クレイジーサイコラビットの言動についてドン引きし、一夏が遅れてやって来た千冬にチクった事で激怒し、そのまま追い返されるというやり取りを経て海へとやって来ていたその頃……。
「情報通りだ、IS学園の団体が海で遊んでいるぞ元士郎」
「だな」
安いポンコツ乗用車を運転する青年と、その隣の助手席に座り、窓を開けて双眼鏡を覗く少女が居た。
勿論その二人組とは特別ボーナス目的で仕事を引き受けた元士郎とマドカのペアであり、IS学園の一年生達が実に楽しげに遊んでいるのを少し離れた道路の路肩に止めて偵察する。
目的はその団体の中に居るだろうターゲットの妹である。
「居たぞ篠ノ之箒」
「様子は?」
「人となりがよく解らないから何とも言えないけど、変な着ぐるみみたいな服を羽織った女と何かを話しているぞ?」
「ふーん」
窓を開け、缶ジュースを飲みながらどうでも良さげな声を出す元士郎は、双眼鏡を覗きながらお前も見ておけというジェスチャーをしながらもう一つ双眼鏡を渡してきたマドカと共にターゲットの妹の姿を見る。
「………」
「む、胸が大きい……」
「え? あぁ、じゃないの?」
「良かった、その反応からして興味を持つ事は無さそうだ?」
「そりゃあご期待に応えられて何より。
それより他にアイツの力を持ってそうな輩は……チッ、数が多すぎてわからねぇな」
ターゲットの妹については元士郎にとっても正直どうでも良い。
重用なのはここ最近頻繁に感じる赤龍帝に非常に酷似した力の持ち主が誰なのかを探る為にある。
別にそれがIS学園の生徒の中に居るという確証がある訳ではないが、もしかしたらそうなのかもしれないという疑念がある以上は探るべきだと考えている。
「まあ、そんな都合良く居るわけ無いか……」
とはいえ、居ない可能性の方がやはり高いため、双眼鏡から目をすぐに離してしまう元士郎は残り少なかったジュースを飲み干し、付けていたハザードを解除するとマドカに声を掛けて車のエンジンを掛ける。
「そろそろ行くぞ。長居してるとサツに職質喰らうからな」
「わかった」
そのほんの数十秒がスレ違いである事に気付かずに、元士郎はポンコツ軽自動車を発進させた。
木を隠すなら森の中――とは少し意味合いは違うのかもしれないが、此度の仕事は妹の誕生日に接触しようとするだろう篠ノ之束の捕縛である。
故に妹の箒の動向を監視する事が一番効率的にも良く、その為にはバレない程度の接近が必要だ。
「はぁ……学生団体ですか」
「ええ、ですので少しばかり騒がしくなってしまいます。
予約をしてまでウチの旅館をご利用して頂けるお客様には大変申し訳ございませんが……」
「別に構いませんよ、賑やかなのが苦手って訳ではありませんからね」
つまり学園の者達が利用してる旅館にイチ客として紛れ込む。
白いワンピースに麦わら帽子を被ったマドカが旅館の女将と話を付けてる後ろ姿をボーッとしながら眺める元士郎は、ついさっきまでそのソックリを見た筈なのに、意外な事に気が付かないもんだ……とマドカの容姿に対して特に驚いても無い様子の女将に対してそう内心呟く。
「IS学園の連中とは少し離れた部屋を用意してくれていたそうだぞ」
「あぁそう……にしてもよくまぁ驚かれないもんだね」
「ん? あぁ、コソコソしないで堂々としていれば案外こんなものさ」
あの織斑千冬を幼くした姿のマドカは、下手したらそれだけで驚かれる要因だが、本人がかなり堂々としてるせいか却って不審に思われないらしく、それはマドカ自身が織斑という存在に対しての拘りを持たず、真の意味で『自己』を確立したからに他ならない。
それも偏に元士郎という存在が自分のルーツから来る拘りを打ち消しているからであるのは皮肉なのか……。
「うん、悪くない。隅の方だと言われたがちゃんと海も見えるし良いじゃないか」
「確かにな。取り敢えず一息つくか」
