そして箒ちゃまがそうなら――
殆ど崩壊してる世界とは違い、この世界はある程度の自制心が必要だ。
でなければあっという間に俺は爪弾き者と見なされて就職も儘ならない。
クソ野郎共に殺されかけ、何の仕掛けなのか次元を越えた先にたどり着いたこの世界では訓練された犬の様に大人しくしないといけないのだと、少なくとも隠居を決め込もうとした時には思った。
「……ん」
知り合いが完成させたパワードスーツを男である筈なのに、やっと決まった会社の健康診断の際、ちょうどイチ坊が起動させたという騒ぎのせいで他の男で動かせるのかを確かめる為に急遽行ったテストで合格しちまい、遅すぎる学生をさせられる事になるまでは、小鳥の様に大人しくしているつもりだったんだよ。
……もう手遅れだけど。
「今何時だ……?」
『午前4時だ。千冬の小娘を寝かしつけて7時間後といったところだ』
「あ、そう……。
じゃあトレーニングでもして時間潰すか」
これから先嫌でも俺はイチ坊とまではいかないが目立つ。
何せどうであれ二番目の起動者とやらで、女の立場が強い昨今にて男達の希望らしいんだから。
まあ、そんな期待なんぞクソ喰らえだし、応えてやるつもりはない。
俺は今も昔も自分本意なんだから。
「中年太りは嫌だし、適度に動かさないと落ち着かない」
すぐ横でスヤスヤ寝てるちーちゃんを起こさない様に声を小さめに、文字通り小便ガキだった頃からの親友である赤い龍ことドライグと会話しながらベッドを下り、この学園に入る前まで借りていた家から持ってきた着替えから安物ジャージをボストンバッグから引っ張りだすと、それに着替える。
「よし……実戦勘だけは確実に鈍ってるから誰かに協力をして貰いたいけどそれは流石に贅沢だから諦めよう」
『千冬の小娘や一夏の小僧、それか箒の小娘に頼んだら喜んで付き合うと思うが……』
「良いって、ちーちゃんは先生だし、イチ坊と箒ちゃんは学生なんだし、こんなおっさんに付き合わせたら可哀想だろ?」
「んー……」
「! ……っとと、つい声が……そういう訳だから行くぞドライグ――――そーっとだ」
『変な所に拘る奴だな……』
自然と声量が上がり、寝ていたちーちゃんを起こしそうになった一誠は慌てて口を抑え、頭を撫でながらそっと離れると、ゆっくりと部屋を出て適当な広さがあって人気の少なそうな場所を探す。
「すげぇな、今時の学校ってこんな豪華なもんなのか? …………学生の経験無いから知らんけど」
『この場所が特殊なだけで他は変わらんだろ。
文明レベルも俺達の世界と然程変わらんし』
「だとしても人工の島に丸々学校ってスケールがスゲーな」
サッカーの試合でも出来そうな広さのアリーナやら何やらを散歩がてら眺めながらトレーニング場所を探して歩き、スケールがデカい学園の設備に改めて驚く。
まあ、元の世界で乗り込んだ悪魔の根城はアホみたいな面積の広さだった訳だが、ある事情で怒り狂って種族ごと絶滅させちまった―――のは関係無い話だったな。
「ここで良いか……。
良い感じに道から外れてるし、辺鄙だし」
そうこうしてる内に学園の端の辺鄙な場所へとたどり着いた一誠は、ここをトレーニング場所に決めると、早速筋トレだのと基礎的な鍛練を始める。
良い感じに芝生っぽい草も生えてるし、木も植えられてるから何となく自然の中で遊んでる気分になるので悪くはないな。
「ドラゴン波とかぶっぱなしたら騒ぎになるよな?」
『謎の爆発騒ぎになるだろうよ』
「だよなー」
とにかく鍛えておかないと気が済まない質となってしまったのか、ノンストップで身体を動かしまくる。
気付けば二時間はずっとクソ野郎を仮想敵にしてイメージで目の前に出現させた戦闘トレーニングも終わり、キリの良い所で切り上げて部屋に戻り、シャワーを浴びる。
「トレーニングするなら誘ってくれても良かったのに……」
「んぁ? あぁ、起こしちゃったか? おはようちーちゃん」
