この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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新キャラ兼ベルティア篇です。


この筋肉女に黒騎士を!前編

 

ヒトミが初心者殺しを倒して、翌朝。

 

「...」

 

ーー彼は、少し困っていた。

朝、いつもの弓の調整を邪魔されたのだ。

いつものルーティーンから離れた行動をすると人は慣れない感覚に襲われていつもの力が出ないらしい。

 

それを踏まえると、彼は確かに本調子ではなかった。

 

『リア充に天罰オォォォォォ!!!』

「……というより、この状況に調子を狂わされない方がどうかしているか」

 

彼は現在、突如覆面集団に連行されて冒険者ギルドの席に座らされていた。覆面というよりは被り物だろうか、目の部分だけ穴が空いている。

 

体こそ縄の類いで拘束されてはいないが、彼を囲むように大人数でというのは中々に不気味な絵だ。

 

子供なら間違いなく泣き出すだろう、宗教でもこんな絵面は珍しい、宗教と言えばアクシズ教徒なら赤子だろうと勧誘の一つでもしそうだが。

 

「っ」

 

すると、何故かライトの光をチカチカと当てられる。

ライトを当てていた覆面の一人が、こちらに顔を近づけて威圧的に言う。

 

「ファントムさんよぉ。アンタ、裏切ったな?」

「何の話だ?」

「しらばっくれるのか、俺は。いや俺達は知っているぞ!昨日同じパーティのヒトミに対して色々していたのをな!?そうだろ皆!」

『オォォォォ!!!』

 

首をかしげる彼を他所に太い男達の雄叫びが、ギルドに響く。

 

「....」

 

彼は、あぁ。と何となく察した。

聞き覚えのある声に、もはや被り物の意味なんてあるのだろうかとも。

 

つまりは一瞬でも女性と触れあった『嫉妬』である。と

 

(場所にギルドを選んだ点、正体に気づかないわけもない)

 

しかし、と彼はまず弁明を試みる。

 

「...いや、色々と言われてもあの後は普通に別れたんだが」

「あの後...?な、何て不埒な事を想像したんだぁ!?」

『ほら言ってみろよほら?』

 

一人がわざとらしく驚く仕草をして、他の男達は声を揃えて煽って来る。

 

(噂とはいえ女性の下着をひんむいた奴に不埒といわれてもな...)

 

彼はあまり動じていなかった。

被り物集団に敵意はあるが、どちらかというと暴力的ではなさそうだからだ。

そもそも、誰が誰か既に大方の見当がついた。

 

「な、なんだよ」

 

彼は目の前にいる被り物に対して半目で問い詰める。

 

「ーーなぁカズマ、お前は何をしているんだ?」

「ッカ、カズマ?そんな奴は知らんな...俺は...俺は」

 

早くにボロが出た。

抜け目が無さそうなカズマとしては少し意外だと彼は片眉を上げる。

 

言い訳、被り物状態の名前を考えていなかった様だ。

 

『....クズマ』

「そうクズマだっ...いや誰がクズマだ!?誰だ言った奴出てこいや!!」

 

更にボロが出た。クズマと呼ばれた被り物は声のした方へ突っ込んでいった。

 

すると、笑いながらもう一人被り物が出てくる。

 

「...ふっ、クズマは俺達の中でも最強!だから二番目の俺が相手するぜ!」

「丁寧な説明どうも」

 

ーー彼が最強だったらしい。

そう思うと、彼はクズマの片鱗を見た気がした。

 

「....して、お前はダストだろう?いつ貸した八万エリスを返してくれるんだ?」

「っ...お、俺様の名前はダストなんかじゃねぇし?借金も知らねぇな」

「ならば仕方ない。彼には賃貸料として倍額を請求するつもりだったのだがな」

「なっ....き、聞いてないぞ!?じゃなかった!俺様には関係ないね!」

 

少したじろいた男に半目で言葉を紡ぐ。

 

「今だったら借金チャラにしてやるから、現状の訳をすべて話した上でこの場から解ほ」

「羨ましかったんですすいませんでしたぁぁぁ!!!首謀者はカズマです!!」

 

言い終わる前に二番手の男、ダストと呼ばれた男は布を投げ捨て、

その場で地面に額を擦り付けた。

 

「...なっ、ダストテメェ!?」

「つーかこの全員が冒険者です!!参加者の署名もあります!」

『ダストテメェ!裏切るのか!?』

「へんだ!お前らなんか最初から仲間じゃねぇよ!?有象無象よりも金の方が大事だろうが!!」

『ぐっ...』

 

集団は拳を握り口を閉じたようだ。

 

「ーーいや、そこは負けるなよ」

 

