この愉快な二人に祝福を!   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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後編ですね。
今更ですが前後ともに一万字を越えております。
これでも圧縮しました、作者の実力不足です。


この筋肉女に黒騎士を!後篇

 

 受付にて。

 

「...スイマセン、色々追い付かないのでもう一度言っていただけますか?」

「無理はないが、三度目だぞ?」

「はい。そうなのですが、内容が内容でして...」

 

  彼は引き攣った笑顔をするルナを前に小さく息を吐く。

 

「まず、あのゴリラと共に受けたクエストは全部終えたよ。全部だ、三人分の冒険者カードにも討伐数が記載されている」

「は、はい。四回程確認しました...ゴリラ?」

 

「……そして門の前で魔王の幹部の一人と名乗ったデュラハンと遭遇した。二人も見たと言っているし、教えた馬小屋には首から上のない馬が大人しくしているぞ」

 

「あの……首を投げたと仰っていましたが……それは?」

 

「言葉通りだ。体の方は縛り付けて宙吊りにしたが、体の今後の扱いは冒険者ギルドに委託しようと思ってる。一応、あのゴリラでも束になるか不意をつかないと敵わないような化け物だからな」

 

……逆に束になれば、魔王の幹部に敵うと彼は考えている訳だが。

 

  とどのつまり、今回の騒動をこう言っていた。

 

『ベルディアの件は手に負えないんでそっちに丸投げするね』と。

 

 

「なぁクロ!この剣癖は強いが良さそうじゃないかっ」

「サン、出来ればその剣は金の足しに売りたいから、無闇に触るなよ!」

「えっ、売るんですかその剣!?」

 

 彼はその声に逆に片眉を上げる。

 

「売らない理由がないだろう。あんな剣あのゴリラしか持てないし扱えない、だがアイツは元々自分の上等な剣を持っている。どっかの物好きな貴族が大金で買うだろう。魔王の幹部の得物と聞けば飛び付くと確信している」

 

  ブランドの様なものだ、と付け足す。

 

「せ、セコいです……ファントムさん」

(それもありますけど、そんな大剣を棒切れのように振り回すサンテリアさんって一体...)

  もはやルナからは乾いた笑みしか出てこなかった。

 

  しかしなんとか、なんとかルナは脳内で事態を整理できた。

 

「で、では馬と胴体はこちらで預り王都の本部へと動向を伺います……流石に信じがたいですが。カードに名前も確認されていますし魔王の幹部と聞けば本部も無下には出来ないでしょう……サンテリアさんの名前を出せばある程度の説得力もありますし」

「助かる。本当に……予想通り予想外だったが、俺も驚いてはいるんだ」

「……仕事、ですから」

 

  少しばかり余裕を取り戻せたルナは、礼を言う彼にぎこちない笑みで返した。

 確かに一番現実味が沸いていないのは本人達だろう。

 

「ちなみに、何処まで投げたのか聞いてもよろしいですか?」

「……アイツは王都でさらにゴリラ化したから、正直わからん」

 

ーーひょっとしたらイレイシア辺りまで行ってるかもな。

 

「アハハ……まさか、ですよね?」

 

  ルナは再び乾いた笑みを浮かべた。

 

「冗談だ、半分は」

 

  割りと本気で思っていたりする。

 

 ◆◇◆

 

  夜は宴だった。

  撃退とは言っても魔王の幹部。

 報酬自体は引き取りが来て確認するために後日だが、サンテリアが「アタシが奢ってやる」と男前な事を言ったのが発端である。

 女なのに、とは誰も言わなかった。

 

「うぅ...疲れました」

「だからこうしておぶってるだろ、俺の気持ちになれ」

 

ーーそしてそんな宴を終えた後、二人は帰路で歩いていた。

  彼は言葉通り、華奢なヒトミを背負っている。

 

「むしろ女としては軽いくらい言ってほしいんですが...うっ、体中が痛いです」

 

「サンに付いていった上に宴の席でマジックをするからだ、当然だろう。むしろ上出来だ……ところで人の体って二つに分かれるのか?」

 

「まさか、マジックはタネと夢が詰まってるんですよ...それにしてもファントムさんは、あんまり疲れていなさそうですね?」

 

「やつとの付き合いは慣れてたからな……不本意だが」

 

