赤龍帝ストラトス(仮)   作:超人類DX

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タイトル通りさ。平和ってよろしいよね。


平和……

 ほぼ誤魔化し重ねで一誠の事はバレずに済み、そのまま月日は流れていく。

 その間色々な事が……そう例えば――

 

 

「五反田……? なんだそれは、誰だ?」

 

「え? あ、あの五反田弾の妹で中学の頃後輩だった蘭――」

 

「だから知らねぇつってんだろ? あの凰といい、一々鬱陶しい」

 

「う……!」

 

 

 中学が同じの妹を名乗る現代っ子風な少女に地元に戻った際に絡まれたり……。

 

 

「良いの一夏? あの子一夏に言われてかなり凹んでるけど」

 

「知らないもんは知らないんだよ。それを知ってるって装えってか? アホらしい、つかテメー何を付いてきてんだコラ?」

 

「うん、私基本友達が殆ど居なくて暇で暇で……だから付いてきた」

 

「んな事聞いてねーよ、とっとと――」

 

「ご主人様が帰れと仰ってるのだからさっさとお帰りになられたらどうですか、更識さん?」

 

「お前も帰れし」

 

 

 地元に戻るだけなのに、簪とセシリアがシレッと付いてきたり。

 

 

「お、織斑! お前、妹に何を言ったんだ!」

 

「は? 何お前? 妹って誰よ? てか名乗れよ」

 

「五反田だよ! この前まで中学で同じクラスだったろーが!!」

 

「五反田って、あの女の子のお兄さんみたいだよ一夏?」

 

「チッ、あのガキ、悔しくてお兄ちゃんに言い付けてやるってか? ふざけやがって……おい、そこの中途半端V系、お前の妹だかなんだかに俺は急に絡まれて、知らんって言っただけだから、一々鬱陶しく絡んで来るな。

ったく、こちとら早く家に戻っておっちゃんと千冬姉とですき焼きパーチーするってのに、こんな誰とも知らねぇ他人に割く時間なんざねーよ」

 

「ですってよ? そこのアナタ、妹さんに何を吹かれたかは知りませんが、ご主人様は彼女の事を知らないから知らないと仰有っただけですからとっととお帰りなさい」

 

「ご、ご主人様ぁ!?」

 

 

 妹を追い返したら兄が出てきたけど相手にせず。

 

 

「そーらイチ坊、耐えてみせたら好きなもん買ってやるよ。行くぜ! 地獄の断頭台の改、神威の断頭台じゃーーっ!!!」

 

「ぐびゃぁぁぁ!!!」

 

 

 一誠との修行で割りと死にかけたり……。

 

 

「地獄の断頭台ーっ!!」

 

 

 けど身にはなって然り気無く完コピに成功したり。

 

 

「私、戦うのは苦手なんだ……けど生半可じゃ私は傷つけられない。例えツァーリボンバークラスの核爆発だろうとね」

 

「かんちゃんのスキルって俺でも手を焼くからなぁ。ほら、イチ坊試しにかんちゃんに触れてみ?」

 

「………すり抜ける……だと?」

 

 

 その間に簪の異常性を知り、正直かなり凄くてちょっと焦ったり。

 

 

安察願望(キラーサイン)それがかんちゃんの異常性。なんでもかんでもすり抜け、その気になれば相手の心臓を外傷無しで潰せるって意味でキラーサイン。どうよイチ坊? 結構やるもんだろかんちゃんも?」

 

「くそ、これで勝った気になるなよ」

 

「勿論勝ってるつもりなんて無いよ一夏。それとちょっとごめん……」

 

「あ? 何を――」

 

 

 ムニュン

 

 

「して……るんだよテメーはぁ……!!」

 

「ごめんね? ちょっとした出来心というか、別にそんなに胸は小さくないって知って欲しかったというか……あはは、男の人に触れられたの一夏が初めて」

 

 

 簪に一本取られた形でもろに胸を掴んでしまったり。

 

 

「あーあ、あとちょっとだったのにー」

 

「ふん、小娘程度に負ける私ではない」

 

 

