この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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このゲスい苦労人に祝福を!

『潜伏』スキルで木の上に隠れた二人は、遠くのゴブリンの群れを観察していた。

 片眼鏡を掛けた右目を見ながら、ブツブツと小さく呟く。

 

「数は三十。しかし初心者殺しは見当たらない……怪しいな」

 

 ──初心者殺しとは、大きな虎の名称である。

 初心者冒険者が狙うような弱いモンスターを誘導して、そして初心者冒険者がゴブリンを倒そうとした瞬間に襲う。

 中々に賢い。獲物であるモンスターを餌として使う知能を持つ。

 さらに速く、強い。駆け出しなら間違いなく食われてしまう。

 

(まぁ、弓兵の俺にはほぼ関係ないが)

「弓で仕留めるんですか?」

 

 彼のように特殊な片眼鏡がないので双眼鏡で覗いていたヒトミは、ゴブリンの群れを見てから小声で言った。

 

 潜伏スキルはあくまでも隠れるスキルなので、透明になれる訳でもない。声を大きくすれば居場所は割れるし、嗅覚に優れたモンスターにはあまり通じない。故に小声だ。

 

 流石に、百に近い距離でゴブリンが臭いが感じ取れるとは思えないが。

 警戒は怠らない。それが冒険者だ。

 

「いや、流石に弓では三十仕留めるのはキツいな。しかし逃がすつもりはない」

「では、どうするんですか?」

「方法はいくらでもあるが…….これを試したい」

 

 そう言って、矢を入れる革袋を通り過ぎ、腰に巻いたバックパックから一本の細い茶色い菅を取り出す。

 

「それは、ファントムさんがお店で買ったやつですよね?」

「あぁ、内容は説明したな?」

「はい、確かとっても頑丈で、見た目よりも沢山入るんですよね?」

「あぁ、その通りだ。そしてこれは大人数に対して有効な手だてだしな」

 

 会話をしながら彼は壺、というより菅を自分の矢に巻き付ける。

 

「矢は一本無駄になるが……まぁ、致し方ない。双眼鏡でゴブリンをよく見ていろ」

 

 そう言って、彼はロングボウの射撃体勢に移った。

 木の上で左膝を立て、弦の邪魔にならぬよう右膝を下げる。体を側面に向けて弓を斜め上空に向けた。

 管をくくりつけた矢を掛けて、ギギギと絞る。

 

 はぁ。と一度息を吐き、放った。

 

 

 

「──『狙撃』」

 

 スキルと、自分の鍛練を兼ねた一本の矢は上空で弧を描き、そしてゴブリンに当たることなく、群れの真ん中の地面に突き刺さる。

 

「おぉ!凄いです.……でも当たってないですよ?」

 

 感嘆の声を上げるが、首を傾げる。

 しかし彼は既に二射目の準備をしていた。その最中、ヒトミに聞く。

 

「ヒトミ、ここからトランプを投げてあの管は狙えるか?」

「え.無理、ですかね。流石にこの距離は.試したことないです」

「そうか、ならいい。そのトランプなら可能だろうが、トランプの正確な射程距離はまた後で計ろう」

 

 そう言って糸を絞り。

 

「俺が仕留める.……『狙撃』」

 

 放った。その矢は一射目と同じように弧を描き、そして。

 

「あ」

 

 ポツリとヒトミの声が漏れる。

 見事にその矢先はくくりつけられた管に当たり、管を砕いたのだ。

 

 同時に、ビックリ箱の様に管から大量の物体が飛び出る。

 

 ドォォォォン!!

 そして、爆発と共に地を揺るがせた。

 

「ひゃあ!?」

「っ」

 

 突然の爆音にバランスを崩したヒトミを、彼はヒトミの腰に手を回して支える。

 木々で抑えられたが、時間差で爆風が少し二人の肌に当たる。

 

 そして数十秒後、爆発の起きた場所はクレーターが出来ていた。

 

 

 

「.……配合量は間違っていない筈なんだが、多すぎたな」

 

 どこか呆れた顔をする彼とクレーターを見て、ヒトミは目を丸くする。

 

「な、何が起こったんですか!?」

「本の知識を元に調合した爆薬を入れた。適量も把握してある、好奇心と物を上手く使うとこういう使い方もできるという訳だ.……流石に量が量だったみたいだが、まぁ目的だけみれば成功だな」

 

