やっべー……色々やっべー……ひんぬー会長どころかネオ白音をある種越えてるかも。色々と
モニター室からその姿を目にした瞬間、千冬はその意味と正体を理解した。
鮮血を思わせる真っ赤な鎧……いや、恐らくはISなのだろうあの機体の元のモデルと、その搭乗者を。
「織斑、兵藤はどうした」
「……。パクリ野郎とやり合う為に飛んで行った。恐らく今頃この真上でパクリ野郎をぶちのめしてるとは思うけど……」
「そうか……」
クラス代表戦の日に突如現れし謎のIS……という事で学園側は今もてんやわんやとなってる中、アリーナのモニター室へと避難させた弟から話を聞く。
どうやらどさくさに紛れて一誠があの全身が真っ赤なISの相手になってやっているらしい……。
弟の不貞腐れた顔を見ながら腕を組む千冬は、さてどうしたものかと割りと甚大な損壊となってるアリーナ――では無く、笑いながら赤いISと一緒に生身で飛んでいった一誠についてどう誤魔化すかについて考えていた。
元々一誠は何の因果か一夏同様にISを男で動かせる貴重な存在で、二番目で一夏の影に隠れがちではあるが、それでも世界からしたら『男でISを動かせるメカニズムを調べられる実験動物』として狙われているのは間違いない。
まあ勿論世界がそんな真似を一誠にしくさる様なら、本気で敵に回してでも一誠側に付くし、第一一誠を実験動物として幽閉するなぞ不可能なので殆どそこら辺の心配はしちゃい無いのだが、問題は一誠がISなんて不必要なレベルの力を――それもこの世に誰一人として存在しない領域と力を知られる方が色々とまずいのだ。
故に千冬は、ぶつぶつと不貞腐れる一夏……では無く、今さっきまで試合で相手にされて無かった凰鈴音と、困惑通り越して固まってる副担任の山田真耶の二人に対し、『一誠が今さっきやって見せてしまった』事に対してどう口止めすべきかなのだ。
「あ、あの……ひょ、兵藤君が侵入者のISと飛んで行ったのって……な、生身でしたよね?」
「わ、私も見ました……普通に漫画みたいに飛んで……」
一発ガツンと叩いて物理的に記憶を消す……というのを千冬はまず最初に考えたが、それは一応道徳的に宜しくないためあくまでも最終手段として取って置き、取り敢えず二人に一誠の一部分だけを話しておこうと口を開く。
「山田先生、それから凰。
兵藤についてだが、先程見た事は一切他言しない事を今この場で誓って貰いたい」
「「え?」」
一誠だったら恐らく『んぁ? あぁ、まあ別に周りに話したければ話してもいいんじゃないの?』で済ませるかもしれないが、それでもし一誠に無駄な人気――それも女共の人気が上がりでもしてモテモテになられたら、多分自分は泣く。いや間違いなく大泣きする。
「相変わらずぶっ飛んでるわね一誠さんったら。痺れちゃうわ」
「生身で平然と飛行できるのっておじさんくらいなものだもんね」
只でさえ然り気無く一夏と一緒に居たこの小娘姉妹の姉の方の一誠を見る目が死ぬほど気にくわないというのに、これ以上余計なのが増えでもしたら、胸が張り裂けそうになる。
故に千冬はまずこの
「別に周囲に吹聴したければすれば良い。その代わり、多分ろくでもない事にはなるがな」
「「………」」
他の生徒がアリーナから避難した後で少し助かった……と内心思いつつ、言い方に完全にビビってる真耶と鈴音を見据える千冬はチラッと監視映像を偽造している更識楯無と簪姉妹の様子を伺う。
「これで良し。織斑先生、監視映像を適当に誤魔化したのでおじさんの事は多分ごまかせます」
「流石に直接見られてたらアウトですけど、まあそうなったらなったで何とかしますよ」
