とはいえ、メインは黒コンビですけど。
触れては無かったが、シャルルが転入したその日に一夏は寮の部屋を引っ越しをしてシャルルと同室になってたりする。
「えっと、俺のお引っ越しは……?」
「ひょ、兵藤さんは引き続きそのままです……」
「フッ……」
「えー……」
勿論その話を聞き付けた一誠が自分はどうなのかと聞いたのだな、見えない圧力でも働いてしまっているのか、引き続き微妙な顔をする一誠の横でドヤ顔する千冬と同室であった。
「いいな、イチ坊は」
「私とは嫌なんですか?」
「そうじゃ無いんだけどさ、ちーちゃん元々一人部屋だったんだろ? 逆に嫌じゃないの?」
「嫌? それはあり得ませんね」
「あ、そう……」
結局変わらないままという状況に微妙な気持ちで、一誠が居ることにより小綺麗となってる寮長部屋にて、互いにテーブルに座りながら興味の欠片も無い番組をBGM代わりに、教師と生徒というよりは家族といった距離感で談笑をしていた。
「引っ越しと聞いた時、一夏は一誠さんと一緒と勘違いして舞い上がってましたね。デュノアと同室と知った途端露骨に嫌そうな顔してましたけど」
「篠ノ之ちゃんにもそうだけど、アイツ何であんなんになっちゃったの? 普通に女の子は好きだろ?」
「その筈なんですけど、アイツの中での優先順位が一誠さんだからこればかりは、私も理解しちゃうので何とも言えません」
「そこを何とかして欲しいんだけど……。
言えた義理じゃないけどイチ坊の将来が果てしなく心配だぞ」
瓶のラムネをチビチビ飲みつつ一夏の話をする内容は、一誠との再会以降、より強烈になってしまった狭すぎる視野の事だった。
「一応性癖は一誠さんと殆ど一緒の筈なんですけど、確かにアイツは少々無愛想かもしれません」
「少々どころか刺だらけだろ」
何かにつけて『おっちゃん』とカルガモの子供みたいに引っ付いてくるのは一誠としても別に良いっちゃ良いのだけど、一夏に好意的な子達を蔑ろにするというのは余りにも宜しくない。
特に箒を見てると、同室だった期間内に仲を深めた様子も無いし、今回のお引っ越しにて同室となったシャルルとも同じような事になるんじゃなかろうかと一誠は赤ん坊の頃から見てきた一夏が心配に思う最中、ふとシャルルについて思い出す。
「デュノア君で思い出したんだけど、あの子多分男じゃないだろ?」
敢えて気付いてないフリをしていたけど、いくら取り繕っても女だろうと確信する一誠に、千冬は首を軽く傾ける。
「まあ男では無いでしょうね。そして何故男の格好をしているのかは、デュノアの実家であるデュノア社に関係があるかと」
「デュノア社? そういえばあの子社長の子供なんだっけ?」
「ええ、フランスでも相当な大きさの会社ですが、最近ISの開発で煮詰まってるという話です」
「…………。それ、まさかだと思うけど業績の為に自分のガキに男装させたりしてるのか?」
「そう考えると辻褄が合いますね。IS開発の為のデータを取る為に、例えば最近専用機を受理した男性操縦者に簡単に近づくために……とか」
世間に物凄く疎く、ましてやISについてはほぼ何も知らないからこそ、千冬の話を聞き顔を強張らせる。
「もしあの子が父親と会社の為と考えての動いてるんだったら別に良いが、それが嫌だとするなら……」
「親が居るというのが決して幸せという訳じゃあありませんからね……」
少しだけ遠くを見るような目をしながら言う千冬。
自分や一夏は宝くじに当選するよりもありえない運で一誠という自分達の全てとも言える『人間』に出会えたから今こうして幸せと胸を張って言える。
しかし逆に、血が繋がってても不幸な親子関係である現実もある……。
「恐らく一夏もデュノアが女だと勘づいてはいると思います。ですが、最初の通りアイツの場合は少し淡白ですので……」
「…………。ちょっとイチ坊の様子を見に行くべきかもしれない」
