不可視の剣を持つセイバーと、赤と黄の二槍を持つランサが、人の寄り付かないようなコンテナで死の舞踏を踊っている。剣戟は火花を散らし、ぶつかるたびに周囲に突風を巻き起こす。
凛とした表情で敵を睨みつけ、後ろの女性を守りながら戦う姿はまさに騎士というに相応しい。青を基調ろした鎧を身に纏い、金の髪を風に靡かせる。
身に纏う闘志、隙を見せればすぐさま切りかかるであろう殺気がその剣士からは感じられる。
だが、そんな騎士の左腕は、槍兵による傷を受け、血が滴り落ちている。
一方の槍兵はそれらしい傷はない。赤の長槍と黄の短槍を構え、何処か戦いを楽しむかのような笑みを浮かべている。
頬についた魔法の黒子は彼の美貌を更に際立たせ、その笑みは多くの女性を落とすことだろう。
二人の舞踏を見る者は多い。
サーヴァントを呼び出し、他の六騎を討ち果たす戦い。聖杯戦争。
そのサーヴァントが堂々と戦っているのだから、見ている者が複数いるのは当然であろう。
「いかんな、これはいかん」
「な!なにがだよ!?」
鉄骨の上から戦況を見守るサーヴァントとマスターが一組。名をウェイバー・ベルベット。
「ランサーの奴め、決め技に訴えおった。早々に勝負を決める気だ」
「いや、それって好都合なんじゃ…」
赤い大柄のサーヴァントは腕を組み、少々怒気の入ったような声で答えている。
「馬鹿者!何を言っとるか!?」
ドシンという地響きを鳴らし、声に力を籠める。マスター、ウェイバー・ベルベットは鉄骨の上というのも相まって「ひぃぃい」という情けない声を上げていた。
「もう何人か出そろうまで様子を見たかったのだ…あのままではセイバーが脱落しかねん。そうなってからでは遅い」
「お、おおお、遅いって?奴らが潰し合うのを待ってから襲う計画だったんじゃないかぁ!?」
ウェイバーに向き直って赤い大柄のサーヴァントが説明のように言う。
「確かに余は他のサーヴァントがランサーの挑発に乗って出てこないものかと期待しておった。当然であろう。一人ずつ探し出すよりもまとめて相手にした方が手っ取り早いではないか?」
「まとめて?相手?」
ウェイバーはサーヴァントの言わんとすることが分からずにいる。
「応とも!異なる英雄豪傑と矛を交える機会など滅多にあるまい。それが六人ともなれば、一人たりとも逃がす手はあるまい。現にセイバーとランサーあの二人にしてからが、共に胸の熱くなるような益荒男どもだ。死なすには惜しい」
「死なさないでどうすんのさ!!聖杯戦争は殺し合いだってば!!」
「ええ、その通り。聖杯戦争は殺し合いです。ですから、彼らのどちらかには本日脱落してもらいたい」
突然後ろから異なる声がして、ウェイバーは振り返った。
そこにいたのは和服姿の白髪の青年。否、サーヴァントだ。
ライダーはすでに分かったいたのか、達観したような目をコンテナに向けたまま腕を組んでいる。
「ほう、余があの二人の戦いに入るとわかっておるな?」
「は、はあ!?何を考えてやがりますかぁああ!この馬鹿はぁああ!!」
「ええ、なので私はどちらかが脱落するまで足止めするようにマスターに命令されています」
白髪のサーヴァントが剣、刀を抜く。
「ほう、余の相手をすると?」
赤い大柄のサーヴァントが剣を抜く。
鉄骨には雷が流れ込む。高らかに切り裂かれた空間から出てくるのは二頭の雷牛と、それが引くチャリオットだ。
赤の大柄のサーヴァント、ライダーはウェイバーを引っ張ってチャリオットに乗せる。
「我が名は征服王イスカンダル!此度はライダーのクラスを得て現界した!問うておく。汝は聖杯を余に譲り、我が軍門に下る気はないか?」
白髪のサーヴァントは少しキョトンとした表情をし、少し笑って答える。
「とても魅力的な提案ではありますが、私にもマスターにも願うものがあります。なので、貴方の軍門に下る訳にはいきません」
「これは交渉決裂か…勿体ないの~」
「ライダー!!」
こうして話してしる間もライダーは相手のクラス、スキル、戦術などを予測していた。
クラスは…セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、余のライダーを差し引くと残るはキャスターにバーサーカー。しかし、狂化している気配を感じないところをみるとキャスターか?
