男性の地位がISにより著しく下がっている世界において、当たり前だが力を極力隠している匙元士郎は嘗められがちだ。
特にバイトとして所属してる秘密結社みたいな組織にて、所謂同僚で同じチームとして動いてるIS乗りの女には頗る嫌われていた。
一応リーダー格であるSのコードネームを持つスコールはどっちでもない――いや興味すら持たれてないといった様子だが、そのスコールと一緒に居る口がめちゃくちゃ悪いOのコードネームを持つオータムという女からは顔を見る度に罵倒されていた。
「何だテメー? まだ生きてたのか?」
「………」
「男って時点でクソの役にも立たねぇ奴なんだから、肉壁にでもなってくれよ?」
「…………………」
チーム内でISが無い。寧ろ起動も出来ないという理由で役立たず認定されている元士郎は、この日任務である篠ノ之束の行方調査の結果報告をする為にスコール達が拠点にしている高級ホテルの一室に来ていたのだが、案の定そこに居合わせたオータムから嫌悪丸出しな顔で罵倒されていた。
勿論その罵倒に対して元士郎が腹を立てる事は無いし、元士郎とペアであるマドカ少女はいっそ哀れむ様な顔でオータムを見ていた。
「あ? 何だ人形野郎?」
「いや、来る度に元士郎に突っ掛かるのによく飽きないなと思ってね」
「おいマドカ……」
「へっ! 役立たずと人形相手と組まされてるこっちの身にもなれってね。
それに事実だろ? そこのカスが役立たずなのは?」
千冬を少し幼くした容姿を持つマドカを静かに諌める元士郎を睨み付けながら吐き捨てる様に言うオータム。
元士郎に止められた手前、マドカもこれ以上言わずに黙る事にしたのだが、内心は怒りというよりは嘲笑していた。
(馬鹿な奴等……。無知というのはとことん罪だ)
静観していたスコールに淡々と最近までの調査結果を資料を手渡しながら報告していく元士郎の背中を微笑み混じりで見つめながらマドカは『何も知らない』オータム達――いや牽いてはすべての存在に対して嘲笑していた。
確かに元士郎はISを起動できないし、今の世の中そのISを動かせる女性が戦力として重宝されるのかもしれない。
「以上、衛星の写真では最後にカリブ海上空をさ迷ってた。その後の行き先は不明。
やはり彼女の妹を監視した方が釣れると思う」
「でしょうね、そう簡単に捕まえられたら苦労はしないもの」
だがそのIS全機が果たして元士郎相手に何分持つのか……。
空想である筈の悪魔に加え、漆黒の鎧を身に纏った元士郎に勝てると言えるなら是非見てみたい。
考えるまでもなく元士郎の鎧の餌になって終わりだろうさと、何も知らないオータム達を見てほくそ笑むマドカは、報告も終わり解散となってホテルの部屋から出る元士郎に名前を呼ばれ、ちょこちょことその背中を追い掛ける。
「ではまた……」
意趣返し気味にオータムに見下した笑みを見せながらのオマケ付きで。
「あーぁ、疲れた」
「お疲れ様、相変わらず無知な連中で笑いを堪えるのが大変だったよ」
「しょうがないだろ、俺男だし」
ホテルを出て、自分達が根城にする事になった小さい和風の旅館を目指して歩く元士郎のどうでも良さそうな言葉にマドカはクスクスと笑う。
「知ったらあの連中はさぞ驚くだろうな? で、命乞いでもするのかな?」
「さぁてね、どっちでも俺は殺すつもりはないさ。そもそも相手にするにしても脆過ぎるし、今更殺す殺されるをしたって何にもならないし」
「うんうん、それは私も同意するよ元士郎。
ああいう怪しい組織が蔓延ろうとも、のんびりと暮らせればそれでも良いし」
「そういう事だ。そもそも金払いが良いから雇われてやっただけだし」
スコールから渡された札束を数え、終わったと同時にマドカに手渡す元士郎にかつてあったソーナに対する恋心から来る覇気が一切無い。
転生者なる男に惚れてしまい、挙げ句誑かされて自分を殺した相手に対して未だに好きかどうかと聞かれたらハッキリとノーを突きつけられるけど、どうにも生きる目的が掴めないせいか、進化は続けても虚しい気持ちばかりに支配されてしまう。
「ちゅうちゅうたこかいな……10万円か、ケチな奴等だな」
「寧ろ報告だけで10万ならボロ儲けだろ、実際捕まえる気なんて俺たちには無いんだし」
だから金を集め、将来的にスーパーニートにでもなってやろうかと怪しい組織で諜報のアルバイトをしてる元士郎とマドカのペアの資金管理は基本的にマドカがやっている。
決して元士郎の金遣いが荒いという訳じゃなく、どこで知識を持ったのか、所帯染みた金の使い方を熟知してるマドカに任せた方が色々と安心だからといった、そんな理由である。
「宿代は経費で落ちるし、引き続き貯金をしよう。
ふふふ、この分だと組織を抜けて片田舎で家を買えば十二分に自給自足の生活ができる」
「お前まだガキだろ? 遊びたいって気持ちは無いのかよ? 俺がお前くらいの頃はなーんも考えずに毎日遊び呆けてたぜ?」
「色々と特殊だからかな、そんな気持ちは全く無い。
というか、元士郎を養う為にあくせくした方が満たされる」
「それを直接聞かされると、ますます自分が情けなく思えるわ……」
一回り以下の年下に生活面での世話になりっぱなしな元士郎。
燃え尽きたといえばそれまでだけど、やはりアレだった。
