夏の日の怪物 作:シャーマン
家出をしたことがある。
小学二年だか三年だかの頃だ。
出来る限りの金を持って家を出て、2日ほど放浪した後に誘拐されて、人買いに売りつけられて、そこからの中間は憶えていないが、いろんな事があったんだろう。
そして今、私は敬愛する主人と共にある。
「チカ、さっさとしなさい。 日本へ行きますわよ」
「はい」
一度たりとも、私は後悔していない。
あのままあそこにいるよりは人の役に立っていたし、そして幸せになれている筈だから。
名前すら忘れて、憶えていた"オリ"と"チカ"の部分からお嬢様につけられた名前が、チカ=オリビア。
随分と女の子らしい名前だが、どうやら私はここにきた当初は女だと思われていたそうだ。
その他にも、色々な思い出がある。
この館に来てから五年ほどであっても、私にとってはこの館が故郷であり、帰るべき場所だ。
「もう、チカ! どうしたんですの!?」
「……いえ、少しこの館が恋しくなって……」
私がそう呟くように言うと、彼女は笑った。
ひとしきり笑った後、少し呆れたような顔でこちらを見る。
「行く前からホームシックですの? たったの三年ですわ。 それに夏には戻って来れます…… しかし、意外ですわね。 あなたは、そう言うタイプではないと思っていましたわ」
「この館と、そこに暮らす人々には大恩がありますから」
「……ふふ、わたくしも、あなたには恩がありますわ」
「それはなんでしょうか? 私など、あなたに助けられてばかりの愚鈍な男です……」
「隣にいて、従者をやってくれていれば、それだけで構いません…… さて、行きましょうか、チカ」
「はい、セシリアお嬢様」
♢
IS操縦者育成特殊国立高等学校。 長いので略してIS。 それが今日から俺とセシリアお嬢様の通う学び舎である。
イギリスからは遠く、日本に位置する。
しかし、極東の島国の学校にも関わらず、このIS学園は全世界の学校の中で一番の生徒数を誇る。
何故か、それは"IS"という物を教える学校はここにしかないからだ。
だから私達のように、飛行機に揺られて日本まで行く人々がいるのだ。
端的に言い表せば『宇宙空間での活動を目的としたマルチフォーム・スーツ。』と、一文で終わってしまう。
しかし、それだけでは同然このISを語り尽くす事は出来ない。 それどころか、世界中のありとあらゆる研究機関が躍起になって研究を行っていると言うのに、その存在を紐解くほつれすら見つかっていない。
それほどまでにISは未知であり、魅力なのだ。
「チカ、周りは殆どみんな女の子ですけど、手を出しては駄目ですわよ」
「しませんよ。 私、性欲ないので」
ISを語るには、その致命的欠陥にも触れなければならない。
このISは、男性には乗ることが出来ない…… とされていた。
性能が下がるとかそう言う話じゃなくて、本当に使用不可能なのだ。
史上最強の兵器たるISに女性しか乗れないとあり、世界は女が男よりも優れていると言う結論に至った。
故に、現在は女尊男卑的風潮が広まっているのだ。
それも2月頃までの常識だが。
2人の男性IS操縦者が誕生したのだ。 1人は日本の織斑
そしてもう1人は私だ。
なんて言うこともあり、私達が通うことになるIS学園は女子校である。
IS学園が教えるのはISの整備などでは無く、ISの操縦。 乗れなければ通う意味も無い。
と、言うわけで、生徒は女子のみである。
「チカ、不安ですか?」
「いえ…… ただ、私の故郷はどんな国なのか、と思いまして」
日本…… 覚えているのは、俺がそこに住んでいたことくらいだ。
どんな国なのかなんて覚えてないが、日本語はある程度できる。
「……本当の家に、帰りたいですか?」
「いえ全く。 私の居場所はイギリスのあのお館です」
「そう…… なら、いいですわ」
セシリアお嬢様はどこと無く、満足げに笑った。
もうじき飛行機は日本へ着く。
一応設定として、主人公は過去に喉の手術と女性ホルモン注射を受けさせられていることになっています。
使い所と出しどころが無いのでここに書いておきます。