まあ、ここまではひとつの分岐なんで……
漸くわかった。俺は結局逃げるだけの人生だった。
殺す為に逃げて、プレッシャーに負けて逃げて。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて……………逃げ続ける事で生き残れた卑怯者だ。
自分で蒔いた種すら放棄して逃げた臆病者……ふふ、実に俺に相応しいじゃないか。
一誠が行き着いた先は、転生者により両親を喪わなかったらの世界。
記憶の両親より生きていたという時間があるせいか若干老けている両親を前に、取り敢えず隠れて泣きまくったのは記憶に新しい。
「あら、珍しいわね、アンタが普通に起きるなんて?」
「明日は槍でも降るんじゃあないか?」
「………お、おう」
何故元居た殺伐とした世界に戻れなかったのかはわからない。
記憶よりも『生きていた』という年月を加算してる事で少し老けている両親に軽く茶化され、微妙に返し方がわからずにテンパる一誠にも、中に宿る相棒にもわからない。
「毎日こうだと良いのだけどねぇ?」
「…………」
それに他にも違いは色々とある。
まず転生者が居ないという事で自分を殺そうとしていた多くの他種族達は普通に其々生きているし、義務教育すら受けられなかった自分が一般家庭に生きて高校生すらなっている。
しかも――
「はろはろ~ お隣の束さんだよ~」
「………………………」
重圧から逃げようとした際、強引に付いてきた消えた世界の存在……篠ノ之束がお隣さんの同い年の娘さんとして存在しているという点が大きすぎる違いだった。
「あらおはよう束ちゃん、今日はうちの寝坊助息子がちゃんと起きれたみたいだから、直ぐに準備させるわ」
「ご飯は食べたかい? 食べてなければここで食べていくかい?」
「えーっと……大丈夫、です」
生きていた両親に怪しまれない程度に聞いてみると、なんでもお隣さんとは昔からの友人らしく、その流れで娘の束と親しくなってるとの事だが……。
「行ってらっしゃい、ウチの息子をよろしくね束ちゃん?」
「た、束さんにお任せあれ……」
「…………」
以前の関係が関係なので、そんなナチュラルに親しいと言われても微妙に気まずいだけであり、曰く束に勉強を叩き込まれた事で同じ高校に通う事になってこうして毎朝共に登校するのも、果てしなく微妙でしかなかった。
「………………………」
「こんな状況になって暫く経つけどさ、全く慣れる気がしないんだけど」
まず同い年という時点でも違和感だし、何よりお隣りさん同士の旧知の仲というのが凄まじく慣れない。
あまりにも信じられなかったので、両方の家にあったアルバムを持ち込んで一緒に見てみたりもしたけど、貼ってある写真はどれもこれも楽しそうに笑って一緒に写ってるものばかりで、その時はただただ絶句しかなかった。
「言っておくけど、このアルバム通りにはしないから、アンタと仲良しだなんて気持ち悪すぎて嫌」
「あ、はい」
束もそれは同じ気持ちらしく、凄まじく嫌そうに一誠をジロリと睨んでいる。
こう言われてしまえば一誠も低姿勢になって返事をするしかできない。
「そもそもアンタは変態野郎で、私を組伏せ、ゲスに笑って服を無理矢理剥ぐ鬼畜でしょう? ほら今だって私をめちゃくちゃにしたいって目だし」
ただ、言ってることが滅茶苦茶だが。
「……………いや、そんな事微塵も考えてないんですけどね俺」
この逆に色々と疑ってしまう世界に来て以降、以前よりも顔を合わせる機会が増えすぎたせいなのか、事ある毎に変態男扱いをしてくる束に、一誠は微妙な顔になってそれは無いと何回言ったか分からない返答をする。
しかし束はどうしても一誠を変態野郎にしたいのか、一誠を睨みながら自分の胸元を抑えながら言う。
「それが嘘だってのはわかってるし、ほら、今私の胸見た」
「いや……学生服が壊滅的に似合ってねーなとか思っただけなんだけどな?」
自分達が通う高校の制服のデザインが悪いのか、あんまり似合ってない束の姿。
いやそれでも全体的に見れば可愛らしいお嬢さんなのだが、やはりあまり似合ってるとは思えなかった。
