それがどんな方向に行くかは不明だけど。
確かに男でISを動かせるってのは貴重なのかもしれない。
けど専用機を渡された所で俺にどう使えというのかが分からない。
システムもそうだし、そもそも姿勢制御プログラムだとか、搭乗者の動きをアシストするプログラムだとかだとかだとかだとか、一番最初の起動の時以外全部切ってるんだぞ? それを果たして起動させてるといえるのか? 多分答えはノーだろう。
「え、一夏ってISのシステムを全部切ってるの?」
「邪魔だからな。オートフィットシステムしか使ってない。乗ってる体の為に」
「そ、それだと何の意味も無いんじゃ……」
その話を何故か放課後の訓練に付いてきたデュノアに話したら変だと言われたが、システム面を全部ONにしたらISの方がオーバーヒートするんだから仕方ない。
てか、確か白式っつー名前らしいけどこれ。
「だから教えて貰う事なんて何にも無い。武装も使わないし」
「そ、そうなんだ……」
元々はこのデュノアが『一緒にやったら効率が良いよ』なんて言うし、一応あの生徒会長をISでぶちのめすっていう目標もあるから乗ってやってみたが、コイツは何と無く信用できねぇ。
さっきからこの専用機の事……しかもシステム面の事ばかり聞いてきやがる。
「そう言えば武装は一つって聞いてるんだけど……」
「さぁ、使った試しも無いから知らねーな」
というかコイツ……男じゃないだろ。
おっちゃんという例があるからメディアに報道されなかったという事なのかもしれないが、だとしてもコイツの臭いはどうも男とは思えねぇ。
多分おっちゃんも気付いてるんだろうけど――――あ?
「貴様はISを動かす以前の問題だ! まずは基礎体力を付けろ!」
「おっす!」
「……………………」
「あ、イッセー君とボーデヴィッヒさんだ。今日も目立つね……」
デュノアは取り敢えず信用不可能だと改めて心の中で印を押していた俺達の目に映るは、訓練施設の隅っこで筋トレしてるおっちゃんと、何にも知らないくせに偉そうな事をほざいてるクソチビ。
「あ、あの一夏? め、目が怖いんだけど……」
「………………」
その気になれば小指でクソちびを粉々に出来るというのに、何故かおっちゃんはクソチビが出て来て最初の授業から師匠なんて呼び、今更過ぎるトレーニングを命じられても超爽やかな笑顔でせっせと従ってる。
「ほう、それなりに日頃から鍛えていたのか? 動きに無駄が無い」
「へぇ、中年太りは嫌なんで……へへ」
「まあ、教官のご指導の賜物なのだろうが……」
「あー……はい、そうっすね……」
「………」
「あ、あの……今日はこの辺にしておく?」
どうしよう。何だこのかつてない怒りは?
今すぐにでもあのクソチビをぶっ殺してやりてぇ……。
「ふむ、身体を見てやるから脱いでみろ」
「え? いやそれは……」
「? 何かあるのか? 心配しなくても貴様に期待はしてない、早く脱げ」
「じゃなくて……その……」
「殺すっ! あのクソチビをコロス!!」
「や、やめなよ一夏!! お、落ち着いて!!」
何を脱げだクソガキィ!! おっちゃんが何で上半身が隠れるタイプのISスーツを着てるのかも察せねぇのかゴラ!! って……あぁっ!?
「な、こ、これは……」
「…………………」
『!?』
俺がもう我慢できないとクソガキ目掛けて走り出したその時だった。
わざわざそこまで従う必要なんて絶対に無い筈なのに、おっちゃんは小さくクソガキに『あの、引かないでね?』と言うと、着ていたYシャツを脱ぎ、隠していた上半身を露にした。
「っ!? な、なにあれ……」
偶々その場に居合わせた全員が息を飲む中、おっちゃんは極限までに絞り込まれた……それこそミケランジェロすらも霞む程の身体を見せながら、若干居心地悪そうに身体を揺らす。
「お前……何があったらこれ程の傷を……?」
「……。昔その、色々とあって……ははは……」
おっちゃんの身体は一切の無駄の無い鍛えられたそれである。けどそれを絶対に人前に、それこそ市民プールやら海に連れて行って貰った時も泳がなかった理由は、それまでの人生を否が応にも想像させられる、大量の『古傷』だった。
「ほら、俺おっさんだしさ、こんなもん見せても醜いだろ?」
「………」
クソが……! どいつもコイツも何も知らねぇ癖に何引いてやがる……! だったら見るんじゃねぇ……!
