最近になってプレビューというものを知る。
というかプレビューの意味を知る。
フッ、また一つ賢くなってしまった...
...元の知能が低いんですがね(遠い目)
朝の修練を終え、彼はとある店に訪れる。
「あ!ファントムさん。いらっしゃい」
「ウィズ。言わなくてもわかると思うが、あるよな?」
「はい!毎度ありがとうございます!」
ウィズは太陽のような笑顔でトタトタと奥に行き、例の管を五本ほど持ってきた。
「魔法の壺五個ですね……二十五万エリス、確かに受けとりました!」
腰のバックパックにいれ、顔を上げる。
「しかし、ちゃんと生計を立てて飯は食えてるのか?顔色が変わらないが」
「それなんですが……あの、久しぶりにお金が入ったのでもっと別の魔法道具を買おうとしたら、いつの間にか……アハハ」
「何故その金で飯を食わない」
「で、ですが今回の商品は凄いんですよ!?」
そう言って彼女は、一本のステッキを持ってきた。
既に彼からの視線は冷たいのだがめげない。
「この魔法道具は振るだけでアークウィザードレベルの魔法が出せるんです!」
「ほぅ、それで?」
「属性は一つしかないのですが、魔力を消費しないんですよ!」
「ほぅ、それで?」
「使う度に、魔力の代わりに寿命が減ります!」
「成程。少なくとも人間には使えないな、長寿のエルフなら元々魔法に長けている者も多いだろうしな」
「うっ……でも」
「でもじゃない、ウィズ。ハッキリ言うが商才がない、もう少し考えてから買え、餓死したいなら止めないがな」
「すみません……」
しゅんと縮こまる彼女に、嘆息を漏らす。
「今払ったその金は飯を食うために使え。いいな?」
「え、ですが新しい物をっ」
「ですがなんだ?」
「は、はいっ!」
彼が少し睨むと、ウィズはピン!と背筋を伸ばしてコクコクと頷いた。
ついでにたわわな双丘が弾む。
「デカイな、邪魔そうだ」
「え?何がですか?」
「……お前の将来の借金だ」
「まさかの未来視ですか!?」
ポロッと出てしまったと彼は後悔する。
なんとか誤魔化した、というよりは店長がちょろかった。
(しかし何で俺が心配を...死なれたら壺が得られなくて困るか。そうだな、困る)
彼はそう言い訳した。
「用はもうないな、じゃあな」
「あっ、ありがとうございました!」
頭を下げる彼女に背中を向け、ドアを開けて出ていった。
ーー聞けばウィズは昔、冒険者だったらしい。
彼女はへりくだって「大した者じゃない」と言うが、彼は正直あまり真実味が無かった。
「なんというか、あんな商品に魅力を感じる程の環境にいたとするなら……かなり、相当。形容できない凄さがあるのだろうな。只者でないのは間違いない」
(なら何故わざわざ商人の道に入ったんだろうな)
しかし、聞くタイミングを逃してしまったのも事実。
そもそも。
「……彼女は、本当に普段何を食べて生きているんだ?砂糖のつけた綿でも限界があるだろう、死霊の類いじゃあるまいし」
逆に貧困生活の食生活、そちらの方が興味があった。
◆◇◆
二人は久し振りに、探索系のクエストを受けた。
既に初心者殺しは棲み家を変えたそうなので、森に出向いて薬草を採取する事にしたのだ。
「そこの草は毒だからな?」
「は、はい!」
「そこの草も毒だからな?」
「はい!」
「そのキノコは食ったら幻覚を見るぞ?」
「……はい」
そして、難化していた。
それもそうだろう。
彼女は元々別世界の人間で、慣れてきたと言ってもこの世界の知識には子供にも劣る面が多い。
