予期せぬ再会を経て海へと来た一夏と一誠。
既に微妙に疲れているのはきっと気のせいではない。
「俺はあの子が微妙にわからんよイチ坊」
「だったら俺はもっとわからないよおっちゃん」
見てくれだけだと男同士の友達で海にナンパしに来ましたみたいな風体の男子二人。
一夏はまだ浅いながらも、それでも月日の積み重ねを感じさせる均整の取れた肉体を。
一誠は逆にその身体を隠すようにパーカーを羽織っていた。
「少し遅い様に感じましたけど、どうかなさいましたの?」
「やぁセッシーちゃん。
いやね? やっぱり水着になるのはやめとこうかな~とかそんな事でちょっと揉めてたんだ。な、イチ坊?」
「……まぁ、そんな感じ」
まさか出現した束にドン引きしてた……等とは二人が来たのを発見して寄ってきたセシリア達に言うわけにもいかず、別の理由をでっちあげて誤魔化しておく。
「まあ、俺のくだらん事情は横に置いておいてだ、にしても良い景色だねぇここは。
右見ても左見ても現役女子高生の水着パラダイスとは、いやぁ、生きてて良かったねぇ……グヘヘヘヘ!」
そして変な空気になる前に一誠が周囲を見渡しながらだらしのない顔をする。
一応どうであれ、一誠の言った通りこの空間は現役の女子高生達で溢れ帰ってるパラダイス空間なのだ。
「皆も素晴らしく似合ってるし、なぁイチ坊?」
「俺に振るなよ」
「バッカお前照れんなよー!」
「照れてねーよ!!」
背中をパシパシ叩かれてムキになる一夏に一瞬見られて若干モジっとする女子達。
「着ることなんて無いと思ってたけど、こんな事滅多に無いから着てみた」
「おお、かんちゃん! 良いじゃないか! なぁイチ坊!」
「は? あぁ……まぁ良いんじゃねーの?」
だから一々俺に振るなし……と思いつつ、慎ましいめの胸ながらも実に可愛らしいお姿の簪に一夏は投げやりに答えれぱ、続く様にしてセシリアや鈴やシャルロット等がわざとらしく一夏の視界に入ろうとする。
「どうでしょうか?」
「ひ、一言で良いからコメントを……」
「はいはい! 良いんじゃありせんか!?」
くっくっくっ、と笑う一誠に見守られながらこれまたやけくそにセシリア達に返す一夏。
ちなにみ影が薄くなりがちだが、一夏に存在自体認識されてなかったと知った鈴音の性格はめっきりと一夏の前だと借りてきた猫の様に大人しくなってしまっており、今も一言何でも良いからコメントが欲しいとモジモジしていた。
もっとも、可愛そうな事にそんなしおらしい彼女のギャップをまったく一夏は知らないので効果がないのだが。
「やっと来たかイッセー」
「んぉ、その声は師匠………………………どしたの?」
生き延びてみるもんだな、と自分が現役時代ではなかった光景に改めて染々としていると、ひょこっと簪の後ろからラウラが姿を現した……何故か頭からスッポリとバスタオルを被った姿で。
「あぁ、同じ学年じゃないから行けない楯無に色々と教えて貰ってな。
お前に最初に見て貰おうと思ったんだ」
「たっちゃんに? ほーぅ……」
「チッ」
どうやら楯無プロデュースによる水着を見せたいらしく、被っていたバスタオルを勢い良く取る。
後ろで一夏が小さく舌打ちをしてた様な気がしたが、そこは気にしたら良くない。
「おぉ……! なんとも可愛らしい」
「そう、か? 着飾る事は今まで無かったからちょっと恥ずかしいな」
黒いレースの水着で髪はアップテールという、ラウラの魅力を引き立てまくる姿に一誠はただただ誉めちぎっている。
「でだ。卑怯かもしれないが、お前も上を取ったらぉうだ?」
「…………………へ、師匠に言われたら取るしかないわな」
そんなラウラから何時までも隠すなと言われてしまえば従うしか無くなった一誠は苦笑いしながらまだ見たことない子達に『変な空気になったらごめんな?』と謝りながら着ていたパーカーを脱ぎ捨てた。
『……………………』
「急に風の音しか聞こえねー…………」
首から下……修羅場を潜り続けた結果残ってしまった醜い傷跡の身体が陽の下に晒されたその瞬間、思っていた通りの空気が海岸を潮風と共に流れてしまう。
「ひょ、兵藤くんの身体……首の下、足首までが全部傷だらけ………」
「な、何をしたからあんな傷……」
初めてラウラに言われて脱いだ時に流れたのと同じ空気とリアクション。
漫画の様な見映えのある傷なんてものじゃない、一部は抉れた跡まである惨たらしい傷跡は、初めて見た者をやはり圧倒してしまう。