何故か論破された様子に彼はツッコミを入れる。

アクセルの冒険者は仲間よりも金、協調性がないらしい。

(しかし相変わらずの清々しいクズっぷりだなダスト)

「それで、お前達も弁明はあるのか?」

「そうだそうだ!」

「お前も、借金をチャラにしただけで許した訳じゃないんだが?」

「えっ!?」

ダストは何故か彼のサイドに回っている。

 

余談だが。

ダストというのはヒトミやカズマの言うあちらの世界では『ゴミ』という意味らしい、名前を聞いたヒトミが「流石に名前は...偶然ですよね?」と苦笑していた。

 

名前に負けずとも劣らない性格、名前を付けた親は予知能力でもあったのだろうか。

だとしたら矯正してほしかったと彼は思った。

 

 

「……す」

『……す』

「す……?」

『「す、すいませんしたぁぁぁぁ!!!」』

 

結局、弁明なく他の全員も土下座した。

 

すると視線が開き受付嬢達と視線が合い、大変ですねの言わんばかりに苦笑される。

そして土下座する男達を、ゴミを見る目で見た。

 

「...」

(別に顔が悪い訳じゃないだろうに。コイツらが異性に好かれないのは、そういう所じゃないのか...?)

 

主に自分に正直すぎると、彼は思った。

だが口には、出さないことにした。

 

「まぁ、この街が愉快なのは違いないか」

 

彼は嘆息し、口角を上げた。

 

◆◇◆

 

新たに弓の調整を終えた彼がギルドに戻ると、見慣れた少女の姿があった。

 

「...あ、ファントムさん。おはようございます」

「クルッポー」

 

しかし、彼に気付いたヒトミにはあまり元気なく。

否、元気が無いと言うよりはどこか遠慮がちな様子だった。

 

「随分早いな、ところで」

 

彼の視線は別の方に向かった。

 

「クルッポー」

「ヒトミ...何故、鳩を出しているんだ?」

「あ、えと。これは『以心伝心』っていう新しいスキルで、出した動物とお話できるかな~と試しに鳩を出してみたんです...よ」

「ほう、そんなスキルがあるのか...ところでヒトミ」

「は、はい」

「何か色々距離を感じるんだが...気のせいなのか?」

 

ーーヒトミは二つ先のテーブルの、それも向かいの位置に座っていた。

近付こうとするとササッと逃げられるので、首をかしげる。

 

「気のせいでは、ないですよ」

 

するとヒトミはもじもじしながら、視線をおとして指を遊ばせる。

 

「でも...ファントムさんは、よくあんな事があってから普通に接していられますね?」

「ガキの頃に二回り程年下の奴等に絡まれてよくあやしていたからな、慣れた....昨日はそれと同じ感覚だ」

「あ、あれ?同じ!?私そんな歳離れてませんよね!?」

「いや子供だよお前は、俺も大人かと言われれば微妙だが」

 

(正直、六歳下のめぐみんの方が大人なんだが)

ちなみに、彼は精神年齢でカウントしていたりする。

彼はコツコツとヒトミに近寄る。

 

「それに別に思春期や前の世界との違いによる葛藤が抜けないのは構わないが、泣きたいときは泣くべきだと思うぞ?悲観も恥ずかしがる事じゃない、そこが戦場じゃないならな」

「っ」

 

彼がそう言うと、ヒトミは目を丸くして。

 

「...ファントムさんって、たまに紅魔病発症しますよね?」

「...してたのか?気を付けよう……」

 

彼本人は無自覚らしい、失言したと軽く口元を押さえる。

それを見て、ヒトミは笑った。

 

「でも、好きですよ。そういうところ」

「そうか。なら残念だが、俺は俺のこういうところが嫌いだ」

「むぅ....正直過ぎるのはダメだと思うんですが」

「元気付けるのに嘘はいらないからな、お前相手なら特に」

 

ヒトミ小さく頬を膨らませて彼を軽く睨むが、彼はどこ吹く風だ。

 

「元気は、出ましたが...」

「それならば、クエストに行けるな?他にも新しいスキルを修得したんだろ?...お前の職業は未知だからな、使えるものは吸収したい」

「む...ならしっかり見ていてください!瞬きしたらその間に全てを終わらせてみせますからね!」

「肝に命じておくよ」

 

そう言って二人並んでクエストを見に行く最中、

...そんな二人の背中を壁から頭を出して見ている姿があった。

 

「...何だあれ、ラブコメか?ラブコメなのか?いくらファントムさんでも爆発しろ」

 

一番上のカズマは下唇を噛みながら二人を見て。

 

