作者は分割を覚えたようです。
ので今回は七千字程度。
二月三日
『洗脳』となっていたものを『催眠』に直しました。
「……カズマが『キールの洞窟』に行くから、一時的にパーティに入れてほしい?」
「そうなのです!」
それは、唐突だった。
彼がいつもの通り朝の習慣を終えギルドでヒトミを待っていると、めぐみんが話しかけてきたのだ。
それはまだいい。
問題はその話の内容にあった。
彼は小首を傾げる。
「何故だ、パーティなんだからカズマと一緒に行けばいいだろう?」
めぐみんは鼻で笑う。
「ふっ。わかってませんねくろぐろ兄さんーー洞窟内では爆裂魔法が撃てないではないですか!?」
「やめてしまえネタ魔法」
彼は目をクワッ!と開けためぐみんに半目でツッコミをいれた。
確かに巨大な爆発を起こす爆裂魔法は狭い室内や洞窟内では使えない。
その威力による爆風もくらう可能性があるからだ。
(屋外でも無駄に大きい爆音とオーバーキルが過ぎるがな...)
ならば屋外か、と言われればそういうわけでもないと彼は内心で吐露する。
確かに離れていれば爆風等の圧は来ないが、爆音のお陰で付近のモンスターを呼ぶような形で集めてしまうのだ。
その間、めぐみんは連れがいなければ魔力不足で動けない。
モンスターがもしも頭がよくて器用なら煮たり焼いたり好きにできるだろう。
それにアークウィザードで、紅魔の里でもかなり優秀な部類のめぐみんが、魔力不足である。
爆裂魔法がネタ魔法と揶揄される所以であった。
故に、彼は呆れた顔で応えた。
「勿論断る。何故アクセルまできてお前に構わなくちゃいけないんだ...それにヒトミもいるんだ、負担が倍増する」
「むっ、まるで私がお荷物の子供の様じゃないですか!?」
「十二歳が何をぬかす...昔食べ物を恵んでとせがんだのは誰だ?」
「うっ」
「超低所得のお前の親父さんの魔道具数個を、知恵を振り絞って買い有効活用したのは誰だ?」
「うっ!」
「というかそもそも、冒険者でもなかったお前が食料を求めて森に行き、保護したのは誰だ?」
「うっ!!」
めぐみんは胸と眼帯の付けた左目を押さえ始めた。
「胸が苦しい、私の封印された力が……!」
「喧しいわ」
彼は嘆息を漏らす。
「諦めてカズマに付いていけ..…そうだな。爆裂魔法の決め台詞やポーズでも考えてろ……ほら、時間の有効活用だろ?」
それを聞いて、めぐみんは顎に手を置く。
「むっ……確かに。それは少し、いやかなりいい提案ですね!うまく丸め込まれてるようで癪ですが」
「どうせなら求め続けろ。全てを放ってまで爆裂魔法を極めようとするなら、半端や妥協は嫌なんだろう?」
「そう、ですね!カズマ~私も付いていきます!そして新たな爆裂魔法の境地へと……!」
そしてパーティメンバーの名前を呼びながら走り去っていった。
「なんとかなったな。やはりまだ子供だ」
(ヒトミですら制御できないと言うのに...これ以上増やしてたまるものか)
彼は安堵の息を漏らした。フラグが立ったとも知らずに。
バァン!
「ヒトミか、今日はいつもより遅....っ」
ドアが開き、彼は見慣れたパーティメンバーに手を上げる。
「ファントムさん!今日はゆんゆんちゃんも一緒に冒険させましょう!」
「あの...よろ、しくお願いしましゅ!」
安堵の息から一転、彼は再び嘆息を漏らした。
◆◇◆
クエスト『ゴブリンを二十体倒せ』
遠方で、八体ほどのゴブリンの群れを発見した三人。
ゆんゆんはおどおどしており、ヒトミは爛々と目を輝かせて、そして彼の目は力が無かった。
(やけに、今日は紅魔族に縁がある...厄日か?)
