内容――えーっと、ラウラたんかわゆい……のか?
無数の傷跡を持つ男。
その男は血縁者では無い教官から多大な信頼を寄せられていて、尚且つ教官の弟である織斑一夏と同じ男のIS起動者だ。
織斑一夏と違い、世間への大々的な公表はされておらず知る者は各国の上層部くらいなもの。
かくいう私も直接この目で見るまではどんな容貌なのかすらわからなかった。
歳は我々より一回りは上、その癖その容姿は我々と全く変わらないレベルの若々しさ。
まあ、世の中にはそういう大人も居るので気にする所では無いのかもしれない。
問題はその男……兵藤一誠が織斑千冬教官から絶大なる信頼を寄せて貰っているという点だ。
私は当初、弟である織斑一夏共々気にくわなかった。
だってそうだろう? 教官が我々の部隊を鍛え上げてくれた当時から名前だけは聞いてたのだ。それも楽しげに……我々には見せないだろう表情で。
あらゆる存在よりも大切だと……分かる様な顔で。
私はそれが気に食わなかった。
だから当初は織斑一夏共々敵意を向けた。
感情に流されては軍人失格なのかもしれないが、それでも私は教官の心の大半を独占する織斑一夏と兵藤一誠が気に入らず、決してお前達を認めやしないと啖呵を切ってやった。
しかしどうだろう、そんな私の敵意を織斑一夏は迎え撃つ様に私を敵認定したのに、この兵藤一誠は……。
「へ? タッグマッチ?」
「うん、兵藤君は出るのかなって思って」
「いやー……無理だろ。ISの操縦もまだまだなのにイチ坊は出ると思うから応援だね俺は」
「そうなんだー……ある意味盛り上がりそうだったから残念」
「いやぁ、ガッカリされて終わりだと思うがね。でしょ師匠?」
私の怒りや嫉妬を知ってる上で撥ね飛ばさず、寧ろクッションの様に受け止め様としてくる。
その態度が私のペースを悉く乱し、挙げ句の果てには下手くそなIS操縦をバカにしてやってた私を師匠などと呼んで教えてくれと頭まで下げる。
一回りも年が離れてる私に向かって、大人が頭を下げる……それがどれ程に屈辱なのかは周りの大人が見せる私への態度でよく分かってた。
けどコイツはそれを微塵も感じさせず、いっそ只の馬鹿なのかと思えてやまない程に私を師と仰ぐ。
私もつい乗せられてしまったけど……。
「いや出ろ。試合は訓練機でも出場可能なんだろう? だったら出ろ、少しは経験にもなる」
「あ、はい了解っす師匠。
ねー今の聞いた? ラウラ師匠からお許し貰ったから俺も出るわ、そのタッグマッチって奴」
何故だろう、拍子抜けしてしまうくらいに悪くない。
一回りも年が下のラウラを師匠としてIS訓練に割りと一夏より真面目こいて訓練している一誠はこの度ラウラからの進言によりタッグマッチに出場する事にした。
「ほほぅ、イチ坊も出るんだ?」
「あー……まぁね、おっちゃんと遊びたいし」
「お、なら負けらんねーな?」
学園唯一の男二人が出場を決定した事で所属クラスの女子達は割りと盛り上がっている。
更に『三人目』であるシャルルも出るとなりますます盛り上がりは加速した。
「デュノア君! 私と組んで!!」
「いや私と!」
「私よ!!」
「え、ぼ、僕? な、なんで?」
その理由はタッグマッチという名前の通り、二人一組によるペア戦である為、出場をするにはパートナーとなる誰かを誘わないとならないのだ。
勿論それを知らない女子達では無いので、肉食の獣が如く最近転校してきたシャルルに群がるのは必然だ。
「あーらら、人気者だねあの子は?」
「だな、本当の事を知ったらさぞガッカリだろうよ」
わらわらと集まる女子に囲まれて困った顔をするシャルルを遠巻きに眺める一誠と一夏はそれぞれ微妙な顔をしながら眺めてる。
というのも、今女子達が男と認識してるシャルルは――
「イチ坊あの子の事は黙ってやれよ? 一応理由があっての事なんだからよ」
「わーってるよ。ったく、どこの肉親も似たようなもんで反吐が出るぜ」
紛れもなく女。
シャルル・デュノア……では無くシャルロット・デュノアである事をつい先日知った一誠と一夏は事情を知らない女子達に生ぬるい視線を送っていたのだった。
「まあ、アレの話は置いておいて、おっちゃんも出るって事だけど、誰と組むんだ? 居ないなら俺と組もうぜ?」