「いえくろぐろ兄さん相手だと脈ないと思うんですが...カズマカズマ。覗きって趣味悪いと思いませんか?でもワクワクしますね!...あれ、今までくろぐろ兄さんに『さん』付けしてましたっけ?」

 

二番目のめぐみんは爛々と瞳を輝かせ。

 

「私二度寝してい~?退屈なんですけど~」

 

三番目は大きくアクビをして。

 

「下敷きとはこれもまた...いい!?にしてもファントムとやらと私が全く会話していないのは放置プレイか!そうなのかカズマ!?だがそれも、いやそれがいい!!」

 

四番目は悦に入りながら叫ぶ。

 

「...いやうるせぇよお前ら!!ファントムさんにバレたらまた怒られるだろうが!」

 

カズマは下の三人に向かって吠えた。

 

「ーーいや、全部聞こえてるんだが」

 

「え?どうかしました?」

「クルッポー!」

「...なんでもない」

 

面倒なので、彼は無視した。

 

◆◇◆

 

「ファントムさん!お便り来てますよ~」

 

依頼を終えてギルドで報酬を受け取っていると、会話をしていた受付嬢とは別の人に呼び止められた。

 

「...手紙、俺にか?」

「はい、王都の方から一通預かっています」

「王都...そうか奴か。ありがとう」

 

王都にいる彼の知り合いから、連絡が来たようだ。

その場で封を手で切り、中身を確認する。

 

「なになに...」

 

 

 

『拝啓 くろぐろ、もといファントム様。

貴方様におかれましては、益々ご健勝の事と大して喜ばずに申し上げます。

 

前略

イレイシアからアクセルに移動と聞いたが、何故王都に来なかったんだ?アタシか、アタシが原因なのか?アリンについては?世話になったんだからそれ相応の礼はしたんだろうな?

そんなに私に会いたくないなら上等だ、今度そっちに遊びに行ってやるから覚悟しとけ。

敬具

サンテリア・ハルマルト』

 

 

 

 

「......」

 

所々不思議な文面だが、彼女らしいと言えばそうであったと彼は感じた。

 

一通り目を通した彼を見て。

受付嬢の一人、ルナという女性がおずおずとした様子で聞いてきた。

 

「あ...あの、ファントムさん?」

「まだ何か?」

「あの、私の記憶が正しければ、サンテリア・ハルマルトさんって...粗暴の悪さで『暴虐』という異名が付いた腕利き冒険者なんですが...?」

「合ってるぞ。別に、馬鹿にでもしなければ普通に接してくれるがな」

「へぇ...いえいえそうではなくて!そもそも知り合いだったんですか!?」

「イレイシアの同郷だからな?よくパーティも組んだよ」

「そ、そうなんですか!?」

「っ変なことはないだろう?たまにパーティを組んでいた同郷の冒険者が大成しただけだ。俺は奴が苦手だが」

 

ルナが前傾姿勢で台を越えて来るのに対し、彼は淡々と返す。

すると背後にいたヒトミが、キョトンと呟いた。

 

「え、ファントムさんって私以外の誰かとパーティを組んでたんですか?」

「あぁ。流石に一人では荷が重い時もあるし合同で組むクエストもあるからな。一人が多かったのは単に合わせるのが面倒なのもあるし、冒険者だとその点不便でな...その点奴は心配なかったからな」

(そして...ヒトミ発言はまるで『俺がパーティを組む事が出来たのか』的なニュアンスに聞こえるんだが...他意ないか?)

 

そう思ってルナに視線を戻す。

 

「そ、それで。手紙にはなんと?」

「近々遊びに来ると...難易度の高い討伐クエスト、残しておく方が良さそうだぞ。さもないと強そうな奴見つけては喧嘩売るかもな」

 

彼がアドバイスすると、ルナは目を丸くした。

 

「え、ぇぇぇぇ!?」

「クルッポー」

鳩が首をかしげた。

 

ーーまだいたのか鳩、そう一瞥してから彼は決心する。

 

「よし、俺はしばらく旅行にでも行くことにしよう」

「え?突然ですね」

「言ったろう?俺は奴が嫌いだ...死ぬほど気が進まないがアルカンレティア辺りに避難することにしよう。まだアクシズ教徒ならなんとか撒けるしな」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな事したらハルマルトさんが来たときに対応に困りますっ」

「俺は知らん。無害な奴には無害だから安心しろ、そして行き先は絶対に告げるな。ヒトミは...ヒトミも来い、お前はボロが出る可能性が高過ぎる」

「唐突な上に理由が不本意すぎるんですが!?」

「まぁいい。とにかく行くぞ、奴は正確な日時を綴らなかったからな、今すぐに...」

 

その刹那。バァン!と、ギルドの扉が開いた。

 

