Fate kaleid moon プリズマ☆サツキ 作:創作魔文書鷹剣
《さつきside》
今夜は月が綺麗だ。月は見る人に狂気を齎すと考える人間
もいたらしいが、今夜の月は狂気など微塵も感じられないような美しさだった。だが月が高々と昇る時は、い必ず何かが起きようとしている。
「・・・今夜だよね、タタリが言ってた日って。」
「むしろ違ってたら面白いのに。」
いつこの街が崩壊してもおかしくないのに、さつきとオルタは冷静そのものだった。実感が無いだけか、或いは異常事態に慣れきってしまったのか・・・前者だと思いたい。
「時間的にもそろそろ現れてほしいところだけど・・・あ、来た来た。」
夜の闇を駆け抜けて現れたのはシエル、シオン、リーズの3人。
「状況は?」
シエルの問いにオルタが答える。
「イリヤ達がタタリを捜索中・・・多分向こうから来ると思うけど。」
「それならむしろ好都合です。」
早ければ今頃は交戦開始だろう。今から向こうのチームに合流してそのまま参戦すれば総戦力で戦える上にイリヤが有する「切り札」を使うための陽動や時間稼ぎも視野に入れられる。ならばするべき事は一つ。
「合流、交戦、討伐!だろ?シオン。」
「そんなに楽なら苦労はないんですが・・・」
一同は夜の闇を切り裂いて、月明かりの元走り出した。
《イリヤside》
「今夜だよね、タタリが言ってたのって。」
「イリヤ、落ち着いて。」
『焦ったって何も上手くいきはしませんってー、ここはお茶でも飲んで一休みしないとー。』
「まだ何もしてないなら一休みって言わないよね・・・?」
決戦の時が来たというのに、こちらはいつも通り呑気なものだった。神経が太くなってきたのか、或いは
『死徒の反応は周囲にチラホラと点在しています。低位の個体ばかりですので、リン様とルヴィア様でも問題は無いかと。』
「問題無いって死亡フラグじゃないかな・・・?」
「そんな事言ってると本当になる。」
「それはそうだけどさ・・・」
じわじわと迫り来る恐怖を前にじっとしていられない。少しでも会話に間ができると不安が一気に押し寄せてくる。よりによってこんな時に一緒なのが美遊って・・・
(いや、美遊は悪くないんだけど・・・会話が長く続かない・・・)
未だに美遊が抱えている欠点、会話が長続きしないという欠点を抱えている彼女はこの状況下において無自覚にイリヤを不安がらせていた。
『漸く決戦と刻が来たというのになんだか不景気ですねー、いっそこちらから探しに行くとか・・・」
その時、凶々しい邪悪な気配が一行を襲った。
「あ、あぁ・・・」
恐怖のあまり声すら出せず、イリヤは体から力が抜けていくのを感じた。まるで理解できない「何か」に襲われているかのような感覚、タタリと初めて接触したあの夜に味わった感覚とは比べ物にならない恐怖だった。
「・・・リヤ、イリヤ!」
恐怖の中でやっと聴こえてきた言葉、美遊が自分を呼ぶ声だった。
「イリヤ!」
「だ、大丈夫・・・聴こえてる・・・よ・・・?」
精一杯の力を振り絞って返事を返す。これが「恐怖」、イリヤが今までに感じた恐怖感とは桁が違う感覚を前に立っているのがやっとだった。
『今の気配、間違いなくタタリが出現しているはずです。』
『ルビーちゃんレーダーに反応あり、パターン紅!死徒の反応ですよー!しかもこの反応の大きさ、間違いなくタタリですねー!!』
「イリヤ、行くよ!」
「うん!」
大きく一歩を踏み出して夜の闇を駆け抜けてゆく。その背に生やした小さくも逞しい翼を羽ばたかせ、恐怖を打ち破って漆黒の空を行く。そして見つけた、恐るべき怪物の姿を。
「見つけた!あそこにいる!!」
「イリヤ、どうする?」
「先手必勝!
魔力を一点に集めて放つ渾身の一撃、それは死徒どころか英霊にさえ通用するような威力を伴って放たれた。その砲撃を、視界の外から浴びたタタリに避けるすべは無かった・・・否、
「これはこれは・・・魔法少女が2人とステッキが2本、先程の一撃は脇役にしては中々の名演。座長自ら礼を言わせてもらいたい・・・この死舞台に!自らの足で登るその愚かさに!!」
・・・
「うそ・・・今の聞いてないの!?」
『タタリの魔力量が増加!恐らくイリヤさんの砲撃をいくらか吸収してますよーッ!』
「・・・騒がしい演者に配役は不要、失せよ。」
刹那、地獄の釜が蓋を開いた。
「今宵は満月、かの姫君が御尊顔を見せる舞台に相応しくなき者には死を!黒子など必要にあらず!!」
動きだしたタタリの挙動はまるでワルツのように軽やかに、美しささえ感じさせるものだった。しかしその一挙手一投足がイリヤ達に牙を剥き、残酷な破壊と殺戮の権化となる。
「あああああッ‼︎『眠り姫』の意識が覚醒しようとしている!ならば我が力で地獄を形作り、この手で姫を手招きしようッ!!この世が全て消え去るまで!!」
文字通りここは地獄だった。カレイドの魔法少女では対抗する事さえできはしない、完全なる暴力がそこにあった。僅か一呼吸のうちにイリヤ達を嵐のような猛攻撃が襲い、反撃など試みる間もなく地に打ち付けられる。一切の希望も無い絶望が具現化したような相手に勝機は無いに等しかった。
「うぅ・・・ぐっ、はぁ・・・」
イリヤの体は既に至るところが悲鳴をあげ、痛くない箇所の方が少ないぐらいに追い込まれていた。およそ10歳やそこいらの娘が受けていいような仕打ちではなく、最後に残った戦意さえも喪失しかけていた。
「い、イリヤ・・・」
「美遊・・・」
あっという間に追い込まれた2人に対し、タタリの方は余裕そのものだった。むしろ力が有り余るかの如く無駄に暴れ回り、更なる破壊と災厄をもたらして狂い続いている。
「あああああッ!!死を!破滅を!この世界に永遠の終焉を!!」
暴れ回りすぎていよいよ言動も支離滅裂になってきたタタリを相手に立ち上がれる余力も既に無く、思い出したかのように振り返りイリヤ達にトドメを刺そうとした。
「た、す・・・け・・・」
精一杯の力を振り絞って出した声は虚空に消え、誰の耳にも届かない・・・
「間に合った!!」
何者かが渾身人蹴りをタタリに浴びせ、強引にイリヤ達から引き離した。しかも現れたのは1人ではない。2人、3人と数は増え、7人の援軍が姿を現した。
『さつきさん、オルタさん!リンさんにルヴィアさんまでー!』
『で、では残る3人が例の援軍・・・』
ついに合流したさつき達。ギリギリのタイミングだったがなんとか援軍は間に合った。
「ルビー、サファイア、残ってる力を全部魔力障壁に注ぎ込んで。」
オルタの指示どおり、ルビーとサファイアは魔力障壁の維持によるイリヤと美遊の保護に心血を注いだ。そして、この戦いの行く末を見届ける事とした。
「さあ・・・反撃開始!!」
でもよく考えたらさっちんが幸せになったら私の存在意義が無くなる可能性大。