なんでも、ゆんゆんはしばらくの間修行をしていたそうだ。
スキルの熟練度や使いかたの再度確認、距離の取り方から様々と。
そして、朝に帰った時に姿を見ないと心配していたヒトミに捕まった。
(戦闘よりもゆんゆんは磨かなくちゃいけない物があるだろ)
勿論言葉には出さない、今はゴブリン狩りを優先する。
「今回は俺は手を出さないから、お前らだけでやってみろ。慣れた小鬼とは言ってもレベル上げにも戦闘経験にも繋がるからな。危険ならアシストするからヒトミは今まで通り、ゆんゆんは...悪いが知らん。まぁ、各々の闘い方でやってみろ」
そう言って彼は、ゆっくりと背中から弓を取り出した。
「私も新しいスキルを沢山習得しましたからね!殆んど戦闘向きじゃありませんが!」
「わ、私は...足を引っ張らないよう頑張ります……っ」
ヒトミは嬉々として、ゆんゆんはひょこひょことヒトミに付いていく。
(ーーヒトミの発言聞き捨てならないんだが)
二人の背中を見て、ふと彼は思う。
(まるで姉妹だな...ハキハキした姉に引っ込み思案の妹。黒髪もあって違和も感じないな)
となると、自分は兄だろうか。
勝手に想像して苦笑する。
(...ごめんだな、あんな何するかわからないじゃじゃ馬達なんて頼まれてもゴメンだ。それに、兄より保護者に近いだろうしな)
辛辣だが、めぐみんが加わるとじゃじゃ馬からデストロイヤーに化けるのでまだ可愛い方だが。
機動要塞デストロイヤー。
天災レベルの制御の効かない巨大なゴーレムの名称である。
通りすぎた場所はアクシズ教徒以外は残らないと呼ばれるほどの凶悪さ、魔物も人間も区別なく破壊し、さらに智者が振り絞った大掛かりな策も無に帰す、もはや自然災害の域である。
にしても。
(それでもくたばらないアクシズ教徒は、ベルディア同様に加護でも与えられているのか?)
ふと、彼の頭の中にとある水色の髪を持つ冒険者が過る。
「だとしても、金を積まれても入らないな」
いつか、アクシズホイホイでも造られる事を期待して、彼は敵を発見し仲間を呼んで、ヒトミ達を囲もうとするゴブリン達に数本の矢をつがえた。
「は?」
そして....放つことは無かった。
◆◇◆
それは、ゴブリンと対峙する少し前のこと。
「フフフ……私の新スキルを見せるときです!」
そう言って、ヒトミはある物を取り出した。
「ヒトミさん……それは?」
ゆんゆんが首をかしげる。
そこには。
円形で真ん中に穴が空いた鉱石に糸を吊り下げた、どこか変な形の道具があった。
「新しく覚えたスキル……『催眠術』です!」
「さ、催眠術ですか?」
ヒトミは胸を張って高らかに言った。
「そう催眠術です!他にもスキルは得ましたが今日はこれでいこうかと」
「で。でも、どうするんですか?」
「こう言ってはなんですが。ゆんゆんさんは、人付き合いが苦手ですよね?」
「っはい」
「それはつまり『自信』がないからですよ!ゆんゆんさんは強いし優しいので、自信さえ持てれば立派な冒険者になれると思うんです!」
「は、はぁ。それで、私はどうすれば...?」
「この揺れる鉱石をじっと見てて下さい...ゆんゆんさん、貴女はだんだん自信が湧く……自信が湧く……」
「はえぇ……!?自信が?……自信が……」
どうやら、味方にかけるスキルの様だ。
ゆんゆんから徐々に瞳からハイライトが消え、ブツブツと呟き始める。
既に危ない匂いがするが、彼がいないためにツッコミ役もいない。
「今から数を数えて、手を叩きます。そしたら貴女は自信まんまんの女の子になっています……」
さん、に、いち……パン!
「っ!」
すると、ゆんゆんがビクリと肩を震わせて、瞳に色が戻る。
「せ、成功ですかね?」
ヒトミがおずおずと聞くと、ゆんゆんは戸惑った様に答える。
「わかりません、わかりませんが……」
ゆんゆんはそう言って、ゴブリンのいる方向に歩きだした。
「ーーなんか、いけそうな気がします」
その瞳は、何にも揺らがないなにかがあった。
◆◇◆
「......」
「『ライト・オブ・セイバー』」
『ギャァァァ』
見ると目が紅く光り、仮面のように無表情なゆんゆんの手が剣のように白く輝き、それでゴブリン達を斬り倒していた。
地を蹴り、武器を振りかぶるゴブリンの視界にも留めさせない。
一匹を斬り、さらに踏み込み反動をつけて振り返り様に裏拳の要領でさらに一匹。斬った回転を利用してさらに二匹。
踊るように、舞うように斬り伏せる。
とてつもない勢いでゴブリンが数を減らしていく。
そして十数秒後には、その場には立っているゴブリンはいなくなっていた。
「……」
(ライト・オブ・セイバー……は、確かアークウィザードが使える上級魔法では?いや、確かにゆんゆんはアークウィザードを職業にしていたはずだが……)
魔法使いというよりは、狂戦士に近い立ち回りだった。
彼は、素直に戸惑っていた。
「え、と……ゆんゆん、ちゃん?」
「ヒトミさん、無事で良かったです」
倒れ伏すゴブリン達から向き直り、淡々と言い放った。
「……ふむ」
彼は片眼鏡を外し、丁寧に拭き、もう一度かける。
間違いない、ゆんゆんである。
『闘いにおいて相手に間を与える事をしない、動じない』
と胸に決めていた彼が、パチパチと何度も瞬きした。
(俺の知っているゆんゆんは...もう少し小心で、他人とのコミュニケーションが苦手な……)
「誰だ?あれ」
彼から思わず出た失礼な一言を、誰が責めようか。
「……ヒトミ、か?修行だけであんなになるとは到底思えない。マジシャンのスキルなら、もしかしたらあるのか?」
彼は思考を放棄しようとした頭を動かして、目で見たもの、耳を澄ませて聞こえた情報から推測する。
(相手の心を読み心から楽しませると前にヒトミはいっていたな.....精神支配?そんな真似をヒトミがするとは考えにくい、支配よりも、どちらかと言えばきっかけを与えたーーそんな感じか?)