「おはよう―――じゃなくて、はぐらかさないでくださいよ」
シャワーを浴びて部屋に戻ると、既にちーちゃんが起きていたらしく、洗濯籠に放り込まれていたジャージを見て一人でトレーニングをしていた事に気づき、出てきた一誠に対して不満気な顔をしている。
「単なる趣味みたいなものだって知ってるだろ? それに先生やってるのにわざわざ睡眠時間を潰して付き合わせるつもりは無いぜ」
「………」
「…………。わかったわかった、休みの日なら頼むよ――ほら、取り敢えず顔洗ったりしてきなさいよ」
「…………うん」
五年前までとそんなに変わってないなこの子……。
立派な女性になったのは見た目だけなのかと思いながらぐずろうとしたちーちゃんに言い聞かせる様に宥めてその背中を押すのと同時に言っておく。
「それと何でかは聞かないでおくけど、洗濯籠から取ったそのジャージはちゃんと戻しといてね?」
「えー?」
「えー? じゃねーよ、そもそもサイズ合ってないし、結構汗吸って汚いっつーねん」
多分浴びてる時に取ったんだろう、勝手にジャージの上を着てるちーちゃんに洗うから洗濯籠に戻せというのも忘れずに言ったらまたぐずり出した。
「うー……うー……やだっ! これ欲しい!」
「じゃあ同じのを今度買ってやるから……」
「これが良いっ! 一誠さんの匂いがついてるから!」
「何だよその理由は! 良いから戻せよ! 恥ずかしいだろ!」
何だそのしょうもない理由は! クソ、昔から変な拘りを持ってて当時は子供だしと特にどうとも思わなかったが、二十歳越えた大人が何時までもこんなんだと悲しくなってくるだろ、良いから返せっての!
「うぅ……一誠さんの脱いだジャージぃ……」
「ブランド物の小物をねだるならまだしも、何でこんな安物ジャージなんか……ったく」
結局取り返してさっさと一部屋に1台あるらしい洗濯乾燥機に投げ入れてスイッチを入れたが、グルグルと洗濯物が回りながら洗われてるのをショーウィンドウに飾られた玩具を見て欲しがる子供みたいな顔をしてるちーちゃんの将来が微妙に心配になる朝だったぜ。
「もう子供じゃないもん……」
「何時まで経っても俺にとっては子供だっつーの」
一誠さんが戻ってきたという現実は、私にとって何物にも代えられない幸福だ。
事情は最初に顔を合わせた時に聞いたし、一誠さんは一誠さんのやらなければならない復讐も知ってる。
「朝っぱらから疲れたよ、精神的に」
「ほらな、やっぱり飛ばしてるよ千冬姉も」
「餌を放置してればそうなりますよ」
「おっさんの汗吸った汚いジャージがか?」
でも私にとってはそれでも一誠さんは兄の様で、父の様で、一人の男性でもある。
食堂で一夏と束の妹の箒に部屋での話を愚痴りながらフランスパンを噛ってる一誠さんを教師の席から眺めながら耳を傾けたり、その姿を見るだけで満ち足りた気持ちになる。
「あのー、織斑先生はその、兵藤さんとお知り合いだったんですか?」
「ん? あぁ、そうだが。それが?」
しかし安心ばかりでは無い、ここは何と云ってもIS学園だ。
一夏と一誠さん以外は教師含めてほぼ女だけで、中には一誠さんと歳がかなり近い者も居る。
既に遠回しに一誠さんに何かしたら私じゃなくても空から雷が落ちて人生が終わると牽制はしてるが、一誠さん自身がもし誰かに――そう例えば……。
「所でイチ坊、俺達の担任はちーちゃんだけど、副担任の子ってさ……やばくね?」
「何がだよ?」
「何がってお前! すっげーだろ!」
「あぁ、イッセーさんのお好み全部入ってますねあの先生は」
「あ、あれ? こっちを見てますけど……」
「…………チッ」
この後輩である副担任は特にまずい。
昔束と然り気無く一誠さんの理想とする女像を聞いた時の特徴が殆ど揃ってるのだ。
一夏と箒と一緒になって見られてる事に首を傾げて不思議がるその仕草すらツボになるのだから、忌々しいにも程がある。
「うっひょーい! たまんねぇ可愛いさだなあの先生!
