何故かちんまい子の母性が果てしなきカンストを誇る。
千冬が大泣きし、それを慌ててあやしていたのが一誠である――――という事には気づかなかった元士郎。
しかしそれでも近くに二天龍の力が在る事だけは察知できた。
「運が良いぜ俺は。やっぱり赤い龍の力持つ奴は近くに在る……!」
そのせいか今の元士郎は何時になくやる気があり、軽い運動をして身体を慣らしたのもあって割りとアグレッシブだった。
「しかも篠ノ之束も目撃された様だぞ元士郎」
「そうか、ならそっちはお前に任せるとして問題はさっきの力の持ち主が何処の誰かだって話だ。
アイツにしては少し弱いし、やっぱりアイツの力をどこぞ誰かから貰った奴なのか、ソイツがもしチョーシくれたバカなら始末すべきなのか―――いや、始末はしよう。アイツの力はアイツ――兵藤だけのものだからな」
旅館の部屋に戻り、壁に掛けた夏でも構わず普段着る黒のロングコートの内側に隠してある黒鞘の剣を強く握る。
かつて一誠から聞いた、自分を殺した男……ナルガミ・ミライの正体と今回一番近くで感じた赤い龍の力の持ち主が『同レベルの存在』であるなら、間違いなく始末しなければならない。
でなければ誰かが陥れられる……自分と一誠の様に。
「一番は奴と同じレベルの思考回路した奴が単に気に食わないからぶちのめしたいだけだけどな……」
今更遅すぎた進化をまさかこんな所で発揮する事になろうとは……マドカが浴衣に着替えるのを視界に入れつつ鞘からこの世には一切存在しない物質で構築された直刃の剣を抜き、電気の光で銀に輝く刀身を眺めながら軽く掲げる。
「アイツの力はアイツの物、例え神だろうが模倣する事は俺が許さねぇ……」
絶対的な信頼を持ち合うからこその赤龍帝と一誠と一誠の中に宿っていた赤い龍を見たからこその考え。
暫く掲げていた剣を鞘に納めた元士郎の目は今までに無いくらいに強い炎を灯していた。
それにもしその者がナルガミ・ミライと同レベルの思考回路であった場合、間違いなく多数の女が喰われる。
自分に酔ったクサイ台詞を吐き、思ってもない文句を垂れて力を使って女を誘い、それが正義だと云わんばかりに多数の女と関係を持つ。
あのソーナですら転生者に堕ちたのだから。
「…………」
「着替えたぞ元士郎―――って、何だそんなに見つめて? 私の格好が変なのか?」
「いや、アイツの力を持った奴が男で思考回路が同じだった場合、もしお前と出会ったらどうなるかなと思ってな……」
「? まさかとは思うが、元士郎は私がもしものソイツに流れると思ってるのか?」
今の自分に親しい者はマドカ以外に居ない。
いくら自分でもそのマドカが自分をどう思ってるのかも、一度されたキスでわかってるつもりだ。
故にもし転生者らしき存在にマドカを奪われたら……。マドカはムッとした顔をするが、転生者の持つ妙な力を目の当たりにしてるからこそ元士郎は不安なのだ。
「豹変する様を見せられたからな一応」
もうこれ以上何かを失うのは嫌だ。
身を貫かれて殺されても尚生き残ってしまった自分に残されたものは最早マドカだけなのだ。
それすらも奪われてしまうのであれば、きっと自分は血に餓えた獣の様に暴れまわるだろう。
――再び心を滅した獣の様に……。
「心配しなくてもそうならないようにするし、もしそうなったら元士郎の手で遠慮なく私を斬ってくれて構わない。
偽りの気持ちを植え付けられて醜く生き延びるなんて私には耐えられない」
「…………。そうならないように祈るよ俺も」
マドカにはそう約束した元士郎だが、そうなった場合斬れない事は既に自覚している。
もしそうなったら自らの命を終わらせてやる……それが元士郎の覚悟だった。
色々と話がネガティブになりがちだったので、気分転換のつもりで少し早い晩御飯を食べる事にした二人。
マドカに言われて取り敢えず自分も旅館から出された浴衣を着て、部屋に運ばれる中々豪勢な食事に舌鼓を打つ。
色々と精神的に脆くなってるが、美味い飯を食べる事自体は好きなのだ。
「安物と違って生臭さのない刺身だ」
「こんな所でしか食えないからよく味わえよ?」
会話がどことなく貧乏臭いのはご愛敬。
聞けばIS学園の生徒達もこれと似た献立との事らしいが、だからどうだこうだという感想は特に無かった。
「折角だし卓球でもしてみないか?」
「あ? ガキ共にバレたらまずいんじゃないのか?」
