立場がわかってしまえば運命は――
目の前の現実が信じられない。
ひょっとしたら偽物か、他人の空似かと思った。
けれどその姿、その目、その出で立ちは言葉を交わす必要なくとも互いに『本物』である事を悟らせた。
「ナルガミのカス野郎」
「あ、うん……もうわかった――――は、ははは……マジかよ……」
それが互いに知る存在である事はすぐにわかった。
「「………」」
だがどうしたら良いのかわからない。
お互いがお互いを転生者の類いと勘違いしてたし、よりにもよって一番勘違いしてはいけない勘違いだったので気まずいどころじゃなく、嵐で雨粒に叩かれながら終始無言で互いに目を逸らしていた。
「フム、何やらお互い心の整理がついてない様だし、ここは場所を変えるか? どうやら私達は
「ハッ!? そ、そうだった――チッ!」
見かねた元士郎の相棒の提案に一誠は上から衛星監視されてる事を思い出す。
すると左腕に纏われた龍帝の籠手から『Boost!』という掛け声が響き渡る様に発せられると、空に向かって翳した一誠の手からレーザービームを思わせる光線が雲を突き破って伸びる。
「多分これで大丈夫だ、衛星は撃ち落とした」
その言葉通り、遥か上空にて何機かの衛星が謎の光線により爆破されたのだが、本能的にこの二人の事を無意味に誰かに知られたらマズイと悟った一誠に罪の意識は吹き飛んでおり、やることが一々極端な性格である事が初対面となるマドカにもわかるやり方だった。
「えっと……さ。その、い、良い天気だな?」
「あ、お、おう……そ、そうだな」
「思いきり嵐だぞ」
それにしても先程からこの二人はどうにもぎこちない。
互いが互いである事を知るどうでも良い人物の名前が合言葉代わりとして機能してから、まるで中学生みたいなやり取りだ。
「やはり場所を変えよう。
私も自己紹介したいしな」
「あ、あぁ……。あのよ……時間とかある?」
「へ? お、おうよ……そりゃもう。
しかしその……キミは一体……?」
「おっと、何時までも顔を隠していたら失礼だったな。ちょっと待っててくれ、今ISを解除するから」
そう言って少女・マドカは元士郎に抱えて欲しいと頼むと同時にその身に纏っていたISを解除し、その姿を晒した。
「私の名はマドカ、苗字は無い……この顔を見て何となく驚くかもしれないけど、まぁ色々とあるとだけは先に言う」
「!? ち、ちーちゃん……!?」
その容姿に案の定一誠は驚いた。
何せ彼女の姿と容姿は幼い頃の千冬にあまりにも似ていたのだから。
しかし元士郎とマドカは逆に驚き方が思っていたのと違う事に首を傾げた。
「ちーちゃん……?」
「それってまさか織斑千冬の事を言ってるのか?」
「あ、あぁ……これも場所を変えて詳しく話すつもりだけど―――驚いた、小さい頃のちーちゃんそのものだぞキミ……」
似ているどころじゃない姿に食い入る様に見る一誠に元士郎とマドカはお互いに顔を見合わせる。
そういえば一誠の服装は織斑一夏が着ていたIS学園の男子用の制服だし、そこから推測すると……。
「まさか兵藤お前……IS学園に居たのか?」
「あ、あぁ……。
まだ世間でも極一部しか伝わってないけど、俺はどうやら世界で二番目のIS起動者みたいでな」
「…………。組織も把握できてなかったぞその話」
「組織? ……ダメだな、やっぱり此処で立ち話できる程単純な立ち位置じゃないみたいだなお互い」
「あぁ、その様だ」
お互いに知らないといけないことが山ほどあると悟り、改めて場所を変える必要がある事に互いに同意した三人は、ならばとこの封鎖された海域から出ようと再びマドカにISを起動させて移動しようとする。
だが――
「兵藤一誠ェェェッ!!!!」
赤いISを使って此方に向かって高速で向かってきながら憎悪の籠った声で名前を叫ぶ新たな登場人物によりややこしい事態へと発展していく。
「し、篠ノ之ちゃん!?」
匙との予期せぬ再会に完全に意識を取られて接近に気づかなかったと一誠は顔を歪めた。
「やはり敵だったんだな貴様!!!」
しかも最悪な事に事情を話しても冷静に聞いてくれそうに無い様子であり、既に武装である刀を一誠に向けている。
