Fate kaleid moon プリズマ☆サツキ   作:創作魔文書鷹剣

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ep43強襲

 前回から時は少し遡り・・・

 

《イリヤside》

 

「私はこの冬木市を管理するセカンドオーナー、当然この街で起きる神秘側の事情は粗方把握してるのよ。でも今回は異常。あらゆる繋がりをフル活用して調べたけど、わかったのは死徒が絡んでるって事だけ。しかも、特級の化け物が。」

 

 凛が公開したこの情報はイリヤ達が仕入れたものと一致している。早いうちに彼女と接触して協力体制を構築できていれば、もっと楽に事態の真相に迫れたんだろう・・・大後悔だ。

 

『なんでそれを伝達しないんですかねー。』

 

「アンタがイリヤスフィールに鞍替えするからでしょうがッ!!おかげで魔術や神秘とは縁も所縁もない一般人を巻き込む羽目になってんのよッ!!これって協会的にはアウトゾーンだし!いくら神秘に触れているとはいえ元一般人を戦わせるのはアウトスレスレなのよッ!!」

 

 段々と彼女の理論が支離滅裂になりつつあるのは多大なストレスによる精神的疲労が原因だろうか・・・

 

「凛さん・・・その死徒ってもしかして・・・」

 

「・・・タタリ、あるいはワラキアの夜とも呼ばれる化け物。死徒討伐が仕事の聖堂協会ですら手に余る怪物よ。」

 

 怪物・・・イリヤ達が戦ったクラスカードの英霊さえ彼女にとっては充分化け物だったが、アレ以上の化け物など想像もつかない。

 

「死徒27祖に属する死徒は全て、何らかの方法で不死性を獲得している。タタリは『現象』故の不死を獲得し、通常の手段では太刀打ちできない存在と化した。だが、勝てないわけじゃない。」

 

「・・・?不死なのに勝てるの?」

 

「勝てる。殺せずとも、勝算はある。」

 

『殺せないなら、殺さずに勝つ・・・古典的な作戦ですねぇ。』

 

 いくらタタリが生命の道を外れた怪物とはいえ、勝利へ至る道筋が無いわけじゃない。特にこの手の概念による強化は同じく概念による「特攻」で上回れる場合があり、当然然るべき対処法を行使すれば撃退ぐらいなら出来るかもしれない。僅かな希望も今は大歓迎だ。

 

「そういえば・・・シロウさんは黒い剣みたいなの持ってるよね?死徒って剣のほうが効くの?」

 

「いや、この黒鍵はあくまで『浄化』の概念による強化が施された、吸血鬼特攻の武器だ。斬撃と打撃と魔力のどれが効くかは敵による。」

 

「へえ〜・・・」

 

 イリヤは何か考えているようだが、いくらカレイドステッキを使えるとはいえ元々神秘のしの字も知らなかった彼女がまともな死徒対策を閃くとは思えない。せいぜいが猫騙しのような不意打ちと同時に逃げるのが関の山だ。

 

『必要でしたら、魔力砲を斬撃モードに変更できますよー。砲撃は打ち返されるかもですけど斬撃は打ち返せないからとってもお得!』

 

「その悪い人みたいな言い方は何!?」

 

「あと斬撃モードとか!今更機能の説明するなっての!!するなら最初にマスター契約結んだ時に全部言いなさいよ!!」

 

 砲撃モードやら斬撃モードやら、そんな機能があるなら最初に説明しろよと誰もが思うだろう。だがルビーにとっては、そんな事知ったこっちゃねえのだ。基本的に彼女(?)は快楽主義者であり、ただ自分が楽しめればそれでいいロクデナシなのだ。マスター側の意見は聞いていないんだろう。

 

「さつきさん達、今頃頑張って仲間探してるのかなぁ。」

 

「さっき言ってた『アトラス院の錬金術師』と『聖堂教会の代行者』ね。それを見つけたところで、どれぐらい戦況が変わるかはわからないけど。」

 