  その言葉に、ヒトミは小さく笑う。

 

「アハハ……お二人はとっても仲が良いんですね?」

「それほどではない。ただの同郷の腐れ縁だ」

 

「……お二人は、どうやって出会ったんですか?」

「ん?何て事はない、クエストの途中に出くわしただけだ」

 

「……本当ですか?」

「何を疑っている?」

 

「いえ。サンテリアさんの性格だと、それだけであんなに信頼を置くかなぁなんて……」

「信頼か……ヒトミ、今日は随分と鋭いな?」

「前世では、人の顔ばかり見てきましたから」

 

 その言葉に、深い嘆息を漏らす。

 

「……ならデュラハンの危険性を察しろ、聞けばそっちの世界にも架空だがいるそうじゃないか」

「その節は本当にすいませんでした」

「……サンテリアに話は戻すが、嘘は言っていないぞ?アイツとのファーストコンタクトはクエストの最中だ……奴は会ったとき、死にかけていたがな」

「え?」

 

 その言葉にヒトミは目を丸くする。

 少なくとも今まで会った冒険者の中で、純粋な力だけで計るなら最も強いとすら思っていたからだ。

 

「今も昔も無茶ばかりする奴だ。アリンも心配していた」

「そうなんですか、それでファントムさんが助けて……」

 

「ーーいいや?無視した」

「え?」

 

「残念だがその時の俺はお人好しなパーティメンバーなんていなかったからな。精々『強いくせに無茶ばかりで勿体無いな』程度に思ったくらいだよ、イレイシアの冒険者なら尚更だ……わざわざ介護してモンスターに襲われるリスクを背負う必要は無い」

「……」

 

  静かになった背中に、彼は言葉を紡ぐ。

 

「だがアイツは帰ってきた、正直感心したよ……そして奴は俺や皆にこう言った」

 

ーー見たか!運も持っている!これが私の冒険さね!

 

「大したバカだよ。そこから少しずつパーティを組むうちに会話程度には親しくなった、わかったか?」

 

「……ファントムさん」

「どうした、幻滅したか?」

 

  苦笑する彼に、間を置いたヒトミは真剣な表情で言った。

 

 

「何で嘘ばかりつくんですか?」

 

 

「っ……なに?」

  彼はピタリと足を止める。

 

「多分、いえ絶対……ファントムさんは、サンテリアさんを救いましたよね?」

「……理解できないんだが、何故そう思う?」

「ファントムさんは、そういう人ですから」

 

「ーー?」

 

 彼には意味がわからなかった。

 それは双方の顔が見えてないから、だけではないだろう。

 

「イレイシアに飛ばされた時。女神様が言ったんです『素敵な出会いがありますように』って……おかしいですよね?冒険者としてなら、何故最初から駆け出し冒険者の街『アクセル』に飛ばされなかったんでしょう?」

 

「ーーそれは俺も思ったが、女神のミスだろう?まだ信憑性は低いがアクアみたいな奴だっているわけだからな」

「私はそう思いません。私は言葉通り女神様が素敵な出会いをくれたんだと、そう思ってます……ファントムさんに会ってから」

 

  彼に掴まる腕が、少し力む。 

 

「はっ」

  それを嘲るように笑った。

 

「アホらしいな、俺はアリンから変な奴がいると聞いて好奇心からお前に近付いたぞ?そこまで神が計算通りだったとでも言うのか?ならばアリンにも嫌疑が向くぞ」

「かも、しれませんよ?」

 

 それは、どういうことだろうか。

 彼は久しぶりに、考える事が嫌になった。

 

「ヒトミ……俺は与太話に付き合うつもりはない。今回のサンと言い、俺はお前に出会ってから俺の計画は散々だからな」

 

  彼は再び、ゆっくり歩き出した。

  ザリザリと石を踏む音ばかりが響くなか、彼はポツリと呟いた。

 

 

「嘘はついていない……悪いとも、思っていないがな」

 

 

「フフフ、ならファントムさんだって同じじゃないですか?」

「黙れ………ったく、相変わらず可愛げもないな。あったらあったらで冒険者には不要だが」

 

そう言って彼は小さく嘆息を漏らす。

 

 

「ーーまぁ、通り過ぎ様に応急道具と予備の地図は落としたかもな」

「!」

 