親を目の前で失ってる一誠だからこそ、確かめなくてはと席を立つ。
「これも余計な真似かもしれないけど……」
一夏が言ってはならない事を言うのを止める為に。
マドカという子供と行動する事になった理由は偶然そうなったからとしかと元士郎は思っている。
嘲笑されながら殺され、自分という感覚を完全に失うその刹那、一筋の光を幻視したと同時に自分は異界の地にて目を覚ました。
勿論状況が分からずに当初は困惑したし、今自分が居る場所にしても『科学的な施設の何処か』だったのだから、もしかして自分は奴等に殺された後何かの実験動物にさせられ、偶発的に蘇生したのではないかと疑心暗鬼にもなってたぐらいだ。
当然元士郎は偶発にしろ必然にしろ生きているというのなら逃げ出してやろうと、出口を目指し、誰にも発見されないようにと細心の注意を払いながら脱出しようと施設内を歩いていたのだが。
歩けば歩くほど、その施設に存在する者達が全員もれなく『人間』である事を知れば知るほど、手にした書物等を見れば見るほど、この場所が悪魔の持つ施設では無いという事を知り始める。
そして情報を手にするのと平行して、侵入したとある部屋にて元士郎は出会った。
「オマエは誰? また私を閉じ込めにきたの?」
「…………」
人……いや、人であって人の匂いがしない少女と。
そして何を思ったのか自然とその怯える少女を見ている内に……。
「この場所は消える。だから閉じ込めない」
「………」
元士郎は自分と同じく、独りを知ってる目を持つ少女に手を差しのべていた。
理由も何も無く……ただ本能の赴くままに。
それが最初の出会い……。
私は元士郎の所謂初恋というものの相手を知っている。
それは元士郎を悪魔という存在に転生させた悪魔なのだけど、事もあろうにその悪魔はとある男に溺れ、自分で転生させた癖に元士郎を他の連中と一緒に見捨てたというふざけた女だと私は思ってる。
その男が異様に異性に好かれる体質で、その女が男に溺れたのは千歩譲って良しとしたとしても、だからと言って何故元士郎を捨てたのか。
もし目の前に居たら私は怒りの念をぶつけながら問いただしてやりたい……そう思ってる。
「衛星写真にも引っ掛からないとは、中々やるね篠ノ之束も。やっぱり篠ノ之箒の動向を探るプランにした方が良いかもしれないな」
「いっそ俺が探した方が早くないか?」
「駄目だ、そんな真似したら組織の連中に元士郎が怪しまれるし、何よりこの捜索を続けてる間は組織から給金とは別の金が貰えるのだ。
ギリギリまで先延ばしにして金を吸い上げ、組織を抜けた後の私達の生活資金として貯める分には今のやり方がちょうど良い」
「………。別に俺が働けば良いんじゃ……」
皮肉かもしれないけど、その見捨てがあったからこそ私は元士郎と出会えたとも言えるけど、それにしたっていくら溺れても自分の選んだ仲間を捨てるなんて良く出来たものだ。
あの閉鎖的な場所に閉じ込められてた頃ならいざ知らず、今の私なら何があっても元士郎は離さないと思ってるだけに、そういう男には気を付けたい。
「なるほど、臨海学校か。
少し前に篠ノ之束のものらしき赤いISが学園に侵入したという情報が確かだとすれば、恐らく学園の外へと生徒が出るこの期間に現れる可能性は大いにありそうだ」
「オマエ本当にデキる奴だよな……」
というか元士郎を返せと言われても返さない。
そう常々思ってたりする中、只今私はIS学園のサーバーにハッキングし、後ろから感心した声を出す元士郎に見守られながら、学園の行事予定の項目を見ている。
組織の目的になぞ興味の欠片も無いが、金を貰ってる以上はそれなりに従わなければならないし、さっきも述べた通りこういう長期の任務には給金とは別に金が出るのを利用すればかなり稼げる。