◆◇◆

 

「ーーよぉ!クロ!遊びに来たぜぇ!」

 

突如ギルドの扉を開いてやって来た彼女に、彼は本気で自分の不幸を呪い、深い嘆息を漏らす。

 

「...大変だ。人型デストロイヤーが来たぞ。緊急クエストだ...めぐみんを呼べ、爆裂魔法を放て」

「っ誰が人型デストロイヤーだ!?久し振りに会ったがその口は減らないようだな!クロ」

「お前のその怪力っぷりは磨きがかかったな...サン」

 

胸ぐらを掴まれて宙に浮かされながらも、軽口を叩き合う。

乾いた笑みの紅魔族の顔は青い。

 

その巨体は二メートルを優に越えており、胸倉を掴まれて上げた彼の体は若干浮いていた。

 

隆々とした筋肉は美術品の様に曲線と隆起を描き、脂肪という無駄が無い体をしていた。

紅い髪は滾る血を連想させ、その肉体は女性だけで構成される民族...アマゾネスを彷彿とさせる。

さらに筋肉の上に強固な鎧を体の節々に取り付けており、背中にはその巨躯と同じくらいの大剣が背負われていた。

 

攻防に関して全く隙のないその姿は、まるで人間要塞である。

ーーちなみに、彼女は純血の人間である。

 

ヒトミは自分の予想を超えた姿に驚き、クロと呼ぶ彼女に怪訝な顔をする。

 

「えぇ、と?貴女がサンテリアさんですか?」

「ん、なんだいアンタ?」

「あ、私はヒトミと言います!ファントムさんとはパーティを組んでいまして...」

「へぇ!クロがアタシ以外とパーティを組むなんて、珍しいこともあるもんさな?聞いてると思うがアタシはサンテリアってんだ!サンって気軽に呼んどくれよ!」

 

女性にしては随分と野太い声で笑い、その様子にヒトミは少し付いていけない様子だ。

 

「しかし、本当にアンタがパーティをねぇ?」

「流れでそうなったんだ。あと...手を放せ、そろそろ、意識が、飛ぶ.....!」

「あぁ!すまないね」

 

握っていた手を離され、ようやく降ろされた。

彼は着地して咳き込み、息を整えて軽く睨む。

 

「ふぅ...それで、何故ここに?」

「手紙に書いたろ?まさか読んでないのかい?」

「およそ二分程前に読んだ手紙の事か?もはやタッチの差だったと言っておこう。(逃げる)の準備すら出来なかったよ」

(いまスキル使ってないのにファントムさんの心読めたんですけど...)

 

彼は深い嘆息を漏らす。

 

「しかし...今のお前の実力なら王都でも引っ張りだこだろう?よく来れたな」

「それなんだが...王都の連中は腑抜けばかりさ。正直ガッカリしたよ、アタシの姿を見るだけで逃げ出す奴ばかりでねぇ?挙げ句には騎士に『あまり彷徨しないでくれ』だなんて!その癖クエストはやれだのと言うから腹立って仕方ないね!!」

 

声に怒気が籠る、それだけで周囲の冒険者は一歩引いた。

 

「やめてやれよ。見た目は大切なアドバンテージなんだ、お前の見た目は怖いものは怖いんだからな。行為で心象を改めるかするか、まずはそれを認めろ...まぁ周囲の態度は物申したいがな」

「だろぉ?見た目の悪口くらいならアタシも目を瞑ってやれるがよぉ、勝手すぎるんだよ!まだアンタといたイレイシアの方がマシだね!」

「イレイシアでもお前は似たような扱いだったろ?」

「いーや、彼処ならアタシに喧嘩吹っ掛けて来る奴等がいたね」

「そいつら全員病院送りにして何をいっている?その見た目にそぐわない行動がお前の異名を呼んでいる、お前には精神面に成長がない」

「あ?クロこそアクセルなんて駆け出しの街に来やがって。腑抜けたんじゃねぇのか?」

「え、えぇと?」

 

徐々に棘が増す二人の会話に馴染めず、ヒトミはあたふたしていた。

ルナは既に固まっている。必死に会話を読み取ろうとした結果だろう。

 

彼は一息置き、呆れた視線を込める。

 

「...それで、本当は何の用だ?顔が見たかった何てセリフは、わざわざアクセルにまで来てまさかだろう?」

「...流石クロさな。大事な話がある」

 

そう言って、サンテリアは周囲を見渡して、口を開ける。

 

「ーーアタシと王都に来ないか?クロ、お前となら天下すら取れると私は確信している。紅魔族でありながら魔法に恵まれず、だが折れずに知識を身に付けひたむきに成長しているアンタなら!」