「ま、待て! 話を――」
「問答無用だこの裏切り者が!!」
案の定、確かに見ただけなら完全に裏切り者みたいな感じだったりする一誠に向かって刀で斬りかかる箒。
裏切り者というよりは、どちらかといえば一夏と引き剥がせる大義名分を得たから襲い掛かってるだけなのだが。
「チッ!」
「落ち着けって! いや、確かにキミ達からしたらおかしいかもしれないけどよ!」
「知るか! ソイツ等相手に何故戦意を引っ込めた! それは貴様がソイツ等と繋がってるからだろうが!!」
「くっ……! ちょっとそこが微妙に違う!」
完全に一誠を敵と扱って斬りかかるその太刀筋を最小限の動きだけで全部避けてる辺りは、戦闘力の明確なる差がある事を伺わせるが、今の箒にそれを悟らせるだけの冷静さは無く、完全に切り殺しにきている。
「アレは確か篠ノ之箒だな」
「何故俺達ではなくて兵藤を攻撃してるんだ?」
「ま、待ってくれ!! 話を聞いて――」
「黙れ!! 一夏と千冬さんに代わって私が始末してやる!!!」
「………。どうやら彼が私達と元から繋がってるんだと勘違いしてるらしい。
多分さっき衛星を落としたからだろうな」
「………なるほど」
冷静に考察しつつ、元士郎が目指した領域に立つ男だけあるなと一誠の動きを観察する顔を再び隠したマドカに元士郎は全部紙一重で避けながら反撃しようとしない一誠を見て鎧を解除した事で細身に戻った剣を鞘から抜く。
「どうやらアイツはあの小娘を傷つける事が出来ないらしいな。
しょうがない……」
そう言って姿を消した元士郎が刀を振り下ろした箒と、それを避けようと腰を落とした一誠の間に入り、箒の刀を片手で受け止める。
「おい小娘、敵である俺達じゃなくて兵藤を何故殺そうとしてる?」
突如割って入ってきた存在に箒は剣を持った片手で軽々と受け止められてると言う事と、そしてその姿に見覚えがある事を含めて目を見開いて驚愕する。
「っ!? あ、あなたは旅館に居た……」
そう、一人になりたいと自分達が泊まる館とは別の館の廊下で偶然出くわした不思議な男性。
それが今生身で宙に浮き、簡単に折れそうな細身の剣で自分の剣を受け止めている。
それが最新の機体を与えられた箒にはショックだった。
「アナタが銀の福音を……!?」
「そうだ、なのに何故お前は同じ学校に通う奴を殺そうとする?」
「っ!? アナタ――いや、敵である貴様等と繋がっていたからだ!!」
「そう見られてるのなら理には叶ってるわな……」
実際繋がってた訳じゃないんだが、この頭に血が昇ってる状態で言っても無駄だなと悟った元士郎は鍔迫り合いを無理矢理押し退けて切り、後方へと吹き飛ばされて驚きつつも体勢を立て直した箒に向かって指を手前にクイクイと引きながら挑発した。
「じゃあまずは敵である俺と遊んでくれよお嬢ちゃん?」
「う…!」
ソイツを切り殺す前に俺達が先だろ? と軽く笑って挑発する元士郎の放つ極大な威圧に箒は声を詰まらせた。
そう、これはまるでラウラを助ける為に一誠がその化け物じみた力を解放したのと同じ――
「よせよ匙。この子は……」
「わかってる、ちゃんと加減するし、話すにもまず相手に冷静になって貰わないと文字通りお話にならないだろ?」
匙という名前らしい男性。
この時点で箒は何となく察した……一誠に対するフランクな話し方からして、若すぎる見た目に反した年上の男だということを。
「うわぁぁぁぁっ!!!」
「正直すぎるぜ色々と」
「ぐっ!?」
「折角最新機を貰ってもそれじゃあ宝の持ち腐れだなぁ?」
「な、なめるな――あぐっ!?」
そして一誠と同じく子供扱いしかしないことを。
軽くいなされ、剣すら使わせず文字通り指一本で遊ばれた箒は自信を再び失いそうになった。
何で自分だけ食らい付けすらしない。
何故一夏と並べない。
何故……何故――
「私の大事な妹をいじめるのはそこまでにしてくれないかな?」
「篠ノ之、無断で出撃したことについては後で聞いてやる。
オルコットとデュノア、篠ノ之を抱えろ」
「………………おっちゃん」
「強いなあの男……」
「……。私まで引っ張り出してよかったの?」
この背に追い付けない。
「大丈夫?」