 その言葉に、ヒトミは安心したように微笑んだ。

 

「それでこそファントムさんです!最初からそう言えばいいのに、ツンデレさんですね?」

 

  耳元で言われ、彼は少し口角をあげる。

 

「……意味は知らんが馬鹿にされた気がするから落とすぞ?」

「ええっ!?やめてください!」

 

  彼はふと、思い出した様に言った。

 

「ヒトミ……マジシャンとしては、調子はどうなんだ?」

 

「絶好調です!アクアさんとは仲良くなって一緒に芸をするようになりました!みてましたか?私達の連携芸!」

 

「それはよかったな...よかったのか?頼むから冒険者と両立してくれよ?」

 

「わかってますよ、それに盗賊スキルの『スティール』にも負けずとも劣らないレベルまで器用になりましたよ?ほら」

 

  そう言ってヒトミは、彼が腰に挿していた筈の余りの菅を指の間に挟んでいた。

 

「!」

 

  彼は目を丸くし、確認しようにも手を離せない事に少しもどかしさを覚えた。

 

「っいつの間に……それは器用とは言わない、手癖の悪いと言うんだ。さっさと戻せ」

「はい」

 

  下らないやり取りだが、二人は笑っていた。

 

 ◆◇◆

 

 

ーーベルディアが帰ってきた。

 

  翌々日の朝、街に『冒険者は門の外に出てください』という少し焦った口調の放送が響き、準備を終えて三人で門の外に出ると。

 

 

『おぉぉぉぉいい!アクセルの冒険者共ぉ!!体を返せやぁぁぁぁ!!!!』

 

  目がただれたゾンビに大事そうに持たれている、ベルディア(兜)があった、いやいた。

  息を荒げている気がする。

  声が出せる点、呼吸活動は怠っていないらしい。

  そもそも必要な事に彼は少し驚いたが。

 

  ギラギラとした紅い双眸で睨んでおり、憎悪に満ちた目で集まった冒険者達を見る。

 

  ふと、カズマが彼に寄ってくる。

 

「ファントム...どうするんだ?事情は聞いてるからめぐみんにも責任があるけど、あれは...どう見ても別件だよな?」

「そうだな。だがお前らのとばっちりだから責任はとるつもりは微塵もない」

 

  無責任な事を彼は堂々と言った。

 

『話は知っているのだろう!?お前ら冒険者の中に俺を憤慨させた奴が多数いる!!頭のおかしい爆発を何度も何度も何度もする奴等と、俺の頭を思い切りぶん投げた奴とその仲間だ!!』

 

  一斉にこちらに視線が向く。

 

「「『潜伏』」」

 

……前にスキルを発動し、二人は人混みに隠れた。

 

 

「……どうするんだよこの状況?」

「迎え撃つしかないだろうな?撃退が無理なら、再起不能にするしかない」

「再起不能って...魔王の幹部だろ?なんか魔王の加護とかあるんだろ?」

「そうだ。部下にも加護がわたっているならばマズイな、少なくともアクセルにいるアークプリーストやプリーストほぼ全員の魔法は効かないと思っていていいだろうな」

『おい!!どうするんだ!?』

 

  二人こそこそ話していると、冒険者の中から一歩でる。

 

「他の冒険者は下がっていろ...私はダクネス!クルセイダーだ、私は仲間を見捨てたりはしない。まずは私を倒してからにしろ!!」

 

  勇ましく一歩前に出たダクネスは、剣を構えた。

  ベルティアが興味深そうにダクネスをみる。

 

『ほぅ……相手が騎士とあらば是非もない。相手しようーーと言いたいところだが、生憎今は体がない。騎士ならば公平な闘いに望むだろう、後にしろ』

「なっ……放置する気か!?お前も私を放置する気なのか!?」

『お前も……?意味がわからないが、後にしてくれ』

 

「……カズマ。お前の仲間、なんか喜んでないか?」

「あのバカ……恥ずかしいっ」

 

  ベルディアを前に歓喜する金髪の女騎士に、訳を知っている者達は呆れた。

 

「なになに、逃げるつもり?プークスクス、体がないと戦えないから待ってとか、魔王の幹部のクセにチョーウケるんですけど!?」

『あぁ!?なんだお前は!』

 

 さらに、そこにアクアが加わった!