「見てんじゃねぇよ……! 何か言いてぇのかよボケ共がァッ!!」
『!?』
俺は思わず怒鳴った。見て引いてる女共に向かって訓練施設な床をぶち抜きながら俺はおっちゃんに向けられる意識を強制的に此方へと向けながら、殺意をもって睨み尽くす。
「今見た奴のツラは全部覚えたぞ……。
もし言い触らしたら誰と構わず全員粉々にしてやる……!!」
『は、はい……!』
そして脅す。
もし言い触らしたら本当にこの世から消してやると……それが単なる脅しでは無く本当だと床を破壊しながら。
「あと、クソチビ……テメーだけはもう許さねぇ……! おっちゃんが何て言おうが二度と関われない様に今この場で――」
「何の騒ぎだ!」
呆然とおっちゃんの身体を見てるクソガキの目を潰して完全に盲目にしてやろうと、沸き上がる怒りをそのまま力にしながら拳を握り締めたその時、誰かが……多分デュノアの奴がチクったのだろう、千冬姉がやって来た。
「織斑! お前がやったのか! 訓練所を破壊するなと最初に言った筈―――っ!?」
そして騒ぎの原因とされる俺に怒ろうとした瞬間、近くで上半身丸裸のおっちゃんを見て目を見開く。
「兵藤……いや、一誠さん、何で……」
「いや……あ、暑かったから――」
「私が言いました。彼が如何程の基礎体力があるのかを確かめようと思って……」
「なに?」
またしても庇おうとしようとしたおっちゃんに割り込む様にクソチビが名乗り出ると、千冬姉の目が少しだけ厳しいものへと変わる。
「ボーデヴィッヒ……貴様は――」
「あ、違う違う――じゃなくて違いますぜ織斑先生! ちょっと師匠のご指導で汗ばんじゃったから、まあ……ちょっとは良いかなーって思いまして! なぁ!? 見てた皆も俺自分で暑いからちょっと脱いで良いって聞いてたよね!? ねっ!?」
『…………』
ヤバイ、怒られるとでも察したのか、嫉妬で狂いそうな程にクソチビを庇おうとするおっちゃんだけど、周囲の女共は気まずそうにおっちゃんから目を逸らす。まるで抉られた様な脇腹や、心臓を貫かれた様な胸……漫画のようにはいかない数々の傷跡を見たくないと云わんばかりに……。
「違います、私が脱げと強要しました」
「師匠!? 駄目だってそれ言ったら!! つーかわかってたしね! 見せたら引かれるくらい自分の身体なんだからわかってたし!
あ、そうだよ、それを覚悟で見せたんだらもうこれは俺の責任じゃね!? 先生もそう思うでしょう!?」
「おっちゃん……」
「あ、あのごめんね? このままだと一夏が怒っちゃうかと思って……」
必死こいてまで自業自得だと大声で主張するおっちゃんに、横でデュノアが何かゴチャゴチャ言ってるのも聞こえず、自分の事のように悲しい気持ちになってしまう。
俺も千冬姉もおっちゃんの身体に刻まれてる傷跡がどんなものかわかってて、それがどれ程に壮絶だったのかを知ってるからこそ、その上で尚おっちゃんが大好きだ。
けど何も知らない奴等からすれば、おっちゃんの傷は醜いものだと見なされるし、ありもしない事まで想像し、離れていく。
どうせこのクソチビにしてもそうだ……おっちゃんの回復力をもってしても残っているあの傷跡に勝手にショックを受けて――
「ですが私は特に思うことはありませんし、今分かりました。何故教官が私達の部隊の指導をしていた時、この男の事を誇らしげに語っていたのかを……」
「……」
……………。は?
「これは刃物で切られたのか?」
クソチビが黙ってる千冬姉にそう真っ直ぐなツラで言うと、服を着るのも忘れていたおっちゃんの腹部に残る傷を指でなぞりながら質問する。
「え? あ……えっと、そ、そこかしこから剣を出す魔剣使い――じゃなくて曲芸師の金髪の女に昔……」
「ほう、女か……ならこの脇腹はどうした? 少し抉られているが……」
「これも昔、通り魔みたいな赤髪の悪魔――じゃなくて女に……」
「また女か。女に嫌われてるのか?」
「た、多分そうかなー……? 大元に顔とスタイルの良い女ばっかりと寝てるクソみてーな男が居たんだけど、概ねその男と寝たビッチ共から……あはは、言ってて自分が情けなくなってきたー……」
思わずといった様子で答えるおっちゃんに、俺と千冬姉は驚いてしまう。
いやだってそこまで教える必要なんて無いのだから。
「なるほどな、だから見せたくなったと。
すまなかった……こればかりは私が無遠慮だったな」
「え!? い、いやいやいやこちらこそ醜いものを見せてしまって申し訳ないと言いますか――」
「あぁ、それを気にしていたのだったな。
心配するな、他はどうだか知らないが私は軍人だ。傷跡など気にしない」
「へ?」
あれ、思ってたのと違うんじゃね? って顔になるおっちゃんにクソチビは続ける。
「お前と織斑一夏を認めるつもりは無いが、それでも一応貴様に頭まで下げられて指導する身だ……ほら、師匠だからな私は」
「お、おぉ……!」
――! お、おっちゃんの目がキラキラしてるだと!?