「見ろ。お前から見て右が探している薬草、左は麻痺を起こす毒草だ。右は若干色が黒ずんでいるだろ?」
じぃ~と見てみるが、首をかしげる。
「う~ん、黒ずんでいる方が薬草なんです?明るい方が安全そうですけど」
「なら生で食ってみるか?」
「遠慮します!」
ヒトミから見て左の方の前に出され全力で首を振る。
再び作業にはいるが、ヒトミの顔は優れない。何度も何度も本と手に持った草を交互に見て、肩を落とす。
「……何というか、凄いですねファントムさん?支給されたこの本を見ても、私にはよくわからないです」
「慣れさ。残念ながら専門家程の知識はないし、本を見て確かめて覚えているんだ」
「確かめる?」
コテンと首をかしげるヒトミに何てことなく返す。
「実際に食べるんだ。本の知識は頼りになるが鵜呑みにはできない...まぁ、食べる際に安全を配慮した順序はあるし、文献で一口で致死と書かれているものや怪しい物は流石に手を付けないがな」
「ほぇ~それでも凄いですよ!でも、どうしてそこまで?」
「毒草は磨り潰して鏃に塗れば毒矢に出来る、鉱石なら鏃自体に使えることもある。役立たなくても見た目が綺麗なら金持ちに売る...大体自然にあるものは、役に立つものばかりだからな」
ーーもし森に迷っても食えるものがわかれば平気だ。
そう付け加え、作業に戻る。
ヒトミは感心を通り越して呆れてすらいた。
(この人、私の世界にいたらガリ勉になってそうですねぇ……)
彼が制服姿で背筋を伸ばし授業を受ける姿が過り、シュールだなぁとクスリと笑う。
「どうかしたか?」
「い、いえなんでも!さぁ~て草を抜きましょうか!」
内心で押し留め、草抜く。
「おい、それも毒だぞ」
「……はい」
自分には採取は向かないのかも知れない。
ヒトミはそう思った。
しかし、ピンと思い付いたのかポケットを探る。
「あ!これなら何とかなるんじゃないですか!?」
「トランプか……?いや、流石に毒の識別は無理だろ」
彼は苦笑する。
「そうですかね...あれ?ジョーカーのカードが落ち込んでます?」
ヒトミは眉をひそめる。
「奇怪な格好をしている者が描かれているカードがか?最初からそうじゃなかったのか?」
「いえ初めは笑っていたかと...あ、あれ?笑いましたね?どういうことですか?」
彼は口を結ぶ。
「……まさかな」
彼はポツリとそう言って、毒草を近付けた。
すると、ジョーカーの絵の顔が徐々に落ち込みだす。
「……」
ふと、毒草を遠ざけて薬草を近づけると口角を上げ始めた。
「どうやら、一番近くの草の良し悪しの判別をするみたいだな……判断基準は、人体に害があるかないと言ったところか?」
「……本当に出来ちゃいましたね?」
「喜べよ?俺は少し落ち込むけどな、このトランプの謎が多すぎる」
ヒトミは苦笑し、彼は呆れた表情をした。
トランプの底が見えない。
「このトランプはどれだけ人の積み重ねを潰せば気が済むんだ.....?っ」
刹那、ガサッ!と茂みが動いた。
彼は迷わず弓でなく腰に挿していた短剣を構え、ヒトミは「わわっ」と慌てながらもそのままトランプを指で挟み構えた。
しかし、出てきたのはモンスターじゃない。
「ーー助けてくれぇ!」
「えっ、えぇ!?」
そこから出てきたのは、巨体を誇る一人の斧使いだった。
二人の顔を見た瞬間、ヒトミに泣きついて助けを求める。
脚に抱きつかれて慌てるヒトミを他所に、彼は斧使いの肩を掴み事情を聞いた。
「おい、何があった?」
すると彼は……仮面をしているので表情はわからないが。
野太い声で涙混じりに叫んだ。