「後で聞くか……しかし、どの結論にせよやはり戦闘向きじゃないロクなスキルしかないな……マジシャンは」
そう言って嘆息混じりに息を吐きげんなりする。
『……』
一匹のゴブリンが、そろりそろりと彼の背後に回るが。
『ギャッ!』
彼は振り向き様に抜いていた腰の短剣を投げて額に命中させた。
「残党か、訂正しよう……『ナイフ投げ』は教えてもらって得だったな」
何気無く使えそうなスキルは吸収しているのが彼らしいが。
◆◇◆
どうやらゴブリンが仲間を呼んで数を稼いだ間に目標に達していたらしい。
三人はギルドに帰ってきて、依頼達成の報告をしてきた。
そして、今。
「それが、あれですか?」
「そうだ。あれだ」
そう言って、洞窟から帰ってきていためぐみんと彼は視線を向ける先には。
「ありがとうヒトミさん。私、目覚めました」
「それは良かったです!私のスキルも効いてるみたいでよかったです!いつもゆんゆんちゃんは自信を持てば出来る子だと確信していましたから!」
向かいの席でガッシリと手を握り合うゆんゆんとヒトミの姿があった。
その言葉に、彼は二人の元に向かう。
「催眠。やはり故意だったのか、ヒトミ?」
「う...はい。ずっと一人で...その、可哀想だったので」
「だがせめて、本人の意思を聞くべきだったろう?」
「そうなんですが...」
「ーーヒトミさんを責めないで、兄さん」
「……ん?」
彼はゆんゆんの手を前に出され制止させられる。
「話を聞いたら、私はきっと断っていたわ。前の私は弱かったのよ、そう。一人であることに自信も持てず、かといって誰かと組む勇気もない。ヒョロヒョロとしていた甘えん坊だったのよ」
流石にめぐみんも事を悟ったみたいだ。
「ゆ、ゆんゆん?何だか口調まで変わっていませんか?」
「気にしないでめぐみん。これが今の私なの、いえ。むしろ変わった事で本当の私になったのよ!例えるならそう!真ゆんゆんとでも言ったところなのよ!」
「おい?ゆんゆん?」
(おかしいぞ?これは……)
「一皮剥けた私には、敵なんていない!」
(おやおや?おかしいですね、これは……)
「そう、私は。いえ我が名は……」
(あ、あれ?良かれと思ったんですけど、これは……?)
ゆんゆんはマントを翻し、掌で顔を隠すように覆いながら指と指の間から紅い双眸を覗かせる。
「そう。我が名は真・ゆんゆん!族長の娘にして、生まれ変わった女!!」
女、おんな……と酒場にエコーし、ふと静寂が訪れる。
気まずい沈黙の中、彼とめぐみんは内心で驚愕した。
((ーーこ、紅魔病が発病してるだと……っ!?))
「これは、やり過ぎましたかね?」
ヒトミも乾いた笑みで、首をかしげた。
しかし、真・ゆんゆんは止まらない。
「こうしちゃいられないわ!今の私なら何でも出来る、デストロイヤーですら倒せる気がするわ!」
「……いや、それは無いだろっ。て、おい?何処にいく?」
「決まってるでしょ兄さん!クエストよ!」
「なっ……!?あの受付嬢に話しかけられずに、逆に話かけられるまで三時間は待つゆんゆんが自分から行くですと!?」
「ーーゆんゆんもそうだが手伝ってやれよお前」
それもそれで悲惨だと彼は思った。
「今なら三分で行ける気がするわ!」
「それでも三分かかるのか。もはや自信の類いじゃない別の病気じゃないかそれ?」
彼はベンチから立ち上がりゆんゆんを引き止めようとする。
ピタァッ……
が。ふと冷静になり、過去を振り返ってみた。
くろぐろ兄さん!後十七時間だけ!十七時間だけこのゲームに付き合って!!