 別の所で千冬と楯無が真正面からやりあい、千冬が勝ってたりと……まぁ概ね平和な時を過ごしていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 割りとな話、ISに関しては劣等生だったりする一誠。

 勿論知識に関してはそれなりに勉強してるので普通なのだけど、問題は実際に起動させるという所が少しだけ劣等生だった。

 

 

「この前さぁ、やっと訓練機貸して貰って久々に乗ってみたんだけどさー、アレって思ってた以上に難しいのな。

思う通りに動いてくれないのよ」

 

 

 すっかり一年一組の一員として溶け込んでる三十路前の青年一誠が、昨日やっと借りれた訓練機での訓練の話を両手を頭の後ろに組ながら、入学してから少しばかり仲良くなってるクラスメートの女子に話していた。

 

 

「こう、右に動きたいのに遅いっつーか、ラグが物凄いというか……」

 

「もしかして兵藤さんの動きに付いていけてないとか? 訓練機が」

 

「だとしたら織斑君みたいに兵藤さん用に調整した専用機が必要なのかも」

 

 

 口を3の形にしながら上手くいかなかった事を話す一誠に、割りと一誠と話せるクラスメートの女子は結構真剣に聞きながら意見を出す。

 

 とはいえ、専用機というのは余程特別な状況でも無い限りは作られるものでは無く、確かに一誠は世界でも二番目で二人だけの男性操縦者ではあるが、それは所詮一夏のスペアとしか見なされて無いので、割りと国からは放置されていた。

 

 

「専用機ねぇ……三十路のおっさんに国が金出すとは思え無いし、現実的じゃ無いな」

 

「でも酷いよね国も。まだ世界でも二人しか居ない男性の操縦者なのに出さないなんて」

 

「織斑君は出して貰ってたのにねー?」

 

「まー仕方ないべ。俺の場合ホント急に発覚したし、年齢的にも若いイチ坊の方が将来性もあるだろうし。寧ろ俺に専用機作るくらいなら、もっと頑張ってる女の子に出してあげた方が良いだろ」

 

 

 はっはっは、と軽く笑いながら話す一誠だが、元々ISに乗れば逆に枷になるからこそ、自分なんかよりよっぽど頑張ってる女の子にチャンスを与えるべきだと話すと何故か少しだけ感心されてしまった。

 

 

「おぉ、大人だね」

 

「何というか、余裕ってやつ?」

 

「一応実際は大人だしね俺。まあ、精神年齢はガキかもしれんけど」

 

 

 そもそもの話、専用機を作るにしたって一誠の身体能力に合わせた機体を作るなんて今の技術でも不可能に近いだろうし、仮にそうでなくてもその機体は乗るだけで搭乗者がGで死ねる殺戮機体になるに違いない。

 あの束なら作れるかもしれないが、申し訳無さすぎて頼みたくないし、間違いなく断られる。

 

 つまり一誠は自分のレベルをISに合わせて落とすという、何重にも重ねた毛糸の手袋で精密作業をこなさなければならないのと同等の事をしないとならないのが現状なのだ。

 他の多くの生徒と同じ事をするのが当たり前であって、専用機をホイホイ貰えるなんてあり得ないのだ。

 

 

「いっちーも大変だねー?」

 

 

 てな感じで、結局は訓練を重ねて頑張ろうって結論に纏まる事で話が終わりを迎えようとしたその時、タイミングを狙ったかのように聞こえたのほほんとした声に一誠も話をしていた女子二人も振り替える。

 

 

「あ、のほほんさんだ」

 

 

 振り替える三人の目に映るは、袖を余らせた制服を着る一人の女子生徒であり、クラス内ではのほほんさんと呼ばれる程のほほんとした女子――布仏本音だった。

 

 片方の女子が気づくや否や、すっかりクラスで定着したアダ名で呼ぶと、のほほんさんこと本音はにこーっと笑顔を見せる。

 

 

「おはよーいっちー!」

 

「お、おうオハヨ……てかいっちーって何だい?」

 

 にっこにこしながら挨拶し、余った制服の袖を揺らす本音に一誠は少し目を逸らしながら挨拶を返しつつ、なにげに呼ばれた自分の事だと思われる名前について訪ねてみる。

 