 

「カズマ、お前の仲間、煽ってるぞ?」

「何であんな奴等ばっかり俺のパーティに……」

 

  カズマは羞恥に顔を覆った。

 

「私の目が黒い内はアンタらみたいなアンデッドには容赦しないわ!くらいなさい!『ターンアンデッド』!」

『ふ、そんなもの効かなギャァァァ!!!』

 

  ベルディアを持っているゾンビは苦しみ、ベルディアは悲鳴を上げる。

  だが、ベルディアの宣告通り確かに浄化されていなかった。

 

「え!?か、カズマさん!私の魔法効いてないんですけど!?」

 

  折角潜伏していたカズマを見つけて、アクアは声を掛ける。

 

「お前バラすなよ...というかアイツギャァァァって、言ってたぞ?効いてるんじゃないか?」

『お、おかしい...何故、駆け出しの街だろ?なんレベルなんだ、お前?』

 

  ベルティアにも焦りが見える、どうやらかなり彼女の除霊は強力らしい。

 

(にわかに信じがたいが……やはり女神というのは嘘ではないのか?)

 

「『ターンアンデッド』」

『ひゃぁぁぁぁん!!』

 

  再び掛けて苦しみ出す。だがやはり消えない。

 

「おかしいわよカズマ!!本当に効いてないわ!?」

「ひゃぁぁぁぁん、とか言ってるけどな……?」

 

  カズマは首をかしげる。

 

『く、ふ。無駄だぁ!俺に敵う奴なんかこの街にいるわけないだろう!!』

 

  ベルティア(兜)が叫ぶ。確かに頑丈性では敵わない様だ。

 

「いる……ミツルギがいれば!あんな兜だけのやつっ」

 

「ーーえっ?」

 

「そうよ、そうよ!ミツルギさんがいればこの街は安泰だわ!」

「あ、あれ……?」

 

  冒険者達の声に、誰でもないカズマは慌てている。

  目も泳いで汗も凄い、彼はカズマを見て首を傾げた。

 

「カズマ?どうしたんだ?」

「べ、べべべべつに?何でもないですよはい!!」

「?」

 

  あからさまに慌てている。彼は片眉を上げた。

 

ーー実はカズマ、数日前の決闘でミツルギという転生者の特典である剣を奪い勝利。

 

  そしてその剣を売ったのだ。

 きっと今噂のミツルギは自分の得物を探して東奔西走しているだろう。

  そしてそんな事知らない彼等は、他でもないミツルギに希望を持っていた。

 

  そして彼も事情は知らない。

 しかしカズマが何かをしたことだけは察した。

 

  とにかく、今はベルティアを優先するべきだろう。

 彼は潜伏を外し、カズマの肩を叩く。

 

「カズマ、押し付けで悪いがお前は悪知恵や頭が良く回ると聞く……時間を稼ぐから、策を練っておけ」

「え?」

 

  彼はそう言って、ベルティアの元に歩いていった。

 

「……実に二日振りか?ベルディア」

『貴様は……!みすみす出てくるとはな、それで、体を明け渡す気にはなったのか?』

「悪いが行方はわからないな、まぁわかっても渡さないが。お前は魔王の幹部なんだろう……?俺は公平とか気にしないからな、弱っていても倒せば、懸賞金がはさぞ儲かるのだろう?」

『っ、嘗めるなよ弓兵が……!』

 

  すると、ダクネスが惚けた表情から戻る。

 

「なっ。ま、待ってくれないか!?このままでは私の出番が、もとい騎士にやられやがてくっ殺にまでのご褒美が……!」

 

「『クリエイト・ウォーター』」

 

  半目でダクネスを見て、水をかけた。

 

「ひゃぶっ...な、なにをしゅる!?」

「お前は頭を冷やせ。出来れば性根も直せ」

「っ!お前も、カズマには劣るが中々……」

「……」

 

ーー性根は直らなそうだ。

  彼はそう思って、人混みにいるカズマに同情した。

  そして、何故かゾンビと共に少し距離を取っているベルディアに向かった。

 

「待たせたな」

『いいや、それよりもツレはどうした?』

「片方は未だに筋肉痛で、もう片方は別のクエストに出ているよ」

 