「セット」
白髪のサーヴァントが小さく戦いの合図替わりに黒鍵を放つ。魔法陣より放たれしそれを、ライダーは短剣で防ぎつつ、神威の車輪に乗って距離を取った。
白髪のサーヴァントはゆっくりと加速してライダーのいる天に飛ぶ。それに合わせるようにライダーもチャリオットを突進させる。
「はっ!」
「うおぉぉお!」
ライダーの突進を白髪のサーヴァントが受ける形になった。
剣でその突進を防ぐのは難しい。しかし、刀とは力で放つものではない。
「ぬっ…!」
突進を受け流し、ライダー本人に刀を届かせる。
ジリジリと剣を刀が火花を散らす。
蓮撃。
刀と剣の火花が空中で何度も光る。そばにいるウェイバーには何が起きているのか分からないだろう。一介の魔術師ではこれを見ることもかなわない。
ただ、自分がライダーの足手まといになり、守られているということだけは辛うじて分かった。
「セット」
ライダーの周りに黒鍵が展開される。
白髪のサーヴァントにより剣を受けられ、防ぐすべはない。
そこでライダーは無理やり距離を取って、これを避ける。腕や頬にかすめる程度にこれを抑えた。
「ほう、キャスターか?それにしては芸達者なことよ」
ライダーの余裕は先の打ち合いで消えている。強者と認め、剣を握っている。
白髪のサーヴァントは小さく笑って答える。
「魔術師が剣を握れないことはないでしょう?」
ライダーと白髪のサーヴァントが見合う。
実力は拮抗とは言えない。白髪のサーヴァントが圧倒的に不利。この数度の立ち合いで両者ともにわかっている。技量は明らかにライダーが圧倒していた。
「然り。いざ!」
幾度かの打ち合いが繰り広げられる。
白髪のサーヴァントは打ち合いの度に小さな傷をつくる。勝敗はすぐにつく。
「はは…やはり俺では貴方に勝てない」
白髪のサーヴァントが距離を取る。
それは何かの準備のようだ。
サーヴァントが準備するものとはすなわち…
「宝具か…!」
ライダーが構える。自身も宝具を開帳するために。
しかし、それが振るわれることは無かった。
「ええ、予想外ですか?―――なるほど。では、私が彼を引き付ける必要はないと?―――ええ、わかりました」
「ほほう…なにやらマスターとの会話のようであったが?」
「ええ、予定が変わりました。貴方の相手をする必要もなくなった。私は去ります」
白髪のサーヴァントが靄となって消えゆく。アサシンを思わせるほどに速やかに存在を消し去る。
「待て!余が貴様を逃がすと――」
ライダーがチャリオットで以て追いかけようとしたその瞬間――
ドオォォォォォン!
白髪のサーヴァントが消えると同時にランサーとセイバーが戦っていた場所から爆音が響き渡った。
――数分前のコンテナにて――
「覚悟しろセイバー!次こそは取る!
「それは私にとられなかった時の話しだぞ、ランサー」
ランサーとセイバーの見合いが終わる。
剣と槍の火花がまた散ろうとしている。
正史ではこの瞬間にライダーの介入があり、この戦いは中断となるが、今は白髪のサーヴァントによってライダーは来ない。
アーチャーの介入はライダーの介入が無ければ無いだろう。
「そうだ、ここで一人落ちる。英雄王は少々手が余るが、慢心王を御すなど父に出来るはずがない」
コンテナを見るマスターの一人が安地で一人つぶやいている。教会に人はいない。
否、白目をむいて動かなくなった神父の姿があった。
十字のペンダントをぶら下げた真っ白い髪をした少年。達観したような目をし、見る者によっては不快とまで思うほどの、空っぽの笑顔を浮かべて戦況を見ていた。
「できるならセイバーが落ちてほしいなあ。さ~て、ここでどっちが落ちる?」
剣と槍が交差する。
そこに赤の大柄の男は介入しない。白髪のサーヴァントが仕事をこなしているということだろう。
「くっ!」
「はあぁぁぁああ!!!」
セイバーは左腕が使えない。ランサーの宝具、『
聖杯戦争において、真名を隠すことは重要な事だ。真名が暴かれることでその英雄、英霊の弱点がばれることを意味する。アキレウスなら踵、ジークフリートなら背中。といったように狙う箇所が決定する。
しかし、今は双方が真名を知っているアドバンテージは無い。
「甘いぞセイバー!」
セイバーの攻めが二槍の槍を以て弾かれる。セイバーの聖剣は赤の槍とぶつかり、その風の結界を解かれる。
魔力のつながりを絶つ赤の槍はセイバーの持つ防具の意味を失わせる。
かと言って、赤い槍を警戒しすぎると、黄の槍による癒えることの無い傷を負うこととなるだろう。
セイバーは左腕を失い、二槍の槍を警戒し続けなければならない。