「し、しまった……! この道は殆ど人の通らない道で、このままじゃ変態の赴くままに束さんの初めてが鬼畜に奪われちゃうよぉ……!」
「……」
挙げ句の果てにはわざとらしい台詞を宣いながらこっちをチラチラ伺ってる束に、それまで黙っていた一誠の相棒が中からドン引き気味に声を出す。
『やはり頭がおかしいぞこの女、食いちぎった肉片を自分埋め込む時点でアレだとは思ってたが、やり連れてくるべきじゃ無かったろ』
「俺もよくわからない。この子が……」
束の腕に残る一誠の細胞。
それを取り込むに至る経緯があまりにもアレだったので、ドライグですら理解できない様子でありこの事に関しては一誠も微妙に同意できてしまう。
「ねぇ、早く行かないと遅刻するぜ?」
「………チッ、そんなのアンタに言われなくてもわかってるよーだ」
その理由が理由なので一誠も表立って否定できない。
ちなみに束も一誠もこの世界に来てから以前居た世界については束が生み出したIS以外一切声に出していない。
それはお互いの間に出来た不文律の様なものであり、一誠は無責任に逃げ出したという意味で、束はそんな一誠が全てだった一夏と千冬を最後の最後で出し抜いてしまったという罪悪感から話すことはしなかった。
そんなこんなでまたツンケンモードに戻った束の半歩後ろを着いていきながら無事に今自分達が通ってる高校――駒王学園へと辿り着く。
「また正門前がごちゃごちゃしてるな……」
「鬱陶しいなぁ毎朝」
IS学園へと比べるまでもなく普通の学校である駒王学園。
しいて言うならIS学園程では無いが女子の比率が多いという所で、その理由は一誠の世代になって少子化問題で共学化したから――という理由があったかららしく、その他は他の高校と変わらない平凡な学校なのかと、入学式辺りまでは思っていた。
「きゃー! リアス・グレモリー様と姫島朱乃様よー!」
「木場くんも居るわ!!」
ある意味で一誠にとっては最悪すぎる地雷が居たと気付いてしまうまでは。
「また例の奴かよ……毎日毎日飽きないのかな」
正門から中にかけて生徒の塊。
これはこの学園の日課ともいえる風景であり、一誠も入学してから直ぐに地雷である事と一緒に知った事なのだが、こう毎日毎日人だかりを見てると若干どころさじゃなくげんなりとしてしまう。
「高校の選択を間違え過ぎだろ……最悪だ」
「また例の悪魔達だ」
「ちょっとそこ歩くだけで周りも騒ぎすぎなんだよ……ったく、邪魔で通りづらいったらありゃしない」
「前々から疑問だけど、あんな姿ならアンタも一緒になって騒ぐんじゃないの?」
「いやそれは無いね。
だって普通に考えてみ? 余程の変態性癖でも持ってるのを別にして、普通の人間がまずチンパンジーに欲情できると思う?」
「へー、アンタにとって連中はそんな認識ってわけ?」
「まーね、それにあのツラはクズ野郎に抱かれたいが為に俺を殺そうとした連中と同じ姿だし、クズ野郎が居なくてもしもとなってても出来れば一生関わりたくないね」
キャーキャーと騒ぐ生徒達の視線の先に居る容姿やスタイルが抜群の美少女と美少年の集団から外れた箇所で、割りと酷い言い種で連中とは関わりたくないと宣言する一誠。
言った通り、この世界の彼女達は転生者によって異様な力も持ってなければ、言われるがままに殺しに来るような連中では無い事はわかってるが、それでも同じ姿形をしてると、多かれ少なかれ拒否感というものが生まれてしまう。
転生者という
「裏から回ろう……長そうだし」
故にかなり本気で自分の存在感を消すことに努めようとするのだけど、やはり何かしらの呪いでも受けているのか、そう上手くはいかない様だ。
「よ、お二人さん、今日も朝から元気だね?」
「げ……」
「チッ……」
何時まで経ってもキャーキャー言ってて散る気配が無いので裏門から回って中に入ろうとした一誠と束の背後から気安い声と共に軽く背中を叩かれる。
思わず束はうざったいといった様子で舌打ちが飛び出て、一誠は実にやりづらい相手の声であることを認識して顔が歪む。
「開幕一番に舌打ちと嫌そうな顔をされると流石に私も傷つくんだけどな?」
そんな二人の反応にたいして、橙色の髪を三つ編みにしている眼鏡を掛けた少女は特に気を悪くした様子もなく、その見た目とは裏腹のラフさで二人に絡んでくる。