 つまり、こういうことだ。

 特殊な草や砕いた石を混ぜ、火を入れる事で爆発する様に調合。

 壺の中の空間では混ざる事はないらしいので、水中に保存すると自然発火する危険物質もそこに投入した。

 それが割れる事で出現し、空中で混ぜ合わさった火薬に自然発火した火が混じり、爆発を起こしたのだ。

 

 一通り説明を終え冒険者カードを確認して屠ったゴブリンの数を確認する。

 

「三十か.まぁ、細かい要素は省いて──端的にいえば爆弾だ。矢で砕けるか不安だったから試しで管は二本使ったがな」

 

 頭にクエスチョンマークが浮かんでいたが、とりあえずわかったようだ。ヒトミは感動する。

 

「おぉ……ファントムさんは理系ですね!」

「りけい?言っている意味がわからないが.量を入れれば『エクスプロージョン』に負けずとも劣らずの威力すら可能だろうな。材料は馬鹿にならないが。あれだけでも管を抜いて十万した」

「一本五万円ですから.十五万ですか」

「エクスプロージョンは実際に見たことがないから計りようがないが.とにかく多用は厳禁だな。でないと馬小屋に住むはめになる」

「それは嫌ですね……折角、化粧品とか買うお金ができたのに」

「その前にその動きにくそうな服装を変えろ.……っ!」

 

 すると、彼のレンズ越しにクレーターに煤とは別の黒い塊が動いているのが見えた。

 

「──ヒトミ、見ろ」

 

 ヒトミも望遠鏡を取り出して確認すると、黒い虎らしき姿が見えた。それを見た彼は舌打ちする。

 

「『初心者殺し』か。やはりいたのか、爆発の音を聞き付けたみたいだな、少しマズイ」

「何故です?」

「実力に伴わない、撤退するぞ」

 

そう言って木から降りて、そそくさと去ろうとする。

 

「奴の嗅覚はかなり鋭い。まぁ、あそこからここまでの距離は遠いから余程臭くなければ.……」

 

 

 

(んっ?)

 

 ピタリと止まり、顔だけ彼女の方を向く。

 

「──ヒトミ」

「はい」

「そういえばお前さっき何か言ってなかったか?」

「化粧品とか前の世界で使っていた香水と似ているものがあったので……のところですか?」

 

 スンと彼が鼻を嗅げば、目の前で柑橘系の匂いがする。

……成程、道理で花畑も無いのに匂う筈である。

 

 彼は納得した、得心言った、腑に落ちた。

 そして何か凄い勢いでこっちに来る黒い塊を目測した。

 

 

「おいヒトミ」

「はい」

「……マジシャンらしく、俺達を瞬間移動でもさせられないのか?」

「私まだ、見習いですので!」

 

 その後、鳩を出したり臭い袋をぶつけたりして逃げきった。

 

 ◆◇◆

 

「「疲れた……」」

 

 一応ギルドに報告を終え、ヒトミは酒場の机に伏していた。

 

「ファントムさんなら.…初心者殺し、倒せるのでは?」

「嘗めるな。レベル五十近くと言っても冒険職で弓使いだぞ?近接は余程レベル差があるか対人しか出来ない。腰に構えたナイフも剥ぎ取りようだからな、初心者に毛が生えた程度だ。鍛練不足だな」

 

 闘えないことはないだろうが、やりあうメリットもまたない。

 

「しかし出した鳩を食べようとするなんて.…初心者殺し、酷いです」

「消えたときは落胆していたな.喜怒哀楽の感情あるよな、頭が働きすぎだろあの個体」

 

 ふぅ。と彼は大きく息を吐いて。

 

「……俺はまだクエストを受けるが、お前は?」

「勿論、付いていきますよ。レベルも上げないとですし」

「そうだな、俺が倒しすぎても意味がないしな」

「はい。あ!でも、暫く森の中は勘弁です……それと、まだ休みましょう?」

「激しく同意だな。後、香水をするのは構わないがクエストに行くときは控えてくれ、さもないと次は……」

「次は?」

 

「ジャイアントトードの血や粘液で匂いを誤魔化す」

「辞めます、全力で辞めます」

 

 頷き合い、二人は休憩を挟みギルドを後にした。

 

 ◆◇◆

 

 その後のクエストを終え、別れた後。

 彼はカズマに呼ばれて酒場で向かい合っていた。

 