「初心者殺しだ!!仲間が殺されちまう!アイツ居なくなったフリしてやがったんだ!!」
「っ!」
「え!?」
二人を目を丸くする。
初心者殺しは、彼が思ったよりも賢かったらしい。
◆◇◆
彼の話を聞くと。
五人でパーティを組んでモンスターの討伐クエストを受けていた所に遭遇したそうだ。
初心者殺しの急襲に五人は散らばり、その一人である斧使いはここで二人に会ったという訳だ。
それを聞いた彼は、深い溜息をついた。
「最悪だな。俺も初心者殺しの知識を見誤っていたのもそうだが……無責任な口依頼を受けたな?」
「う、だって可哀想じゃないですか!?助けましょうよ!」
仲間を助けてくれ、という斧使いの願望にヒトミは二つ返事で了承したのだ。
ーーヒトミが。
ちなみに彼には薬草と共にギルドに戻ってもらい初心者殺しの報告してもらっている。
そして二人は初心者殺しと遭遇したと思われる、ギルドと真逆の方に向かっていた。
「初心者殺しを相手取る可能性があるのか……まぁ、なんとかするしかないが」
「頼もしいですね!」
彼は目を輝かせるヒトミを呆れた視線で一瞥する。
「……お前もやるんだぞ?というよりお前がやるんだ。そのトランプはこの管ですら余裕で斬れる切れ味を持つ、奴は賢くて体が固いと言っても鉱石ほど固い訳じゃない。初心者殺しも容易に斬れるのは間違いないだろうな」
彼は周囲を警戒しながら説明する。
「対して、弓矢は視界が広くないと使いずらい上に射った場所が悪ければ筋肉に邪魔されて致命傷にならない。短剣の腕は前も言ったが期待するなと言ったのは……覚えているな?」
流れる様な言葉の嵐に、ヒトミは小さく唸る。
「うっ……そう、ですよね」
「今回、闇討ちならまだしも俺はそこまで使い物にならない。勿論死にたくないから隙は作る努力をする、トドメはヒトミ。お前に任せたからな」
「はい」
それを聞いて、ヒトミは少し動揺する。
「なんだ……やはり不安なのか。なら断ればいいものを」
「だって!泣かれるのは、誰だって嫌でしょう?」
ヒトミは、無意識か乞うような上目遣いで彼に言った。
「……」
彼は落胆に近いトーンで言い放つ。
「ヒトミは、まだ
「っ……」
ヒトミにもわかっていた。自分が弱いと。
それは力ではなく、精神の面でもあるとも。
そして彼が文句を言いながらも、何故受けたのかを。
自分が彼に寄生に近い形で、頼っていることも。
(それでも、心の中で悪い女だと思われても、偽善だって笑われても!)
「それでも。お願い、します……私では、足りません」
ヒトミは頭を下げた。誠心誠意、心を込めて。
彼はヒトミから視線を逸らし、嘆息する。
「腐ってもパーティーだ……それに乗り掛かった船だしな。最後まで付き合ってやる、次からはババ抜き以外にもそのカードをしっかり使えるようにしておけよ」
「……っ!」
すると彼女の表情はパアッと明るくなる、その目にはうっすらとだが潤んでいた。
「っはい!ありがとうございま「『潜伏っ』」」
「っえ……?」
少し焦りが混じった彼の声が聞こえたと思ったら、突然ヒトミの視線が変わって茂みの中に移っていた。
何事?と彼の方を見ると、此方には目を合わせずに口元に指を立てている。額には一筋の脂汗が流れていた。
静かにしていろと伝えたいのはヒトミにも伝わった。
ヒトミが小首を傾げると、その原因が目の前を通った。
視界が、一気に黒に染まった。
「……っ!」
思わず、息を飲む。
それは、伏せている為かあまりにも巨大な。
一歩一歩前肢が地に触れる度、地面が揺れる。
(これが、初心者殺し……!?)