 

「えへへ~ 織斑一夏だからおりむーで、兵藤一誠だからいっちーって呼ぼうかなーって? だめ?」

 

 

 普通なら実に可愛らしいなぁと思える笑顔だが、最後の『だめ?』という辺りに微妙な威圧感を感じた一誠は即座にうなずく。

 

 

「いや勿論良いに決まってるよ。

寧ろ今度から俺はのほほんさんのことを本音っちとでも呼ぼ――」

 

「へー? 呼ぶんだ~? 私の事そんな親しい感じに呼ぶんだぁ?」

 

「ぁ……い、いや……ごめんなさい」

 

 

 遠回しに嫌だといった感じのニュアンスで笑顔ニコニコの本音に思わず一誠は一回りも年下の女の子にガチ謝罪をしてしまう。

 

 布仏本音……クラスでものほほんとしたその雰囲気に友達は多く、現に今一誠と雑談していた二人の女子もまた彼女と親しかったりするのだが、一誠の場合、親しくはないのに彼女の事は多分クラスメートの多くより色々と知っていた。

 

 勿論、あんまり良い意味では無くだ。

 

 

「別に謝らなくても良いよいっちー? 謝るくらいならおりむーがかんちゃんに向ける態度を何とかしてほしいし?」

 

「かんちゃんって、確か四組の更識さんよね?」

 

「そういえば最近セシリアと同じく織斑君と一緒よね?」

 

「うん、かんちゃんとは昔からの友達なんだよ~」

 

「…………」

 

 

 友達なんだよ……と言った所で二人には分からない様にジロッと一誠を睨む本音。

 

 

「おりむーがかんちゃんに酷い事言うから、少し控えて欲しいんだよ。

ほらほら、おりむーでもいっちーの言うことなら聞くしー?」

 

「あ、いやでも、かんちゃんは強くなったからあんな程度じゃへこたれない――」

 

「……………………。かんちゃんって最初に呼んだの私なんですけど? 何でアナタがその名前で呼ぶの?」

 

「す、すいません……」

 

 

 かんちゃんと呼ぶ一誠に遂に我慢出来なくなったのか、驚く程の低い声と冷たい顔で一誠に言い放つ本音に、二人の女子もちょっとビクッとしてしまう。

 

 そう、本音はかの篠ノ之姉妹と同じく、一誠があまり好きでは無かった。

 理由はそう――更識姉妹の持つ未知でありえない才能を一誠が与えてしまったからだ。

 

 

「いつの間にか楯無様とは和解してるしー、意味不明なものも抱えるしー、何か完全に置いて行かれちゃったって感じだよね。

しかもおりむーはかんちゃんに酷い事ばっかり言うし」

 

 

 本音から――いや本音と本音の姉で楯無の従者である虚からすれば、拗れた姉妹仲を取り持つ為に色々とやろうとした矢先にふらっと現れ、何の苦労も無く勝手に和解させる事に成功させ、挙げ句自分達の知らない世界に連れ去った泥棒野郎そのものであり、今も一誠から教室の扉付近へと向けられた本音の視線の先には、一夏達に紛れてる簪の姿があった。

 

 

「お昼は一緒に食べよ?」

 

「嫌だ。何で敵のお前なんぞと飯なんて食わなきゃいけないんだ。一人で食ってろ」

 

「そ、そうだぞ! 一夏は私と――」

 

「キミとも食いたくないから」

 

「おほほほ! ご主人様の昼食のお世話はこの私が努めるので、あなた方は各々勝手にお食べなさいな!」

 

「オメーもだよ」

 

 

 

 

「酷いよね、折角かんちゃんが誘ってるのに」

 

「そ、それは確かに俺も酷いとは思うけど、あの子はもうその程度じゃ一切へこたれないから大丈夫だよ?」

 

「は? かんちゃんは引っ込み思案で傷付きやすいんだよ? なのに大丈夫なんて結構無責任だねいっちーは? 私が居ないとダメなのに何で引き裂く真似したの? ねぇ何で? どうして私とお姉ちゃんにはその才能が無いの? ねぇどうして? 何でかんちゃんはいっちーに懐いてるの? 楯無様もそうだけど、何でいっちーばっかなの? お姉ちゃんと私には何にも教えてくれないの? ねぇどうしてよ? 酷いよ……」