「.……なぁ、ファントム。ヒトミって転生者なのか?」

 

 そして、唐突に聞かれた。

 

「唐突だな。知りたいなら本人に聞けばいいだろう?」

「いや、何か聞きにくくて」

 

 視線を泳がせ、少し照れている様子だ。

 女性だからなのか、カズマは思春期なのだろうか。

 聞けば歳は十六、ファントムよりも五つも下であった。

 

「.そうだな。合っている、ヒトミも別に隠している訳でもないだろうしな」

「!やっぱり、そうなのか」

 

 カズマの反応に、彼は眉をひそめた。

 

「もしかしてカズマもか?」

「あぁ。俺も日本から来たんだ」

 

 ニホンというワードは知らないが、成程とうなずく。

 黒髪で黒目。確かに特徴は一致している。

 

「別の世界と言っても、お前達の世界とここは近接しているのかもな。俺が聞く転生者の特徴はお前と似ていて、今のところ例外がないからな」

「あぁ、確かにそうかもな。日本だけなのか?」

 

 カズマは考える仕草をするが、それよりも別の疑問に彼は首をかしげる。

 

「しかしカズマ。神からのチートとやらはどうした?ヒトミはあれだが一応凄い力を持っているぞ…….カズマ?」

「……聞かないでくれ。いや、聞いてくれるか?」

「?気になるな。教えてくれ」

 

 カズマは力の抜けた瞳で話す。

 

「俺のパーティに、アクアって奴いるだろ?」

「いるな。青い自称女神の」

「……実はマジにアイツ、女神なんだよ。俺が死んで変な空間にいたアクアに何が欲しいって聞かれて、『アンタ』って答えんだよ」

「……ほぅ」

 

 カズマはあらんばかりの力で拳を握る。

 凄く後悔してる、見るからにそんな感じだった。

 

 人一倍の観察眼から、彼はカズマの挙動から真偽を図る。

(嘘の可能性は……低いな。これで嘘ならば相当の役者だが)

 

「女神……か、にわかに信じられないな。それに、カズマはどうしてそんな事を?」

「女神であるアイツを仲間にしたら、知識とか力とかなんとななるかなって……それに、態度に腹立ったから」

「成程な、カズマは頭が回るのが逆に悪い結果を生んだようだな」

 

 というか後半が本音だろう。と、彼は確信した。

 

 今も尚、疲れきったヒトミに突っかかって鳩に襲われている間抜けな彼女が、女神だと。

 

「そして、当人は知恵も広い見識もなかったと」

「……」

 

 カズマは無言で頷く。

 

 彼は他にもかなりの苦労人を抱えているのは知っている。

 ──というか、嫌でも噂を聞く。

 

 めぐみんは彼の同郷の紅魔族、ネタ魔法と揶揄される『爆裂魔法』を習得しそれだけを鍛えている。

 

 金髪の女性は『クルセイダー』という上級の職業だが、攻撃が当たらない上に性格に難があると彼は聞いている。

 

 ……正直カズマだって、あまりいい噂は聞かないが。

 女性の下着をひんむいた『クズマ』と聞いている。

 

 だが少なくとも、彼から見たカズマは今のところ普通に苦労している青年であった。

 彼女達を制御する役割としてかなり苦労しているだろう。と

 

 彼は俯いているカズマにそっと口を開く。

 

「そうだな、カズマには一つ。偉そうに歳上であり同じ『冒険者』職としてアドバイスしておこう」

「え?」

「『何事も使いようだ』……これは当たり前だし、君もパーティメンバーに対して常に思考を巡らし翻弄されているだろうが。その苦労している『冒険者』の目線を忘れなければ、君達ならきっと大成すると確信している」

「っ」

「俺は才能が嫌いなんじゃない、自分の才能に気付きながら過信して溺れる奴等が嫌いなんだ…….その点。アクアは知らないが、君達は心配要らないからな。上級職業でありながら自分の力に貪欲に、求め続けている。時に暴走しても、君がストッパーとなって導いている。アクアは知らないが」

「そう、か?」

 

 カズマが顔をあげ、彼は頷く。

 

「あぁ、だから信じろ。お前の『努力』を、才能と違ってその場で失敗したとしても、少なくとも経験は残るんだからな」

 

 彼は話を終え、シュワシュワの入ったグラスを傾けて喉を潤した。

 

「……成程な!」

 

 カズマの心に響いたようだ。

 