  そうなのだ。

 実は昨日までクエストをこなし、ヒトミはサンテリアの無理が祟って流石にダウンした。

 そして、その元凶は未だに暴れていた。

 

 アクセル付近の生態系が滅びないことを祈る。

 

  三人の中でサンテリアの扱いに慣れていた彼だけが、今ここにいるのだ。

 

『そ...そう、か。なんか拍子抜けだな?』

「だろうな。それに俺では以前のお前の相手にはならない、が」

『っ!』

 

  矢がゾンビの脳髄に突き刺さり、勢いで後ろに倒れる。

 

「ーー別に、今のお前は頑丈なだけで脅威でも何でもないな?」

 

  そしてゾンビの手から溢れ、首だけ地面に落ちたベルディアは窮地にも関わらず余裕を見せた。

『グ、まさか俺がノコノコ数人でやって来たと思っているのか?』

「……何?」

 

『お前ら出てこい!!冒険者の悲鳴を聞かせろ!』

 

『あ、アンデットだぁ!!』

 

  その言葉と同時に、大量のアンデッド達が街に向かってやってきたのだ。

  あるものは森に隠れ、またあるものは地中にその身を潜めて。

 

「っち!爆薬を...を?」

 

 その数は目測で数えきれない。

 彼は笑うベルディアを他所にアンデット達に矢を番え。

 

「...きゃぁぁぁぁぁ!!!何で、何で私にばっかり来るのよぉ!!?」

 

「『...は?』」

 

  アクアだけを追跡するアンデッドの群れに、二人の声は重なった。

 

 ◆◇◆

 

『お、おいお前ら?そんな女にばかりかまけてないでもっと他の冒険者をだなぁっ!』

 

  声は聞こえていないのか、聞く耳を持たないのか。

  それともアンデッド故に耳自体が腐っているのか。

  定かではないが、誰もベルディアに従わない。

 

  何故か、例外なくアクアを追っている。

 

「ベルディア、お前人望ないのか」

『う、うるさいわっ!!そんな哀れむ目で見るな!』

(しかし何故……まさか、女神だからか?女神に赦しや浄化を求めているなら筋は通りそうだが……)

 

  彼は一人納得し、そしておもむろに穴を掘り始めた。

 

『お。おい?お前は何をしているんだ?』

「……」

 

  無言で掘り続ける。

 するとなにかを察したベルティアの目が見開かれた。

 

『ま、まさか……俺を埋めようとしているのかっ!?』

「少しは頭が回るようで助かる」

 

『や、やめろぉ!そんな事したら……したら!』

「安心しろ。かなり有名なアークプリーストを派遣されて浄化をされるまでの我慢だ」

 

『どっちにしろやべぇじゃねぇか!!く、クソォ!!お前達ぃ!!俺を助けろぉぉぉ!!』

 

  返事がない、ただの屍のようだ。

  聞こえるのは女神(笑)の悲鳴だけだった。

 

 いや、そこに巻き添えのカズマも加わったが。

  彼は無言で採取用の小型シャベルで穴を掘り続ける。

 

『あ...あぁ...!』

 

  少し同情するレベルで、ベルディアが憐れに見えてきた。

 

「....」

 

  だからと言って、全く手を緩めないのが彼なのだが。

 

  ドォォォォォン!!!と唐突に地が揺れる。

  彼は咄嗟に自分の顔とベルティアの兜を固定のために押さえた。

 

「っ爆裂魔法か……流石の威力だな」

『あれ、爆発はアイツが犯人か……!?というか、ここ本当に駆け出しの街だよな?』

 

  背後ではまとまったアンデッドが、めぐみんの爆裂魔法で一掃されてしまったようだ。

  ベルディアは呆れた事を言う、気持ちは彼にもわからないでもなかったが。

 

 

ーーもはや、ベルディアには仲間すらいなくなった。

 

『っ...は、ハハ!』

 

  すると、何かが切れたようにベルディアが笑いだした。

 

「どうした?とうとうおかしくなったか」

 

  彼が作業の中で聞くと、ベルティアはニヤリと一言。

 

『ーーいやなに。俺はツイているとな、それだけだ』

「?...っ!」

 

  経験か、眉をひそめた数瞬後に背後から全力で警鐘が鳴った。

 

「ファントム!後ろだぁぁ!!」

「!」

 