「...ぇ?」

 

その言葉に、ヒトミは自然と声が漏れた。

 

「ーー断る。頭まで筋肉なお前の、アクア以下の解答だな?神経衰弱でもやってろ」

「「え!?」」

 

彼は真顔で即答した。

ちなみに目がジワジワ紅くなっている、然り気無く紅魔病が出ているらしい。誰も口を出せる状況では無いが。

 

そしてサンテリアは再び彼の胸ぐらを掴み、再び持ち上げて睨み付ける。常人、冒険者でも泣き出しそうな迫力があった。

 

「...私が納得する理由は、あるんだろうなぁ?」

 

しかし彼は真っ直ぐサンテリアを見ながら、答えた。

 

「無いな。今何を話したところでお前は納得しないだろう、だが少なくとも...今のお前とはパーティを組む気すら起きんな」

「何故だ!?」

「まず、お前は王都に期待しすぎだ。夢が期待と違っていた事に対して苛立ちを覚えるお前は、まるでガキのようだ...それなら冒険者でなく、いっそ騎士団にでも入るんだったな?士気も上がるだろうし、腕だけ見るなら取ってもらえるぞ。間違いなくな」

「何だそりゃ...アタシが間違ってるとでも?」

「酷なようだが自分に全く否がないと何も見直さないのは、誰であろうと間違ってる。例えイジメられていても、救いがなくても、考えないのは停滞を生んで、停滞は後退を示す...俺が学んだことだ」

(……あと友達がいなくてもな)

彼の脳内に直ぐ様ゆんゆんが思い浮かんだ。

 

最近会わないが大丈夫なのだろうか、彼女は。

 

「お前は迷わず自分の道に進んでいるんじゃない。単に責任と理想を押し付けて勝手に失望する、我儘な奴だ」

 

サンテリアは歯噛みする。

 

「知った風に...!」

「イレイシアでのお前は、少なくとも人の利点を探そうと必死だったのにな?だからパーティにもなっても少なからずの連携がとれた、環境は人を変えるというのは本当らしいな...まぁ俺も体感しているがね」

 

彼はヒトミを一瞥する。

ーー彼も、何も変わっていないと言ったら嘘になると。

 

しかしサンテリアには響かなかった様だ。彼女はさらに吠えようとする。

 

「黙れっ!!お前に何が...」

「ーーあ、あの!」

 

唐突に、サンテリアは足下からの声に止まり、振り返る。

そこには真っ直ぐサンテリアを見つめながらも、小さく震えるヒトミの姿があった。

 

「...ん?なんだい、ヒトミ……言っとくが今は遠慮できる余裕はないからな?」

「ファントムさんを、放して。ください...!」

 

ポツポツとだが、ハッキリと。ヒトミは言った。

 

「……」

「……」

サンテリアとヒトミの視線が交錯する。

 

「……はぁ」

 

サンテリアはそっと腕を降ろし彼を解放する。

 

「...悪かったな、クロ」

「ほぅ。お前の口から詫びが出るとはな、まぁ気にするな」

「どうやらいいパーティメンバーを持ったようさね...しかしアタシは諦めた訳じゃないよ?ここには、そうさな。一週間は滞在する、その間にアンタの気を変えてやるさ」

 

サンテリアは豪快に笑う。

彼は小さく息を吐き、親指で掲示板を差す。

 

「身勝手は簡単に治らないか……残るんだな?ならば長く残ってる危険モンスターの狩りに貢献しろ。俺では手に余る」

「構わないよ...アンタも来るかいヒトミ?」

「え?」

「あんなアタシと真っ正面から意見を言える人間はねぇ...王都でもそこまでいなかった。気に入ったよ!危険モンスター達なら安心しな、アタシが守ってやるよ!なら防具の手入れしないとな!門の近くで待っててくれ!」

「は、はぁ...?」

 

どこか実感の無いヒトミを置いて、彼女は立ち去った。

 

ーー台風の様に過ぎ去った彼女に、彼は今日何度目かの嘆息。

 

「...これがアイツの嫌いな理由だ。腕は確かだし色々豪快なのは目を瞑れるが、内面がいささか俺と合わん」

「あの...ファントムさん、私サンテリアさんに気に入られたんですが...?」

「擁護する訳じゃないが悪い奴ではない。仲良くしとけ、嫌なら塩でも撒いとけ」

「悪霊の類いなんですか!?」

 

やけに静かなギルドにヒトミの声が響いた。

 

◆◇◆

 

二人が危険な討伐クエストを受けて門へと向かった中。

 

