「物凄く納得できない」
あわや再びの大惨事となりかけた訓練授業は、一誠が一回り以上も年下の転校生の女子相手に物凄く下手に出る事で何とか回避する事には成功した。
が、その授業も終わって昼休みになった頃、そのやり取りに納得が出来てない一夏は、学園の屋上に一誠と共にやって来てブツブツと不満を爆発させていた。
「納得できないって何がだよ?」
「あんなチビにおっちゃんがご機嫌とりな真似をした事だよ」
揃いで自販機で買ったミニパックの野菜ジュースをストローで飲みながら屋上の手摺に身体を預けて座って転校生ことラウラに対しての態度に文句を言う一夏。
本人にしてみれば、命の恩人かつ肉親以上の親愛の気持ちを抱いている一誠が、たかだかドイツだか何だかの、教官やってた千冬の教え子の一人ってだけの小娘にあんな胡麻すり宜しくな態度をしてるのが嫌で仕方ない訳で、ぶっちゃけ止めが無かったら即座にラウラを殴り飛ばしたいとすら思っている上での不満なのだが、同じ野菜ジュースをチューチューと飲む一誠はそんな一夏を宥める様にして言う。
「だって俺ってIS乗るとマジで弱いし、あの子相当場馴れしてそうだろ? そら教えて頂けたら頼みたいじゃんか?」
ケタケタと実年齢の方が嘘に思えて仕方ないレベルの少年っぽい笑みを浮かべながら一誠は理由を話すが、本当の所は箒や束、それから本音やその姉たる虚に対する自分のせいでやってしまった事に対しての申し訳なさと同じ意味合いでラウラに対して下手に出ていたりする。
「ですが師匠と呼ぶのはどうなのでしょうかおじ様? 終始織斑先生が鬼の様な顔でしたわよ?」
然り気無く居たセシリアが多分自分で作ったと思われるお弁当の準備をしながら、千冬が終始機嫌が最悪だった事を話す。
「中途半端な事をするからだ」
セシリアと同じく付いてきていた箒が便乗する様に一誠を責める。
「喧嘩売ってるな? 良いぜ、釣りも無しに買ってやるぜお前――いで!?」
「中途半端なのは否めないし、反論もできないよ。はぁ……俺ってなんで何時もこうなんだろうな……」
箒の物言いに即座に一夏が空になった野菜ジュースのパックを握りつぶしながら立とうとするので、隣に居た一誠が軽くその頭をひっぱたきながら苦笑いを浮かべる。
「昔っからそうだ、俺は何時も行動が遅い。
助けたい時には助けられずってね……あははは」
「………」
何処かの憂いの帯びた顔をする一誠に、ちょっとだけ箒は『ちょっと言い過ぎたかもしれない』と口を閉ざしてしまう。
その表情の意図は一夏にすらわからない。
「でも俺も千冬姉もおっちゃんに救われたんだぞ……赤の他人がいくらほざこうが、俺達にとっては違う」
「私とお姉ちゃんもそう思う。おじさんが居なかったら今もお姉ちゃんを避けてたと思うから」
然り気無くその3こと簪が一夏に続いて一誠に言う。
「そう、か……」
一夏と簪の言葉に少しだけ気が楽になった一誠はヘラヘラと笑う。
しかし一夏や簪達も知らない――全部が共にあったドライグだけしか知らないトラウマが未だに癒える事は無く、それを誤魔化すかの様に『よし!』とわざとらしく声を張り上げて立った一誠は、何と無くで引っ張り込んできたシャルルや鈴音達含めた少女達の視線を背に向けて屋上の扉へと向かう。
「どこ行くんだよおっちゃん?」
「ちーちゃんの所。機嫌が悪くなったんなら何とかしないと午後の授業が辛いだろ? だから後は若い者同士で楽しんどけ……」
所詮自分は只の異物。その異物がでしゃばり過ぎたのであるなら、出来る限りのフォローに努めるしかないと、一夏――では無く箒、セシリア、鈴音、簪、シャルルに軽くウィンクをすると、そのまま足早に屋上を後にするのだった。
「……おっちゃん」
おっちゃんのあの言葉の後に浮かべた顔。
おっちゃんは何か辛い思い出が、俺と千冬姉にも教えてない過去があるのだと直ぐにわかった。
「ちょ、ちょっと言い過ぎた……かも」
「今更気付いても遅いんだよ。まあ、キミ程度の言葉でおっちゃんが折れる事は無いし、もしそうなったら俺はキミを絶対に許さない」
篠ノ之が今更になって反省する素振りを見せてるので、俺はハッキリと言ってやると口を閉ざして軽く下を向く。
ふん、そう思うなら最初から言ってるんじゃねーよ、半端もんが。
「おじさん、何か隠してる?」
「その言い分だとお前も知らないみたいで安心だ。俺も悔しいことに知らないからな」
更識の妹も知らなそうで少し安心しつつ、追い掛けるのは流石に千冬姉に悪いので仕方なくこの場に留まる事にするのだが……なんでこんなゴチャゴチャと人が居るんだろうか。
つーか勝手に付いてきてるよなコイツ等。
「おじ様にも食べて頂きたかったのですが……」
「は? それおっちゃんに食わすために用意したのか?」
「ええ、勿論ご主人様にも……」
最初の試合以降、頼みもしないのに勝手に付いてくるオルコットさんが残念そうに眉尻を下げながらバスケットに入ったサンドイッチを見せてくる。
あ、そういえば俺もおっちゃんも何も買ってないな……。
「わ、私も作ったんだけど……」
人並みに料理は出来るつもりだし、ぶっちゃけそこら辺の幼虫でも焼いて食えば餓えも凌げる様に叩き込まれてる。
つまり別に昼飯抜くぐらい平気なのだが、オルコットさんに便乗するかの様に凰が大きめの弁当箱を開いて俺に見せてくる…………え、食えってのか?