 

 

 ハイライトの消えた瞳で一誠を見て矢継ぎ早に捲し立てる本音に、一誠もそうだが聞いてしまってた二人の女子も引いてしまう。

 

 

「の、のほほんさんが変……」

 

「な、何か怖い……」

 

「す、すいません……キミのお姉さんの事もそうだけど、本当にすいません」

 

 

 一夏にバレたら騒がれる為、隠れながらひたすらに低姿勢に謝りる一誠に本音はハイライトの消えた瞳を直すことは無く、ひたすらに一誠を睨んでいる。

 

 そう、本音は正直一誠が嫌いだった。

 

 簪を変貌させた原因としてしっかりと……篠ノ之姉妹が如く嫌いだった。

 

 

「かんちゃんは私が居ないとダメなのに、何で余計な事したの? 何で私とお姉ちゃんには何にも教えてくれなかったの?」

 

 

 特に一夏に関しては、未知の領域同士故にあの簪とのやり取りとは裏腹に心底『理解し合ってる』事が妬ましくて仕方なく、簪に構って欲しいとねだられてるという事もあって寧ろ一誠より敵視している気もあった。

 

 少しだけ簪に対して歪んだ心境を持つ故に……。

 

 

 

 

 

 自分のやってる事が間違っている事に色んな意味で罪悪感に苛まれながらも始まる本日の授業。

 斜め後ろの席からじーっと本音に見られるその視線のせいで微妙に居たたまれない気分になりつつも、何時もの様に教科書を広げる一誠がチラッと一夏を見てみるが、同じく本音にガン見されてるというのに一夏は平然と気付いない様子でペンを器用にクルクル回していた。

 

 

(やっぱり教えるべきじゃなかったかもしれない。

やってる事だって単なる自己満足だし……)

 

 

 一夏と千冬以外に見た久々のダイヤの原石だった楯無と簪に、ついテンションが上がって二年ほど前にひっそりと触りを教えた事を今少しだけ後悔する一誠。

 

 

(何かを得るには何かを犠牲にしなきゃならないのかもしれないけど、あの子達の場合必要があるものじゃなかったしな……親を失ったイチ坊とちーちゃんと違って)

 

 

 普通の感性を持つ人間からすれば、自分は紛れもなき化け物だというのは、元の世界で散々――それこそ悪魔や堕天使やら、神を名乗る連中からすらも呼ばれて敵意を持たれていたぐらいだから、化け物と思う事がある種正常で責める事はできない。

 

 

(死んだアイツはそんな事言わなかったからな……)

 

(アイツと言うと、随分前にカスに促され、カス共に捨てられたあの……)

 

 

 心の中で呟く一誠の声を拾ったのか、寝ていたドライグが語りかけて来たので、心の中で小さくうなずく。

 

 

(おう……俺が弱かったせいで助けられなかったアイツ。

多分、俺の唯一の同年代の友達だったと言えたかもな……アイツは俺をどう思ってたのか最期まで聞けなかったけど)

 

 

 転生者によってめちゃくちゃにされた人生でも、両親を目の前で殺された時と同等とも言える、一誠の中に未だ深く残る傷。

 それは、唯一……それも最初は位置的に敵同士だったとある一人の、当時既に若干――いや露骨に転生者から『男』だというふざけた理由でやっかまれて孤立していた人物との小さな繋がり。

 

 

(奴等から逃れて、俺達側に付こうとしたのがバレて殺されたんだったな……)

 

(あぁ……俺の人生のトラウマの一つだよ。だからこそ、奴等を躊躇無く、苦しみを与えて皆殺しにしてやれたとしても、助けられなかった自分の無能さも同時に憎かったな……)

 

 

 結局その人物は、ドライグの言った通り一誠側に寝返るのがバレてしまい、そのまま仲間だった者達から蔑まれた目を向けられたまま殺されてしまい、その流れで生存がバレた一誠も敗北し、この世界へと偶発的に流れ着いた。

