁぁ……!!」

 

  一通り話を終え、涙ながらにしがみつく彼女を剥がし席を立つ。

  そしてウィズの方に近付く。

 

「ウィズ。そこにある小さい壺……あれよりももう一回り小さいのはあるか?もはや壺とは呼べないかもしれないが、俺の中指位のサイズが望ましい、縦の長さはこの際あまり気にしない」

「え……はい。そのサイズなら、在庫にかなりありますよ?」

 

  かなりあるのか。という呆れた言葉を呑み込む。

 

「見せてくれないか?値段次第では十個程欲しい」

「「「「「「えっ」」」」」」

 

  彼以外の声が重なった。

 

「……ウィズ、売る立場のお前が驚くのはダメだろ」

「ご、ごめんなさい……久し振りにマトモな食事が出来ると思ったら、実感わかなくてっ」

 

「ーーそうか。何で店やってるんだ?」

 

  商才はゼロではなく、マイナスだったようだ。

 

 ◆◇◆

 

  ゆんゆん達と別れ、彼は朝にいた場所でヒトミと合流した。

 

「あ!ファントムさん!ご飯食べに行きましょう……?あれ、疲れてます?」

 

  ヒトミは彼を見て手を振って走り寄り、そして眉をひそめる。

  彼女の言う通り、彼は若干。いやかなりげんなりしていた。

 

「……気にするな、あまり会いたくない奴と有益な情報と面白そうな物を発見しただけだ」

「かなり濃いと思いますよそれ?気になります!」

「なら、飯の時に話そう」

 

  今日は、いやアクセルは。

  彼にとって、色々と想定外であった。

  王都に負けて劣る魔法道具店に、キャラの強い冒険者達。

 

(そして一日で二人も紅魔族と会うとはな……まぁ、まだ知り合いだし会話が通じる相手な分マシだが)

 

  王都を行くのをやめた選択肢としては、もはや『スキル集めとヒトミのレベルアップ場所』という項目しか残っていない。それも一つは当初の目的ではない。

 

  だが彼はヒトミに対して、極端な話パーティの一人としか思っていない。

 

  そもそも行きなり現れて懐かれて、ふざけた奴と思っていたら『チート』とやらで色々規格外で。

  街を移動する決心を付けたのに付いてきて。

  振り返ると、彼は振り回されただけな気がした。

 

「……まぁ、振り回されるのは慣れているか」

「?」

「何でもないさ、それよりもヒトミが見つけた食事処を紹介してくれ」

「あ、はい!こっちです!!」

 

  そう言って彼女は案内する。

  二人は並びながら、ゆっくり歩いていた。

 

「ファントムさん知っていますか!?この街には『花鳥風月』を使える人がいるそうですよ!?」

「使うなよ?スキルに絶対使うなよ?お前が旅芸人を目指すなら応援するが、少なくとも俺とパーティを組んでいる間はやめてくれ」

「えぇ……残念です」

 

「露骨に残念がるな。というか対抗するな」

「でも、ファントムさんから別れた後で泣いている小さい子達にマジック見せていたら、いつの間にか人だかりが出来ちゃって...そこで話を聞いて。やっぱり対抗したくなりますよ!エンターテイナーとして!」

「エンター……なんだ?冒険者だろうお前、どこを目指しているんだ」

「皆を笑わせる冒険者です!私決めました、心がある人達なら魔族も関係ないです、マジックで皆を驚かせて楽しませます!」

「冒険者やめてしまえ」

「冒険者でもありたいんですよっ!」

 

  会話の間を挟み、アクセルの街並みに視線を向けたヒトミは言った。

 

「……素敵な街ですね」

 

  一人言のような大きさの声に、隣にいた彼は苦笑する。

 

「まぁ、魅力的ではあるな……一日でここの街は、イレイシアの比にならない曲者揃いだと確信させられたよ」

「でも、悪い意味じゃないですよね?」

「まぁな。だが……もっと厄介かもしれないぞ?」

 

  外灯の温かい光りの中、彼は小さく嘆息した。

(まぁ確かに、悪くはないのかもな)

 