だからこそ仕事はそこそこにやってる体で経費を吸い尽くし、それなりの結果を示せば将来元士郎との生活も安心という訳で……。
「よし決まりだ。やっぱり臨海学校とやらの日に行動しよう。それまでは適当に偽装した報告書を送って誤魔化そう」
「俺よりしっかりしてるよな、マドカって……」
どれもこれも元士郎とずっと一緒に居る為に利用させて貰おうじゃないか……ふふ。
「よし、スコールとオータムに適当な報告書も送ったし今日の仕事は終わりだ。
そういう訳で元士郎、これから何かしたいこととかはあるか?」
「いや特には……」
結局の所、私が胡散臭い組織に留まってるのだって、金回りが良さそうだったからという理由に他ならないし、元士郎は何かにつけて私を誉めてくれるが、決してデキる奴ではない。
必要があるから金を求めるだけであって、真に私が求めるのは元士郎との時間なのだ。
「そうか、それならちょうどお昼だしご飯でも食べる? このホテルの部屋はキッチン付きだし折角だ、私が何か作ろう」
使命感に囚われてるとかじゃなく、単純に私が元士郎にしてあげられる事をしたい。
だからこそ、元士郎にとって役に立つ技能は出来るだけ会得した。
例えば家事にしても、料理にしても、プロとまではいかないが、元士郎が美味いと思って食べてくれる程度にまでは上達しているし、今も元士郎に簡潔な昼飯を作れば食べてくれる。
これがまた嬉しくてたまらない。
「何でお前こんな作るの上手くなってるの?」
「暇な時に本屋行って色々と覚えて来たんだ。
元士郎を養うにはまずお金と料理だなと思って」
「嬉しい様な、情けない様な……」
この面は姉さんに勝ってるという自負があるだけに、元士郎に褒められるとやはり嬉しい。
というか、胸の中がこうきゅんとしてしまう……。
「修行は夜だから、それまで少し眠ろう」
「鎧は?」
「勿論召喚して欲しい。改造した機体に成長して貰いたいからな」
「ん」
しつこいようだが、ソーナとか言う女の選択は完全に間違えたな。
今頃どうしてるのかも知らないし、会ったことも無いからアレだけど、元士郎と出会わせてくれた事だけは心底感謝したいよ。
「ほら元士郎、私の膝に来い」
「いや別に普通に寝れば―――」
「良いからほら」
膝枕してやると言う私に渋る元士郎を少し強引に引き寄せ、ベッドの上で膝枕をしてあげる。
元士郎も観念したのか、やがて私の膝の上でうとうとし、そのまま眠りに付く。
「すー……すー……」
「よしよし……ふふ」
眠る元士郎の頭を撫でると、自然と頬を緩む。
それと同時に、やっぱり元士郎は私が居ないと駄目になってしまうという事を再確認し、ますます元士郎の心が少しでも晴れる為ならなんでもしてあげたいと思う。
「大丈夫だよ元士郎。私は絶対にお前を裏切らないし、見捨てない。
ずっと一緒に居よう……それこそ私がお前と同じ寿命になってすら見せる。だからもう少しだけ待ってて……」
私にとっての世界は元士郎ありきだ。
だから、元士郎の居ない世界なんて何の価値も無いし、それこそ姉さんやアイツも元士郎の前では無意味だ。
自分は弱いと卑下するけど、世界を見せてくれた元士郎を私は弱いなんて思わない。
「大丈夫……。だから安心しておやすみ……」
暗闇から連れ去ってくれたのが例えそれ以上の暗黒だとしても、私にとってこの暗黒は何もよりも安心する色。
手に伝わる元士郎の髪も、唇に伝わる元士郎の温もりも……ずっと私だけのもの。
元士郎を裏切った連中になど返せと言われても返してやるものか……。
本に載っていた様に、半裸を見せても特に反応は無くてちょっと残念だけど、寝てる間とはいえ唇は重ねあってる。
だからもう、ずっと永遠に一緒……。
終わり
補足
千冬姉より普通に包容力とかがカンストしてるマドカさんなのだった。
しかも家事まで万能という……。
なんつーか、環境の違いって怖いね。