 その後一誠は無限に進化を重ねることで、理をも破壊できる領域へと昇り詰め、転生者も、それに与する者達も――いや、世界そのものを破壊して全ての清算を済ませることは出来たが、失ったものは結局の所何一つ戻ってくることは叶わなかった。

 

 

(だから俺は才能があるからって尤もらしい理由を付けてあの子達を必要もない領域に引っ張り込んでしまったのかもしれないな……そりゃ恨まれて当然だ)

 

(………)

 

 

 自嘲する様に密かに笑う一誠にドライグは何と言えば良いのかわからず口を閉じてしまう。

 

 一誠や千冬、それから楯無と簪……つまり一誠により本来なら知らないまま生を終える筈だった才の扉をこじ開ける事が出来た本人達は、開いてくれた一誠を心から慕い、感謝してるのかもしれない。

 

 けれど、その才能によって置いていかれた友……一夏で言うなら箒であり、簪で言うなら今もめっちゃガン見してくる本音であり、楯無で言うなら本音の姉である虚と言った様に、置いてけぼりにされた子達にすれば、一誠はハッキリ言って相当邪魔に思っても仕方ない事なのかもしれない。

 

 まあ、束に関しては妬み通り越して一誠とドライグを若干驚かせる程の技術力という進化を見せた訳だけど、それでも本人は心底一誠が嫌いなので結局は同じだ。

 

 

(考えてみたら、この世界じゃ俺は異物そのものだからさ……)

 

 

 居ない方が良かったのかもしれない。

 改めて一誠は教壇に立つ副担任の山田真耶から露骨に目を逸らされつつ、ため息を吐くのだった。

 

 

「お、おはようございます皆さん! 今日の授業を始める前に、転校生を紹介します!」

 

『!』

 

 

 思わず一誠と目が合い、この前の件ですっかり怯えてしまった真耶は本能的に目を逸らしてしまったまま、若干吃りつつ転校生が来るという話を切り出す。

 噂好きの女子高生たちの間で何も情報が出回ることなく突然出てきた転校生にクラスは少しざわめく。

 

 

「しかも二人です!」

 

 

 気を取り直し、一切一誠と目を合わせず無理矢理テンション高めに話す真耶に更にクラスはどよめくと、宣言通り後から入ってきた千冬に連れられる形で二人の生徒が入室する。

 一人は黒い眼帯をした銀髪の少女。周りと比べて背は小さいものの、雰囲気は軍人のそれで近寄りがたい感じがあった。

 

 が、問題はもう一人の方だ。

 

 短く濃い金色の髪で中世的な顔立ちの……

 

 

「どうも、本日からお世話になるシャルル・デュノアです。同じ境遇の人がいると聞いて本国から転入しました」

 

 

 今二人しか着てない男子の制服姿の『男子』、シャルル・デュノアはやわらかい笑顔で言った。

 

 

『き、きゃぁぁぁぁぁあああああああああ!!!』

 

 

 その瞬間、弾け飛ぶ様に響き渡る女子の黄色い叫び声。

 

「男子! これで一応3人目!」

 

「しかもうちのクラスという奇跡!」

 

「美形よ! それも守ってあげたくなる系の!」

 

 

 然り気無く一応と叫ぶ女子に一誠は若干グサッと見えない槍でハートを貫かれる。

 

 

「い、一応……。確かに一応だわな、オッサンだし」

 

「まぁまぁ、兵藤くんも歴とした男子だと思ってるから」

 

「そうそう、気にしない気にしない。ビジュアルはそんなに負けてないから」

 

 

 若干凹む一誠に隣近所に座る席の女子が温かくフォローをしてくれたのだが、一回り以上も年下の女の子に励まされる時点で相当シュールだ。

 

 

「いや寧ろおっちゃんの方がイケてるぜ?」

 

 

 そしてやっぱり一夏も一誠を励ましつつ、原因となった女子を暗殺者みたいな目で睨む。

 この時点で一夏自身目の前の転校生に興味は全く抱いてない様子だ。

 

 