「流石くろぐろ兄さんです!憧れます!」

「……」

 

 いつの間にかいためぐみんが瞳をキラキラさせていた。

 いつからいたのだろう、二人はそう思った。

 

「やめろめぐみん、ファントムと呼べ。お前に憧れられるとは、つまりはまだ『紅魔病』が抜けきっていないのか.」

 

 彼は落胆する。するとめぐみんが噛みつく。

 

「なっ、失礼ですね!というか紅魔病って何ですか.!?どうせその眼鏡だってデザインなのでしょう!?」

「違う、これは望遠鏡代わりだ。それに失礼ってお前は、爆裂魔法を極めるにせよ時と場合を考えているのか?成績だけは良かったからどうせ紅魔の里で首席でも取ったのだろう?その頭を使え。格好よくよりも『迅速かつ効率的』にだ」

「ぐっ」

 

 めぐみんはダメージをくらったように数歩下がるが、持ちこたえた。

 

「うっ……!ふ、ふん!いいんですよ理解されなくたって我が覇道は進むのですから……!ところでその片眼鏡、掛けてもいいですか?」

 

 そして、若干紅くなった瞳で片眼鏡を見て手をワキワキさせている。

 

「扱いを間違えると、左右の差に慣れないぞ?」

「いいのです!」

 

 彼が外してめぐみんに眼鏡を渡すと、めぐみんはワクワクと期待しながら十字の眼帯を外して、眼鏡を掛けた。

 

「装 着!」

「一々言わなくていいだろうに.」

 

 言った矢先に、めぐみんはフラフラと覚束無い足取りになる。

 

「これは気持ちですよ。っとお?これは、中々っ.!?」

「魔力を込めすぎると酔うからな?気を付けろよ」

 

 既に両目の遠近差にクルクルしているめぐみん。

 

 ──この片眼鏡は魔力を込める量に比例して遠近の調節が可能なのだ。込めれば込めるほど遠くがみることが出きる、冒険者の垂涎ものだろう。

 

 めぐみん程の魔力の使い手だと、最大視認距離は一キロを越えるかもしれない。一キロ先のものが、目の前にあるように見えるのだ。

 

 あくまでも平均的である彼の魔力で一キロを見ようものなら、十秒もつかわからない。

 魔力切れでその場に倒れてしまうと言えばその凄さが伝わるだろう。

 

「さて。そろそろ返せ、頑丈で予備はあっても倒れて割られでもしたら大事だからな」

「あぅ、はい…….うぅ。まだクラクラします」

「座ってろ」

 

 片眼鏡を外しためぐみんを誘導して座らせる。

 まだ視界が安定しないのか、体が大きく揺れている。

 

 呆れた視線を送りながらも、彼は握り拳を作る。

 

「何してんだよめぐみん……ファントム、何か俺頑張れる気がするぜ!ありがとな!」

「気にするな。同じ冒険者のよしみだ」

「カ、カズマッ」

 

 カズマ一行の一人、金髪のクルセイダーが来た。

 彼女が鎧の姿のまま、ガチャガチャて音をたてて困った表情でこちらに駆けている。

 

「ダクネス?どうしたんだよ慌てて」

「その、アクアが疲れたヒトミに勝負しろとしつこいんだがっ」

 

 そう言ってダクネスはある方向を指差す。

 三人がそこ視線を向けると。

 

 

「ねぇ!勝負しなさいよ!!ねぇったら、どっちが凄い曲芸師か決めたくないの!?」

「私、曲芸師じゃなくて手品師なんですけど.それに二つクエスト受けて、疲れてるので。勘弁してください.」

 

 疲労でテーブルに顔を伏しているヒトミの、その肩を揺らす女神の姿があった。

 

 彼はそれを見て、呟く。

 

「またアレか、女神うんぬんより.……なんとかならないのか?」

「「「本当にごめんなさい」」」

 

 アレはカズマ達が剥がして説教するまで、延々とヒトミを揺らしていた。

 

 ◆◇◆

 

 キャベツの時期がやって来た。

 今年のキャベツは活きがいいらしく、一玉一万もするらしい。

 

「.キャベツって、飛ぶんですか?」

 

 それを説明したヒトミの最初の言葉である。

 彼女の世界では、野菜は食べられまいと飛んだり跳ねたり攻撃してきたりしない事を知り、彼は少し驚いた。

 