「...くろぐろ兄さん、いつの間に人脈を広げてたんですね」

「しかも王都でも有名なんだってな、スゲェ...つかよくあんな怖い奴に普通に会話できるな?」

「カズマカズマ、それよりも今日も爆裂魔法です!!早く例の城に行きましょう!今日は何だかいつも以上に行けそうです!」

「そうなのか?よし、なら行くか」

 

『爆裂魔法』はその威力の反面、とんでもない量の魔力を削がれる。紅族の中でも優秀なめぐみんですら一日一発が限度、撃った後には倒れて動けなくなるほどの倦怠感に襲われるのだ。

故に帰り道は誰かにおぶって運搬されている。

主にカズマ、たまにダクネス、稀にアクアといった具合である。

彼が聞いた話では古い城を見つけたらしく、誰もいないだろうと判断して毎日爆裂魔法を放っているらしい。

 

ーーそして、それが不幸の始まりだった。

 

◆◇◆

 

 

「遅いですね~」

 

準備がある、と戻った彼と彼の友人をヒトミは門の外で一人待っていた。ちなみにスキル『早着替え』で既に着替えは終えている。

 

『ーーおい、お前はそこの街の冒険者か?』

 

門の方を向いて二人を待っていて、そして黒髪を靡かせて声に振り返ったヒトミは息を飲んだ。

 

「はい?そうです....けど」

 

そこには、黒い騎士が馬に乗っていた。

恐々とした黒いオーラを滲ませ、大剣を背負っている姿に、ではない。

 

(...首が、ない?)

 

その鎧は、首から上がなかったのだ。

そして、手に持っている兜から紅い双眸が覗かせている。

 

目を丸くするヒトミに、鎧はどこか嬉しそうに笑う。

 

『フッフッフ、いくら駆け出しの冒険者といっても、俺の恐ろしさはわかっているようだな』

「……!」

 

 

 

「ーーっはい凄いです!貴方もマジシャンなんですか!?」

『そうだろうそうだろうーー何だって?』

 

うんうんとして、止まる。

ヒトミは首を傾げた。

 

「え?それは『胴体真っ二つのマジック』ならぬ『頭部離脱マジック』じゃないんですか?」

『んな訳あるか!?なんだマジシャンって俺の格好を見ろ!』

「...コスプレ?」

『お前ふざけんなよ!?俺は騎士だ!そんでデュラハンなんだよっ!!デュラハンのベルディアだ!』

「へぇ...デュラハンなんているんですねこの世界は?あ、この馬さん触ってもいいですか?」

 

 

ヒトミは知らなかった、目の前がとんでもない相手だと。

 

野菜が飛んだり跳ねたりするのが普通の世界は、彼女にとっては「まぁ首なしの人もいるんだな~」と言った感じだったのだ。

少なくとも、近付いて真っ黒な馬を撫でようとする程度には余裕があった。

 

そして馬の方も満更ではなさそうだ、持ち主と同じで首から上が無いが。

 

『えぇい寄るな!少しは緊張感を持たんか!!』

 

 

 

 

 

 

「ーー全くその通りだよ、『狙撃・三連』」

『っ!』

 

 

返ってきたのは、ヒトミの返事では無く三本の矢だった。

ヒトミを避けるようにして飛んでくる三つの矢に、ベルディアは片手で目に追い付けないような速さで剣を抜き、一本を避け、二本を剣で叩き落とす。

 

そして、剣で迎えた一本の矢にくくりつけられていた(・・・・・・・・・・)玉が破れると同時に大量の煙が二人の視界を覆う。

『っ!...煙玉か』

 

「な、何ですか!?...ひゃあ!?」

 

近くにいて視界を奪われたヒトミは、慌てていると突如服の襟元を引っ張られて、煙から抜けた。

そして引っ張られる方を見え、ポカンとして名を呼ぶ。

 

「えっ、ファントムさん?」

 

そこには、呆れた顔で煙の方向を見ている彼の姿があった。

いつもよりも腰の菅の数が多く、関節につけるガードナーや胸あてが普段と違い、より高価に見える。

 

恐らく危険モンスターへの対策だろうとヒトミは推測した、そして彼の視線は一度も煙から離れない。

 

「えと、もしかして..…もしかします?」

「……」

 

ヒトミもようやく事態を察し、申し訳なさそうに苦笑する。

 

「...お前は図太いのかバカなのか。それとも情報を伝えなかった俺が悪いのか?とにかく、つくづく感心させられるよっ」

 

なんて事を言いながら、不思議な形の鏃の矢をつがえて宙に射た。

 

「え?」

 

鋭い金属で多角の形をしていたそれは、太陽に反射しながら真上に飛んでいく。そう、向かう先は天上だ。

 

ベルディアと名乗った者を攻撃する訳でもないそれに、ヒトミは小首を傾げた。

 