  カズマの声と共に反射に近い形で大きく横に飛ぶ。

 すると先程までいた場所には穴とは別に大きなクレータが出来ていた。

 

  そして、腕が振り下ろされた黒い鎧が、彼の見開いた視界に入る。

 

「チッ……ギルドめ、ツメを甘くしたなっ。爆発の揺れで縄が緩まりでもしたのか?」

 

  彼は舌打ちする。

 

『フハハ!!剣はないがこれで復活だ!これで貴様らには万に一つ、勝ち目などない!』

「『狙撃・三連』」

『甘い、甘いわ!!』

 

  そう言ってベルティアは機敏に矢をかわして彼の懐に入り、腕を絞る。

 

(マズイ!)

「っ『ライトニング』!」

 

  彼の咄嗟の魔法で眩い閃光が走る。

 

『また目眩ましか、小賢しい!』

 

  しかし二度目では、効果が薄かった。

  ベルディアの拳は振り抜かれ、マトモに彼の胸付近に拳が突き刺さる。

 

「ぐうっ...!!!」

 

  元々、彼はレベルは高くてもダクネスの様に防御に突出している訳じゃない。

 ミシミシと軋む音が体の中で響き、内臓物が一気に逆流する感覚に襲われる。

  そのままくの字を描いて、数メートル吹き飛んだ。

  何度か地面に激突し、片眼鏡が外れ、弓が手から溢れる。

 

「がはっ!」

 

  口内が、鉄の味がする。

 

「……くろぐろ兄さん!?」

 

  遠くから、めぐみんの悲鳴に近い声が聞こえる。

 

『……やはりおかしいな。駆け出しの街の筈だが妙に頑丈な奴ばかりだ。本気で殺すつもりだったのだが、本当におかしいぞ?』

 

「……ぐ、ぉ」

 

 近くから、ベルディアの重い足音が聞こえる。

 彼は動かない。咳き込み、血反吐を吐くだけだ。

 

『だが、もう終わりだ。お前には手間を掛けられたな……だが俺に立ち向かった点に敬意も評し、一撃で終わらせてやろう!』

 

  そう言って、手刀をとばかりに手を振り上げる。

 

 

 

 

「ーーっ」

 

  が、その前に彼が起き上がり大きく腕を横に振るった。

 

『っお前動けて……!馬鹿な!?お、俺の鎧が!』

 

  ベルティアは彼が動けた事。

 そして自分の鎧が斬られている事に目を丸くする。

 

ーー斬れ跡はまるで、鋭利な刃物による物のようだ。

 

(成程な。ベルディアの一撃を致命打から防げたのは、そうか……これのお陰か)

 

そういって、指に挟んだそれを見る。

 

(これは盗難は恐らく無理でも、譲渡は出来たと……そういうことか)

 

  何故、気づかなかったのだろう。

  腹部のポケットの中に入っていたカードは、きっと昨日入られたのだろうと回らない頭でなんとか推測する。

 

(まさかヒトミはこれを見越して?いや恐らく、単なる御守りみたいな感じだろうな……)

 

「どうやら、悪運なら俺も負けてないらしいな」

 

  ようやく、ベルティアが彼の手に持つものに目を向けた。

 

『何だ、それは?』

 

「これか?トランプというらしいぞ……夢の詰まった『マジック』だよ……成程な、本当にアイツは」

 

  ハートが三つあるカードを一瞥し、薄く笑う。

 

「ーー本当にアイツは、手癖が悪い」

 

『俺の鎧をそんな紙切れが……!!』

「なんていったって『超凄いトランプ』だぞ?それくらいは造作もない」

 

 そう言って、彼は不敵に笑う。

 

「……それに俺にばかりかまけていていいのか?」

『死に損ないが!何を訳のわからないことをっ!』

 

  ベルディアは再び腕を絞るが、彼は小さく息を吐き笑う。

 

「視野が狭いのは、戦闘に身を置く奴として致命的だと言っているんだ。二度目だし、戦闘の基本だろう?」

『!』

 

  彼の紅くなった瞳の先には、ベルディアに手を向ける青年の姿があった。

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

『む!?』

 

  ベルディアは攻撃を中断し、生み出された水から大きく回避する。

 