 その悲観ともとれる言葉も、今の状況では許せてしまう。なにせ相手が人の理を外れた悪鬼羅刹であれば、そもそも立ち向かって打ち倒すという発想が生まれる方が少数派なのだろう。人間が2人増えたところでと考えてしまうのも仕方ないのだ。

 

「より期待できるのは代行者の方か・・・黒鍵以上の概念武装を有している可能性があるし、なにより本人の戦闘力に期待が持てる。アトラス院の錬金術師は戦闘よりも研究が畑だからな。」

 

「なるほど・・・」

 

 夜の闇を闊歩し始めてから1時間程経過し、ここ数日夜中にいろいろと目撃されているせいか街は鎮まりかえっていた。怖いもの見たさで無謀な探検を試みる輩がいるだろうと思っていたが、この不気味な静けさに気圧されて誰も外に出ないんだろうか。

 

『・・・コレはっ!前方1km先でルビーちゃんレーダーに反応アリ!』

 

「本当!?誰かいるの!?」

 

『この魔力反応・・・パターン紅!死徒が出現しました!それも特級の怪物ですよー!』

 

「イリヤスフィール!!」

 

 言われずともわかっていた。

 

「ルビー!飛行魔術!!」

 

『合点承知です!』

 

「俺も行こう、恐らくタタリ本体が現れただろうからな。」

 

 パターン紅とはなんぞやと聞く奴はいなかった。ルビーが特級の怪物と評する相手なら、それがタタリ本体である可能性は大いに高い。しかし敵を恐れて尻込みしていては何も成せはしない。チャンスを見つけたならば、恐れずに掴むべきなのだ。

 

『この距離では魔力砲の精度に期待できません!せめて肉薄しないと・・・』

 

「じゃあ斬撃モードにして!」

 

『斬撃モードはまだお披露目段階なんですよ!?イリヤさんがちゃんと使えるかどうかもわからないのに・・・』

 

「使えるかなんていいの!魔力砲じゃダメなら他に選択肢無いでしょ!!」

 

『りょ、りょーかいです!斬撃モードに移行・・・完了!!』

 

 完全なぶっつけ本番だった。いくらイリヤにカレイドステッキを扱う素養とちょっとした奇跡(・・・・・・・・)があるとはいえ、ついさっき存在を知った斬撃モードを十全に扱うのは無理だった。しかし、十全でなくとも構わない。ただの奇襲戦法であれば、初運用でも上手くいく可能性を帯びていた。

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

 ・・・初運用でここまで上手くいくのも中々すごい事なのだが、相手が()()だと半ばわかっていながら突撃したその精神性も讃えられるべきである。

 

「これはこれは・・・真打ちとまでは行かずとも、場の繋ぎ程度であろうか!!しかしそれでも先程の『演劇』は見事・・・」

 

「演劇とは、随分と舐めた口ぶりだな。」

 

「仮初の生を得た代行者・・・精々が黒子程度であろうとも、己が役を果たそうと・・・?甘い甘い甘い甘い甘いッ!!」

 

 狂気に満ちたその瞳で、厄災を齎す怪物は叫ぶ。

 

「3流役者など必要無し!世に必要なのはスポットライトを浴びる名俳優のみ!!それでは真打ちの登場まで・・・しばし待たれよ!!」

 

 そう言い残し、タタリは消え去った。このまま戦っていれば、みんな死んでいたかもしれなかったのに。今仕留める必要は無い・・・いや、最初から仕留めるべき相手だと思われていなかったんだろう。これ程隔絶した力の差、敵だと認識できなかった。自分達は弱すぎたのだ。この災厄を相手に、勝ち目などあるのだろうか・・・

 

 その場にいたイリヤとルビー、言峰士郎。そして今の光景を見ている事しか出来なかった2人の代行者と錬金術師の口から、絶望を纏った吐息が溢れた。


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