猫科で、見た目はサーベルタイガーに近かった。
茂みの合間から見せる牙は、一度噛み付かれれば命は無いであろう太く曲線を描く。
その双眸は鋭く、獲物に飢えているようにも見えた。
「……っ」
ヒトミの体が、芯から寒くなり、震えが止まらなくなる。
呼吸も激しくなり始めた。
万が一にも聞かれたら居場所がばれる。
頭ではわかっていても、動悸は激しくなる一方だ。
「……運が良かったな、野草ばかり触っていて。お陰でこの距離でもバレなかった」
そして彼はそんなヒトミを見て静かに、そして小さく伝えた。
「ここにいろ、動くな」
「……え?」
ガサッ!
ヒトミが反応した頃には、彼は弓を構えて茂みから身を離していた。
同時に彼に気付き振り向いた初心者殺しに向けて矢を番え放つ。
「『狙撃・二連』」
その一矢は真っ直ぐ眼を捉え、そして刺さった。
もう片方は右前足に刺さる。
しかし流石というべきか、初心者殺しは痛みに吠えながらその尖った爪を持つ前肢を振り下ろす。
「『潜伏』」
だが、その爪は届かせない。
彼は狙撃を終えて体勢を整えると同時にスキルを発動する。
その場から彼の姿は消え、息を吐く声と共に再び二発の矢が放たれる。
その矢は胴体に刺さり、血が黒い毛を伝ってポタポタと垂れる。
「流石初心者殺しだな。筋肉で矢の通りが浅い...『潜伏』」
さらに姿を晦まし、再び風や木葉を切りながら矢が放たれた。
彼の鍛え上げた『潜伏』スキルには、目を見張るものがあった。
幽霊の様に消えたり出てきたりするその姿。
故に『
紅魔族からニヤニヤされそうなネーミングだが、それがイレイシアでの彼の異名の由来であった。
ーー初心者殺しには敵わない?
いいや、むしろ圧倒していた。目に刺さった矢以外は決定打にはならずど、着実に矢を当てている。
(凄い……あれが、本物の冒険者なんだ)
ヒトミはそれを見て心が躍り、同時に自分の無力さに顔を伏せた。
(……また、反応速度が上がったか)
しかし、ヒトミの期待に反して彼は内心で舌打ちをした。
(眼と脚を射ったのに動きが鋭いな……やはり最初の攻撃から致命傷を与えられないのは偶然じゃないよな)
目の前の初心者殺しの知能は、同族でも群を抜いていると感じていた。
(これならば、距離を取ればヒトミに気づく可能性もあるか……こんな個体がゾロゾロいたら街は終わるだろう。いてたまるかっ)
矢を射ながら、即座に潜伏を使い視界から消える。ヒットアンドアウェイの中でも彼は頭を回していた。
(大量の失血で倒れてくれればいい……大丈夫だ、今の所は順調ーー)
「……え?」
(っ!?)
しかし、ここで予想外の来客が来てしまった。
恐らく、言っていた斧使いの仲間の一人だろう。
女性は剣を背中にさしたまま、初心者殺しの姿に目を丸くして硬直した。
バッタリと戦闘の場に遭遇し、そして正体不明の矢の雨を注がれ激昂する初心者殺しの視界に映った。
ーー映ってしまった。
状況は、優勢から一気に最悪と転じた。
「クソっ、間の悪い!」
彼は舌打ちして初心者殺しの少し遠い背後の茂みから飛び出し矢を番える。
だが、経験から察してしまう。
(ダメだ!間に合わない!!)