 たまに食べようとして食べられる事例すらあるのに。

 明確に世界の違いを感じた瞬間だった。

 

「キャベツは経験値も豊富だからレベル上げにも適している.なんなら爆薬一つやるか?トランプでは心もとないだろう。お前のコントロールなら当てられるだろうしな」

 

 例のトランプは爆発にも恐らく耐えられるだろう。

 彼なりの気遣いだったが、ヒトミは頭を振る。

 

「ありがたいですが。ファントムさんに頼ってばかり、それではいられませんので今回は一人で頑張ります!」

「……そうか。なら今回は手を貸さないようにしよう」

 

 少し感心した。そして苦笑して頬を掻く。

 

「.まぁ、そもそも今回弓兵はあまり活躍しないだろうがな。爆薬も他の冒険者に当たらないとも限らないしな」

「そうなのですか?」

「持っているスキルを使えばなんとかな。ま、駆け出しの街で俺みたいな奴が出しゃばるのもお門違いだろう」

 

 一応、彼は既にレベル五十を越えている。

 冒険者と言っても王都でも十分通用するレベルなのだ。

 そんな彼が駆け出しの街で、未来ある駆け出しの成果を根こそぎ奪い名を挙げるというのは不粋だろうと。

 

(なにより勿体無いからな……経験値は欲しいが、それ以上のリターンがある)

 

 引け目こそ感じていない。が、惜しいとは思っていた。

 

「まぁ。先輩ヅラをして辛そうな奴等のフォローに回るさ」

 

 そう言って、冒険者の蔓延る街の外に出た。

 

 ◆◇◆

 

 一人の駆け出しの冒険者は、歓喜に満ちていた。

 キャベツの時期。この時期は冒険者にとっては本当にありがたい。

 

 経験値が溜まり、倒せば倒すぶんだけお金が入る。

 その分飛んでくるキャベツは強いが、それを差し引いても十分なお釣りが来る。

 そう、考えていた。

 

「っ.!」

 

 あまりの腹部の痛みに、膝が地につく。

 甘く見ていた。と名も知らない冒険者は後悔する。

 ダメージを気にせず十匹を倒した辺りから体が悲鳴を上げていて、先程腹部に当たった一撃が決定打となった。

 

 パーティメンバーがこちらに声をかけ、ハッとして顔を上げた。

 

「っ」

 

 勢いが止まらずに、既に眼前に迫っていたのだ。

 爛々とした瞳と眼が合い、確信した。

 

 

(あっ、死んだ)

 

 

 しかし、眼前でキャベツが方向を変えた。

 

「.え?」

 

 いや、違う。既にそのキャベツは絶命していた。

 

 キャベツの側面には一本の矢が刺さっていたのを見て、きっとこの矢のせいだろうと推測し、冒険者は眉をひそめる。

 パーティメンバーに弓矢使いはいない。

 

「──無事なら、逃げるかその剣を取るかしろ」

 

 誰が?そう思った刹那、自分の前を誰かが過った。

 

「倒せば金が入る、危険がつきまとう……冒険者の本望だろう?」

 

 すれ違い様にそう言って、長弓を構えていた男は走り去った。

 

 キャベツの収穫は、命懸けだ。

 知っているはずで、どこか楽観視していた事に気付かされる。

 彼は助けてくれた弓使いの恩人に詫びると同時に、剣を取った。

 

 

 体の痛みは、もう感じなかった。

 

 ◆◇◆

 

 彼は思ったよりも、怪我人が多い事態に歯噛みする。

 

「全く.金より自分の命を大事と知らないのかっ」

 

 普通なら自己責任と放るのだが、今はそうしない。

 

 感謝されたい訳ではない。

 義侠心でもなく、単に才能がある奴等を生かしたいという『投資』であった。

 

(律儀な奴は礼もくれるだろうし……新しいスキルが手に入る可能性だって少なくない)

 

 そんな打算のなかで彼は駆ける。

 既に射た数は二十を越え、同時にそれは彼が救った冒険者の数と同値である。

 

(カズマのパーティは.いい壁役がいたみたいだな)

 

 チラリと彼等の方を向くと、クルセイダーのダクネスが鎧を破壊されながらも、言葉通り的になっていた。

 しかし、顔は酔いしれるように笑っている。

 

「……職業といい相性の性格してるな」

 

 その表情を見た彼はかなり引いた。

 