「わ、私は無いぞ……」
「私もそんなに得意じゃないから無い。あ、でも一夏が食べたいなら作るけど」
「別に要らねーよ、昼飯抜いたくらいで死ぬわけじゃねーし、どうしても緊急で腹を満たしたければそこら辺の虫でも焼いて食えば良い」
「む、虫!?」
誰かに負けたって顔をする篠ノ之と更識に対してめんどくさい気分で返すと、おっちゃんに引っ張られてきたシャルル・デュノアがギョッとした顔をする。
「虫って……そんなの食べたらお腹壊しちゃうよ……」
「火を通せば何でも食えるんだよ。まあ、食わないに越した事は無いがな。
あ、でも蛇は中々旨かったな。鶏肉のような味で、思いの他くせがない。鶏肉に比べて少々油っけが足らない感もあるが、慣れるとそこもまた――」
「も、もう良いよその話は!」
あ、何引いてんだコイツ? 温室育ちは豪勢にフランス料理ですってか? ………まあ、確かに聞いてて気持ちの良いもんじゃねーけど。
「なんてワイルドなご主人様……」
「それもあの人のせいなのか……」
「ふ、普通の食べ物食べなさいよ……」
別に普段から食ってる訳じゃないんだけど……。
ん、もしやこの点は更識に勝ってるのか?
「流石にそういう事までは教えられてないよ」
「そうかぁ! くくく……なら俺達の方がうえだなぁ」
「うん、一夏の方がすごいよ」
よし、ふふふ……まあ、最初から勝ってるつもりだけどな……くくく。
「取り敢えず今日はご主人様に食べて頂きたいのてます」
「お願い……!」
久々にいい気分に浸ってると、オルコットさんと凰がそれぞれ弁当を差し出してきた。
ふむ、まあタダで食えるなら食ってやらんこともないかな……と思いつつ、取り敢えずオルコットさんの作ったサンドイッチを一つ取って食ってみた―――
「おい、お前これ何入れた? 舌が尋常じゃなく痺れるんだけど」
瞬間、おっちゃんに鍛えて貰えなかったらまず殺られてた程の味が口の中を支配し、俺は思わず聞いてしまった。
するとオルコットさんはキョトンとした顔をすると……。
「へ? お料理本に載っていたお写真の見た目通りに作ったので特に何を入れた訳じゃありませんが」
写真通り……つまり味付けは適当ってか。
「舌痺れるって……ちょっと一つ―――うぐ!?」
「これは……刺激的な味だね」
「な、なんだこれは……ど、毒物か?」
「ま、まっず!?」
「眠気が吹き飛ぶかも……」
「な、なんですの皆さんで……別に普通―――!?!?」
更識以外の三人が其々青い顔で感想を告げて漸くオルコットさんは自分で食ってみてそれがとてつもなくクソ不味いと気付いたらしい。
口を押さえながら悶絶していた。
「こ、これは……も、申し訳ありませんご主人様、す、直ぐに捨てますわ……」
味見すらせず見た目重視がどれ程に地雷なのか、いや見た目すらヤバイのになる千冬姉より大分マシなのかもしれないが、舌がまだピリピリする辺りこれはある意味武器になり得るかもしれない……と鍛えたお陰で別に平気な俺は、かなり落ち込んだ顔で仕舞おうとするオルコットさんを見て、昔を思い出した。
そう、見た目すら壊滅的な作品を創造した千冬姉の料理を、ニッコニコしながら平然と――
『ちーちゃんが作ったんだ? うめーうめー』
『そ、そうですか? ふふ、嬉しい……』
『し、舌が痛いよ千冬姉!?』
俺が悶絶するレベルでも平然と平らげていたおっちゃんの事を、俺は何か思い出してしまった。
だからホント何と無くなんだが、仕舞おうとするオルコットさんからサンドイッチの入ったバスケットを奪うと……。
「食材が勿体ない」
「!?」
食べる事にした。
いやだって、食材に罪は無いじゃん……。
「ご、ご主人様!? な、何故……」
「そ、そうだぞ一夏! こんなの食べたら身体が壊れて――」
「そんな柔なつもりはないし、さっきも言ったが食材が勿体ないだろ。
多分おっちゃんなら何も言わずに食ってただろうから、俺もそれに倣う」
慌てるオルコットさんと篠ノ之に対してぶっきらぼう気味に返しながら、全部平らげると、空になったバスケットを返しながらこれだけは言っておく。
