クラス代表で一位取ったら食堂デザートタダなんだと。
だから頑張れだとさ……くだらねー。
どうでも良い他人の為になんで俺が……。
「マジか、めっちゃチョコレートパフェ食いたいんだけど」
「おーっし! 全員ぶちのめす!!!」
と、思ったけど、やっぱり頑張る事にするぜ。
おっちゃんの為にな!
「専用機持ちがいるのって私達のクラスだけなんでしょう? 織斑君なら余裕じゃない?」
「ええ、今でも忘れませんわ。ご主人様が私に見せてくださった領域を……。
世界には到底私の様な凡人には到達出来はしない至高なる世界……」
横でごちゃごちゃと煩いが、俺は今既におっちゃんにチョコレートパフェをご馳走する事しか頭に無い為聞こえない。
全クラスぶちのめして俺が勝つ……くくく、待っててよおっちゃん、チョコレートパフェをたらふく食わせてやるからさぁ。
「とにかくご主人様に掛ければ優勝は決まってるも同然!」
「随分様変わりしちゃったねセシリアも……」
「イチ坊にこんな才能があったとは俺も驚いてるぜ……」
セシリア・オルコットは典型的な女尊男卑主義者であった。
ISという存在により女性の立場が強まった世の中と、自身の生まれと環境により自然とそうなってしまったという意味では、ある意味彼女に罪は無いのかもしれないし、何よりセシリアはその美しい容姿もあって咎める者も居なかった。
それにセシリアは努力家でもあった為、絶え間ない努力によりイギリスの代表候補生にまで上り詰められるだけのISの才能にも恵まれいた。
そんな彼女を一体誰が咎められるのか? 彼女が育った環境周囲には少なくとも誰一人として居なかった。
だからこそ男なんて皆等しくカスだと見下してしまうままIS学園で更に力を昇華させるつもりだった……。
そう――
『白式、ね……それにこれは確か千冬姉が手加減する為に使ってた獲物のレプリカか何かか? まったく誰の差し金なんだかねぇ?』
自分の価値観を平然と笑って踏み潰せる絶対的な、見下していた筈の男が現れるまでは。
「ふ、一次移行!?
まさかあなた、初期状態で戦ってましたの!?」
思えば最初から面構えやら態度から何から何まで気にくわなかった。
男というカスの分際でISを動かすわ、自分を上から目線で見下すは……。
もう一人、その男の知り合いらしき一回りも上の男は年齢を重ねてる分、それなりな態度ではあったが、気安い態度の時点で論外だった。
だからこそ、まずは無礼を働いた方の……織斑千冬の弟というだけのド素人男に思い知らせてやろうと、ISによる力の差を教えてやろうと、セシリアは愛機であるブルーティアーズでクラス代表を賭けた試合に望んだ。
だけどそんなセシリアの意気込みとは裏腹に、ド素人男である織斑一夏は存外粘り、今もまた一次移行前の初期状態で自分と試合をしていた事に驚きつつも苛立ちが募っていた。
「た、たかが一次移行を済ませた程度で私を倒せると思わないことですね!」
とはいえ、所詮一次移行をしただけであり、驚いたもののそれでも自分が倒されるとは思ってないセシリアは、即座に一夏を挑発する。
けれど一夏は最初からそうだが、悉く自分を無視する男であり、今もセシリアの言葉を無視してブツブツ何を呟いて聞いてすらいない。
「こ、この……どこまでも……!!」
それが余計に腹が立つ、自分が男を見下すのは良いが、男が己を見下すのは在ってはならないと思っているセシリアは、すぐにでも終わらせてやろうと機体に装備させている武器を構え、一夏に照準を合わせた。
………………。思えばセシリアにとってこれが始まりだったのかもしれない。
当たればタダではすまない中距離銃を構えたセシリアが今まさにトリガーを引こうとした時、それまでブツブツ言っていた一夏の言葉が耳に入ってしまったのだ。