「おいおい、それだと俺と遊べなくなるぜイチ坊? 俺もお前も其々と別の誰かと組むべきだ」
「むぅ、今回ばかりは我慢するしかないか……」
実年齢がおっさん、そのおっさんに懐き過ぎて他人に対して塩過ぎる対応である事が広まってるせいか、一誠と一夏に対して組もうと群がる女子は居ない。
本人達にとってはその全てを男として今のところこの学園に在籍しているシャルロットが身代わりになってくれてるのでありがたい話なのだが。
「ご主人様、試合にご出場されるとお聞き致しましたがパートナーはお決まりになられましたか?」
しかしその中でも一夏はある程度宛があるし、放っておいても来る様で、一夏にぶちのめされてからすっかり心酔してしまったセシリアがちょっと緊張気味にやって来て尋ねてくる。
「お、イチ坊の場合もやっぱり簡単にパートナーが決まりそうだな?」
「別にそんなんじゃないし」
あの赤ん坊だった一夏がプレイボーイになるなんてなぁと、ニヤニヤしながら背中をバシバシ叩く一誠に一夏は心底否定したい顔をする。
だがその否定とは裏腹に一夏の元へ次々とパートナー候補が現れる。
「お、おい一夏、私が組んでやっても良いぞ」
「ちょっと待った! 私と組んで!」
「おはよ、おじさん、一夏」
セシリアの勇気に触発でもされたのか、然り気無く盗み聞きしていた箒、それから二組からやって来た鈴音が一夏に組んでくれとやって来る。
その中で唯一簪は違うらしく、普通に何時もの通りの挨拶をして来た。
「ん? かんちゃんはイチ坊にパートナーの申し込みはしねーの?」
「私とお姉ちゃんは今回出ない。
おじさんと一夏の応援」
「たっちゃんも出ないのか。まああの子ISも強いかんなぁ、バランス崩壊ゲー化しそうだしそれが良いかも」
どうやら簪とその姉であり一誠の方にめちゃくちゃ懐いてるたっちゃんこと更識楯無の出場が無いらしい。
一夏が然り気無く『チッ、合法的にぶちのめせたのに』と呟いてたが、ISに関しては二人の方が上だと一誠は冷静に考えている。
まあ、本人に言ったら癇癪起こされるので言わないが。
「おじさんが出るってお姉ちゃんに言ってある。何か『チアガール』の衣装で応援するって言っておいてだって?」
「チアガール? え、たっちゃんチアガールになんの? わーお、あの子ってアグレッシブだよなぁ……」
「けっ、クソビッチが」
ちょっと楽しみかもしれないと呟いた一誠の声を聞き、一気に楯無に嫉妬した一夏がビッチと毒づく。
一誠が大好き過ぎて姉以外の他に取られたくない病を拗らせ過ぎたのが原因だとしても酷い言い種だ。
もっとも、その毒づきに対して一誠に軽く拳骨されて諌められたのは云うまでもない。
「俺もとっととパートナー探さないとな。困った事に宛が全く無いけど」
「最悪居ないなら私と組む? おじさんとなら楽しそうだし――」
「ざけんなバカ野郎! だったら俺が組むから出しゃばんじゃねぇぞゴラ!」
「いやお前はその子達の誰かと組めよ。かんちゃんも心配しなくても良いぜ、昔からナンパする際は玉砕覚悟の片っ端からって決まってるからな! つー訳で行ってきまーす!」
ヒラヒラと手を振りながら一夏から離れていく一誠。
本音を言うと、クラスどころか学年中に自分のISの才能の無さが知れ渡ってるので、誰も好き好んで起動は出来ても暴走して自滅する自分と組みたがる子なんて居ないと思ってる。
だがしかし、子供にお情けをこれ以上頂く訳にはいかぬと、一誠は玉砕覚悟でパートナー探しを始めた。
「やぁ、タッグマッチの件なんだけどさ……あ、出ない? ごめん……」
「シャルル君と組めなかったら俺の横空いてますよー!?」
『………』
「あ、はい……冗談です。すんません……」
結果は予想通り、ISの落ちこぼれなのと、組んだら一夏に何を言われるかわからない恐怖のせいで誰とも組んで貰えそうもなかった。
「あちゃー……やっぱりオッサンだからかぁ」
それを一誠は自分の年齢がマジオッサンだからと解釈するのだが、女子達は決して組みたくない訳じゃなく、一夏に嫉妬されるのを避けたかったからだとは知らないで軽く凹む。
「あーぁ、イッチー誰もパートナー居ないんだ~?」
「あ、布仏さん、そうなんだよ~ だからもし良かったら俺と―――」