「えーっと、どーも桐生さん……じゃあ俺達裏門から回るからこれで」
「…………」
とにかく空気になりたい一誠と、基本的に他人を寄せ付けない束のコンビはそのまま彼女から離れようとする。
この桐生という少女に関しては元の時代では全く知らない。もしかしたら居たのかもしれないけど、束はそもそも世界からして違うし、一誠は元々義務教育すらまともに受けてなかった人生だったので、このどっち側なのかもよくわからない存在については極力関わりたくはないのだ。
いや、気配的に一般人なのは間違いないのだけど。
「まぁまぁ待て待て兵藤に束。
そんなに邪険にせんでも私は何にもしないわよ」
「チッ、うざいな」
「い、今ちょっとこの子機嫌悪いからさ、頼むからこのまま見送ってくれないかな? いや本当にお願いします……!」
事の始まりはクラスが一緒で、周囲から浮きまくり始めた束に、勇気ある彼女から果敢にも話し掛け始めたのが始まりだった。
当然この今の束の反応を見てお察しの通り、自分の形成したコミュニティに認めた存在しか入れないタイプな為、その他に対する対応が相当に無愛想になるので自然と周囲から敬遠させる立場になる。
にも関わらず、一誠以外で束に絡むのがこの桐生藍華という少女であり、何を言っても忘れたと云わんばかりに束に絡むもんだから、自然と一誠とも関わることが多くなったらしい。
「なぁに、昨日の晩はおあずけ? それとも朝もできなかったの?」
「声がデカいっつーの……!」
「………」
しかも見た目とは裏腹に下ネタ上等なもんで、どうにも束に対して変な事まで吹き込んでる様な気がしてならない。
現に今もニタニタしながらの下ネタだし、空気に徹する事さえなければある意味良い友人にすらなれたかもしれないと一誠は桐生の口を無理矢理押さえながら余計な事を言わせまいとする。
「別に隠す事なんてないでしょ? アンタと束を見てれば誰だって邪推の一つや二つするでしょうし。ある意味アンタ達って目立ってるわよ?」
「え!? 嘘だろ……」
「ていうか何でアンタに名前で呼ばれなきゃならない訳?」
「まぁまぁ、細かいことは言わない言わない。
今も騒がれてるグレモリー先輩達を見ても寧ろ避けようとしてるし、そういうのは逆に目立つわよ?」
「マジでか……」
「まあ、騒いだら騒いだで束が可哀想だし、アンタの選択は間違ってはないわ。ね、束?」
「おい、私は別にこいつなんか……」
「ふーん、前に他の女子の胸を見て割りとハシャいでた兵藤に対して相当イライラしてたのは嘘だったの?」
「へ?」
「っ……! そんな事は無いっつーの、勝手な事言うのはやめてくれない?」
一々おちょくってくる桐生にイラつき度が上がっていく束。
恐らく一番苦手なタイプなのかもしれない。
「兵藤って割りとドスケベだってのはみーんな知ってるしね」
「えぇ……何でバレたし」
「割りとアンタ女子の身体をジロジロ見すぎなのよ。結構そういう視線ってわかるものなのよ?」
「…………………修行不足だな」
「そういうこと。だから束の事をちゃんと考えないとダメよ?」
「いや、考えるも何も別にそんなんじゃないしな……」
「うっわ……アンタそれ本気で言ってるの? ほらだから言ったじゃないのよ束? 早いとこコイツと合体しないといけないって?」
「………」
自分で両手を縛ってベッドの上で色々と言ったりしてる……とは言いたくなかった束は無言で桐生に鬱陶しいという視線を送りつける。
桐生藍華……イッセーと束のクラスメートにて、唯一敬遠されてる束に絡み続ける不思議な少女である。
基本的に頭が良すぎる束は学生が頗る退屈であり、そんな雰囲気が隠れもせず出てるせいか男女問わずに桐生を除いて敬遠されがちだった。
なのでそんな束と殆ど行動を共にしている一誠は自然に尊敬じみたものを向けられている。
「顔とスタイルは良いのに残念すぎる!」
「おっぱいに関してはグレモリー先輩や姫島先輩をも凌駕しているっつーのに!」
「……………」
授業の休み時間、桐生に絡まれてうざそうにしている束を別の席から眺めている一誠に聞こえる様な声で束の見た目だけは誉めちぎる男子のクラスメート、元浜と松田のエロコンビ。