篠ノ之束の事は正直どうでも良い。
組織がその技術力を得ようとでもしたいのかもどうでも良い。
全ては元士郎と一緒に生きる為にお金を稼ぐ。
身体を壊さない程度に適度にサボるのも忘れず、どうせ慈善組織じゃないんだからと金を吸い上げる。
なまじ私が姉さんと同じ顔だから、奴等もそれなりの待遇をしてくれる……ふふ、ちょろいものだ。
「なぁ元士郎? お前の言ってた駒による悪魔の転生って、この世界の技術で再現できないの?」
「は? 無理だろ……あれは魔王の一人が開発した技術だし、その中身もイマイチ知らないまま死んじまったんだ。再現もなにも無いよ」
「そうか……うーん残念」
そんな事より今必要なのは、元士郎の持つ莫大な寿命に私自身が追い付く事。
只でさえ私は普通の人間とは違うし、この先普通に老いるのかもわからない。
もしかしたらテロメアが短いのかもしれない……そうなれば私は元士郎を独りぼっちにしてしまう。
それだけは何がなんでも避けなければならないのだけど、今のところ有益な解決策は皆無だった。
「どうしても元士郎と同じが良い……」
「長生きしても良いことなんて無いぜ絶対」
「そんな事は無い。お前と一緒なら星が滅んでも楽しいと思える」
悪魔の駒……だったかをこの世界の技術で再現できたら良いのだけど、元士郎曰くその駒を開発したのは純正の悪魔でしかも魔王と呼ばれた存在らしい。
元士郎が駒を持ってる訳でも無いし、私自身がまだ未成熟だから時間はあるにしても同じになって安心はしておきたい。
「全身をサイボーグ化したら簡単なんじゃね? この世界の機械工学なら可能っぽいし」
「それは嫌だ。全身を機械化したら元士郎の子供が産めない」
「は? お前……何言ってんだよ……」
元士郎からの提案は確かに安易かもしれないけど、そんな事をしたら元士郎と触れ合っても何も感じないし、何より将来的に元士郎の子供が産めない。
一応組織を使って検査した結果、子を為す事は出きると知ってる今、わざわざ生身の身体を捨てるなんて真似はしないし考えたくもない。
「子供が沢山できたら寂しくないだろ? でもその前に私の寿命問題を片付けないとね。
そうしたら、ふふ……年の差なんて完全に関係なくなる」
「………」
姉やアイツに対するどす黒い念も、元士郎に拾われてから殆ど消えてる。
あるのはただ、元士郎に残る見えない傷をどうにかしてあげたいという思いと、ずっと一緒に居続けたいという欲望。
その内二人の前に姿を見せる時が来た時にはハッキリ自慢してやるんだ。
誰よりも強い人だってね……。
「さてと、難しい話もここまでにしてそろそろ寝よ?」
「……あぁ」
私を暗闇から引っ張り上げ、もっと暗い……でも何よりも安心できる闇へと引き込んでくれた人。
それが例え偶然からの気紛れだったに過ぎなかったとしても私は、元士郎にこれからも感謝し続ける。
目的を与えてくれた事。
守ってくれた事。
強さを教えてくれた事。
「お前さ、たまには一人で寝ろよ……」
「良いじゃないか別に。元士郎は嫌なの?」
「いや、慣れてるから別に……」
「なら一緒だ。ほら、背中なんて向けないでこっちおいで元士郎? 撫でてあげる」
「それは良い……っておい……!」
「言葉が悪かったな、私がそうしたいからおいで? ふふ、よしよし……暖かい」
そして人を好きになる意味を与えてくれた事。
そう、私はずっと元士郎と生きたい。禁忌を犯してもずっと永遠に元士郎と。
見捨てた悪魔達が例え地面に額を擦り付けて返せとほざいて来ようが決して渡さない。
「あ、そういえばな元士郎? また少し胸が膨らんだんだ、この分だと姉さんと同じになれそうなんだけど、どう?」
「どうって……」
「好きにしても良いよ? まあ、流石に吸われても出ないけどな?」
「………Zzz」
「あ……ちぇ、寝ちゃった。ふふ、よしよし……大丈夫だよ元士郎、嫌な夢を見ても私がちゃんとこうしてあげるからね? 安心しておやすみ……」
渡してなるものか。
元士郎をこうして撫でるのも、抱き締めてあげるのも、全部私だけで良い……。
「……。寝てるよな?」
「すーすー……」
「よし寝てる……。それならちょっとだけ……ちょっとだけだから……」
私はマドカ……元士郎との永遠を求めるだけの存在。
与えてくれた恩だけでは無く、自分の意思で決めたこの道の邪魔は何人たりともさせない。
「ほら元士郎……」
「ん……」
「ぁ……! く、くすぐったい……! はぁ……はぁ、元士郎………元士郎ぉ……」
とはいえ、流石に元士郎が寝てるのを良いことに、自分の着てたシャツを捲って露にした胸を吸わせてみたのがバレたら怒られちゃうかもしれない。
でもこれ凄い……全身がピリピリと痺れるし、物凄い多幸感で癖になりそう……。
「き、決めた、絶対に元士郎に女として認めて貰って毎日して貰おう……! そ、そういう訳でもう少し……ほら元士郎……」
「んむゅ……」
「ひゃん♪ ………………あは、あははは♪ 好き、好き好き、大好き元士郎……!」
「ん、んむむっ……!?」
補足
多分、一誠に対しての千冬さんみたら微妙な顔しそうだったりしそう。
でも、ある意味話がめっちゃ合いそうな気がせんでもない。
その2
最後マドカさんは何をしたのか……ご想像に。