「…………………は?」
「組み…………いえ、何でもありません。すんません……」
挙げ句のほほんと可愛らしい布仏本音からのマジトーンの拒否声に一誠はガチで凹み掛けた。
「あのガキ……今おっちゃんに……!」
「あの子、何か知らないけど私がおじさんを慕ってるのが嫌みたい」
「……。私はその気持ちが分かるがな……」
「で、でもあの人いい人じゃん。この前自然と私がこの輪に入れるように配慮してくれたし」
「只の嫉妬でしょうけど、何故自分で理解できるように努めようとしないのでしょうか? 私にはそちらの方が理解できませんわ」
「皆がお前みたいにポジティブになれる訳じゃないんだよ」
本音に何か耳打ちでもされてるのか、どんどん小さくなる一誠をそれぞれ抱く感想を呟く女子達。
やはり箒は寧ろ本音の気持ちが理解できるらしく、本音側の意見だった。
「いいよねー、横から沸いて出てきたと思ったらあっという間にかんちゃんと楯無様の仲まで取り持った挙げ句二人に私とお姉ちゃん以上の信頼を得るなんて」
「いや、キミ達二人の事を何時も聞いてたから決してそんな訳じゃ……」
「ご飯の時だろうが勉強の時だろうがいっつもアナタの事ばかり聞かされてるんだけどな? うんざりするくらいに」
「へ、へぇ……」
パートナー決めが恨み節をめちゃくちゃぶつけられてそれ処じゃ無くなってしまった一誠は、ひたすらに低姿勢だった。
束と箒に通じるものがこの本音と、その姉でまだ顔は合わせて無い虚に感じるので、自分の無責任さが逆に申し訳なくなってしまうのだ。
「パートナー早く決めたら? 決まるかはわかんないけどさ」
「あ、あぁ……うん……」
「出場したら楯無様がわざわざアナタを応援する為にチアガールの格好をするって張り切ってたけどさ、それってアナタの趣味なの? 強要したの?」
「し、しないしないしないしない!!! 天地天命に誓ってそんな事は強要しない!」
「ふーん、そういう事にしといてあげるよ……ほら頑張ってね~」
「……」
すっかり萎んでしまった一誠は、本音の冷たい目とトーンで更に小さくなりながら気を取り直してパートナー探しを続行する。
「はぁ……」
『随分な言われようだったな?』
「あぁ……でも仕方ないさ。言われるだけの真似を後先考えずにやったのは俺だしな」
『俺はお前の選択を間違いだとは思わないが……』
真の
これでもしパートナーが決まらずに簪が組んでくれたとなったら本音に背中からメッタ刺しにされるのではなかろうかと、ある意味で気合いは入ったが、気合いでパートナーが決まれば苦労は無い。
「何だこの人だかりは……鬱陶しい」
「!」
しかし一誠にはまだ最後の希望の光が残されていた。
実はまだ朝のHR前の出来事で、生徒全員が完全に集まってた訳じゃなく、今教室に入ってきた子に片っ端から声を掛けてやるつもりで待っていた一誠は、対応に困ってるシャルロット・デュノアに群がる女子達を見ながら鬱陶しそうに顔をしかめて入ってきた小柄で眼帯の銀髪美少女を視界に入れたその瞬間、ご主人様が帰って来て喜ぶ犬を思わせるスピードでその眼帯少女――つまり、ISの師であるラウラの元へと超スピードで近寄った。
「おはようございやす師匠!」
「あぁ、お前か……何だこの騒ぎは?」
HR前なのに何時も以上に喧しい状況を聞くラウラに一誠は、一夏がショックを受けた顔をするのにも気づかずに膝付きながらタッグ戦の話と、それによるパートナー決めについてを話す。
「なるほど、遊びか何かと勘違いしてる輩の騒ぎか。で、お前は誰と組むんだ?」
「へ、へい、それが師匠。俺ってしょうもない程操縦技術がダメダメでしょ? 勿論師匠のお陰でまともに少しは動ける様にはなれましたけど、やはりそれでも下から数えるべきダメさではあります。
なのでその……」
「断られたと?」
「は、はい……皆頭が良いので、俺と組んだら最悪な事になるのがわかってるみたいで……」
いや、だから本当は今殺し屋の目でラウラを睨んでる一夏が居るから組もうにも不可能なんだけど……と全員が心の中で突っ込みを入れる中、心底呆れた顔をするラウラは大きなため息を吐いた。
