ちょっと書き足したぜよ
IS学園授業初日にいきなり告げられた男の二番目の起動者。
見た目は一番目の起動者である織斑一夏と比べると少し冴えない容姿をしてるのだが、驚くべきところはその実年齢だった。
「来年三十路になりまーっす!」
そう、実年齢が現役高校生から見たら確実におっさんと呼べる年齢だった。
見た目は寧ろ十代後半にしか見えないのに、免許証の生年月日はちゃんと逆算すると29歳。
それはつまりまごうことなくおっさんであり、しかもどうやら織斑一夏と織斑千冬の知り合いらしい。
何故か不機嫌な眼差しを向けている千冬の横で妙なハイテンションさを発揮する三十路男はある意味で注目され、事情をよく知らない女子だけのIS学園生徒は休み時間となった途端一夏に殴られて吹っ飛んだおじさん――兵藤一誠を好奇心による観察をしていた。
「とりあえず一発殴って良いよな?」
「お、おまっ、殴ってから言うなよ……!」
「うるせー! 本当なら一発でも足りないくらいなんだぞ!?」
「わ、わかった俺が悪かったよ……。
さっきもちーちゃんに散々往復ビンタされて説教まで喰らったんだぜ? 今は勘弁してくれよ」
「千冬姉はよくそれで済ませたな……。ぶっちゃけ刺されてもおかしくないぜ?」
「あぁ、お前達二人が俺の思ってた以上に俺を慕ってくれてたのが今になってよーくわかったよ……」
深め色をした若干癖のある茶髪に、今思いきり殴り飛ばした一夏に準ずる程度には整ってる―――どう見ても一夏と見比べって同い年か少し上にしか見えない若々しい見た目は、ハッキリ言って本当に三十路前なのかと疑ってしまう程に若い。
「しかし随分強くなったなイチ坊。まさか殴り飛ばされるとは思わなかったぜ。危うく机にダイビング噛ます所だったぞ」
「へ、おっちゃんがふざけた置き手紙置いて雲隠れしたあの日からこちとら千冬姉達と死ぬ気で鍛えたんだよ。おっちゃんを絶対に探し出して一発ずつ殴る為にな!」
「なるほどね。いやホントごめん」
しかも驚くべき事に、あの織斑千冬をちーちゃんなる愛称で呼んでも特に怒られない点だった。
一夏の事もイチ坊と呼ぶし、一体何者なのか……? 殴られた頬を擦りながら立ち上がる男に対する疑問は尽きない。
しかしその疑問も恐らくは時間と共にわかってくるだろう。
何せ年齢はともかくかなり親しみが持ちやすい性格をしてるのだから。
「しっかし何だ……ちーちゃんったら立派に先生なんかやっちゃってるだなんて、感動のあまり目頭が熱くなるぜオイ」
「素はそんなに変わってないぜ? 寧ろおっちゃんが居なくなってからの千冬姉はもうそれはそれは……。あぁ、そういやあの人もそうだったらしいけど」
「あの人? あの人って誰の事だよ?」
「私の姉のことです」
「ん?」
そんな周囲の視線をビシバシと受けまくる中でもかなりマイペースに一夏と会話している所に入る一人の女子。
その女子の顔を見て一瞬ポカンとした男――一誠はこの少女が一体誰なのかを瞬時に思い出し、手をパンと大きな音と共に叩いた。
「もしかして箒ちゃんか!? あれま~、立派な女の子になっちゃって~」
「アナタは逆に全く変わってませんね、見た目もなにもかも」
「まぁね、俺はほら……。そんな事より箒ちゃんも同じクラスとは気付かなかったよ。
よしよし、二人が立派になった記念におじさんがお小遣いをあげようじゃないか」
一夏と千冬――とついでに外様の自分が小さいときにお世話になった剣道場の娘さんが立派な女性へと成長したのに驚き、そして嬉しいのか、財布から千円札を二枚取り出すと一夏とで千円ずつ渡す。
「別にそんな事しなくてもいいのですけど……」
「良いから良いから、ほんの気持ち程度だと思ってくれ。
それとキミとも再会できた事だし来年からはまたお年玉は期待しても良いぜ?」
「だってさ、良かったな箒?」
「………。これじゃあまるで金の為に話しかけたみたいじゃないか私は」
一夏と一誠の知り合いらしい箒という女子に若干出し抜かれた気分になる生徒達を他所に、今度は三人となって会話を弾ませている。
「話は戻るけど、おっちゃんが居なくなってから千冬姉とあの人――つまり箒の姉さんの束さんが頗る荒れたんだぜ?」
「へ? ちーちゃんはわかるけどあの子がか? 何で?」
「それは勿論―――なぁ一夏?」
「おう、あの人は色々とクレイジーだからな、おっちゃんの事になると」
「確かに昔腕の肉を食いちぎられたりとかはしたけどさ……。