「姿勢制御? 要らん。武装? 邪魔。センサー? くだらねぇ………全部必要ない」
何をトチ狂ったのか、一夏はISがISたる全てのシステム……自身の身に纏われるプログラム以外の全てを強制的なシャットダウンし、ISの要である成層圏への飛翔までも否定し、地面へと足を付けて立つという暴挙に出た。
勿論セシリアはトリガーを引くもの忘れて思わず憤慨したように怒鳴った。何のつもりなんだと……。
けれど一夏は言うのだ。
「ぶちのめすって言っただろう? だから今からお前を叩き潰す……こんな『お遊戯』じゃなくな」
至極当たり前に、それが常識だといった言い方で、ほぼ生身と変わり無い状態で己を潰すとハッキリ言い切った一夏に、セシリアは当初唖然としてしまった。
だがしかしセシリアは利口であり、そしてプライドがとてつも無く高かった。
故に一夏の口にした言葉の意味をすぐに理解し、そして怒りを爆発させるや否や、彼女が努力を重ねる事で手足同然に扱える様になった愛機の十八番であるBT兵器を総動員させ、完全に潰すと決意し攻撃を仕掛けた。
「なら踊りなさい! このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!!」
無論この攻撃が当たれば、『絶対防御』のプログラムすら無理矢理削ぎ落とした一夏はタダでは済まされない大ケガを負うだろうが、ここまで嘗めた真似をしたのが悪いとセシリアは怒りで罪悪感も感じずに容赦無くビームの雨あられを撃ち込んだ。
「それで終わりか?」
「!」
だが撃ち込んだ筈の攻撃は一切の傷すら負わせる事は無く、一夏はそこに立っていた。
当然驚くセシリア。避けたのか? ともう一度全弾を撃ち込むが、それでも一夏は周囲の地面がクレーターだらけの中そこに君臨していた。
「……! ………っっ!!」
いよいよ混乱するセシリアは、意地になって何度も撃ちまくる。
だがそれでも煙が晴れた先には無傷で佇み、興味の無い玩具を見る目をした一夏一人。
「あがっ!?」
そしてハイパーセンサーがまるで役に立たない速度……瞬きすら許されない一瞬の刹那で接近されたかと思いきや、セシリアの腹部に絶対防御を貫通する程の痛みが襲いかかる。
「が……!?」
想像を絶する苦しみにセシリアは胃液が逆流しそうになり身体をくの字に折り曲げてしまうと、今度は後頭部に鈍い衝撃が襲い、そのまま空を駆ける筈のISごと地面に叩きつけられた。
「ごほ……う、うげぇぇ……!!」
それでも絶対防御のお陰で命拾いしたが、セシリアはその場で胃液を吐き、苦しみのあまり視界が滲む。
「少しだけ教えてやる。ISを使えば男に勝てるというのは本当なんだろうし、実際その程度の力はあるんだろう。
けどな、そんな小賢しいところとは無関係の所に――
本当の強者は存在する……。
耳鳴りと吐き気で蒼い瞳は涙で充血し、鼻水まででて酷い事になってるセシリアの耳にハッキリと聞こえる絶対的な異常者による言葉。
「俺と千冬姉が持つおっちゃんとの血の繋がりがゴミと化す程の絶対的な繋がり。
二匹程泥棒女がいるが、それを越えてると自負できる切れない絆……。
くく、物語を実現し、おっちゃんの横に並んで永遠に歩む夢の為に成長する俺の異常……それが
この言葉の意味が何なのかなんてセシリアには分からない。
けれど一瞬で理解させられた事なら一つだけあった。
「じゃあな、おっちゃんの隣は俺と千冬姉だけで良い」
(お、織斑、一夏……)
どこまでも冷徹な目で足を軽く上げ、踏みつけられるまでのその刹那、セシリアは理解させられた。
(いや、この方は本物の強者……そして本物の殿方……!)
