Fate kaleid moon プリズマ☆サツキ 作:創作魔文書鷹剣
《さつきside》
夜が明ければ朝がくる。冬木市を包む暗く陰鬱とした闇に陽光が差し、明るく爽やかな朝が訪れる・・・筈だった。
「イリヤちゃん・・・」
「さつきさん・・・」
『・・・・・・・・・・』
今ルヴィア邸を包んでいるのは爽やかさとは程遠い、深い深い絶望感だった。昨夜の一件にてタタリを間近で見てしまったイリヤは、残酷な現実を知ってしまった。ー人間如きが、死徒27祖第13位に勝てると思うな。ー という現実を。
「・・・落ち込んだところで何も変わらないわ。私達は現実を見なきゃならない、だけど・・・」
『オルタ様、その言葉は酷に過ぎます。』
サファイアの言葉の意味は、イリヤの周りで大人しくしているルビーの様を見れば一目瞭然だった。あの迷惑製造機ルビーが一言も発さずにただの棒切れになっている時点で現実の絶望感はわかってしまう。それでも立ち向かわねばならないのだが、オルタの言葉さえ一種の「強がり」だった。
「わかってるっての、でもこのまま項垂れてる方が時間の無駄。そうでしょ?」
オルタ自身、タタリが怖くないわけがない。脚が震えてるのが伝わってくるし、自分が吸血鬼である以上その驚異は誰よりもわかっている。だがそれとこれとは別である。彼女が何故これ程までにタタリの脅威に立ち向かうのかはハッキリしないが、その胸の内には確かにある。自分がなんのために
「オルタぁ・・・ホントにできるの・・・?」
「何よ、直接会ったわけじゃないくせに心折れたの?」
「・・・オルタも会ったこと無いよね?」
「・・・・・・・・・・」←目線逸らし
例え精神論で立ち上がる事ができたとして、彼女達は「強さ」という現実問題に直面しているのだ。相手は如何なる手も通用しない恐るべき怪物、それに比べてこっちは人間と吸血鬼。しかも「質」は玉石混交ときた。これで希望を持てる方がどうかしている。
「さつきさん・・・アレ、すっごく怖いよ・・・」
「イリヤちゃん、やっぱり・・・」
やっぱり、誰だって恐れているのだ。いつの世も死の恐怖に支配された者は容易に砕け散り、絶望からただ死を望む廃人になってしまうのだ。古来よりその手の恐怖と戦ってきた人間はいるにはいるのだろうが・・・いかんせんケースが違いすぎて比較対象にならん。
「イリヤちゃん、怖いのはわかる。でも・・・ううん、やっぱりいいや。」
誰も彼もが現実を直視できず、「どうやって立ち向かうか」を考える余裕さえない。
(そうか、そうだった・・・イリヤちゃんだって魔法少女やってるけど、ホントはただの女の子なんだよね。怖いに決まってるよ・・・)
その点さつきはそれほど恐怖を感じていなかった。まあ現場に居合わせなかったから当然といえば当然なのだが、吸血鬼の体に慣れてしまったが故に人間の本能が若干薄れているのかも・・・
(タタリかぁ・・・吸血鬼の中でも更に強いなんて、どうやって倒せばいいんだろ・・・)
考えても考えても答えは出ず、思考がぐるぐる巡るだけ。想像もつかないような強大な怪物を相手に戦う方法など、そう易々と思いつくはずがなかった。
『皆様、このまま頭を突き合わせても答えは出ません。一度解散し、後日考えるとしましょう。』
『サファイアちゃんにしては、ニートの息子みたいな発言ですねぇ・・・』
この場にいる誰もがわかっていた。一昼夜で答えなど見つかるはずがなく、ただの現実逃避にしかならない事を。
《その後・・・》
「うーん・・・」
さつきは悩んでいた。どうやったらタタリを倒し、イリヤ達も守ってあげられるのか。あれこれ考えてみたがどれも大したことないアイデアに過ぎず、中々これといった妙案は思い浮かばない。
「・・・どうしよ。」
「随分と浮かない顔ですわねサツキ、前に言いつけた事をお忘れですの?」
「ルヴィアさん・・・」
普段のルヴィアは現実が直視できているのかよく分からんが、流石にここまでくれば嫌という程に視えてしまっている事だろう。死徒27祖の強大さ、無慈悲さ、恐ろしさを・・・
「無理にでもシャンとしなさいとは言いませんわよ、それでも前は向いているようで結構ですわ。」
「あぁ・・・はい。」
何しに来たんだ、とは口が裂けても言えない。むしろ曲がりなりにもさつきを励まそうとしたんだろう・・・遠回し過ぎて滅茶苦茶伝わりづらいけど。
「考え事に精を出す前に、メイドとしての本分に精を出すこと。よろしいですわね?」
「はーい・・・・・・・・・・えっと・・・何をどこまで考えてたんだっけ?」
いらん横槍のせいでさっきまで何をどこまで考えていたのか忘れてしまった。さつきを励ます意図が無かったらルヴィアはマジで害悪と化していた事だろう・・・既にイマイチ戦力にカウントできなさそうだけど。
「確かタタリを倒す方法を考えてて・・・それで何も思いつかなくて・・・あれ?何も思いつかなかったんじゃあ、思い出す意味なかったなー・・・」
1人でブツブツと呟いている間にも、段々と時間は過ぎていく。後3日 —イリヤ達によれば、タタリが言っていた事をざっくり解釈するとそれが残された時間だそうだ— しか時間が無いというのに、こんな事に時間を費やしていいのだろうか・・・?
《その夜・・・》
「うーん・・・何も思いつかない。」
あれからさつきは仕事の合間を縫って色々考えてはいたが、どの道「神秘の側」について彼女は無知に過ぎた。吸血鬼の中でも特級の怪物を相手に戦う方法など閃くはずがなく、夜までもつれこんでも何も成果は生まれなかった。
コツコツコツ
「はーい・・・て、え?窓?」
何故か窓の外から聞こえるノック、怪しみつつも窓を開けた。
「弓塚さつき、ですね?」
窓の外にいたのは、紫色の服を見に纏った女性だった。
「・・・誰ですか?」
「私はシオン・エルトナム・アトラシア。アトラス院の錬金術師です。」
「あ、ああー・・・先輩が言ってた人ですね?」
「・・・先輩というのはシエルとかいう代行者の事ですか?でしたら都合がいい。私と一緒に、来てくれますか?」
「一緒にってことは・・・やっぱりタタリですか?」
「・・・はい。私達はタタリを払うべく、力を求めています。貴女の力も借りたいのです。」
「は、はい!」
そう言われたら、行くしかなかった。
残り2日・・・