「水だぁぁぁ!思い切り浴びせてやれ!!」

 

  カズマが、吠えた。

 

 ◆◇◆

 

  彼は痛みに耐えかねて倒れ、仰向けに青空を見ていた。

 

(クソ...俺は、冒険者は、脆いな。攻撃にも防御にも特化できず、魔法もロクに使えない)

 

  サンテリアやダクネスなら、先程の攻撃も大きなダメージにならなかったであろう。

 

  しかしトランプを用いても、かなり致命的な一撃となっていた。

  少なくとも先程まで余裕を出していたフリをしていたが、動く余裕はもうなかった。

 

「情けないな……はぁ」

 

 

『……くっ、くそ!やめんか!!』

「『クリエイト・ウォーター』『クリエイト・ウォーター』『クリエイト・ウォーター』!くそ、当たらねぇ!!」

 

  目を瞑れば、冒険者達の喧騒が聞こえる。

  痛みが鈍くなり、意識が遠退く。

 

 死ぬわけにはいかない。

 強くなる為に、他でもない自分が胸を張れるように。

 

 しかし……もし死ぬのならば。

 

(ヒトミの様に記憶があって違う世界に行けるのなら、これを教訓にでもするとしよう)

 

  そして、全身に倦怠感が襲い、力が抜けた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

『貴様らぁぁぁぁ!!』

「ん?」

 

……そして、再び喧騒が彼の耳に届く。

 

 

「お~い、あ。目が醒めたわね?」

 

 目を開けると頭上に青い髪の、カズマのパーティの一人がいた。

 まるで、朝御飯が冷めるからとベットから起こす様な。

 そんな緊張感の欠片もない声色で彼を呼ぶ。

 

  そして彼女の覗きこむような仕草に、彼は目をパチパチと瞬きする。

 

 

「俺は、死んでないのか?」

「痛みで気絶しただけよ?長い間放置したら死んだかもだけど治したわ……まぁ私の手にかかれば死人も生き返るけどね!」

 

「......?」

 

  彼は理解できなかった。

  一般的な倫理観とかも兼ねて。彼女の発言が。

 

 

「……とりあえず、治ったんだな?」

「そうよ?」

 

  そういわれて、彼は両手、腹部、両足と順に見る。

  確かに傷は消えている、固まった血で見にくいが。

 

「そう、か。動けるな...よし、避難するか」

 

  立ち上がり歩こうとすると、アクアが半目で言った。

 

「アンタ中々切り替え早いわね……まぁいいわ。ヒトミによろしく言っておいてね?」

「あぁ。わかった、感謝している。礼も後でしよう」

 

礼、という言葉に目を輝かせる。

 

「やった!期待していいのよね!?」

「過度なのはするな……早くカズマの所に行ってやれ、奴ならお前を有効活用してくれる」

「むっ、その言い方はまるで私が使えない子みたいで癪ね...ま、お礼とヒトミに免じて許してあげるわ!じゃあね!!」

 

  アクアは手を振りながらカズマの元へ走っていった。

 

「……女神、か」

 

  彼は小さく息を吐き、落とした弓と眼鏡を拾う。

  弓は無事だが、片眼鏡はその限りではなかった。

 

「……割れてるな。まだ予備はあるが、近い内に新しいのを買うか...」

 

  そう言って、街の中に移動しようとする。

  カズマとアクアは現在口論しているが、恐らく大丈夫だろう。

 

 

(しかし、なんだ。今回はヒトミに助けられたな......固定したパーティを持つのも、ひょっとしたらーー悪くないのかもな)

 

 胸から沸き起こる新鮮な感情に、自分は本当に変わったと呆れる。

 ベルディアだって、普通なら自分が知恵を振り絞って活路を見出だすか、一人離脱していただろう。

 

 なのにそうしなかった……何故かは、まだ彼自身わからない。

 

「大丈夫だろう。彼等なら」

 

  彼はフッと小さな笑みを浮かべ、立ち去ろうと門に向かい。

 

 

 

 

 

 

「『セイクリット・クリエイト・ウォーター』!」

 

「........は?なんだとぉっ!?」

  間抜けな声と共に、彼は地上で波に呑まれた。

 

 

 

 

  その日、アクセルは未曾有の水難に襲われた。

  全く、大丈夫ではなかった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

  翌日

 