自分を見下せる本物の男なんだと。
目の当たりにし、体験し、理解したその瞬間、セシリア・オルコットの中で何かが弾け、一夏に容赦無く頭を踏みつけられる事で意識を手放す。
そして意識が戻った頃には――
「中国の代表候補生で二組のクラス代表、凰鈴音よ。久しぶりね一夏」
「む、そこのあなた! ご主人様に気安いですわよ!!」
自分という存在を含めて一夏にとってはゴミなんだと。
そしてゴミでも良いから自分はこの本当の意味での強者である一夏に使ってほしいという、何処から沸いたかも分からない感情を構築し、現在ではこうして実家じゃバリバリのお嬢様なのに、庶民である筈の一夏をご主人様と崇めてしまうのだった。
今だって、クラス代表戦について語ってた最中に現れ、自己紹介してきた挙げ句何やら一夏に気安い中国の代表候補生に目くじらを立てていた。
「ご、ご主人様? なによそれ……?」
「ご主人様はご主人様ですわ! この織斑一夏様以外におりません!」
「は、はい?」
もう一度言うが、セシリア・オルコットは典型的な女尊男卑主義者化した少女だ。
だからこそ、今の彼女は一夏と一夏が好きだと思うモノ以外を平等にカスだと思っている。
勿論そのカスだと思っている対象にセシリア自身も含まれており、何をしてでも何れはそのカスである事から抜け出そうと努力の向け方を変えてしまっていた。
「ちょ、ちょっと一夏! コイツ何なのよ? さっきからアンタの事……」
「あれ、おいおいイチ坊? なんだこの美少女ちゃんは? いつの間に知り合いになったのか?」
「なっ!? お、男!? なんで一夏以外の男がこんな所に――」
「いや、俺も知らねーよこんなの……お前さっきからやかましいけど誰?」
「んなっ!?」
「あぁ、やっぱりそうか……」
この中国代表候補生らしい女はどうやら自分と同じカス側らしいのは今のでわかった。
多分一方的に知ってるだけなのだろう……というのも今のでわかった。
勝手にショックを受けてるみたいだが、一夏が知らないというなら知らないし、疑う余地も全く無い。
「ご主人様は知らないですか?」
「だから知るわけ無いだろ。さっきから意味わかんねーよ」
なら放置しても問題ないだろうとセシリアは白くなって固まる中国の代表候補生に対し一夏同様に興味を失い、只ひたすらに己の主にあの日を境に向けた心酔と愛情の眼差しを向ける。
セシリア・オルコットの認識は最早、一夏の価値観にそった生き方になっていた。
故に、これまで努力を重ねて得た美貌、財、品位、権力から何まで……それこそ己を含めた全てを捧げ、それを使って貰えたらという悦びすら見出だしていた。
それこそ例え話、あの試合の時みたいに自分の積み重ねた全てを粉々にし、女としての尊厳をも踏みにじられたいとすら……。
気まぐれでも構わないから、この手入れを欠かさなかった髪を、身体を……乱暴に、意思の有無すら問わないで踏みにじられたらそれはとても幸福なのだろう。
「し、知らないって……。私よ? 一昨年まで同じ中学で……」
「はぁ、中学? 同じ中学だった奴なんて何人居ると思ってる訳?
同じ中学だったからって知り合いになれる訳ねーだろ」
こんな言い方で自分が支配されると思うと心が震える。
ただの道具として扱われ、乱暴に組伏せられたからと思うと、それだけで腹部に熱を感じ、疼いて切なくなる。
「あぁ、この歯に衣着せぬ言い方……ご主人様らしくて素敵ですわ……うふふふ♪」
「………あれ、この子ちょっと変じゃね篠ノ之ちゃん? なんかやばくね?」
「私が知る訳ないでしょう……貴方が元凶の癖に」
「そ、そうなの? な、なんかごめん……」
セシリア・オルコットにとっての一夏は、絶対で究極的、身も心の全てを捧げられる存在となっているのだから……。
「つーかお前もいい加減それやめろ。うざいんだよ……」
「嫌です……気に入らなければ殴っても構いません。ですからどうかご主人様とお呼びさせてください……!」
終わり
補足
セッシーさん可愛い回でしたよね!?
…………えっとつまり、今のセッシーさんは一夏の価値観が自分の価値観であり、一夏が興味無いと思えば自分も興味沸かないし、一夏がカスだと思えばカスだと思う。
そして自分もまた一夏にカスと思われてる故、自分自身もカスだとマジで思っており、そう思われない様にする為に努力の方向をねじ曲げてしまった……的な。
ある意味ふざけて一誠が口走った事も満更じゃないのかもしれ無い……。
ね、セッシードM可愛いよね? ………………よね?