「傷があろうとなかろうと私は知らんし、指導に手を抜くつもりも無い。
まあ、教官が教官では無くなった事の原因である以上は認めはしないがな……!」
そう、またしても偉そうに言ったクソチビはチラッと訓練場にあった時計を見ると……。
「ふむ、今日はここまでだ。明日はもっと厳しくしてやる」
スタスタと自分だけさっさと訓練場から出ていきやがった。
あのガキ、マイペースにもほどがあるだろ。
「……………」
暫くシーンとなる訓練場の空気。
Yシャツを着るのも忘れてクソチビが出ていった訓練場の扉を眺めていたおっちゃんは、ボーッとしながら一言……。
「あの子好きかも……」
最大級の爆弾を放り投げ出した。
もちろん、俺と千冬姉にという意味で。
「は? 一誠さん? 今なんと?」
「あ、うん。あの子良い子で好きかもって……」
「駄目だろ!? あんなクソチビはありえねぇ!!」
ヤバイ目になる千冬姉に気づかず、ボーッとし続けるおっちゃんに俺も正気に戻れと揺さぶる。
冗談じゃねぇ! あの姉妹に続いてあんなチビまでおっちゃんに優しくされるなんて堪えられる訳がねぇ!! つーかあのガキ絶対にぶっ飛ばす!
「ちーちゃんとイチ坊以外にこの傷見て引かれなかった……」
「は? じゃああの更識の姉妹は……」
「そもそも見せてないし……」
「何でそんなチョロいんですか貴方は!? 嫌だ!! 一誠さんが取られるなんていやらぁ!!」
「ほ、ほらぁ! 千冬姉が泣き出した! おっちゃんのせいだぞ!! …………って、テメー等何見てんだゴラァ!! 失せろボケ、今の千冬姉の写真撮ろうとしてんじゃねぇ!!」
終わり
一誠がラウラに『そんな意味じゃなく』好意を抱き出したその頃。
転々と居を移動しながらその技術力で赤帝をパワーアップさせる毎日を送る篠ノ之束は、最近その身に起こった『変化』にある種の歓喜を抱いていた。
「身体が凄く軽い。それから何だろ……頭がずっと冴えてる」
一誠との直接の再会の際、彼の一部を食いちぎり、その肉を自ら作った傷口に移植という、常軌を逸した行為を働いた束は、既に拒絶反応すらをも克服し、進化した事で人間とは根本的な次元の差を持つその細胞から供給される力をモノにしていた。
「怪我をしても直ぐ治るし、腕力も何十倍にまで跳ね上がってるし、気持ち悪い程に化け物だねこれは………ふふふ」
自分の腕に埋め込んだ一誠の肉片がある箇所を撫でながら、束は小さく嗤う。
漫画やら何やらなら、そういった人外の細胞を埋め込めば逆に乗っ取られるのが定説なのかもしれないが、束はその外見に変化も見らない。
強いて言うなら肉片の埋め込んだ箇所の肌の色が少し違うというところか……。
「あぁ、嫌だなぁ。何であんな奴のモノを取り込むとかやってらんないや」
それは束が一誠に抱く執念がそうさせたのかは分からない。
しかし束は今確実に、一誠の一部を取り込む事で進化をしていた。
「でもちーちゃんといっくんを連れ去った原因が理解できただけでも良しとして我慢しないとね。
それにしても個々の精神を具現化させてスキルだなんて、言い得て妙というか……あーむかつく」
そして化け物が化け物である理由も。
「加えてあの赤い力……気に入らない、とことん気にくわない」
そしてその理解が束の中で改めて決意をさせる。
「手足を引きちぎっても余裕で生きられる生命力って事は、当然性欲も半端無いって事だろうし、ちーちゃんがそろそろ危ないなぁ。
やっぱり早く完成させてアイツをぶちのめして地下に閉じ込めないと……。
仕方ないよね、ちーちゃんといっくんの為だもん……性欲で暴れないために私自身を使うしかないよね……あーあ、嫌だなぁ……ホントにあんなのの子種をと思うと」
倒し、引き離し……そして支配することを。
「でも、余裕こいてるあの顔が歪むと思うと堪らないな。頭とか踏んでやったり……あ、そうだ、足でも舐めさせてやろうかな? 犬みたいにペロペロとさせられたら―――ふふ、ふふふふ♪」
それが無意識の内に宿る一誠への執念を越えた何かである事は自覚していない。
そしてその念が……。
「早く……早くアイツを――」
本当の進化となる事を、無意識に頬を上気させ、並みの男の劣情を刺激させる妖艶な笑みを浮かべる束はまだ気付かない。
そう……愛しき相手の想いが強すぎる程に進化する別世界のとある悪魔の少女が持った『婚厄者』の様に。
補足
好きといってもLOVEって意味じゃないです。
まあ、そこはしょってるからこんな事になってますけど。
その2
その頃の兎さんは、何と完全に副作用も拒絶反応も乗り越えて一誠細胞を取り込んで進化してしまいました。執念で。
そしてその細胞により、文字通り細胞レベルで一誠を理解し、沸き上がる一誠への様々な感情のせいで……あーんな事に。
その内アレな顔しながら『間違いない……この感覚―――――一誠ェ……!!』とクレイジーでサイコな顔してしまう……………かは分からない。