「大丈夫だ、髪をこうして後ろで結べば案外わからないものだし、食後の軽い遊びだよ」
食後、ポニーテールに結んだマドカに誘われて部屋を出た元士郎は、旅館の娯楽部屋にあった卓球台で卓球遊びに興じる。
「チッ、意外と力加減がめんどくさいな……」
「慣れだよ慣れ、それ行くぞ!」
卓球なんて子供の頃に遊びでしか経験が無く、マドカも未経験だったがそこは人の枠を越えた存在。
不格好なフォームを独自に発展させ、たどたどしかったラリーの応酬は徐々に激しさを増し……。
「っしゃあ!!」
「!? やるな元士郎」
「大分コツが掴めて来たぜ」
いつの間にかプロ顔負けの弾丸ラリーの応酬と化し、存分にレクリエーションを楽しんだ。
ネガティブになりがちな元士郎を思ってのマドカの作戦はある意味成功したともいえるだろう。
「中々面白かったな?」
「まーな」
機銃掃射の様な高速ラリーの卓球を楽しんだ二人はお風呂にでも入ろうかと旅館を移動している。
調査も大事だが、折角来たのだからある程度は楽しまないと損だと露天風呂に行こうとしたのだが……。
「っと……」
「あっ……す、すいません」
廊下の曲がり角に差し掛かった所で元士郎は誰かと接触してしまい、相手側に尻餅をつかせてしまう。
「む、コイツは確か……」
ぶつかった相手を見た瞬間、半歩後ろに居たポニテ状態のマドカが見覚えがある様な声を出すので、元士郎もその時点でこの尻餅をついた女がIS学園の関係者である事を察する。
「大丈夫か?」
「あ、はい……大丈夫です……」
長い黒髪、そして気の強そうな目と元士郎にとっては何処かで聞いた事のある声。
あれはそう……。
「リアス・グレモリーの声に似てる……?」
転生者に一番愛されたいと躍起になって一誠を殺そうとした元主の幼馴染みの赤髪の悪魔の声と、目の前の少女の声が似てるのと同時に、彼女が捕獲対象の妹だった事を今更ながらに思い出す。
「えっと……」
「……」
いや、そんな訳が無い。声が似てる気がする奴なんてこの世にごまんと居るし、この少女とあの狂った女悪魔は無関係だと軽く頭を振った元士郎は捕獲対象の妹に声を掛けた。
「えーっと、ごめん大丈夫か?」
「あ、い、いえ大丈夫。こちらこそ申し訳ありませんでした」
「…………」
下手に声を出すとマズイのでマドカが口を閉じる中、取り敢えず助け起こすように手を引いてあげる。
するとその手を取った箒は握った手を凝視する……。
「剣術をやってる手……」
「は?」
「い、いえこっちの話です……! あのその……本当に申し訳ありませんでした」
「良いよ気にするな。その分だと大丈夫そうだし、この辺で失礼するぜ」
別に興味も無いので若干無愛想に言って横をマドカを連れて通りすぎる。
まさか別館なのに捕獲対象の妹と鉢合わせするとは予想外だったが、マドカに気付いた様子も無いしさっさと離れた方が良い。
「あれ確か篠ノ之束の妹だよな? 何でこっちの館に来てたんだ?」
「さぁ、多分何か友人同士であったんじゃないか? 女には色々とあるからな」
「そんなもんなのか? 俺にはどうも何かあったように見えたけど……どうでも良いか」
軽く女性不信になってるせいか、元士郎はエラく淡白な態度だ。
もしかしたらこの辺りで目撃されたらしい篠ノ之束と会うから別館に来たのかもしれない――と一瞬考えもしたが、気分的に温泉だった為マドカ共々スルーした。
「わっ!?」
「っとと……今度は何だよ?」
?」
気を取り直して温泉だ……と思っていた矢先、またしても誰かとぶつかってしまった元士郎は、若干イラっとしつつぶつかったのは誰だと視線を下に向ける。
すると今度はさっきぶつかった箒とは色々と真逆な、服装から何から子供じみた少女であり、『いたたた』とお尻を擦りながら顔を上げ、目があった。
「あ、えっとー……ごめんなさい~」
「……こちらこそ失礼。立てる?」
「あ、うん……」
多分間違いなくIS学園の生徒だろうと判断し、一応マドカを背中に隠して手を差し出して助け起こす。
さっきと違って妙に気の抜ける雰囲気で、よく見るとサイズが本人より一回り大きなブカブカの狐らしき着ぐるみパジャマを着ている。
元士郎を凝視してるのは恐らく見た目で年齢が近いとでも思っているのだろう。
「さっき気の強そうな子とぶつかったけど、キミの友達か?」