くろぐろ兄さん、恥ずかしいからあんまり見ないでよ?仲良くなるために個人情報まとめたノートなんて面白くないでしょ?兄さん?どうしたのそんなよくわからない顔して、兄さん?
……兄さん、モンスターとか悪魔って話せるのかな……?
「......」
彼は、動かない。
「くろぐろ兄さん?どうしたんですか?」
「……ファントムさん?」
二人の呼び掛けに応えるように。
ようやく彼は手を降ろし、振り返る。
「正直……あの方が周囲にも本人にも良い気がするんだが」
「「……」」
なんやかんや今のゆんゆんは生き生きしているのは言わずもがな。
二人は否定しなかった。
というか出来なかった。
◆◇◆
「……ゆんゆんは森の方に行ったそうだ、それも今受けられる最大難易度の依頼を受けてな」
ルナにゆんゆんの行き先を聞き、二人の元に帰ってきた彼は大きく嘆息した。
ヒトミの目が見開かれる。
「そ、そんな...!危険です、今すぐ助けに!」
「短絡的だな。それに勘違いさせたなら詫びるが、ゆんゆんなら工夫をすればこなせる程度の依頼だ...大体はサンが居たときに終わらせたからな?」
「そう、ですか。ならば今までのゆんゆんなら恐らく平気でしょう...ですが、あのゆんゆんなら...未知ですね」
めぐみんの顔が険しくなる。
彼も軽く顎を引く。
「今お前が勝負をしても、手の数で間違いなく負けるだろうな...それに。今のゆんゆんは自信が付いた、というよりは『過信』に近い雰囲気もある...実力がある程度あるぶん、厄介だな。早死にするタイプの典型だ」
「そんな!」
「お前も良心でやったんだろうが、説教なら後だ...確かに今のゆんゆんは人間性は一般に近いが、放置するには不安要素が多い」
彼は二人に向く。
「結論から言うが。さっきはあんなことを言ったが俺はゆんゆんを止めに行くぞ……死なれたら目覚めも悪いしな」
「へぇ……本当はゆんゆんを救いたいですよね?たまにありますよねくろぐろ兄さん、そういうところ」
「めぐみん。ちょっと行って爆裂魔法放ってこい、使えるだろ?二時間後くらいに体なら拾ってやる」
「ごめんなさい口が過ぎました!」
「なら私も行きます!今回は私の責任です、私がまた催眠で...」
「なら、お前はゆんゆんを倒せるのか?」
「っ」
「言っておくが、ゆんゆんは持つスキルと能力ならアクセルで五本の指には入る。それに半端な自信がつくから厄介なんだ.....殺しと戦闘不能が全く違うように、まず勝負にならない。それでもやるなら止めはしないが、万が一があっても俺は助けない」
「それはっ」
「……くろぐろ兄さん、言い過ぎでは?」
「悪いな。だがヒトミ、お前は短絡的な面が見られる....本人が満足しているから?よかれと思って?全ての善行は自己満足だとしても、ここは異世界だ。いつも言っているが『死』が直結する世界だ」
一息置き、彼は言葉を紡ぐ。
「俺も間違う。だからこれ以上偉そうに言わないが...少しずつでいいから、確実に知っていけ。そして俺が間違った時、お前が俺を叱れるようになれ」
「……はい」
(くろぐろ兄さんの眼が若干紅い。紅魔病って伝染するんですね……?)
「それでくろぐろ兄さん、行くんですね?」
「無論だ。ゆんゆんを戦闘不能にして催眠を解く」
「ならライバルたる私も「止めておけ」...はい?」
言葉を遮られる。
「憶測だがゆんゆんは話を聞ける状態じゃない。爆裂魔法を放ったところで巻き添えと二次被害が俺は怖い。つまりめぐみん、お前は邪魔だ」
「酷くないですか!?」
「相手は俺だけでやる。その後でならなんとでもしてくれ...ここまで言っておいて俺も一つ我が儘を通したいんだ。それくらいの実力ならあると自負している」
「我が儘、ですか?」
「あぁ」
ヒトミの疑問に、彼は頷く。
「あの小さかったゆんゆんがどれくらい成長したのか、一人の同郷としての好奇心さ」
彼は薄く笑って、驚く二人をよそに言葉を続ける。
「......もしかすると、あの
次回
ゆんゆんVSファントム
約七千字じゃあ物足りない!
と感じるなら感想で一言下さい。
...とはいっても、実はデストロイヤー篇で完結予定ですがね。
書き溜めは五話目を過ぎてからとっくに無いのです。
あ、後編は明日投稿です。