「あれ?くろぐろ兄さんじゃないですか!?こっちですこっち!一緒に食べましょう!」

「あー!アンタ、自称って言ったの訂正しなさいよ、っていうかしてください!!ほら、唐揚げ一つあげるから!」

 

(―――いや、やはり悪いな)

 

  そして早速、喧騒に放り込まれた。

  めぐみんに手で招かれ、寄ってきた自称女神には箸で摘ままれた唐揚げをグリグリと押し付けられ。

 

「わぁ!凄いですねファントムさん、もうお友達ができたんですか!?」

 

  アクアの肩や顔を掴んで引き剥がし、唯一のパーティメンバーに視線を向ける。

 

「……ヒトミ、いや歩いている最中確かに疑問には思っていたんだが。ここは冒険者ギルドの酒場だよな?」

「はい!ここが一番美味しいと聞きました!」

 

  本当だろうか。

  実は聞いた呑んだくれの冒険者が騒いで他の店が出禁になったとかそういうオチなのでは?等と推測する。

 

  すると、カズマがこちらにやって来た。

  早足で、中々に鋭い形相で。彼の肩を掴む。

 

「……おいファントムさん。そこの綺麗なお姉さんは誰だ?」

「?俺のパーティメンバーだ、一応だがな」

 

  カズマは彼から視線をヒトミに移す。

 

  そして「ジィ~」と食い入る様にヒトミの体を物色する。

 

「?」

 

  ヒトミは首をかしげたものの、人懐こそうな笑顔で応える。

 

「っ」

 

  すると、カズマは彼の肩を掴んだまま前後させた。

 

「畜生!!可愛くて清楚系とか羨ましいぞ!?」

「なら代わってやろうか?外見がよくても中身があれだぞ?」

「ーーあれ!?あれってなんですかファントムさん!?」

 

  涙目で訴えるカズマに、呆れた顔で即答する。

  それに綺麗所というならば、カズマのパーティもそうだと彼は思った。

  既に三人中二人は既にろくでもないと知っているが。

 

「黒髪で長い髪の女……?あぁぁ!!まさかアンタ!噂で聞いた『女マジシャン』!?」

「え、もう噂になってるんですか?」

「私のいない間に人気を奪うなんて……!どれくらいのやり手か知らないけど、刮目なさい!私の『花鳥風月』を!!」

 

  そう言って、アクアは跳躍して人目の良いところに着地した。

  そしてどこからか扇を二つ取り出す、すると扇から小さい噴水の様に水が発生した。

 

『ぉぉぉぉ!』

「ほらほら!大サービスよ!!」

 

  周囲の冒険者が沸いた。

  それを見て硬直する男二人、彼は呟いた。

 

「花鳥風月……アイツだったのか」

 

  自称女神を騙る割りに、賢さは低そうだとも思った。

 

「あの人が……っ!私も、負けられませんっ!」

「っおい、ヒトミ!」

 

  そう言ってヒトミもアクアの元にまで行き視線が集まる中でハットから大量の鳩を出した。

 

「それ『鳩出し』!」

『ぉぉぉぉ!!』

 

  さらに周囲は沸き、アクアは愕然とした。

 

「何よそれ!?や、やるわね。ぐぬぬ……こうなれば奥の手よっ!私の花鳥風月の真髄を見せてあげるわ!」

 

  そう言って、さらに対抗する。

 

 

 

 

 

「「………」」

 

――その景色を眺めて、カズマはそっと彼から手を離す。

 

 

「なんか……ごめんな?あんな事いって」

 

「いいんだ……それに―――お互い苦労しているな?」

 

  そして通じ合った二人は、そっと握手した。

  多分、コイツ同志だ。と

 

 

 

 

「ふむ……男ってよくわかりませんねぇ」

 

  モクモクと食べるめぐみんは、二人を見て呟いた。

 

「気付いている筈なのに、ウィズの店からずっと放置―――いいっ!」

 

  ちなみに、同じパーティであろう金髪の女性は、一人悦に浸っていた。

 

「クルッポー」

  そんな金髪の彼女の頭に鳩が乗った。





ダクネスは空気、これは確信。
次の話は一日後です。
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