 それにしても、ヒトミが見当たらない。

 既に怪我をして避難したのだろうか、そんな事を思っていると。

 

「……!」

 

 彼は見た、見てしまった。

 

 大量の鳩の群れが、キャベツとぶつかり勢いを弱めている。

 中にはサボって倒れたキャベツをつつき始める奴もいるが。

 

 そしてそんな所から、突然ザクザクとキャベツが斬られたように真っ二つになっていく様を。

 

 中々、信じられない画だった。

 見なくても誰の仕業かわかるが、しかし。大量の鳩とキャベツがぶつかり合う様は、闘牛同士の衝突にも見えなくもない程の迫力があった。

 

 思わず、立ち止まってしまうくらいには。

 

「『マジシャン』って、何なんだ……?」

 

 乾いた笑みを浮かべて、呟いた。

 

「……『エクスプロージョン』!!!」

 そして終わりを告げるように、めぐみんの爆裂魔法が炸裂した。

 

 ◆◇◆

 

 酒場は賑わっていた。大量のキャベツ料理をウェイターが運び、せっせと行ったり来たりを繰り返す。

 

 そんな中、あるテーブルには人集りができていた。

 

「……本当に、ありがとうございました!」

「気にするな。精進してくれ」

「いえいえ、あの時の矢がなかったら今頃、これはほんのお礼です!」

 

 そう言って、五万エリスの袋を渡して居なくなっていった。

 どうやら彼の助けた剣使いの冒険者は、その後も奮闘し二十体ほど狩ったそうだ。

 

 そして既に、彼の金額は五十万を越えていた。

 倒した数は二十と少しだが、先程のように助けた冒険者達からお礼と称して貰っていく内にそんな額になっていた。

 

 半目で嘆息を漏らしたヒトミが言った。

 

「ずいぶんとモテモテですね?」

「思ったより、律儀な奴が多かっただけだ……にしても元気ないな?」

「私、頑張ったんですよ。でもお金はあまり貰えませんでした」

「?意外だな、何故だ」

 

 そう言うと、ヒトミは涙目で顔を上げる。

 

「──鳩さんが、半分くらい食べてたんです!中にはキャベツじゃなくてレタスもあったらしくて、マトモに換金できたのは十万でした」

「……クルッポー!」

 

 隣で別皿のキャベツをつついていた鳩が啼いた。

 フッと消えてしまう分際でメチャクチャしたらしい。

 

「そう、か。まぁそんな事もあるさ.レベルは?」

「二十三まで上がりました!」

 

 前に一度聞いたときはは十二だったので、かなり上がったようだ。

 

(というかそれだけ倒して十万とは.)

 

 鳩の恐ろしさを垣間見た気がした。

 正確にはその食欲だが。

 

「ならスキルの取り方にも注意しろよ?戦闘に役立つかは定かじゃないが、マジシャンは色々計れないからな」

「はい……」

 

 彼女は笑顔で頷いた。

 結局のところ、レベルが上がったことが何より嬉しかった様だ。

 

「そういえば.俺もレベルが一つ上がってるな」

 

 スキルを得るためのスキルポイントが増え、小さく笑う。

 

 

 

 

 

「──カズマざぁぁぁぁんお願いよお金かして必ず返すからぁぁぁ!!」

「報酬は個人でって言ったのはお前だろうが!!知るか!」

 

 

「……」

「……」

「アクアさん……収穫じゃなかったんですかね?」

「さてな、まぁ大体予想はつく」

 

 酒場の喧騒とは別に大きな声が聞こえるが、彼は無視した。

 




魔法道具『望遠眼鏡』
魔力を取り込むことで形状を変える、透明で特殊な鉱石から造られた一品で、魔力を吸収する事で望遠鏡代わりに遠くを見ることが出きる代物。
調節は慣れるのに時間がかかり、最初は左右の差に酔う。
紅魔の村で腕利きの魔法道具屋に造って貰った。
予備は二つ、非売品である。

余談だが名付け親はその魔法道具屋の店長。
真名は『みえる丸』その名で呼ばれた事は店長からしかない。


紅魔病
思春期時の少年、また紅魔族は常時発病しているある意味重く痛い病。自分は特別な存在とか、カッコいいと思うモノが一般とは引かれる傾向を示す。
その時期になったときは、紅魔の里に身を置くことを薦める。


一応補足ですね。
次の話は二日程後に投稿します。
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