「……………。礼は言っておく。それと一夏もオルコットに釘を刺しておけ。篠ノ之は――まあ、知ってるから良いが」
「……。あんな化け物の事を話したってなんのメリットもありませんから、心配しなくても私は話しませんよ。
それに、あの赤いのに乗ってたのが誰なのかも少し分かってきましたし、尚更です」
「そうかい、おっちゃんを化け物呼ばわりしたことは今黙っててやるよ篠ノ之さん。で、オルコットさんも黙ってて欲しいんだが?」
「勿論ですわ! 寧ろ私はご主人様の師とされるおじ様に尊敬の念を抱いてなりませんので!」
「あ、そう。織斑先生、どうやら二人はこんな感じなんで平気っぽいっす」
「そうか……」
嫌そうな顔で若干下を向きながら話す箒を見ながら、千冬は赤いISの中身――というか束の事を思い出しながらはぁとため息を吐く。
予想はしてたが、まさか連絡の時にチラッと一誠の事を出しただけで本気の襲撃をしてくるとは……しかも一誠の相棒のドラゴンの力の猿真似までして……。
相当どころか常に殺意しか抱いてないのを知ってただけに、千冬はただただ面倒な真似をしてくれた幼馴染みの友人の事を思うのだった。
結果的に言うと、鈴音と真耶の口封じには成功したし、一誠も普通に戻ってきた。
「あー悪い。あの赤いのに逃げられた」
『………』
赤いISの侵入者を逃がしてしまったと、申し訳なさそうに謝る一誠だが、それが嘘だということを一夏と千冬、楯無と簪――そして箒はすぐに見抜いたが、中身が中身なので敢えて追求することはしなかった。
「あ、あの兵藤君……そ、そのぉ……」
「あ、山田先生、すいません。勝手な事しちゃって……」
「い、いえいえいえいえ! 謝る事なんてありませんから! な、なので許してください!!」
「は、はい?」
ただ、千冬の脅し入りの話により、真耶はすっかり一誠を怖がってしまい、普通に低姿勢な一誠に対して怯えた様に何度も首を横に降りながら、然り気無く一誠から距離を取ろうとしている。
「………。あの、ひょっとして見てた……?」
「おう、バッチリ見てた。で、千冬姉がちょっと説明したら完全にビビっちゃった」
「ちーちゃん?」
「わ、私は悪くないですよ? ただ、一誠さんは生身でIS200機と喧嘩しても余裕で全機を搭乗者ごと粉々にできるんだぞと話しただけで……」
「そ、そんな事まで先生に言わなくてもよかったじゃん!? こ、これじゃあ明日から先生と楽しい授業ができねーじゃん!?」
すっかり怯えて同じくどうしたら良いのかわからないといった様子の鈴音の背中に隠れて小動物みたいに震えてる真耶を見て、何気に好みのタイプ全部盛りでファン的な気分を持ってた一誠はショックを受けた様にその場に崩れ落ちてしまった。
「ゆ、ゆくゆくは先生とイケナイ授業とかって考えて――」
「は? 今なんて一誠さん?」
「面白いジョークですねー?」
「じょ、冗談だよ。なにそんなちーちゃんもたっちゃんも怖い顔しちゃって……なぁ篠ノ之ちゃ――」
思いの外ジョークが通じてないって顔を揃ってする千冬と楯無に思わず箒に同意してもらう為に振った一誠だが……
「最低…………笑えない冗談ですね」
「がばっ!?」
そんな箒は死ぬほど軽蔑した顔を向け、死ぬほど冷淡な声で一誠をなじり、一誠はギャグテイストの如く血を吐いてノックダウンしてしまった。
「い、今さっきもキミのお姉ちゃんに散々罵倒されただけに、だ、ダメージがやばい……」
取り敢えず怯える真耶にクラスの様子を見に行って欲しいと頼み、困惑する鈴音にも自分のクラスの教室に戻れと命じて席を外させた千冬は、精神ダメージが甚大でその場に崩れ落ちている一誠の言葉に少し真面目な顔つきで問う。