「へ? ど、何処にいたのか……ええっと、わかる?」
「あっち」
箒の消えていった方角を指差す。
何度も言うが、軽く女性恐怖症なので普段の倍は無愛想になってしまうのだ。
「あ、ありがとー、あのー所でキミって一人で来てるの?」
「は?」
「私と年が近そうだから不思議だなって……」
「歳だ? 俺は四捨五入で三十だよ」
「………………え」
固まる少女。
別に三十手前で微妙に見た目が若い奴なんて居るだろうに……とさっさとマドカと逃げたい気分の元士郎はますます無愛想に返すが、年齢を言ったのが間違いなのか、それとも別の意味で引っ掛かったのか、少女の目付きが少し変化していた。
「何?」
「! んーん、何でもないよー……あはははー」
「…………………」
さっきの箒と比べるとリアクションがおかしい。
まるで自分という存在に驚いている様な……。
まさかと思った元士郎は貫く様な視線で目の前の少女を見つめるが………。
(んな訳ねーか)
少女の中に赤い龍の力は微塵も感じず、少し考えすぎたか……と一人呟いた元士郎は背中にマドカを引っ付かせてそのまま少女の脇を通り過ぎる。
「………………。まさかね」
少女……本音という名の少女の声も聞かずに。
「チッ、何なんだよあのガキ共は? 別館にゾロゾロ沸きやがって、やっぱり部屋に戻る方が良いんじゃないか?」
「そうだな、流石に私も少しヒヤヒヤしたし、温泉は奴等が就寝してからの方が良いかもしれない」
この分だとまたIS学園の誰かとぶつかってしまうかもしれないと踏んだ元士郎の提案にマドカも深く頷く。
いくらポニテにしてても顔立ちはまんま千冬だし、このままだとまた誰かにぶつかりでもして見られたら騒ぎになる。
元来た道では無く、迂回しながら部屋へと出戻りした二人は取り敢えず深夜になるまで適当な報告文をメールでスコールに送りつけてからダラダラした。
「元士郎、折角だからおいで? 膝枕をしてあげる」
「は? 良いよ別に……枕ならあるし、お前だって足が痺れるだろ」
「大丈夫だよ私は、ほらおいで?」
その際、折角だから元士郎を甘えさせたいとマドカが凄まじく優しげに自分の膝をポンポンしながら膝枕をしてあげると言ったり、最初は断ろうとしたけどそれでも頑なだったので膝枕をされたりと、ナチュラルにイチャつき始めた。
「…………」
「ん、眠いのか? 良いよ寝ても。時間になったら起こすから」
「んー……」
膝枕をされた元士郎がそのままうつらうつらし始めたのを見て、頭を撫でながらまるで母親の様に微笑んで寝かしつけるマドカに従い、そのまま意識を手放す。
「部屋に戻ると言った時、本当はかなり安心したんだぞ元士郎? どうもお前と接触した女達はお前に対して妙な目を向けてたからな」
「……zzz」
「不安というべきか……元士郎が取られるんじゃないかとか――ごめんな? めんどくさい奴で」
トラウマの悪夢に魘されてる様子も無く、安心した様な寝顔の元士郎に、苦笑いしながらマドカは謝る。
真っ暗な場所から引きずり出してくれたのは元士郎。
お腹を空かせた自分に食べ物を与えてくれたのも元士郎。
力の使い方を教えてくれたのも元士郎。
あらゆるものを元士郎から貰ったことで今の自分があるし、その恩はこれから永久の時を使って返したい。
「んー……」
「ん、元士郎、そんな所に顔を埋めたら息苦しいぞ? それに……ちょっと恥ずかしい……」
「ZZZ……」
「ほら……ふふふ♪ 私はちゃんと傍に居るから抱き付かなくても大丈夫だよ、でも嬉しいな……」
元士郎を独りにさせない為に。
何よりも、元士郎が大好きだからと……膝枕というよりは最早抱き枕にされて嬉しそうに微笑むマドカはそのまま寝息を立てる元士郎と唇を重ねた。
補足
多分きっと一番仲良くなれそうなのがある意味ラウラたんとマドカたんなのかも……初対面でポルナレフと花京院ばりのピシガシグッグッに……なるかぁ?
その2
箒さんは剣術の心得があると見抜き、本音さんは歳を聞いて以前一誠を盗聴した際に聞いた『トモダチになりそびれた男』の事を思い出し、実年齢が嘘みたいな若さが被ってると疑う。
その3
膝枕で寝て、寝返り打ったらマドカさんのお腹で、そのまま腰に手を回して抱きつき、どこぞをくんかくんかして、トドメにチューされた。
……もしかつての仲間達や主が正気に戻っててこの光景見たらショックでしょうねぇ。