しかし束ちゃまかぁ……箒ちゃんがこんな可愛らしくなったんだからきっとあの子も美人ちゃんになってんだろうなぁ」
「その言葉を本人の前で言ってやってくださいよ、多分のたうち回りますよ?」
「何故にのたうち回るんだよ?」
クスクスと笑う箒に一誠は首を傾げる。
千冬と一夏の保護者な真似事をする様になってから出会った篠ノ之姉妹。
妹の方はよく一夏と一緒に慕ってくれて、自分の持つ技術を教えたりとかしたが、あの姉の方は正直一誠的によくわからない時があった。
「今の状勢はある程度把握してるけど、あの子は大丈夫なの? 行方不明って事になってるみたいだけど」
「大丈夫ですよ、あの人は機関銃で蜂の巣にされたって死にはしませんし、恐らくは千冬さんと同じくイッセーさんの帰還により凄まじい事になってるでしょうから」
「良かったなおっちゃん? ある意味色々と保証されてるんだぜ?」
「………何が?」
一夏と千冬同様、紆余曲折あって箒と束は一誠によって引き上げられた次世代型の能力保持者であり、二人の様子を見てると自分が清算の為にこの世界から消えた後も交流は続いていた様だ。
まあ、当時から一夏は箒と仲も良かったので簡単に予想できる訳だが、問題は姉の束の方だ。
「そんなに気になるのに、姉さんとは会わないのですか?」
「こうなった以上、休みの日にでもなったら探してはみるつもりだよ。
ひっそり隠居決め込もうとして携帯買い直した日からずっと誰からわからない謎の手紙と身に覚えの無いアドレスからのメールが1日合わせて五百件ずつ来るんだけど、アレって多分束ちゃまからだし、ポストが凄いことになるから手紙はやめてと言っておかないと」
「わーぉ……。飛ばしてるなあの人は相変わらず」
「姉さんはそんな事してたのか……」
ちょっと、いやかなり色々とズレてる。
昔から偏屈な面はあったし、排他的だったりしたが、こと一誠の事に関してはそのズレ方が凄まじいのだ。
それでも『それがあの子の個性だしね』と簡単に受け止めてしまう辺り、一誠も相当にズレてるのだが。
「そう言ってる間にまたメール来たぜ。
えーっと『そこに縛り付けてやった以上はもう逃がさない』――だとよ。
返事すると怒りそうだからしなかったけど、ちょっと一回してみるか?」
「したら核爆発でも起こりそうだな……」
「面倒な姉ですみません」
「べつに? あの子なりのコミュニケーションの取り方なんだろこれが? 『束ちゃまだったんだな? 元気してた?』……っと」
普通ならまずノイローゼになる事をされても尚平然と返事まで返す余裕。
頭のネジが数本抜け落ちる人生を送ったからこそ為せるクオリティと言われたらそれまでだけど、やはり一誠もズレまくりだった。
篠ノ之箒
備考・一誠の引き上げる特性に適応できた場合の篠ノ之箒。
「話は変わるけど、剣は続けてるの?」
「ええ、一夏はどうも素手の方が好きらしいですけど」
「だって箒とやると何時も『一本取られた』になって終わるだぜ? やってらんねーよ」
「過程を無視して結果だけを示すスキルも相変わらずみたいだな」
これは、もしも仲良くできてたらなお話……。
色々とズレてると妹にすら言われてる篠ノ之束。
世界から追われても誰もその身柄を抑える事は出来ない彼女が抑えてやりたいのは、自分の生み出したISが未だちっぽけなものだと思えるほどの存在。
「よーしよし、これで暫くは一ヶ所に縫い付けておける。
ふふーんだ、後はゆっくり頂くだけ」
力こそ正義を体現した存在に負け続け、結果その力の使い方を教えられ、挙げ句それでも届かない。
だからこそ束はある時一誠の腕の肉を喰いちぎり、その一部を自分の身体に埋め込んだ。
間違いなく一誠という男に狂ってるが故に。
「そうでしょう? ねぇ、いーちゃん?」
一誠が携帯を弄る姿をどこぞから盗撮した映像を眺めながら自分の肩に……一誠の細胞が埋め込んである箇所に触れて束は笑う。
狭苦しくて薄暗い部屋の壁全体に、アングルからして完全に隠し撮りにしか思えない一誠の写真が貼られてる部屋で……。
「あ、メール……いーちゃんから……? 『束ちゃまだったんだな? 元気だった?』―――……………あぅぅ♡ あはははは♪ 元気じゃないって返事返したらどうするの? ねぇ、教えてよぉ……あっ♡」
やっと来た返事のメールだけで一人遊びをし始めるくらい狂ってた。
「箒~ 膝枕してくれー」