従業員に案内されて部屋へと到着したマドカと元士郎の二人は、多くは無い荷物を置いて畳の上に座る。
「さてと、ここからどうするかだけど、さっきスコールから連絡があったのは知ってるな?」
「追加の仕事だったか? チッ、あのクソレズ共は腰が重くて命令ばかりで上司にしたくねぇ典型的な奴等だぜ」
「そう言うな、お陰で割りと監視も緩いし、仕事とはいえこうして軽い旅行気分に浸れるんだ。
お金も向こうが出してくれるしね………っと、話は戻るが追加任務についてだが、明日辺りにどこぞの軍用ISが不慮の事故で『暴走』し、この近くの海域を飛び回る事になるらしい」
「不慮の事故ね……物は言い様だな」
麦わら帽子をテーブルの上に置きながら言うマドカの不慮の事故という言葉に元士郎は皮肉たっぷりに笑う。
「私達はその暴走した軍用ISを無傷で確保――最低でもコアを回収しなければいけないらしい。
無傷で1億……コアで1000万円をキャッシュだ……ふふん、貯金も捗るぞこれは」
その皮肉な笑みに対してマドカもニヤニヤと笑う。
元士郎を永久に養う為の先立ち資金を一回で多額に獲られるというだけあって、普段より少しやる気が見える。
「そのISって無人機なのか?」
「いや情報によると搭乗者はナターシャ・ファイルスという者らしく、機体はアメリカとイスラエルの共同開発したものでシルバリオ―――まぁ、こんな情報はどうでも良いか。
とにかく有人機ではあるが、搭乗者の生死は回収さえすれば問わないらしい、不慮の事故による暴走で搭乗者の意識は無いとの事だからな」
「あ、そう」
確かにISの機体情報も、搭乗者についてもどうでも良かった。
無意味に殺す必要も無いが、不殺を唱ってるつもりも無いのでパイロットの生死についてはその時に判断すれば良いと結論付けた元士郎は、何時も肌身離さず身に付けているネックレスの装飾に触れる。
「少し身体を動かすか」
「本当か、それなら私も付き合おう!」
大小関わらず、戦闘が予想される仕事だというのなら軽く身体を慣らした方が良いと判断した元士郎は即座にISスーツに着替えたマドカを連れて外へと出る。
IS学園の生徒達が海で遊んでるだけの強い陽射しが照り付ける中、二人はその生徒達が遊んでる海岸を横切り、波に打たれて岩肌がゴツゴツとした人の寄り付かない場所を見つけてそこを軽い運動場として利用する。
「鎧は喚ばないのか?
「あまり派手にやったら色々とマズイだろう?」
「それもそうか……」
転生者に殺された際、五大龍王のウリドラの意識は消えてなくなり、僅かに残った脱け殻の力を育て直し、遂には元の力を超越した黒狼の鎧の力を手にした。
謂わばこれは全く新しい元士郎が開祖となる神器であり、二天龍神器的に表現するなら常時覇龍の状態――いやそれ以上。
相手の力を鎧に喰わせれば喰わせるほど再現無く強化され続ける闇の力。
それが元士郎の持つこの世にただ一つの力……
心を滅した獣を越えた先の、神を喰い殺す14番目にて突然変異の神滅具。
龍帝と並び、転生者を殺しえたかもしれない暗黒の力。
『さぁ元士郎、その小娘を斬って最後の陰我を断ち斬るのだ……!』
『勝手に人の中に住み着いといてゴチャゴチャうるせぇんだよボケがァ!!!』
『な、貴様、我が喰らう筈の力を何故お前が――おおぉっ!?!?』
その際、全身が白くて全裸で女っぽく見えなくもない化け物みたいな変な奴が出てきて、ゴチャゴチャと行動を共にし始めたばかりのマドカを斬れだとのやかましくてつい喰い殺してしまったりもしたし、それ以降まったく出なくなったとかそんな小話もあったが、まあ、これは関係ない話だろう。
「む、鞘から剣を抜かないのか?」
「期待を込めて言ってやる……抜かせてみろ」
「! ふ、ふふっ! やってみるさ!!」
とにかく今の元士郎はかつて転生者に良い様に嬲られて殺された時とは違う。