「インナータイプにすりゃあ良かったわな」
だから渋ったのに……と予想通りの反応を見せられて乾いた笑いを苦し紛れにする一誠に一夏が見て引いてる者達に向けて指をバキバキ鳴らす。
「傷があるから水着を着て泳いじゃいけない法律でもあるなら是非聞いてやるよ?」
『!』
笑ってるけど目が笑ってない一夏の言葉に他クラスと女子達はサッと目を逸らす。
「前に見た時はわからなかったが、この部分の傷は赤髪の女に――いや、悪魔にやられたな?」
「へ? 師匠……なんで知って……」
「言ったろ? お前に引きずり出して貰った時に夢で見たって。
この胸の貫かれた様な傷は、そんな女達をまとめていた男から受けた奴だろう?」
「まあ、顔が無事だったのは最早奇跡だったよホント」
しかしそれでも一誠と同じクラスである一組の者達は引いたというよりは少し驚いたといった程度に留めており、ラウラが先程の束とは違った意味でその傷を指でなぞり、簪もまたポンとその背を叩く。
「もっと前に知りたかったな。特にお姉ちゃんは怒ると思うよ? 何で教えてくれなかったんだって」
「わざわざひけらかすモノじゃないでしょこれは?」
「へへーん、俺と千冬姉は小さい時から知ってたもんねー! おっちゃんに風呂入れて貰ってたしー!!」
「だからお前は何でそんなしょうもない事を自慢げに話すんだよ」
とにかく簪やラウラに己と千冬の方が一誠と繋がりが深いんだと主張したいのか、ドヤ顔で自慢している。
「断片ながらだが、お前がどんな状況に措かれていたかは傷を見ればわかる。
しかし私は前にも言った通り気にしないさ」
「師匠……!」
そんなドヤ顔に若干ムッとなったラウラが一誠の手を握りながら優しく微笑む。
「今は師匠じゃないぞイッセー?」
「あ、おう……。ちくしょう、あと15年若かったら確実に口説いてたぜ俺は」
「別に構わないぞ? お前は年を取らないんだろ?」
「!? だ、ダメだぞおっちゃん!! コイツだけはダメだ!!」
「ふ、何故お前に一々イッセーが許可を貰わないといけないんだ?」
「うっせぇ黙れ!! テメーは気に喰わねぇ!!」
ガルルルと唸る一夏にラウラが鼻で笑って返す。
「落ち着きなよ一夏、折角の海なんだからさ」
「そうですわよ、ラウラさんだって半分は冗談なんですし……」
「じゃあもう半分は!?」
「た、多分本気……?」
「ならダメだろ!?」
「い、いやでもそこはホラ……」
「てかお前は誰だよ!?」
「へぅ!? ま、まだ認識されてないのアタシィ……うぅ」
鈴音に対してまたしてもハートをグッサリ刺してしまうが、本人はそれどころじゃなく、一誠と楽しそうにしてるラウラの邪魔をしてやろうと躍起だった。
「あ、そうだ。折角だからこの前言った事をお前にしてやろう」
「へ? なになに?」
「させるかぁぁっ!!!」
「ふん、前とは違うぞ私は――――2倍っ!!!」
「ぬぉわ!?」
飛び掛かってきた一夏を自身に倍加を掛けて避け、一誠の手を再び握る。
「さてと、今の内だな。イッセーよちょっとしゃがんでくれ」
「ええっと……」
一夏のタックルをかわしたよこの子……と、成長率が半端ないことに驚きつつ、背丈の関係なのかそれとも天然なのか、上目遣い気味に言われてそのまましゃがんだ瞬間、一誠の視界は真っ暗になった。
「ギャェェアァァァッ!!!! 貴様ァァァァっ!!! 離せごらぁぁぁっ!!!」
「流石に空気読んであげてよ……」
何をされたかわからなかったが、少し離れた所から一夏の発狂めいた叫び声が聞こえ、顔に暖かい人肌の温度と柔っこい感触で何をされたのかを漸く理解する。
「教官と同じ部屋だから中々そんな機会も無かったが、これで漸くできた。
ふふ、どうだ? まぁ胸は無いがそこは勘弁してくれ」
「し、師匠……」
「違うだろイッセー?」
「あ、うん……急にどうしたんだよラウラ?」
「言っただろう? 前にぎゅっとしてやるって? 何故このタイミングかは私にもわからん。衝動的にやってしまったからな」
一夏の発狂する声と、それを宥める簪の声……そして周囲の女子から聞こえる黄色い声。
位置的にラウラの小振りな胸に顔を埋めた状態なのでどうなってるのか見えないが、どうも自分は今ラウラに抱かれてるのだけは、彼女の匂いでわかる。
「傷の事は気にするな……と無責任は言えないけど、少なくとも私は傷があろうと無かろうとお前はお前だと思ってるよ。