「あー騒ぐな。静かにしろ。まだ終わってないだろ」

 

 

 今だ鳴り止まぬ声を千冬の一声で黙らせると、一気に教室内はシーンとする。

 

 

「そうですよー。もう一人いますからね」

 

 

 真耶の一言に、シャルルから皆の視線がもう一人の転校生に向く。

 が、一向にもう一人の転校生は背筋を伸ばすだけで声を出さない。

 

 

「………」

 

「あ、あの……」

 

 

 緊張かな? と真耶が話しかけるが、銀髪の少女はそれでも一声も出さずその場に佇むだけ。

 教室内は一気に微妙な空気に支配されていく。

 

 

「ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はっ教官!」

 

 

 だが千冬の一声でその態度も直ぐに改められ、わざわざ千冬に敬礼までした少女は無愛想な顔で漸く口を開く。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「………」

 

 

 淡白過ぎる自己紹介に、沈黙が更に場を支配していく。

 取り敢えずその後の言葉を待っているのだが、名前だけ告げてからは全く話そうともしない。

 

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 

 真耶の言葉にも淡々と返すものだから、微妙な空気が場を支配し続けていく。

 が、そこに来てふと一誠が聞き慣れない言葉を少女が千冬に向けて放っていたのに気付き、思わず声を出してしまう。

 

 

「え、何教官って? ちーちゃ――あ、違う、織斑先生とあの子知り合い?」

 

 

 一誠の中での千冬は五年以上前の子供のまま変わってないという認識の為、少女が口に出した教官という言葉が気になっている様だ。

 

 

「あぁ、そうか、その時おっちゃん居なかったから知らないんだっけ? 何でもドイツだかどっかから要請受けて暫くどこぞの部隊の教官やってたらしいぜ? 多分アレはその部隊の人間か何かだろ」

 

「ほーん、ちーちゃんがねー……?」

 

 

 ヒソヒソと一夏が空白の五年弱の間にあった事を教えると、一誠は織斑先生と呼び直すのも忘れて、千冬に感心した顔を向けるのだが……。

 

 

「っ!? 貴様等が……!」

 

 

 ちーちゃんという言葉が耳に入った転校生のラウラが途端に淡々とした顔を怒りに歪ませ、一夏と一誠を睨みながらスタスタと近付いてくる。

 

 

「あ? なんだよ」

 

「えーっと……?」

 

 

 睨まれたという事で一夏も睨み返すのとは反対に、可愛らしい娘さんだなー……とか呑気に思いながら何故か怒ってるラウラを見る一誠は……。

 

 

「あえ?」

 

「…………!」

 

 

 グーで思いきり横っ面を殴られた。

 

 

「え……え?」

 

 

 まさかのマジパンチを貰い、ダメージは欠片も無かったものの、困惑してしまう一誠にラウラは言う。

 

 

「お前達のせいで教官が教官で無くなった。だから私はお前達を認めない」

 

 

 殴りはしないものの、一夏にもそう言ったラウラの目は明らかに一誠と一夏に対する敵意だった。

 

 

「あ、あの、なんかごめ――」

 

 

 よく分からないけど、可愛らしい娘さんが怒ってるという事で取り敢えず場を収めようと一誠は謝ろうとするが……。

 

 

「………………………………殺してやる」

 

 

 ダメージなんて無いと分かってても一誠が何処の馬の骨とも分からないチビに殴られたというのを見てしまった一夏の中で、完璧にリミッターが外れてしまった。

 

 

「ふん、殺すだと? 温室育ちでド素人の分際で大きく――がっ!?」

 

 

 ラウラの小さな身体がホワイトボードの壁目掛けて真っ直ぐぶっ飛ぶ。

 

 

「げほ!? ごほっ!?」

 

 

 ホワイトボードが破壊され、壁にめり込む程の衝撃を全身に受けたラウラは、その場に膝を付きながら激しく咳き込みつつ、右頬に感じる鈍い痛みの元凶だと思われる一夏を睨もうと顔を上げ―――

 

 

「おもしれーよお前? 今何したんだよおっちゃんに? 今何て言ったんだおっちゃんによ?」

 