「見た目を気にする前にちゃんと味付けしたほうが良いと思う」
「は、はい……ごめんなさい」
これで進歩しなかったらこの女に料理の才能はゼロだった事になる訳だが、そこら辺の事まで一々干渉するつもりは無い。
何かボーッとしてるけど、それも知らん。
「素直じゃないね一夏も」
「あ? テメェ喧嘩売ってんのかボケ?」
「違う違う……一誠のおじさんに似てるなーって」
「!? だ、だろう? くくく、テメーもやっとどっちが上なのか自覚してきたようだな? 後はその姉に理解させればミッションコンプリートだな……げげげ」
空になったバスケットと、ついでに鈴音から貰った酢豚弁当を食べてる一夏とを交互に見合せながら、セシリアは無性に心臓がバクバクと激しく鼓動していた。
「これは普通だな……普通すぎてコメントのしようがない」
「…………。何だろこの負けた気分」
「これは普通に美味しいと思うけど……」
「うん美味しいよこれ」
「…………一夏が中華料理が好きかもしれない……のか」
言われて初めて自分の作ったものがどうしようも無く不味くて食えたものじゃないと知り、即座に申し訳なさで下げようとしたのに、一夏はそんな自分の料理を平らげた。
勿論美味いなんて一言も言わなかったけど、それでも不味いといった気持ちをおくびも顔に出さず平らけた。
「セシリアも食べたら?」
「ふぇ!?」
よくわからない。よくはわからないが、セシリアは今異常なまでの幸福感を覚えていた。
ワイルドで強いからこそ彼なら自分の全てを使って欲しいと真面目に思っていたのだけど、それは別の……こう、妙に暖かい気持ちになってしまう。
簪に振られて正気に戻るまでその感情に支配されていたセシリアは、今まともに一夏の顔が見れなかった。
「あ、いえあの……」
「? 顔赤いよ?」
「い、いい、いえ何でもありませんわ! おほほほほほ!」
全身が熱く、今すぐ自室に戻りベッドの上で転げ回りたい衝動で一杯なセシリアはかなりテンパってしまい、目が文字通り渦巻きの如くグルグルになっている。
「ご主人様! 身体が火照ってしまいましたわ!」
「は?」
そのテンパり具合は尋常では無く、皆の前で有り体に言えば発情してしまったと暴露してしまう程だった。
「何だ急に……?」
「お、大きな声でなんて事を言ってるんだ……」
「これは中々真似できないや」
「……」
ただ一つ言えることは、周囲にドン引きされてもセシリア・オルコットは。
「この命と身体、ご主人様の好きにこれからも弄んでください!」
どうしようも無く一夏に堕ちてしまっていた。
終わり
空っぽの世界で空っぽになった仲間に裏切り者と蔑まれて殺された少年が居た。
己の快楽の為に邪魔だと陥れられ、殺された少年が居た。
その少年は死ぬ少し前に知り合った少年が居た。
曰く、主を変貌させた男によって親を失い、復讐する為に生きてきたらしいその少年と馬が合い、少年は彼の助けになろうと決意したのだけど、欲深い男にそれを悟られ、暴露される形で殺されてしまった。
無念という感情は確かにある。
しかし少年の心には友達であるかも確かめられなかった少年の行く末が心配であり、結局自分は只の足手まといにしかならなかったという後悔を残し命を散らした。
それが原因なのか、それとも別の何かがあったのだろうか……。
少年の砕けた肉体から抜け出した魂は――――
「………………」
とある場所、とあるホテルの一室にて男は眠っていた意識を覚醒させ、身体を起こす。
「チッ、またあの夢……」
寝覚めはハッキリ言って最悪であり、男は頭を振りながら前髪を掴みやがらベッドから降りると、軽くシャワーを浴びると服を着替えると、ベッドの横に立て掛けていた『黒鞘の剣』に視線を向け、ほんの少しだけ目を伏せた。
「今更強くなろうがもう遅いのに……」
男の心には夢を見るほどに後悔の念があった。
裏切り者として蔑まれ、仲間と信じた者達の嘲笑う声を受けながら殺され……そして気付けば『自分の知らない世界』で、砕けた筈の肉体そのままとして生存している。