「お前な……こんな教室のど真ん中で言うことじゃないだろ――ぎゅってしてやるだけで我慢しろ」
「おーぅ……うーん、箒っていい匂いだよなぁ……」
「そこら辺はあんま変わってねーなイチ坊は」
「子供がそのまま大きくなった様なものですよ。まぁ
私は別に構いませんが……よしよし」
「はぁ、若い子がこんな青春してるのに俺ときたら……ハァ」
そうとは知らずに、寂しき人生だと思ってるオッサンは若者のフレッシュさにため息を吐いている。
下手したら今の状況から更に色んな意味で老けるかもしれないとは知らずに。
終わり
オマケ・繋がり。
一夏を支えるという信念と、ドが付く根性。
他の世界では持ち得なかった精神により一誠の領域に踏み込めた箒は、基本的に目付きが悪い様に見られがちなせいか、怖い印象を持たれやすく敬遠もされやすい。
しかしながらその実態は実に良く出来た女の子であり、ひとえに一誠の地獄鍛練による進化が彼女の心にある程度の余裕を与えていたに他ならない。
「おっちゃんは帰って来たし、良いこと尽くしだぜ」
「あぁ、だがイッセーさんはイッセーさんでやらなくてはならない事があって私達の前から居なくなったんだ、そこはわかってやれよ?」
「報いを受けさせなければならない奴だっけ? 皮肉なものでソイツのお陰で俺達はおっちゃんに出会えたんだよなぁ」
「まぁな、しかもその報いを受けさせる男の側には私の声に似た女が居たらしい、イッセーさんも複雑だろうな……」
「それは無いっておっちゃんは言ってたぜ? 声は多少にてるだけで、姿は吐き気がするくらい醜悪だって言ってたし」
突進しがちな一夏を宥め、落ち着かせるだけの器を持ち、現に何故か一誠とでは無くて自分と同じ寮部屋になった箒は今一誠についてを語り合いながらダラダラしまくる一夏を先程の約束通り膝枕をしてあげている。
馴れてるから特に抵抗も無い。
一誠に異性と同時に父性を抱く千冬がそうである様に、一夏はきっと自分に母性でも求めているのか。
「んー……箒~」
「何だ? 全く、図体は私よりデカくなってもこの癖は直らん奴だ」
「ははは~♪」
「フッ、しょうのない奴だ」
それならそれで別に構わない。
もしこれから一夏が自分ではない他の誰かに恋でもしたら、寂しいかもしれないが応援しよう。
だからそれまでは――今だけは……。
「おっちゃんがどうなってるか見に行くか?」
「そうだな、千冬さんに部屋まで引きずられて大変そうだし」
実に健気な少女だった。
その2・変わらない想い。
『オイ、何時までそんなガキ抱えたまんまなんだ? 早く家に帰らないと親御さんが心配するぜ?』
「で、でもアナタが怪我してる……」
「あぁ? 俺は良いんだよ、ゲホッ!? 良いからとっとと失せろ! あぁそれと! この事を誰かに言い触らしたら拳骨してやるかんな」
最初の出会いは、小さい一夏までも置いて居なくなった両親のせいで途方にくれた時だった。
川が流れる橋の高架下に倒れていた血塗れの男の人。それが一誠さんであり、その時は何故あんな傷を負っていたのかわからなかった。
けれど運命というものは良くわからないもので、私自身がまだ子供だったというのもあったし、何より一誠さんの放つ何かがとても不思議だったというのもあって当時から世話になってた親友の両親に頼み、彼の傷の手当てをした。
「これは刃物で斬られてるね? しかもナイフといった類いじゃない」
「古傷も大量にある……」
「チッ、だったら何だよ? 良いから放っておいてくれ! ぐっ!?」
「だ、ダメですよ……! 寝てないと……」
「テメークソガキが!! 誰かに言い触らしたら拳骨じゃすまねーって言った――うげぇ!!?!?」
「子供に当たるんじゃありません! 千冬ちゃんはアナタを助けようとしたのよ!」
「が……そ、それが大きなお世話だってんだよ……」
きっと最初の好感度はマイナスを突き抜けていたと思う。
何せ一誠さんもまだその時は未成年だったらしいし、口調が粗暴そのものだった。
「クソったれが……! こんな傷半日もあれば……」
今だらこそ理解してるけど、恐らく私がなにもしなくても、言葉通り半日もあれば切断寸前だった腕も、貫かれた様な腹の傷も、半分まで裂けた耳も全部治ってたのだろう。
けど、それを知らなかったから私は今も一誠さんと繋がりがある。
「私達が良しと言うまでここから出ることは許さない。
キミは口は悪いが義理は果たすと睨んでいる――わかるね?」
「………………」