  ギルドの席に、ヒトミとサンテリア、そして彼が座っていた。

 

「ファントムさん災難でしたね……私なんてカナヅチで泳げもしませんよ?」

「そこじゃないだろ論点」

「全く二日で帰ってくるとは、アタシの投げが甘かったな……」

「だからそこじゃないだろ論点」

 

  結局。

 アクアが弱点である水攻めで弱ったベルディアに『セイクリット・ターンアンデッド』と呼ばれる高位浄化魔法を浴びせて倒した。

 

  ベルティアの討伐報酬をMVPとしてパーティリーダーのカズマには二億エリス、そして確認の者が来て水難に一悶着を通した後、結果功労者として彼に一億エリスが入った。

 

ーーそして、即座に飛んでいった。

 

 なんでも、例のアクアが大量の水が原因らしい。

 それが街に入り込み入り口付近の家々が流され損壊。

 洪水を被って弁償額は三億四千エリス。

 

  彼とカズマの分を合わせてもマイナスだった。

 

 ……アクアの貸しが、思ったよりも早く返せたといえば聞こえはいいが、流石に額がおかしい。

 

「金にそこまで拘っている訳じゃないが......はぁ」

 

  彼は大きく嘆息する。

  金は多くても損はない。

戦闘の幅も増え、道具も新調出来るからだ。

 

「アハハ……凄い音に窓を開けたら外が水びたしで驚きました」

「アタシは結局新しい武器手に入れてラッキーだぜ!頑丈だしな!」

 

  そして武器に拘りのないサンテリアは、背中の黒い大剣に御満悦の様だ。

  結局、武器は変えることにしたらしい。

 

「それに……アタシは王都に帰るよ、今回は諦めてやるさね」

「?ほぅ、俺としては助かるが何があった?いややっぱり理由はいいから剣を持っていこうとするんだから手切れとしてもう二度と来るなよ?」

「殴るぞ……まぁ、お前に頼っている節があったのは事実さね。それに今のアンタにはヒトミもいるしねぇ。そしてこの剣に免じて……アタシはもう少し、王都で頑張ってみるよ」

「.....そうか」

 

(素直に俺の力を頼らずに自立すると言えないのか?)

 

  そう思ったが、疲れもあって言うのは止めた。

  ようやく筋肉痛から解放されたヒトミは応援する。

 

「サンさん!頑張ってください!サンさんの良さは私がよく知ってます!」

「ありがとねぇ、ヒトミ……いつか王都でパーティ組めるのを待ってるよ。いや、王都でマジックで驚かせてやんな!あとサンさんはやめておくれよ」

「っはい!」

 

  二人の仲はさらに深まった様だ。

  なんやかんや、ベルディアのお陰で得たものもあった。

 

  サンテリアは剣と精神的成長をクエストを通して学び。

 

 ヒトミは変わらず二人に追い付くことを目的としている。

 これからさらに常識と実力をつけていくだろう、彼によって。

 

……と言ってもベルディアの二戦目は二人とも欠場したのだが。

 

 

  余談だが、ベルディアの馬は引き取られた。

  主であるベルディアと一緒に消えるとかではなかったらしい。

 

 

「借金は無いが。骨折り損だな...本当に」

 

  彼は嘆息を漏らす。

 

 

 

『ーーいつか、私に追い付いてきてね?』

「..........」

 

  ふと、彼女の言葉が脳裏で再生される。

  長い金髪を靡かせて、ニッコリと彼に笑みを掛けた彼女。

 

 

 

  あぁ、彼女にはいつこの手が届くのだろうか。

  冒険者でありながら弓を目指すきっかけをくれた、彼女に。

 

  恋慕でなく、純粋な憧れを彼に抱かせた彼女にーー

 

 

 

 

「おれ頑張ったのに!!」

 

…………。

 

  まぁ。

 今回一番の苦労人が一番損しているのは間違いないのだが。

 

「もう嫌だぁ!こんなろくでもない世界から脱出してやる!!」

 

  ギルドに、その不遇な青年の声が響いた。

 

 

  ベルティア篇【了】




ベルティア強いはずだよな...?
原作もアニメも愉快にやられていたけど。
結論、ベルディアとカズマには同情。

次回はいつかな...二日後を予定します。
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