矢が到達するまえに、彼女の体は初心者殺しの振り上げた爪によって……凄惨な目にあうだろう。
初心者殺しは一瞬体が止まったものの、吠えながらその爪を振り下ろす。
「っ、あ……」
が、最悪の展開にはならなかった。
初心者殺しはバランスを崩して的がずれ、そのまま倒れた。
血を浴びた彼女がポカンとしている間、初心者殺しはその黒い巨体を数回痙攣させ、やがて動かなくなった。
「...これは」
矢を放とうとした姿勢のまま彼も硬直していた。
そして、何かが弧を描いて宙を飛んでいる姿が視界に映った。
それは血を飛ばして回りながら、まるでブーメランのように持ち主に帰っていく。
彼はそれを自然と目でおっていた。
「はぁ...はぁ...!」
そして視線の終着は、涙目で返ってきたトランプを掴み、未だに息を荒らげていたヒトミだった。
◆◇◆
「ひゃ、百万エリスですか?」
「はい!ギルドの誤報に近い情報の件を含め、初心者殺しの討伐額として百万エリスが与えられました!おめでとうございます、ヒトミさん!」
「ありがとう、本当にありがとうぅ!!」
「あの時貴女がいなかったら...!」
「え、と...アハハ。無事で良かった、です?」
斧使いのパーティに涙ながらに礼を言われ、未だ実感が沸いていないのか、思わずぎこちない笑みで返すヒトミ。
『すげぇな!そのレベルで初心者殺しとはな!』
『初心者殺し殺しだな!』
大金を貰い、色々な人々から感謝と賛美の声が浴びせられる。
「……ありがとう、ございます」
だが、心には靄がかかって、晴れなかった。
人集りからなんとか抜け、ヒトミはパーティメンバーの座る席まで来た。彼は一人ポツンと座り、シュワシュワを呑んでいる。
「ファントム、さん……」
彼はヒトミの存在に気付き、その顔色を見て眉をひそめる。
「?表情が暗いな、どうした」
相対するような形でヒトミは座った。
そんなヒトミは、自覚はないが表情に影が射していた。
それを察した彼は、首をかしげる。
彼女はそっと先程貰った重い麻袋を机に置く。
そして、彼の前にずらした。
それを見て彼は、低い声で一言。
「……何の真似だ?」
ヒトミはそれを聞いてビクリと体を震わせた。
「これは、初心者殺しを倒したお金です……本来はファントムさんの貰う物です」
「……はぁ?」
「私はっ、あの時に動けませんでした……!」
ヒトミは下唇を噛み、消え入りそうな声で言った。
「元々、これは、ファントムさんの手柄の筈ですっ。私は茂みで震えていました……助けたのだって、ファントムさんがいたから大丈夫かと、頼っていました!私には、それを受け取る資格がありませんっ」
途切れ途切れ、だがハッキリとヒトミは伝えた。
この金は、自分が受けとるべきではないと。
横取りに等しい、卑しい行為であったと。
彼は俯いて震えるヒトミを見て、
「ーー何を言っているんだ、お前は?」
「……えっ?」
不快ではなく、単に疑問でもって眉を寄せた。
「俺はてっきり。周りから褒められてもうちょっとおちゃらけて、はしゃぐとばかり思っていたぞ?お前ら転生者は律儀というより、馬鹿正直が多いのか?いや、カズマから別の転生者の話も聞いたが……単にソイツは馬鹿か。名前はミツルギだったか?」
「え、と...?」
「それに手柄なら、パーティなんだから同じだろう?むしろ経験値がお前に入って、俺としては寧ろラッキーだったよ。足引っ張られるよりレベルの一つでも上がった方が遥かにマシだ。むしろ普段今みたく俺の獲物に食らいつく位のがっつきを見せろ」
「で、でも」
「『お前は一つの命を救った』それでいいだろ……?言っておくが俺一人ならアイツの願いは間違いなく受けなかったぞ。わざわざ障害物の多い森の中で初心者殺しに近づくなんて、無駄にリスクを上げるだけなんだからな」
それも見ず知らずの他人のためにな、と付け足す。
「で、でも!ファントムさんは動いたじゃないですか!?直ぐに、私を庇うようにっ」