メンタルはちょっと脆いけど、最早殺されるだけのちっぽけな存在ではない。
「うわっ!?」
「岩場に足を取られそうになる事ばかり考えるからお留守になるんだ、もっと集中しろ」
「むぅ……」
自分に転ばされて悔しそうに唸るこの少女のお陰で……。
終わり
その力はあまりに異質だった。
『………………』
「あ、ISの力を食べてる……!?」
その力は見る者に寒気を与えた。
『何だその直線的すぎる攻撃は?』
「うぐ!? うぉぉぉっ……がは!?」
『フッ、専用機持ちと言っても所詮はガキか』
その力は龍帝を追い掛ける少年の壁として立ちはだかった。
「一夏ァ!!!」
「おっと、お前達の相手は私だ」
「邪魔だァァァっ!!」
「おっと、まるで猪だなこれでは」
禍々しい鎧を纏う二人組に圧倒される少年と少女達。
だが……。
「身体よ持ってくれよ!! 8倍だァァァァっ!!!」
「!? ぐっ!?」
『っ!? な、何だと!? あ、あの力は……!』
龍の力に適応した少女の限界を越えた力を前に動揺が走る。
『お前、その力はどこで手に入れた!!!』
「く、ふ、ふふ……弟子からの贈り物さ……」
トモダチになりたかった男の力を持つ少女が笑う……そして――
「師匠とウチの坊主がお世話になった様だが……ちょっと遊んでくれよな?」
『………神器か?』
龍帝と暗黒騎士は再会する。
『お前、だったのか……』
「…………。さ、さじ……か?」
立場的に敵同士として……。
『行くぞ兵藤ォ!! 大魔獣陣!!!』
『それはこっちの台詞だ匙ィ!!! ビッグバン・ドラゴン波ァァァっ!!!』
「うーん、元士郎が心底嬉しそうで何よりだ!」
「彼が一誠さんの言っていたトモダチになりたかった男か……しかもまさかお前と行動していたとは。
その、何だ……何と言って良いかわからないけど……」
「気にしなくても良いよ姉さん。私は別に自分のルーツが何であろうと変わらない。
アイツ……元士郎の傍に居たい、それだけだから」
「千冬姉より大人に見えるのは気のせいか?」
まあ、立場なんて本人達にとってはクソ喰らえだったようだが。
似非予告……運命。
何時になるか不明。
「ど、どうしてこんな真似をしたんだ!!」
「アンタをぶちのめして脚を舐めさせたいからだよ。その為だったらアンタの肉を喰いちぎって自分に埋め込むのもやむ無しだと思った……それだけのこと」
「……お前、何したんだよ?」
「……一言では言い表せない事を俺がやらかしたって事は間違いないと思ってくれて良い。
くそ、どうしてこんな……」
「んん? なぁにその顔? 今更罪悪感でも感じてるの? あははは、良いねその間抜けな顔! 見てるだけで堪らないよぉ、ねぇ、その顔見せてよ? 私に対してもっと、もっとさぁ……?」
「……………。声がエロいんだけど、お前ホント何したの?」
「俺が聞きてぇよこんなの!! お前こそちーちゃんの……その……そっくりちゃんとはどうやって……」
「……色々とな。この子居なかったら今を待たずして精神崩壊してたくらいには助けられたよ」
「そうか……」
「相手の一部を取り込む……いや兵藤一誠の一部を取り込んだからこそのあのパワーアップか。
ふむ、なぁ元士郎? 今晩辺り私のお腹の中にせーしを……」
「…………本当にそうなのかよ匙?」
「言っとくが手なんか絶対に出してないからな……!」
終わり
補足
実はどこぞのメシアの意識が覚醒と同時に宿ってたらしいけど、マドカさんを斬れ斬れと喧しすぎてぶちギレた匙きゅんに逆に喰い殺されたとさ。
その2
つまり現状メシア一体化――では無く完全に取り込んだ上での暗黒騎士状態。
彼がもしこの領域のまま一誠と組んでれば間違いなく転生者を捻り殺せてました。
………マドカたんとは出会わなかったけど。
その3
似非みたいになるのか……それは……わからん!