「……。やはりアイツでしたか」
千冬の言葉に壁にもたれながら一誠はうなずく。
「あ、あぁ……予想を越えて美人さんになってテンション上がった矢先に嫌いだ何だ言われた挙げ句……ほらこれ見てみ? 腕の肉軽く噛みちぎられた」
「は!? お、おっちゃんの腕を噛みちぎるとか、寧ろ相手の歯が粉々になるだろ……って、うわ、確かに腕の肉が軽く削げてる……」
逆の手で然り気無く隠していたのを退け、右腕を見せた一誠に一夏が驚いた顔をする。
確かに右腕の一部が誰かに食われた様にほんの少しだけ皮と肉が削がれていたのだ。
幸い異常な回復力で既に出血も止まってるし、削がれた肉も再生しはじめてたのだが、何より驚いたのが『一誠をどうであれ傷をつけさせた』という事実と、それをやったのがあの束だったという事だった。
「凄いですね、一誠さんを出血させるって……」
「うん、イメージしてた博士と大分違う……」
楯無と簪も、一誠に多少のダメージを与えた束に少しばかり驚いた表情だ。
だが箒だけは少しだけ顔を歪ませている。
「姉さんが……そこまで力を……」
姉共々才能を持たないが故に、先に行かれたと箒は焦りにも似た気持ちを抱くのも仕方ないかもしれない。
「あの子、俺達の思ってた以上に強いぞ。
確かにあの子には俺達みたいな才能は無いかもしれないけど、別の方向で俺を叩き潰そうとしている。
ふふ……久々にちょっとワクワクしてるぜ俺……ふくくく!」
『………』
そして一誠自身のお墨付きという事もあり、一夏と千冬も……そして楯無と簪もほんの少しだけ束に嫉妬した。
勿論……足掻いていた箒も。
また負けた。
しかも、アイツは殆ど遊びで相手をし、私は本気で潰すつもりで挑んだ戦いに。
「……………」
赤帝。
赤龍帝と呼ばれていたらしいアイツの力の再現という意味を込めて作り上げた……謂わば私専用のISがまだまだダメなのはわかっていた。
けどやっぱり、負けたのは悔しくて……そしてわざと私を逃がしたなんて嘗めた真似までされたらより憎しみを募らせちゃう……。
「げほ、ごほ! ……うっ……ぁ……!」
いや、これは分かっていた事だから何時までも不貞腐れる訳にはいかない。
今はまだ掠りもしない程の差であろうとも、何時かは越えてやるつもりだから悲観ばかりしちゃいけない。
「ふ……ふふ……」
あぁ、あの時と同じで死ぬほど悔しい。
腸が煮え繰り返りすぎて頭がおかしくなりそう……。
前と変わらずに私を気遣うように戦いやがって……本当に憎い。
けど、ふふ……今回の敗けは只の敗けじゃないんだよ? 今はヘラヘラしてるだろうけど……ふふ。
「憎い……あはは、憎らしいなぁ……ホント」
見逃されたという屈辱を味わいながら、移動ラボへと戻った私は、口の中に広がる憎くて仕方ないアイツの血の味を残しながら、用意した机の上で胃の中に仕舞った『ある物を』吐き出す。
「束さんにこんな真似までさせてさ、ちーちゃんといっくんと箒ちゃんに見られたら恥ずかしくて仕方ないよ」
胃液を抑える薬を予め飲んでいた事もあり、吐き出したそれは原型そのままであった事に少し安心しながら、私は吐く苦しみで涙目になりながらも、何故か出てくる笑い声を抑える事はしなかった。
どうであれ、手に入ったんだから……アイツの秘密の一部を。
「はぁ……っ……ん……!」
胃の中に入れたソレ吐き出した後、私は用意していたナイフで、自分の右腕の一部を肉ごと削ぐ。
当然激痛だし、自分を傷つけて悦に浸れる趣味も無いので痛いだけだけど、私はやった。