なぁイチ坊!」
「あ、うん……そだねー」
「んだよノリ悪いな……」
「同調したら先生と姉さんが怖いですからね……。試しに下手くそ過ぎるナンパでもしたらどうです?」
「へ、下手て……酷いな箒ちゃんは。
つーかナンパなんかしないよ、あの子まだ二十歳そこそこだろ? 流石に年下過ぎるぜ」
あぁ、私は泣きそうになります一誠さん……。
そんな私の気持ちを子供扱いする一誠さんは更に落ち込ませてくる。
例えば授業中の事だ、流石にこの時は一夏も一誠さんも私を織斑先生と呼ぶし、山田先生もちゃんと先生と呼ぶのは良い。
だが問題は子供扱いするからこそポンポンと口から出てしまう一誠さんの誤解台詞集だ。
「実力から行けば学年首席でありこの学年最強であるわたくしがクラス代表になるのが必然!
それを珍しいという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこんな島国までIS技術の修練に来ているのであってサーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
それは来週行われる一学年のクラス代表戦の代表者を決める時に起こった。
案の定男という物珍しさから一夏が女子達に面白半分だろう理由で推薦され、一誠さんも――まぁ何人か推薦されて、嫌がる一夏と、若い子に経験積ませた方が良いだろうという理由で降りようとする一誠さんのどちらかをISで戦わせて決めさせようとした時に、怒りながら声を張り上げたのが、このセシリア・オルコットというイギリスの代表候補生だ。
「バカだろ、地雷踏んでるのに気づいてねーのかよ」
『………』
「いいですか、クラス代表は実力トップがなるべき、それは私です! それにそもそも、文化からなにから後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
一夏の言うとおり、その極東な島国出身者が多いクラスの者から冷ややかな視線を向けられ始めてるので、そろそろ止めようと私が口を開きかけたその時だった。
「先生、それなら俺は――えっと、彼女を推薦したいんですけど」
「だから私は―――――へ?」
「は?」
「なに?」
ヘラヘラと笑いながら手をあげてオルコットを推薦すると言い出した一誠さんに私を含めた全員の視線が集中する。
勿論さっきまでやかましかったオルコットもだ。
「な、なんのつもりですの!?」
罵倒してたつもりだった相手に推薦されたのが気にくわないのか、オルコットは睨む。
すると一誠さんは持っていたペンを器用に回しながらその理由を話す。
「いやだってこの子は学年首席なんだろ? だったら試合の事もあるし、責任感も強そうだし、流れで推薦されるイチ坊や俺よりよっぽど相応しいんじゃねーのと思っただけだぜ」
その言葉にオルコットも声を詰まらせた。
「エラく持ち上げるなおっちゃん?」
「事実ISに関しては俺やお前より確実に経験は上だろ? なんせ聞けばあの国家代表候補生だしな……。
教科書にその意味も載ってたし、実力は本当に上だろうよ。
まあ、それ以上にあの子は可愛らしいお嬢さんだからな……そらお前、推薦したくもならぁ」
「―――は?」
そして言わなくても良い事までペラペラと話したせいで私はちょっと泣きたくなった。
「ふ、ふん! 持ち上げられた所で不愉快なだけですわ!」
「そりゃすまんね。あぁ、ちなみに箒ちゃん辺りも強いと俺は睨んだけど、IS経験は?」
「え、わ、私ですか? まぁ……よく千冬さんと一緒に起動テストを手伝わされてましたけど……」
「へぇ? つまりやれるってか……だとよイチ坊? 箒ちゃんに遊んで貰えるぜ?」
「せんせー、篠ノ之さんを推薦しまーす」
だけど今泣いたらダメだと悲しみを抑えて箒を推薦する一夏に頷き、私は手を叩く。
「わかったわかった。
ならば織斑、篠ノ之、オルコット――それから兵藤で総当たりをして勝った者が代表となる。それで良いな?」
「え? ちょっと待った、俺は起動はできるが操縦は――」