そしてその世界で鍛えて進化する事で、もし今の時点での力なら生前世界でも生き延びることが出来ただろうレベルにまでなってしまったという今更すぎる状況。
「……はぁ」
復讐者である赤龍帝の仲間になりそびれた青年は、今日も別世界でテンションが低かった。
青年は今明確な居住を持たなかった。
というのも、彼が『雇われている』という形で所属する組織が決して優良組織じゃないからであり、また彼が所属する理由は、同じく雇われている一人の少女が関係していた。
「起きたの? 酷い顔だけど」
「お前か……何だ、雇い主共が呼んでるのか?」
「いや、ただ来ただけだ」
無駄に広いホテルの部屋でボーッとする青年の元へとやって来た一人の少女。
その少女の容姿は驚く事に世界的に有名な織斑千冬と酷似していた。
「……。夢でも見てたのか? その……友達になりそびれた男とか、お前を裏切った奴等の……」
「そんなに分かりやすいか?」
「お前との付き合いは長いつもりだ。それくらいはわかってるつもりだよ」
「へ、子供が……」
織斑千冬の幼くした姿そのものとも言える少女の言葉に青年は自嘲っぽく笑いながら、側に立て掛けていた黒鞘の剣を抱えるように持つ。
「この力をあの時覚醒させてれば、アイツの助けになれたかもしれないってのに、俺は何時もやること成す事が遅い。
ホント愚図だぜ……」
「………」
少女との出会いは偶々で、行動を共にする理由も単なる気紛れでしか無かった。
だが、気付けば子供でしか無い彼女に自分という存在……ルーツ、どんな人生を過ごしてきたのか……そして今尚抱える『後悔』を打ち明け、こうして目的も聞いちゃ居ないまま金で組織に雇われるという生活を共にしていた。
「残ったものといえば形を変えて進化した
「………」
ベッドに腰掛けながら軽く俯き、背から異世界の存在――そして人外という証である悪魔の翼を広げながら、青年は軽く下を向く。
女の身体を貪る欲望の塊の様な男に陥れられて殺され、自分のせいで復讐しようとした少年の邪魔にまでなってしまった。
そう小さく、誰かに懺悔するかの様に話す青年の隣に黙って座る少女は、青年の肩に頭を乗せ身を寄せながら青年にしか絶対にしない優しげな声で言う。
「私はお前から貰ってばかりな癖に、何時も心に抱えるそれについて何もできない……。
だから少しでも和らげる事が出来なるなら何でもして良い……」
「………」
出会ってから今まで、毎日夢に魘される姿を、理由を知っている少女はそう言いながら今度は隣に座る青年の頭を抱き締める。
ある程度少女を知る者からすれば信じられない行動であり、この青年だけしか知らない少女なりの優しさ。
「元気が出るまでずっとこうしてあげるから……元士郎……」
「あぁ……ごめん」
後悔の念に苛まれ続ける青年……匙元士郎はこうして今も別世界で生きていた。
匙元士郎
元・シトリー兵士。
備考・異世界にて生き延びた、進化が遅すぎた暗黒騎士。
「そうだ、いっそこんな辛気臭い組織なんて抜けて二人でパーっと楽しく暮らそう! 姉さんやアイツなんて何時でも会いに行けるし」
「金はどうするつもりだよ…………いやそもそもお前は俺にまだ付いてくるつもりか?」
「当たり前だろ。お前を一人になんかしないし、一人にしたら絶対に駄目になる。私が一緒に居ないとな!」
謎の少女
織斑千冬の幼少期そっくり
備考・偶然出会った青年の心の衰弱を見て妙な母性に目覚め、あれこれと世話を焼く年下少女。(その差、一回り以上)
共通備考……そのせいか不明だけど、所持する機体がモロに暗黒騎士そっくりに変貌した黒黒コンビ。
終わり
補足
元の世界で唯一といって良いほどで初めてできた友達も転生者によって失ったけど、実はこの世界に居た。
しかし互いに当時の気配とは別の気配に変質し、更には『ありえない』という考えが先にあるので気づいていない。
その2
そんな匙きゅんと行動を共にしてるこの子は皮肉な事にものすごく母性愛が跳ね上がってる……匙くんにのみだけど。