何でかって? それは―――
「…………。思ってた通り。こっちの事は専門外だけど知識はあるし、簡易的だけどこれで何とかなるかな」
アイツとの戦闘で……油断してるアホなアイツの腕の一部を噛みちぎって手に入れた肉片を、そのままさっきナイフで削ぎ落とした箇所に埋め込んで移植する事に成功したんだから。
「あ……あっ……あぅ……はぁ……はぁ……!」
アイツが異常な力と精神、そして化け物みたいに頑丈な身体と笑っちゃう回復力を持っていることは、昔から観察していてわかっていた。
特に回復力に至っては、まるでどこぞの漫画みたいな再生力を持っていて、私がISの機能として開発した生体再生のおおよそ100倍はある。
だからこそ私は自分で試したくなった……もしアイツの細胞取り込んだらどうなるかを。
そしてその答えは直ぐに……それも予想以上の結果として私に与えた。
「い、無神臓……赤龍帝の籠手……」
取り込んだアイツの肉片が自分で付けた傷に定着し、瞬く間に傷を消し去る中、私はアイツの細胞を取り込んだ影響なのかはまだわからないけど、アイツの目に映る世界が理解出来た気がした。
広いけど狭い、そしてアイツが生きた寂しい世界を。
「化け物野郎……こんなものを抱えてそれでも人間を名乗るなんてふざけてるよ。
でも……あぁ、気持ちいい……」
全身に通う私自身の細胞がアイツの肉体的力を取り込んでいくのがわかる。脳細胞が活性化して目の前がスローに見える。
そして……エンドルフィンが絶え間なく駆け巡り…………。
「……………。下着変えなきゃ……あの変態のせいだ」
まあ、その……取り敢えずシャワー浴びなきゃいけないことになった。
なるほど、アイツは細胞レベルで変態って事だね、私の胸鷲掴みにしたし、これはもう揺るぎない。
「あぁ、気持ち悪い。あんなのの肉片なんか埋めなきゃならないなんて気持ち悪くておかしくなりそう。
だから、絶対にお前だけは私の手で潰す……そして責任取って貰う形でちーちゃん達の前に二度と現れないように……あははは、あの地下シェルターなら私しか知らないから閉じ込めても大丈夫かなぁ~? ふふふ、まともなご飯なんて私作れないから、クソまずい食べ物与えて……死なないようにすっぽんとか与えて……だらしなく女に餓えて苦しむ姿を笑いながら見下して……『頼むから抱かせてください』って地面に額を擦り付ける所を見てやろうかな? それともわざと襲われて孕んでやれば、ちーちゃんといっくんも目を覚ますし、そっちの方法もオーケーかも? あぁ、でもその前に私と箒ちゃんを差し置いてるあの邪魔な暗部の小娘二匹も何とかしないとなぁ? 箒ちゃんの邪魔していっくんに色目使ってるらしいし、妹の方は…………あはは、あはははは♪」
うん、絶対に捻り潰す……今度こそ。
憎しみの果てに彼女は憎む男の一部をその身に取り込み、別ベクトルの進化を手にする。
それがどれ程に歪んでいようが彼女は止まらない。
「めっちゃ血吸われた挙げ句エロい声出しててさぁ? 俺けっこうドキドキしたわぁ……また会いたいな……」
「……………………………。後でアイツとみっちり話をしないといけないな」
「俺も手伝うぜ千冬姉」
「血を吸えば良いの? なら私も――って冗談言ってる場合じゃないわねこれは」
何せ彼も彼で、肉片を食いちぎられても平然と許すという意味では、壊れているのだから。
終わり
補足
ネオ白音たんですら、相手の一部を物理的に取り込む事はしませんでしたからね……。
ほらね、やっぱり束たんはかわいいっしょ?
ちなみに、復讐人生を歩んでたせいか割りと一誠もおかしいです。色々と。