「それはアナタの身体能力にISが付いていけなくてシステムがオーバーロードしてしまうからです。
昨日アナタがシャワーを浴びてる最中、束から連絡が入り、アナタの身体能力に合わせてチューンした機体を渡すとの事ですので、遠慮せず試合でも何でもしてください、そこの可愛いと誉めちぎるオルコットと!!!」
「――お、おう……?」
「あーぁ、やっちゃったなおっちゃん」
「ご愁傷さまです」
「な、なんなんですの……」
でも悲しいのは悲しいので私はオルコットに嫉妬しながら話を無理矢理終わらせた。
まずい、授業を再開したけどもう泣きそう……。
織斑千冬はIS界隈に置いては史上最強と呼ばれており、彼女のその凛々しさに憧れる者は数知れない。
しかしながらそれは千冬にとっては仮面でしか無く、本当は単なる一誠という存在無くてはどうしようもない女であると自覚している。
「訓練機を借りれたは良いけどさ、壁に激突するだけで何の訓練にもなってねーよな俺……」
「ですね……やはり姉さんからのプレゼントが来るまで何時も通りの鍛練の方が良いかもしれません」
「じゃねーと何機訓練機をぶっ壊すかわからないしな」
クラス代表を決める試合をする事になった一夏、箒、一誠は一応敵同士なのに塩を送り合うが如く、起動だけできてまともに操縦が不可能な一誠の為に其々教えている姿をジーッと千冬は眺め、あの輪に入りたいと指を咥えてる。
「教師だからってなんだ、贔屓になるからってなんだ。
一誠さんに遊んで欲しいだけなのに……」
端から見れば怖い教師が訓練場の監視をしてて、利用してる生徒達はそれだけで嫌でも気を引き締めている効力を発揮してるのだけど、とうの本人の千冬は単に楽しそうにISについて教えてる一夏と箒に加わりたいのに教師の立場上できないと羨ましがってるだけだ。
「いいなぁ……私もISについて一誠さんに教えたい……」
感覚を擬音化させて教える箒と一夏の通りにしては壁に激突してる一誠を見てひたすら加わりたいと呟く千冬は想像する。
もし自分が教える立場になれたら……今まで教えられてばかりだった自分が一誠に教えるとするなら――
『そうです、その感覚です。
ふふ、出来たのでご褒美にハグしてあげます』
『おおっ、ちーちゃん……!』
『あはははは♪』
――――…
「うへ、うへへへへ!」
「お、織斑先生が笑ってる……」
「こ、怖い……」
妄想が完全に顔に出て笑ってる千冬の様子を見て生徒達が怖がってても尚、一誠とのレッスンの妄想が止められない。
「しょうがない……夕飯までちょっと付き合えるか?」
「お!? 遊んでくれるのか!?」
「とんだサプライズですね、喜んで付き合いますよ」
訓練機での特訓を諦めて外に出ていくのに気づかず、慌てて追いかけるまで千冬はニヨニヨとし続けたのだった。
「さぁてと、まずは三人がどれだけ速くなったか『鬼ごっこ』で見せて貰おうか?」
「よっしゃ来たぜ!!」
「本当は姉さんが居たら良かったのですが……大丈夫ですか千冬さん? あ、織斑先生と呼んだ方が良いでしょうか?」
「あ、いや……大丈夫だ、放課後だしな……うん」
箒の確認に対して名前呼びで構わないと首を振った千冬は、久々に行われる『遊び』に妄想のせいで乗り遅れそうになったと胸を撫で下ろしながら、首の関節を鳴らす一誠を見つめる。
「鬼は俺、室外であるならこの学園全体を逃げ回っても構わない」
「良いのかおっちゃん? 俺達だって昔と同じじゃないんだぜ?」
室内禁止以外は学園の何処を逃げ回ってようが構わないという一誠の言葉に一夏がニヤリとしながら挑発する。
すると一誠はその笑みに対して笑うと……。
「だろうな、だから年甲斐もなく飛ばすぜ俺は?」
「「「っ!?」」」
その身体から赤いオーラをバーナーの様に放出させ、左腕に龍帝の証である籠手を纏う。
「30分――30分逃げ切れたら何でも好きなこと俺に頼んでも良いぜ? だが15分以内に捕まったら……」
「つ、捕まったら?」
「整体地獄の刑」
ニタァと嫌な嗤い顔をしながら発せられた罰ゲームに三人はギョッとしか顔をしたと同時にガタガタと震える。
「ま、待ておっちゃん! せ、整体地獄はまずいって! 明日確実に動けない……!」