「パーティだろ……それにお前だって動いただろ?俺が間に合わない中でトドメはお前が刺して、あの女を救った。結果だけ言うならお前の方が活躍してる……逆に俺はパーティメンバーとしては配慮も足りなかったな、駆け出しで初心者殺しを目の前に動ける者は滅多にいないだろう」
「っ……です、けど」
「なら俺の詫びも兼ねてその金は貰っておけ。それでも渡したいなら貰うが……お前がそれでいいならな?」
彼は事実を淡々と述べ、席を立つ。
そこに感情はない、ヒトミの靄は強くなる一方だった。
彼にとってはそれが普通。
しかしヒトミにとってはそれがどうしても苦しい。
彼は小さく息を吐き「ヒトミ」と横まで来て彼女の名前を呼ぶ。
「だが、まぁなんだ……」
「?」
「ーーお前は勇敢だよ。怖いのによく頑張ったな、ヒトミ」
そっと肩に手を置き、ぎこちないが静かな笑顔で。
彼は本心から、そうヒトミに言った。
「……っ」
ーー彼の言う通り、初心者殺しを見たヒトミは普通の反応なのだ。
今まで格下ばかりと相対してきて、さらに彼という補助ありきでの戦闘には緊張はあっても、決して死に直面するという臨場感はなかった。
だが、初心者殺しを目の前にして明確な『死』を感じた。
普通なら震えが止まらなくなり、声を上げて逃げ出すだろう。
彼自身も、正直地の不利も重なって初心者殺しとの対面には表情を歪めた。
それに彼女は、少し前まで死とは離れた平穏な地で生を謳歌していたのだ。
ヒトミ自身は前世については詳しく話してくれないが、環境はなんてこともない話を聞く中で彼はなんとなく察していたのだ。
ーーそれでも、ヒトミは立ち上がった。
それはきっと。本当に、凄いことなのだと。
彼はそれを理解できなくても、その片鱗を理解しようとした。
そして、評価した。
見知らぬ誰かが死にかけた時に無意識でも立ち上がれる様な。
その細い体に降りかかる恐怖を拭い立った、愚かとも笑われそうな彼女の誠実さを。
「う、うぅ……」
そして、ヒトミは溢れんばかりの涙を流し、立っていた彼の腰に抱き着いた。
「っ!お、おいおい。人を楽しませる職業が、泣いてどうするんだ……」
彼は呆れながらも、無理に引き剥がそうとせず髪を梳くように撫でた。
(昔はよくめぐみんやゆんゆん達にやったもんだな...いや主にめぐみんに泣かされたゆんゆんなんだが)
「今日、位は..うぅ、怖かったですぅ……!」
「そうかそうか、大変だったな……?」
そう言いながら、ふと視線を反らす。
「……おい、何だあれ、羨ましいぞあの野郎」
「ヒトミちゃんの彼氏ヅラしやがって」
「素敵ねぇ、ああいうシチュエーション憧れるわぁ」
「ねぇ料理まだー?さっきから待ってるんですけど?」
実は先程から女性陣からは暖かな視線を、男性陣からは黒い殺意を向けられていた。
一人を除いて。
子供のように不満を机にぶつけバンバンと叩く長い青髪の一人を除いて。
(さっきからやり取りを見られてるんだが。やめろカズマ、そんな親の仇の様な目で見るな)
男性陣からの血涙を受け止める度量も、女性の正しい慰め方も、彼は持っていなかった。
だが、未だに顔を埋めるヒトミを見て。
ギャラリーという名の静かな野次馬達を見て、天秤に掛けようとして、小さく嘆息する。
(結果的にヒトミも精神的に成長した。助けたアイツらも無事だった。それにあの距離であの体格のモンスターへの矢の威力も把握した。まぁ、上出来か……確かに正直を言えばかませ犬みたいで少し癪ではあったが……)
「いや。打算は不粋か……」
そう言って、彼は考えを放棄してそっと目を閉じた。
チーン!
「おい待て、それは見過ごさん」
服で鼻をかまれた。
おかしい、このお話このすばだよな...?
あっれ~?バリバリのコメディを始めるつもりでペンを取ったのになぁ...?
あれか、これは筆者である私が悪いのか?
...だろうな(自問自答)
あ、次話は明日に投稿できそうです。