「あの、今のは...?」

「後でわかる。今は前を見ろ、もうわかっているだろうが奴は敵だ...しかも不意の矢を全て捌かれた、少なくともアクセルとは釣り合わない使い手だろうな」

 

 

『...ほぅ、やっと話のわかる奴が現れた訳だな?』

「!」

 

その声が聞こえ、ベルティアが剣を大きく薙ぐと同時に煙が晴れ、その姿が露になった。

 

既に馬から降りている、戦闘する気まんまんらしい。

 

「剣圧で煙を晴らしたか...よく出来るものだな」

「え?出来ないんですか?」   

 

未だに緊張感のない言葉に少し呆れる。

 

「....お前がイカサマ無しにストレートフラッシュとやらを二度連続でできるなら今の発言は取り消してやる」

「...」

 

漸く黙ったヒトミを他所に、彼は内心で舌打ちする。

(マズイな...敵の力量も踏まえて、見晴らしが良すぎて『潜伏』が使えない。しかも真正面で矢が通じない相手とは、相性が最悪だな)

必死に思考を回すが、打開の一手が出ない。

 

『そろそろ話は済んだか?』

「...ベルディアと言ったな、まさかタダ者ではないだろう?」

『あぁ。その通りだ、俺は魔王の幹部の一人ベルディアという者だ...ここら近辺の調査の任に当てられて来ていた』

「……」

 

彼は少し脱力する。

単に身元をばらすどころか、説明を始めたからだ。

 

(誰もそこまでは聞いていないんだが...まぁ好都合か、情報は得られそうだな)

 

特に指摘せず、逆に話を聞こうとする。

 

「ならば、何故ここに来た?駆け出しの街にわざわざ出向く程の使い手でも見つけたのか?」

『駆け出しに俺に敵う奴など、驕らずともいないわ...だが、だがな?』

 

プルプルと震え始めた。

 

「「?」」

 

眉をひそめる二人をよそに、ベルディアが吠えた。

 

 

 

『ーー毎日毎日うるっっせぇんだよ!!馬鹿でかい爆発音が響いて夜も眠れねぇ!!部下に城を修復させるのもかさむしなぁっ!!』

 

 

(ーーあ、この件の犯人知ってるな)

 

彼は確信した、というか毎日の爆発など脳内に浮かぶ彼女以外思い当たらない。

確か、彼女は世間話に古城を的にしていると言っていた。

どうやらそこがベルディアの住み処だったようだ。

 

(めぐみんめ...何故だ、そして何故俺はこう...間が悪いんだ...!)

 

偶然幹部の住み処に攻撃していためぐみんもそうだが、騒音騒ぎに頭も痛めたベルディアも運が悪い。

 

そしてそんなベルディアと対峙している彼に至っては、完全なとばっちりであった。

 

『お前らここの冒険者何だってな!?悪いことは言わない、どうせ犯人は冒険者なのだろう?そいつの事を話せば危害は加えないと約束してやる』

「なっ、仲間を売る筈がないじゃないですか!」

「そもそも、危害を加えない点に根拠がないな」

『嘗めるなよ、俺は生前は騎士だった。一度交わした契りは必ず守ろう、悪い取引ではあるまい?お前らが敵わないのは、お前ら、特にそこの男が一番理解しているだろう?』

 

ベルディアは失敬だと言いたげだ。

だが、確かに。と彼はベルディアに一理あった。

 

彼と自分では明らかに差があり、ヒトミも一皮剥けたが未だにレベルとは別に戦闘の経験は不足している。

 

ここでめぐみんを見捨てて渡した方が利口だろう。

 

(自業自得な面もあるしな)

 

裏切り者扱いされたところで、元々冒険者になってから自分は非難の声は浴び慣れている、他人の命よりも自分を優先するのが普通だ。ダストの発言も完全に棄てられるものではなかった。

 

「ーーだが断る。それは俺のモラルに反するからな」

 

ハッキリと告げて、彼は紅くなった瞳で矢を絞った。

 

『ほぅ?』

 

(腐れ縁であっても妹みたいな奴だしな。少なくとも俺自らがアイツを売って見殺しにはしない)

 

「...そもそも、騎士だからというのはお前が口約束を反故にしない理由にもならない。信憑性に欠ける」

『そうか。甘さではなく最後まで見捨てないその姿、貴公は中々見所があるな...だが故にここで、その騎士道と共に剣のサビとなれ』

 

ベルディアは静かに剣を構えた。

 

「生憎、騎士道なんて大層な身ではないな...」

 

その動作で起こされる迫力に冷や汗をかきながらも。

彼は、薄く笑った。

 