「だろうな。お前はただ前に移動しろと言っても壁に突撃する奴だ。そりゃ誰も組みたくはないだろ」
「返す言葉も無さすぎるぜ……」
「っ!!! 殺――!!」
「お、落ち着いて!」
「沸点低すぎよ!」
「どうどう、一夏」
「真面目に止めなさい簪さん!」
鬼の形相化した一夏が周りに思いきり止められてるのも知らずに呑気に話し合う一誠とラウラ。
転校初日から師匠と後ろを勝手に付いてきて、色々と面倒を見てやったので一誠のセンスの無さはある意味で一番知ってる。
だからこそパートナーが見つからない理由も察しが付く。
「まったく、仕方ない奴め、私が居ないと本当にダメだなお前は?」
「まだまだ師匠に可を押して貰うには長い道みたい」
「当たり前だ。はぁ……しょうがない、私が居ないと組む相手も見つからないダメダメなお前の為に私が仕方なく組んでやる。
これで試合に出れるだろ」
「え、でも俺と組んだら足を引っ張る――」
「アホか、私を誰だと思ってる? そして紛いなりにも弟子のお前は私の何を見た? お前一人フォローしながら試合くらい勝てるさ」
しかしラウラはそんな一誠をフォローしながら試合に勝ち上がれる自信があった。
故にしょうがないと顔に出しながら一誠と組んでやると言う。
すると最初は単に相談するつもりでしかなかった一誠の顔が段々と変化していく。
「勘違いするなよ? 私の弟子を自称するお前が組む相手も見つからずに試合に出れないという情けない醜態を晒されてかなわんから―――わっ!?」
「ありがとう! ラウラ師匠大好き!!」
『あ!?』
一誠の表情の変化を見て、妙な擽ったさを胸の中に感じたラウラがそっぽ向きながらテンプレじみた台詞を天然で言った瞬間だった。
最早犬の耳と尻尾が幻覚で見えてしまうレベルの犬っぽさで小さなラウラの身へ飛び付いた一誠は、めっちゃ笑顔で抱き締めながら、ちょっと犯罪の臭いしかしない台詞を宣った――デカい声で。
「な、何をする!?」
「だってさぁ、もう……ホント師匠みたいな子大好きだわぁ。俺が同い年だったら口説いてたくらいに!」
「口説くだと? 何でお前なんぞに……ええぃ離れろ――お、おい頬擦りしゅるにゃ!」
気づけばクラスで一番注目されてるというのに、よっぽどラウラからの施しが嬉しかったのか、懐き度MAXな犬みたいにスリスリとラウラを抱き締めた体勢で頬を頬擦りする姿は完全に犯罪だった。
「っあ!?」
その上、もがいてたラウラが突然嬌声にも似た声を出す。
「? えっと、どうかしました師匠?」
「い、いや……なんでも、ない……は、離れろそれより」
「あ、はい……ちょっとハシャギ過ぎたね?ごめんなさい――って、あれ!?」
よく見たら頬が紅潮して息も荒いラウラに言われた通りやっとこさ離れた一誠だったのだが、その瞬間今度は彼女の方が全身の力が抜けてしまった様に一誠にもたれ掛かって来た。
「はぁ、はぁ……お、お前、な、なにしたんだ……?」
「へ? い、いや俺は何も……」
「な、何かお前に胸の辺りを何かの拍子で触れられたら、力が抜けて……」
全身に感じた痺れる様な、弾ける何かに初めての体験だったらしいラウラはひぃひぃしながら一誠にもたれ掛かかっているのだが、聞いていた女子達はどことなく察した様な顔だった。
勿論その中には本音の姿もあり、ゆっくりと背後から一誠に近寄った彼女はその肩を軽く叩くと、にっこりしながら……。
「イッチーの……………変態さん♪」
清々しく可愛らしい微笑みとは裏腹に嫌味たっぷりな声で一誠を変態と罵った。
それこそ、趣味が趣味ならそれだけでご褒美になりそうな……。
「…………」
「ご、ご主人様が……気絶してますわ」
「余程ショックだったんだね。私もちょっとショックだったしそれはわかるかも」
そして一夏はショックが強すぎて立ったまま気絶していたのだという。
タッグパートナー決定
補足
言い訳にしかならないのだが、本人は別にそんなつもりは無かった。
本当に無かった。感極まってただけ。
うん、犯罪の匂いだらけやけど。
その2
たっちゃん、自作のチアガール衣装準備中。
一誠の試合はこれで超応援するらしい。
ミニスカだし胸元めっちゃ強調して目立つ様に応援したいらしい。
その3
ラウラたん……初めて奪われる。
何のかはお察し。