「ふ、戯言を!」
ランサーの打ち込みに片腕で対応する。
流石は騎士王。片腕でフィオナ騎士団随一の男と互角に戦っている。
「何をやっているランサー!!相手は片腕を失っているのだぞ!」
ランサーのマスターの声がコンテナに響き渡る。少しばかりとは言えないほどの怒気がこもった声。苛立ちがうかがえる事を衛宮切嗣は好都合とばかりに笑みを浮かべていた。
「申し訳ありません我が主よ。今しがたお待ちを」
ランサーが構える。これで一人落ちる。
またしても剣と槍が交わる。
ここで大きなイレギュラーが生じる。
遠坂時臣が召喚したサーヴァント、それが大きなファクターを担っている。
正史では蛇の抜け殻を用いて『ギルガメッシュ』が召喚されていた。
しかし、この世界の遠坂時臣は黄泉の『
故に、この世界の遠坂時臣の触媒は遠坂家のある宝石が担っていた。
ビルの屋上を陣取る赤い外套を身に纏った白髪の英霊はゆっくりと弓を構えた。
「やってくれ給えアーチャー」
「了解だマスター。悪いが、ここで二人、落ちてもらおう。
一本の閃光。ねじれた光は凄まじい速度でコンテナに向かって一直線に向かって行く。
矢が放たれたコンテナには、並大抵の者には察知することも出来ないほどの小さな殺気がのせられていた。事実、ケイネスに切嗣、二人のサーヴァントまでもが、直前になってになければ気づかなかった。
つまり、当たるまで気づくことないそれを、感知できるはずもない。死角からに奇襲に応じることなどできるはずもない。
しかし、二人は人の域を大きく離れた英雄だ。
例え、脳内のリソースを全て割きている状況でも、完全な死角からの奇襲であろうと、戦士としての勘が、それに対して警報を放っていた。
「アイリスフィール!」
「主よ!」
ドオォォォォオン!
矢がコンテナに着弾する。それと同時に爆発する。それは『
一瞬にして察知した二人は主の危機を防ぎ、さらに自身もかわして見せた。
しかし、無傷というわけではない。
「くっ!」
槍兵はかろうじて後方に逃れていた。矢が着弾するその直前で黄の槍を犠牲にして片腕をボロボロになりながらもなんとか回避していた。
「セイバー!」
「アイリスフィール!私の傍に!」
セイバーは聖剣によりある程度相殺してはいたものの、爆発によるダメージを体全体で小さく受けていた。
「アーチャー…!」
「ええ、間違いなく」
「セイバー。よもやアーチャーと手を組んでいた訳ではあるまいな」
ランサーが傷ついた腕を庇いながら見らみをきかせる。それは明確な敵意で以て、先ほどまでの敬意とは正反対の憎しみに近い怒りを露わにしていた。
「それはこちらのセリフだランサー。しかし、こちらもそちらも傷を負っているところを見るに横槍だろう」
「遠方から狙撃するしか能のない弓兵が!我らの決闘の邪魔をするとは…!姿を現せ!卑怯者!」
ランサーの返答とばかりに矢がランサー、セイバーに降り注ぐ。
「くっ!」
セイバーはアイリスフィールを守りながら、ランサーは片腕が潰された所為で、アーチャーによる狙撃を防ぐしか手が無い。
「同じ手が何度も通じると思うな!」
撤退以外の手はない。目の前のセイバーを、ランサーを相手取りながら
が、それをあの弓兵がゆるすだろうか?
「何をしておるランサー!今がセイバーを取るチャンスであろう!」
まず何より、決闘と戦争を履き違えた学者様には難しい。
「我が僕、ランサーよ!アーチボルト家当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪を以て命ずる。アーチャーに加勢し、セイバーを穿て!」
「主!」
令呪によりランサーの体がセイバーに向かれる。
変わらずアーチャーから来る矢をさばきながらランサーは槍の矛先をセイバーに向けた。
「悪く思うなセイバー!これも我が主のため!」
「くっ!来いランサー!」
この一撃で落ちるのはどちらか?しかし、これにも介入する第四の勢力があった。
「ALaaaaaaaaa!」
「くっ!」
「何っ!」
「双方剣を治めよ!王の御前であるぞ!」
雷とともに現れたのはチャリオットに乗った赤い大柄のサーヴァントだった。
そして、それとともに何故かアーチャーの狙撃が止まった。
ありがとうございました。
申し訳ありませんが来週は諸事情により、お休みさせていただきます。
次の更新はその次の水曜日(2018/3/7/17:00)に投稿します。
『アイリスフェール』→『アイリスフィール』に直しました。教えていただいたyuki様ありがとうございます。(変更日2018/2/24)