「た、確かに姿勢は良くなるけど、物凄く痛いアレをするんですか!?」
「する。罰ゲームだからな、代わりに一人でも逃げ切れたら俺に整体刑を噛ましても一向に構わないぜ?」
『Boost!!』
「―――ただし、ちゃんと逃げ切れたらだけどな?」
ニヒッととても意地悪に嗤う一誠の力が単純に倍になったのを察知して三人は一目散に逃走する。
整体地獄だけは嫌だと、世界最強ですら必死になって。
「二分数えてやるから逃げろよ? フッフッフッ」
残った一誠はオーラを迸らせながら不敵に笑ってカウントする。
そして――
「スタートだ」
荒れ狂う獣と暴風のごとき速度で一誠は駆け出した。
逃げ惑う三人を大人気なく追いかける為に……。
その後どうなったのか……半泣きになる三人を見ればお察しだろう。
終わり
一夏は割りと排他的だ。
自分の認めた者にちょっかいをかける奴が居たら全力で潰したくなる。
特に自分の姉とその親友の姉の想い人を奪おうとする輩はぶちのめしたくなるし、箒にちょっかいなんて掛けたら全てを賭けて捻り潰す。そんな少年だ。
「更識って苗字に聞き覚えがあるかって? いや、無いぜ?」
「そうか……いや、最近おっちゃんを遠くから見ている視線が誰なのか気になって調べたら、どうやらソイツらしくてよ」
「ふーん? 俺はてっきりイチ坊を見てるのかと思ってたけど」
「更識って名はどこかで聞いた様な……あ、思い出しました、確か政府のお抱え暗部の一族にそんな名前がありましたと姉さんが言ってました」
「暗部ぅ? あぁ、多分男の起動者の監視でも国から言われたんじゃね?」
「………いや、あの視線はそういう類いじゃねぇ」
とにかく干渉されるのが嫌だ。
だから友達もできないしフラグも自ら踏み潰してきた。
「ジロジロ覗くとは良い趣味してるなアンタ等? 俺達のおっちゃんに何の用だ? あ?」
「気付いてたのね……いえ、別に敵意がある訳じゃないのよ? ただ……確認がしたくて」
「あ? 知るか、敵意があろうと無かろうと不愉快なんだよ、失せろ」
束の影響をしっかり受けたせいでかなり他人に対して攻撃的な一夏は、一誠に悟られず排除にかかる。
それが良くなかったのか、警告したその次の日にその者は一誠の前に立つ。
「お、覚えてませんか? 二年前の事件で……」
「はい? ………………? えーっとごめんよ、誰かと勘違いしてないかキミ?」
「え……」
身に覚えの無い話を初対面の少女に話されて人違いと返されてショックを受ける少女。
「なんだ、ストーカーの挙げ句勘違いとは間抜けなオチだったな? ええおい?」
「何の話だよ?」
「さぁ、おっちゃんは気にしなくても良いぜ?」
「???」
嘲笑う一夏とショックを受けて固まる見知らぬ少女に?が大量生産される一誠。
これによりこの話は終わりか――――
「ねーねーいっち~ 放課後暇~?」
「え? どうかしたのかのほほんちゃん」
「えーっとね~ 暇だったら遊んで欲しいなーって思って……」
「暇な訳ねーだろボケ!! 俺と箒がこれからおっちゃんに遊んでもらうんだっつーの!!」
「そんな言い方するな一夏、別に布仏も加えて皆で遊べば良いじゃないか」
「なっ!? だ、だってよ箒! こ、コイツ明らかにおっちゃんを……!」
―――と思われたらそうでもなく、寧ろ変に拗れた。
「…………」
「う……!」
「? どうしたんだいのほほんちゃん?」
「な、なんでもないよー……あははは~♪(む、向こうの影から楯無お嬢様がすごい顔で私を睨んでるよぉ……)」
影から、陰から、どこからか。
此方をじーっと……じーーーーーーーーっと、見てくる水色髪赤目の少女。
「あの人、すっごい見てますけどイッセーさんのこと……」
「見てないでこっち来れば良いのにな? おーい! こっち来て一緒に―――むがっ!?」
「それはダメだ! あ、あの女はヤバイ!」
「何がだよ?」
地雷の香りがするので必死に止める一夏。
「あ、あのさ、いっちーは本当にあの人と会った事ないの?」
「んー? 前も聞かれたけど俺は会った事ないぜ? うーん…………………………ん!?」