親友の両親の言葉のお陰もあり、その日から一誠さんをもっと知る機会は増え、当初は粗暴だった態度だったのも落ち着き、幼い一夏が笑って懐いたり……一時完全に消えるまでの間に私はあの背中に安心を与えられた。
「片付けられない女になってるとは驚きだよちーちゃん」
「この部屋の惨状は、アナタに置いていかれたショックと心理状態を表したものですので」
「そんな芸術があってたまるかよ……。まぁ取り敢えず片付けはしたし、一息入れようか」
今となっても肩の力を抜き、全てを委ねられる人。
私を私として見てくれる人は、再会しても変わらない態度で私に接してくれる。
それが嬉しい。
「束は二年ほど前には戻ってコソコソしていたアナタの事を話しませんでした」
「だから俺を見た時驚いてた訳だ。あの子らしいね」
「ええ、アイツは何時もそうですよ。アナタの事になると何時も……」
「そりゃああの子にしてみればぽっと出の俺が親友のちーちゃんを取った様にしか見えないからな」
「いや違いますね。アイツはアナタを決して嫌ってない。寧ろ私と同じでアナタが過去の清算の為に消えた時は精神の均衡が完全に崩れましたからね」
「はは、んな大袈裟な!」
「と、笑えるだけ一誠さんの包容力が凄まじいということです。
現に私だってアナタを前にすると昔に戻れる」
嬉しいからこそ、同じものを抱くあの友とはしょっちゅう喧嘩をしたのもだ。
どちらが先に一誠さんの領域に入り込むか、どちらが先に一誠さんの関心を買うか、どちらが先に子供扱いを止めて貰えるか、どちらが先に――女として見て貰えるか。
「アイツが使う部屋は必ずといっていいほど一誠さんの写真で埋め尽くされてますからね」
「俺を捻り潰す為に研究でもしてるってか? それもあの子らしいな……はは」
まあ、今のところどっちも子供扱いだが。
「フッ、残念だった束?」
「は?」
「いえ、何でもありません。それより今日はもう寝ましょう、明日から本格的な授業もありますから――――だから……えっと、一緒に寝てもいい?」
「え? まあ別に構わないけど、ちーちゃんも大人になったんだし――」
「こっち! 早く!」
「はいはい……」
出会ったのも、気づいたのも私の方が早いんだ。戻ってきた今、もうどこにも行かせない。
「よくイチ坊やちーちゃんが寝付くまでこうして背中をトントンしてたっけか、まさか今もやるとは思わなかったけど」
『俺達の世界じゃ存在しないタイプだからなこの小娘達は』
「だよなぁ、バカかボケかカス野郎を一々称えるイエスマンしか居なかったしなぁ」
「んん……」
「おっと、ごめんようるさかったな―――
――――おやすみ、ちーちゃん」
「うん、おやすみ……」
私に優しく触れるこの手、声を絶対に離しはしない。
そうだろ……束?
「見せつけてくれるねちーちゃん? まあ別に良いけどね、こっちは束さんの名前を呼ぶ肉声を録音してるし――――んんっ……はぁ……お腹が熱いよぉ……いーちゃん……!」
終わり
補足
篠ノ之箒(覚醒)
覚醒時期が一夏と同時期だというタイミングの良さがあり、精神のあり方も違ったお陰で覚醒できたスーパーモッピー
性格としてはかつて書いた二人で一夏(ボッチモード)仕様に近く、例を挙げるなら……。
照れと称して木刀で暴力しない
他の女の子と一緒になってるのを前にしてもヒステリックにならない。
寧ろそれでも支えるという絶大な包容力があり、例え一夏が他の女性に恋をしたとしても見送る覚悟がある。
ていうか一夏はそんな箒だけしか見えてない。
――とまぁ、適応することで心に頗る余裕が出来、一誠との仲は良好だし、一夏からはめっちゃ甘えられる。
そして箒さんは暴力系モッピーなのでは無く、一夏を包み込むような凄まじき母性を持つヒロイン(真)へ――あれ、勝ち目無くね?
その2
束さんの場合は――ぶっちゃけあんまり変わらない。
いや、寧ろもっとネジが吹き飛んでるし、それを個性と笑って受け止める一誠も色々とネジが飛んでる。
その3
続くとするなら……どうだろ? もしかしたら代わりに更識姉妹辺りとの面識がゼロになるかも。
あ、あれ? これ若干ボッチやんけ。
その4
一夏はおっちゃん好きに変わり無しですが、十全認める者が近くに居たので少し精神的に落ち着いてるのだけど……そこら辺は見た目だけで、寧ろおっちゃんだけでなく箒さん辺りに何かしでかす輩が現れたら、某トレバー・フィリップスばりの出撃キルを噛ます可能性はある。