「まったく、おじさまが武装解除した瞬間裏切り者と飛び出すなんて……」
「う、うぅ……」
全く自分を気にする事すらしない一夏を前に、箒のコンプレックスはますます肥大化するのだった。
「まっずいな……どうしよ」
箒が飛び込んで来た時点で何となく予想してしまってたが、まさかの全員集合に一誠は本気でこれからどうやって上手く匙達の事について説明すべきか頭を抱えた。
何せどうであれ今の匙と千冬に似た少女は軍用ISを破壊し、その残骸を奪ってる。
つまり誰がどう見ても世間的には犯罪行為であるのだ……。
ぶっちゃけ匙と少女と世間のモラルを天秤に掛ければすぐにでも二人側に傾くのだが、この面子を前に簡単に逃がすのは容易では無い。
「さてと、そこの二人組に告ぐ。
封鎖した海域への無断侵入列びに軍用ISの強奪の罪により拘束命令が出ている。
大人しく投降するなら情状酌量の余地はある程度保証するが……」
「と言われて実際そうなった試しは皆無なぐらい知ってるんだよ俺だって」
「………」
一誠に時折視線を向けながらの千冬の呼び掛けに元士郎が顔を覆うマドカを庇う様に前に立ちながらニヒルに笑う。
「そうか、だがこの海域は既にISによる武装をした学園の者達により包囲されている。
暴れるだけ貴様等の立場が危うくなるだけだぞ?」
「へぇ? わざわざ忠告せず捕まえない所を見ると―――兵藤の事を知った上で俺がある程度ヤバイと悟ってるな?」
「……………
「おおっと! 天下のブリュンヒルデをちーちゃんと兵藤が呼んでる時点で察してたが、相当教えられてるらしいな?」
其々ISに乗った状態の面々を前にヘラヘラ笑う元士郎。
なるほど、ならば遠慮する必要は――
「くだらねぇ演技なんざ必要ねぇだろ!!」
――無い。そう思ったのと同時にこの面子の中でも一誠以外の男である少年が白いISを纏った姿で元士郎目掛けて肉薄し、拳をつき出す。
「おっと、確かブリュンヒルデの弟だったか? くく、お前も兵藤から色々と教えられてるみたいだな?」
「っ……!」
片手で受け止められ、押しきろうと全身を震わせて力を込める一夏に対して元士郎は面白いとばかりに笑う。
恐らくこの場に居る面子は全員が一誠の正体を知っている――だからこそわざわざ問答無用で抑えようとはせず投降を呼び掛けた。
ならば――
「兵藤、心配せずとも殺しはしねぇ、だから見ろ。
俺が殺されたにも拘わらずこの世界で生き延び、そして積み上げた力……!」
遠慮はある程度必要無いなと一夏との力比べを投げ飛ばす事で中断させた元士郎は首に掛けていたネックレスを外し、息を吹き掛ける。
誰かが察したのか、そうはさせまいと攻撃しようとしたがその時点で遅い。
頭上に出現する黒い光。
ステンドグラスの様に光が割れ、そこから光と共に髑髏の顔をした天使のような不気味なものが何かを持ちながら元士郎の周りを飛び回ると、次の瞬間その身体は暗黒の鎧に覆われる。
「!」
「チッ……!」
「疑い様は無くなったな。アナタが一誠さんの言っていた友になりたかった人……!」
『……。考えた事は一緒だった様だな』
禍々しい漆黒の狼が鎧の召喚と共に変化した両刃の剣を腕に添えて引き、金属の擦れる音と火花を散らせながら、その発せられる力をハッキリと感じ取れている者達に宣言する。
『俺を、俺達を拘束したけれりゃ力付くでしてみな。兵藤……いや――イッセーの後継者共』
変質させた新たな神滅具、最早戦う事は叶わなかったが、対転生者を想定して磨きあげた元士郎の本気の姿に全員が身構える。
『我が名は呀――暗黒騎士……!』
そして全てを喰らう暗黒騎士の刃が襲いかかった。
「さて、私では力不足かもしれないが、アナタの介入を防ぐ時間稼ぎに付き合って貰おう。
元士郎がこうなった以上、私はそれに付き従う」
「!」
そしてマドカもまた、元士郎の拘った青年に挑む。
補足
別にそんなつもりは無いのだけど、匙君に拘ってるのを知ってるので半ば嫉妬が入ってます。
その2
特に束さんとちーちゃんとイチ坊は……。
その3
生身でしかも指一本で一蹴されたあげく、遅れて登場した一夏には一瞥すらもらえなかったせいで余計コンプレックスががが……。