『さて、始めようか!』

 

「ーーいいや、もう終わった」

 

『は?何を、言っている?』

 

「お前がとくとくと話をしてくれたお陰で、もう一人の馬鹿が来てくれた」

 

『?』

 

その言葉に、ベルディアは手の上で兜を傾ける。彼なりの首を傾げる仕草だろうか。

 

 

 

 

 

「ーーなんだぁコイツ?首から上が手にあんぞ?」

 

 

そして、傾げた兜は背後からひょいと掴まれ胴体から離れた。

 

『何っ..……ちょっ、おまっ!?誰だお前は!いつの間に後ろに、というか頭をとるんじゃねぇ!!』

「さ、サンテリアさんっ!?」

 

背後から現れた巨人に、ヒトミはあまりの唐突さに、そしてベルティアは気配の無さに驚いた。

 

しかし彼は違った。

安堵の息を漏らし、声を上げる。

 

「ナイスだサン、助かった....どうせならそのまま胴体から離れながら兜を回せ!」

「ん、こうか?」

『グワァァァァァォ!!!は、吐く、ヤメロォォ!』

 

サンテリアは胴体に体を向けて後ろ歩きしながら二人に近付いていく。

その間、サンテリアは器用に人差し指の先でベルディアの頭を回していた。

 

ヒトミはふとバスケットボールで似たようなものを前世の漫画から既視を感じた。

 

『アババババババ!!』

 

ベルディア(鎧)は視界が定まらず何やらワチャワチャしている。

首と胴体が離れているデュラハンならではの弱点であった。

 

サンテリアが二人の元まで歩いて来ると、困ったように眉をひそめる。

 

「...でもどうするんだ?多分コイツ、アタシの握力でも潰れないぞ?」

『フ、フハハハハ!!俺の固さを舐めるなよ女が!俺様の鎧は魔王様からの加護を得ている、故に頑丈性もその辺のアークプリーストの浄化は無意味...!無駄だったな、無駄だからぁ、はなさぇ!たにょむからぁ!!』

回っている内に呂律が回らなくなっているようだ。

 

しかし、トドメをさせないのは困る。

(話が本当なら浄化魔法『ターンアンデッド』が効かないのか...成程、流石に幹部なだけはあるな)

さらに不意を付いたとはいえ目の前にいるのは歴戦の戦士、いつこの戦況から逃れて戦闘可能になるかはわからない。

 

時間に猶予はない、さてどうするか。

彼は顎に手を置いて考え、答えを出した。

 

「ーーサン。そいつを思い切り遠くまでぶん投げろ」

『え?』

「そりゃあわかりやすい!よっしゃきたぁぁぁぁ!!」

 

サンテリアは目の部分の兜の凹みを掴み、腰のひねりの反動と全身の筋肉をフル活用して、放った。

 

『え!?まっーーはぁぁぁぁぁぁん...……!!』

 

そして、ベルディアは星になった。

 

 

 

「ーーしかしよぉクロ、助かった。アンタが『反射矢』で場所を教えてくれなかったらわからなかったわ」

「どうせお前の事だ。街で迷って高い門壁をよじ登って探していると思っただけだ...まさかよじ登ったのか?」

「流石だねぇ、アタシの事よくわかってるじゃないか。キラキラしてたぜ」

 

ーーよじ登ったらしい。

ヒトミが疑問を抱いた矢は、サンテリアにこの場所を知らせる物だったのだ。

 

「門だぞ...というか、よくこの街に来れたな?方向音痴は直せ」

(まぁ、今回に限ってはサンが門から出なかった為にベルディアの虚をつけたんだが...)

 

恐らくサンテリアが普通に門から出てきていたら、ベルディアは彼女の存在に気付いて警戒したろう。

それでは今回では勝利の望みがかなり薄くなってしまう。

 

彼は息を吐いた。

 

「俺は幸運はあれだと思っていたが、悪運は強いらしいな」

「...お~よしよし、可愛いですね。普段何を食べてるんですかお前は~?」

「それとあの馬...首から上ないんだが、あれは喜んでいるのか?」

「さてね。少なくともヒトミはあれを見て動揺しないところ、将来大物になりそうさね」

「動じないと力量がわからないは、全くの別物だと俺は思うんだが」

 

幹部の一人がやって来たとは思えないほど呆気なく。

そして撃退したとは思えないほど暢気な雰囲気だった。

 

 

「「「...さて、胴体をどうする?」」」

 

 

 

そう、これが不幸の始まりだった。

...ベルディアのだが。




ベルティアは帰ってきます。
正確に言うなら次話に帰ってきます。

次話は明日投稿です。
急ぎですので誤字脱字多いかもしれません。
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