一誠もそのノリに親近感が沸いてすぐに仲良くなれたのでエロトリオ扱いされつつある訳だが、その二人から束に関して色々と質問される事は多い。
「家が隣同士なんだろ? やっぱり窓から伝ってお互いの部屋に出入りするのか!?」
「そんな密集してないし」
「だがお互いの部屋には出入りするんだろ!?」
「…………。まぁ多分」
「「くぅ! 微妙に羨ましいぜこの野郎!」」
出入りしてる理由は、この世界での関係性の確認の為だったりするだけで、そんな漫画みたいな事はまず無いと少なくとも一誠はそう思ってる為、何やら桐生に色々と言われてる束を眺めながら曖昧な返事を返すと、元浜と松田は各々妄想しながら一誠を羨ましがっている。
「アレか!? 一緒に勉強をしてる内に距離が近くなり……みたいな!?」
「朝まで保健体育の勉強をするとか!?」
「そんな事をあの子にしようもんなら、自分の分身が切り落とされるか噛みちぎられておしまいだっつーの」
そもそも俺の肉片を食いちぎって強化の道具にする為に自分の作った傷口に移植するくらいだし……と、割りと男にとっては笑えない事を言って無いと否定する一誠。
さっきから桐生がこっちを見てニヤニヤし、束が軽く下を向きながらブツブツ言ってるのが見えるが、まだ変な事を吹き込んでないかが実に心配だ。
思うに、前から変だったが、あの桐生という女子に絡まれてから余計に束の行動の突拍子のなさが加速した気がしてならい。
「兵藤、今日は楽しみにした方が良いよ? 色々とね……」
「キミが言うと嫌な予感しかしないんですけどね」
それでも元の時代に比べたら遥かに平和なのがまた皮肉だった。
終わり。
おまけ 実は……なクレイジーサイコラビット。
アレだコレだと奇妙なクラスメートに吹き込まれてる束だが、実の所ある程度の事はされてしまってたりする。
例えば、基本的に寝坊癖がある一誠を起こしてくれと一誠の母親に頼まれて部屋に入って叩き起こそうとした時がそうだった。
「すぴー……」
「ちょっと……ねぇってば……!」
軽く頭をしばこうと手を振り下ろした瞬間、その手を掴まれて驚く暇も無くスヤスヤと一誠が眠るベッドの中に引きずり込まれた。
あまりの唐突さに一瞬思考が完全に停止してしまった束は勿論正気に戻ると共に一誠を叩き起こすじゃなくて殴り起こそうとするのだが、抱き枕の如く自分の身体を抱き締めてくるせいで上手く力が入らない。
「本当は起きてるよね!? 早く起き――ひゃん!?」
「ZZZ……」
そんな体勢のままだから、自然と一誠の顔が自分の胸の間に突っ込まれる形となる訳だが、本当に寝てるのかが疑わしくなるくらいに突然一誠が鬱陶しそうな声を出すと、モゾモゾと束のお腹辺りに移動し、そのまま服の中に顔を突っ込んだ。
そして………
「んぁ……? な、なにごと? …………………どわっ!?」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「え、ちょ、束ちゃま!? な、なんで!? 何故!? どいうこと!?」
「こ、このスケベ……束さんの……私の……うぅ……」
起きた一誠の目に飛び込んだのは、頬が上気し、息は荒い束が片腕で目を覆いながらちょっとビクンビクンしたる姿だった。
「お、お風呂入り直さないといけなくなったじゃん! 変態!」
「ち、違うって!」
「何が違うんだよ! うぅ……下着もこんな……」
「お、おぉふ……シーツも洗わないと……」
「アンタのせいだよ! 最低!!」
「ぐはっ!? な、何も言い返せない……」
この後、騒ぎを聞いてやってきた母に見られ、何やら全てをお察しした顔で……。
「避妊だけはしなさい」
と息子に言ってからそそくさと扉を閉めたせいでまた大騒ぎになるのだが、それは語る必要もないだろう。
終了
補足
何気にシリーズで始めて出てきた桐生さんは、アグレッシブに無愛想な束ちゃまに話し掛けまくる強者だった。
その2
精神年齢がそれなりに高くなってるので、周りに対して若干態度が違う一誠くん。
その3
恒例、寝ぼけてちゅーちゅーしちゃって自分から檻に飛び込むスタンス。