のほほんさんと呼ばれる女の子に聞かれ、改めてこっちをじーーーーーーーっと見てる女の子を伺いながら覚えが無いと返した一誠だったが、突然何かに気付いたかの様な声を出した一誠は、一夏が止めようとするのを箒が『どうどう』と言って豊満な胸を顔に押し付けて止めるのを背に、近付かれてあたふたする水色髪の少女――――
「キミ! やっぱりそうだ! あの時の子だ!!」
「…………はぇ?」
「え……」
の、隣に立ってる苦労してそうな雰囲気出しまくってた眼鏡の少女の前に立ち、結構嬉しそうな声を出す。
「あらまぁ! 暫く見ない内により可愛らしくなっちゃって! そっか、この学園の生徒だったんだな!」
「え、えっと……お久し振りですイッセーさん。ま、まさかこの様な形で再会するとは……」
「あーうん、キミに手伝って貰って漸く就職出来たのにな……ごめんな? 起動可能ってなって会社クビになっちまった」
「それは……仕方ないですよ。謝らないでください」
「………………」
すぐ横で水色髪の少女が『どういう事だ?』と若干怒りの孕んだ目で睨まれて、少々居たたまれない気持ちになる眼鏡の少女だが、再会が嬉しいのか一誠は実に爽やかに笑いながら少女――布仏虚の頭を撫でる。
「そう言って貰えると救われた気分だよ虚ちゃんよ。
あの時の『お礼』はまだ持ってるんだな?」
「あの、撫でられると恥ずかしいです……」
「おっとごめんごめん! あっはっはっはっ!!」
謝る一誠が手を離すが、虚の表情はとても嫌がってた様には見えない。
そう、それは寧ろ千冬の様な……。
「そうかぁ、あの子が虚ちゃんの妹かぁ、名字聞いてまさかとは思ってたけどよ」
「あまり似てないとよく言われますから……あの、それより――」
「おっとそうだ! イチ坊達に紹介しないと!」
「ちょ――あ……手……繋いで……」
「………………………………」
おかげでより拗れる何かが勃発した気はしたが、多分気のせいなのかもしれない。
「この子は虚ちゃん。
二年前に就職の手伝いを不甲斐ないことにしてくれてな? その時この子の中に同じものがあったから――まあ、ほら可愛い子だろ? 変な男に襲われない様にと自衛手段のつもりで教えたら――」
「何でだよ!? 何だそのオチ!?」
「これは色々と危険ですね、姉さんと先生が知ったら――いやもう姉さんは知っちゃってると思いますが、何て言うか……」
「ま、まさかと思うけど、楯無お嬢様ってお姉ちゃんといっちーが会ってる現場を見て覚えてるって思ってるとか……?」
「あ、あり得なくはないかもしれないわ……。
そういえばイッセーさんが就職することになって別れた時から妙に私の行動を気にしてたし……」
「…………………………………」
似非予告・半逆転世界。
「言っておくが虚ちゃんも強いぜ?」
「自己紹介させて頂きます、名は布仏虚。
イッセーさんから引き上げて頂き、宿したスキルは幽幻実効です」
「…………。俺はどう返すんだ? おっちゃんが浮気しでかした事を責めるべきなのか?」
「本人はそんなつもりは無いから微妙だが、姉さんと千冬さんが果たして……」
「ん、なんだ? 束ちゃまメールが鬼の様に……?」
……なるか不明。
補足
本編だとアレだったあの子がもしもっと速く出会えてたら――虚ちゃまになる。
幽幻実効
早い話が幻実逃否……に似てる感じだが、生物自身に効力が無い。
しかしそれでもエグく、早い話が某ロベルト・ハイドンの理想を現実に変える能力。
例えばナイフに行使すれば、何でも切り裂ける理想のナイフに。
銃を撃てば絶対に命中する理想の銃に。
木の板が一誠の全力ビッグバン・ドラゴン波を防ぐ理想の無敵盾に……と、一夏達とタメ張れる領域進化してる。
自衛手段どころか世界征服すら可能だろ……というのが一誠談。
そして虚ちゃまは就職情報誌を公園でしょぼくれながら読んでる姿を見かねて手伝い、就職がやっと決まった際に見た子供じみた喜びかたに何かを抱いた――らしい。
まあ、全部嘘だけど。
その2
楯無さんはそんな虚さんがコソコソと会いに行く男性を見て……………束さんとは違う変な方向に。