待っててくれ、お前が私にくれたコレを極め、お前に並んでみせる、そうすればもうお前は独りじゃないから……」
頭を撫でながら、びっくりするくらい……どこぞの暗黒騎士化した青年のパートナーとタメ張れるのではというくらいに母性に満ちた雰囲気で一誠を包むラウラ。
「ぁ……♡ ふふ、くすぐったいぞイッセー?」
「ご、ごめん……あのラウラ、そろそろ離れても良いんだけど……」
「何だ、嫌か?」
「いや嫌とかじゃなくて……」
「ならもう少し……んっ……ここ、わかるか? お腹の下辺りが熱いんだ……前にお前に突然抱きつかれた時と同じで……」
「あ、熱いけど確かに……」
若干嬌声になってて戸惑うけど、まだ離してくれないラウラ。
これを千冬に見られたら一体どうなるのか……と嫌な予感がしてきた訳だが、そういう時は大概当たるのが世の流れなのだ。
「ら、ラウラ……お前、一体この海岸のど真ん中で何をしてる……?」
「げ!? ち、ちーちゃん!?」
「んんっ♡ い、イッセー、急にもぞもぞしたら私は……ぁ……」
「お、おっと!」
千冬の引きつった声に驚いた瞬間、ラウラの身体がビクンと大きく跳ねると、そのまま力が抜けて一誠にもたれる。
「はぁ、はぁ……ま、また変な気分に……」
「…………」
「ち、ちーちゃんや、ラウラを怒らないであげて……」
「……ぐすっ、ふぇ……ふぇぇぇん……!!」
「げっ!?」
『!?』
てっきり怒るのかと思ったら、逆に泣き出してしまった千冬に一誠はクタクタで頬を紅潮してるラウラを支えつつ千冬の元へと駆ける。
「ら、らうらが……らうらがいっせーさん取ったぁ!」
「と、取ってない取ってない! な、なんでもこの前の礼らしくて俺もびっくりっつーか!」
教師・織斑千冬の面しか知らない他クラスの女子は千冬が本気でメソメソと泣き出した姿にギョッとし、泣かせた本人はただただ素の千冬に謝り倒すしかできない。
「うぅ……」
「な、何もそこまで泣かなくても良いだろうに、ほら……俺が悪かったから泣くなよちーちゃん?」
「あ、あの……私もすいません、どうしてもイッセーを甘やかしたかったので……」
「ふぇぇ……!」
「オーケーわかった! じゃあ今度は俺がちーちゃんをよしよししちゃおっ!!」
「ん……ふ……いっせー……さん……えへへ♪」
甘やかしたいラウラと甘えたい千冬に挟まれ、とにかく千冬を泣き止まそうと、さっきラウラにされた事を今度は千冬にしてあげる事で取り敢えず泣き止ませるのには成功した。
しかしこの事で素の千冬の面が知れ渡ってしまった。
「お、織斑先生が女の子になってる……」
「う、噂程度にしか聞いてなかったけど、あの兵藤って人もちーちゃんって呼んでるし、もしかして凄い人なのかも……」
普段厳しい側面しか見なかったからこそ、今の千冬の姿に百合的何かを刺激される者も居ればただただ一誠に妙な尊敬を抱く者も居た。
「ラウラと生徒会長さん……そして織斑先生かぁ。個性的な人にモテるよねぇ兵藤くん」
「誰も狙ってなかったら割りと好みだったんだけどなぁ……」
一組の生徒も何度かは見たが、やはりそれでも千冬をああも女の子にさせるのは一誠くらいだろうと、後で弄るネタだなとニタニタしている。
個性的と言ってるが、それを遥かに超越したクレイジーなウサギにすら命こみこで狙われてたと明日知る事になるとは知らずに。
「ほら見ろほら見ろ! やっぱおっちゃんには千冬姉しか居ねぇ!! 他の雌なぞ邪魔だぜ!!」
一夏はそんな千冬を何としてでも一誠にくっ付けようとする者筆頭であり、さっきとは打って変わって自慢気に騒いでいたのだった。
「あ、ねぇねぇ一夏?」
「あ? んだ眼鏡――」
むにゅん♡
「ぁ……♪ ほら、前より少しは大きくなったでしょ?」
「な、にしやがんだよテメェ……!!」
まあ、そんな一夏もいろんな意味で狙われてるのだが。
続く。
補足
マドカたんとラウラたんの共通。
力の一部を与えられてたりする。
体型に反して一人に対して母性愛半端ない。
相手の年齢が一回り以上……上。
その2
逆にちーちゃんは一誠くん絡みになると退行してしまう。
すぐ泣いちゃうし、一誠に頭撫でられると物凄く笑顔になるし、描写は敢えてしなかったが、部屋で毎晩寝ると一誠のベッドに入って一緒に寝てとせがむ。
そして束さんは色々と感情が混ぜ合わさった結果あんな事に……