「……!」

 

 

 幻影でも自分は見ているのかと、ラウラは身震いしてしまうが、それは幻影では無く、この場の全員が『見えていた』。

 

 

「やべーよ、ぶっつんしちゃったぞ俺? どうするのこれ? このクソチビぶっ殺してやりてぇんですけど?」

 

 

 白目と黒目が反転した眼。

 額から伸びる鬼を思わせる角。

 そしてこの世の憎悪をかき集めたとばかりの殺意に満ちた形相。

 それはまさしく『鬼』であり、ラウラは本能的な恐怖で全身が震え、その場に硬直してしまった。

 

「あ、あぁ……!」

 

「ひぃ!?」

 

「お、織斑くん!?」

 

「い、一夏お前……!」

 

「はぁ……ご主人様が何時もの倍以上は素敵に見えますわ……」

 

 

 若干一名ポワーンとうっとりした表情という間違ったリアクションをしている以外は概ね一夏の訳のわからない変化に恐怖を覚えてしまい、ラウラと同じくガタガタと寒くないのに全身を震えさせながら滝の様に汗を噴き出す中、殺意に満ちた形相で嗤い始めた一夏は、そのままゆっくりとラウラの前に立つとモーション最大の胴回し回転蹴りを繰り出――

 

 

「死ね、このゴ――」

 

「アホかお前は!」

 

「やりすぎだ一夏」

 

 

 ――す事は無く、間違いなくそのまま蹴ったらラウラの半身が肉片よろしくに飛び散るグロテスク現象の前に、一誠と千冬が後ろからゴツンと拳骨をして黙らせた。

 

 

「ってぇ!?」

 

 

 拳骨を受けた一夏が床に顔面からめり込む。

 

 

「てかお前……それ、俺の技術じゃねーか。いつの間に覚えたんだよ……」

 

「一誠さんが居なくなった直ぐ後にモノにしてましたよ。ああ、ちなみに私も出来ますけど」

 

「え!? ちょ、あの技術は無闇に使ったらまじで取り返し付かないのに……マジかよ……」

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 

 ピクピクと顔面から床にめり込む体勢で痙攣している一夏が見せた変化に身に覚えがあり、それ故に驚いて少し止めるのが遅れてしまったものの、殺人現場だけは阻止できたので少しホッとしつつ、一夏と千冬が思ってた以上に自分の技術をモノにしてるという話に嬉しさ半分の複雑な気分だった。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「あー……えっと、その……大丈夫キミ?」

 

 

 だがそれをこんな可愛らしい娘さんに向けたのはナンセンスだったので、元凶という意味での責任として立てないままのラウラを気遣う一誠が手を差し出す。

 

 

「っ、な、情けなど要らん!!」

 

 

 が、差し出した手はプライドを著しく傷つけられたラウラにとって只の侮辱にしか思えず、力一杯の意思表示として思い切り叩く。

 

 

「み、認めない……貴様も織斑一夏も絶対に……!」

 

「そう、か。あの、ちーちゃんは何をこの子に教えたわけ?」

 

「ただ普通に自分には弟と大好きな人が居るから帰らないといけないと言っただけですが。

本人もその時納得してた筈なのですがね……」

 

 

 何度も言うが、一誠はその身に持つ人を越えすぎた力により嫌われたらとことん嫌われる。

 箒然り、束然り、本音然り、虚然り………そしてラウラ然り。

 

 

「あの、そこの転校生君も大丈夫? ……ん、あれ、キミ男だよな?」

 

「え!? え、ええ……そうだけど……」

 

「…………ふーん? すんすん」

 

「ふぇ!?」

 

「なっ!?」

 

 

 変な空気からカオスな空気になってしまった訳だが、一夏が床に頭からめり込む事で一応の終息となり、すっかりある意味影が薄くなったシャルルに大丈夫かと言いつつ、一誠は何を思ったのか突然シャルルに近寄ってすんすんと犬みたいに嗅ぎ出す。

 

 

「あ、あの……?」

 

 シャルルにしてみれば訳がわからないと困惑しつつ、すんすんとしていた一誠にされるがままとなっていたのだが……。

 

 

「………。ま、よろしくシャルル君?」

 

 

 満足でもしたのか、そのまま困惑するシャルルと握手をし、床にめり込む一夏を拾って自分の席に戻っていった。

 

 

「な、なんだったんだろ……」

 

 

 意味が分からないと呟くシャルルの声に誰も答えることは無かった。

 何故なら今の騒動で大半の生徒が気絶してしまったからだ。

 

 

「取り敢えず最初の授業は中止だ。生徒達を医務室に運ばないとならないしな。それと兵藤……後で『お話』しような?」

 

「え、何で先生怒って――」

 

「お話!! ………しような?」

 

「あ、はい……」

 

 

終わり。

 

 

 

オマケ

 

 鬼にうっとりセシリアちゃま。

 

 

 セシリアの目にもハッキリ見えた暴君を思わせる一夏の変貌。

 並みの人間ならまず恐怖を抱くのが普通だが、謎過ぎるフィルターがあるせいかセシリアにしたら寧ろ更に心酔してしまっていた。

 

 

「い、一夏のあの変化は一体……」

 

「はぁ……底が全くしれないご主人様……なんて雄々しきお姿なのでしょう……」

 

「! お、お前、一夏に何も感じなかったのか!?」

 

 

 まともな感性をしてる箒はセシリアが紅潮しながらボーッと自習にも手をつけずにうっとりするのにただただ驚いて思わず声を張り上げると、それまでうっとりとした表情から一変して真顔になったセシリアは箒に返した。

 

 

「何をおっしゃいますの篠ノ之さんは? あんなに雄々しく、暴君そのものの風体となられたご主人様に恐怖を抱いてしまっては下僕は務まりませんわよ?」

 

「げ、下僕って……お前何時も断られてるじゃないか……」

 

「そうですよ? ですがそれでも私はご主人様の下僕です。

身の回りのお世話を出来る限りして差し上げ、もしご主人様が……その、少しムラムラしたら喜んでこの身を使って頂ける事が今の私の最大の目標ですから」

 

「………」

 

 

 真顔で平然と言ってのけたセシリアに箒は理解する。

 この女は壊れてるのだと……。

 

 

「はぁ……それにしても先程のご主人様のお姿でもし私の衣服を乱暴に引き裂いて無理矢理組伏せられると思うと………うふふふふ♪」

 

「……。何故下腹部を擦るんだ……言っておくがアイツにそんな感情を持つのは私が許さんぞ」

 

「別に貴女の許可なんて要らないでしょうに。まったく、ご主人様を恐れて、おじ様に八つ当たりするだけで自分は一切変わろうともしない癖に勝手ですわねぇ?」

 

「っ!? お前に私の何がわかるんだ!! アイツは元々普通で、あの男のせいでなにもかも……」

 

「ですからそれが八つ当たりというのですよ篠ノ之さん? 才能が無いと言われて不貞腐れる暇があるなら、おじ様自身のお墨付きを頂くまでに進化したお姉さんを見習えばよろしいでしょう? それともなんですか? 貴女は何がなんでもご主人様と同じ領域に行きたいと? 烏滸がましいにも程がありませんこと?」

 

「っ……!」

 

 

 そして壊れてるからこそ一夏の恐ろしい変貌も平然と受け入れられる。

 今だけその壊れた精神が箒は妬ましい……とすら思うのだった。

 

 

「はぁ……後で医務室に行ってご主人様のお見舞いをしないと……。

ふふ、イライラしてたら私に何かして頂けたりとか……うふ、うふふふ! どうしましょう、医務室のベッドが初めてだとしたらと思うと……あははは♪」

 

 

終わり




補足
流石に喧嘩を売る相手がヤバすぎたラウラたん。

彼女の明日はどこへ行く……。


その2

流石に二人からしばかれたら医務室行きは免れなかった一夏君だが、彼の進化もハッキリ言ってヤバイ。

ぶっちゃけると破壊のスタイルの完コピまでしちゃってますからね……。


その3
セッシーは可愛いと思うだろ? 何か束たんと逆に見えて根が似てるとか気のせいだ。
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