廃れた家。そこに住まう魔術師はもういない。数年ぶりに帰ってきた彼の前にあったのはだっだ広い屋敷だけだった。爺さんはもちろん、兄弟家族さえいない。
「ん゛!ん゛!ん゛!」
そんな彼、間桐雁夜が今は、椅子に手足を固定され、ガムテープで口すら塞がれている。
「久しぶりですね、おじさん」
虫蔵だった地下に静かに入ってきたのは、頭皮が真っ白に染まった言峰綺礼の息子になった少年だった。
「ん゛!ん゛!ん゛!」
何かを訴えるように少年を見ている。そこに一人のサーヴァントが入ってくる。
「おやおやマスター。顔色が優れないようですが、どうなさいました?もしや吾輩に助けを求めておられるのか?…いやはやマスター。吾輩は一流の作家ではございますが、戦闘など吾輩に求められても、所詮は作家にございますので」
出てきたサーヴァントはキャスターのサーヴァント。中世のヨーロッパに特有の派手な衣装を身に纏い、派手に動きを加えながら時に相手に苛立ちを加速させるかのような話方をしている。
少年が雁夜の前に出る。その手には黒鍵が握られ、雁夜の首に脅すように指し出す。
雁夜は今の状況を考える。
先ほどまでコンテナでの戦闘があった。
全く協力しないキャスターを置いて、コンテナを監視していたまでは覚えているが、そこからの記憶がない。
何故、手足を縛られ、虫蔵で拘束されているのか?それは恐らく、ゾォルケンがまだ存命であり、自分のような落伍者も必要なほどに弱っていると予測する。
ならば、目の前にいる、剣を突き立てている少年は、ゾォルケンに操られ、間桐雁夜を脅すように命令されていると推測する。故に、これからどれほどの苦痛が来るかもしれないと覚悟を決めた。
しかし、少年は突然、口元のガムテープを剥がしだしてくれた。これはもしや操られているのではなく、助けに来てくれたのかではないだろうか?と思い、軽い気持ちになった。
「黄泉君…だよね?あは、あはは、久しぶりだね。…ちょっとおじさん危うく死んじゃいそうだから、この剣をどかしてくれないかな?」
笑みを浮かべながら語る雁夜。しかし、そんな表情とは裏腹に、少年の表情は無を貫ていた。
「黄泉く――」
「――どうして間桐に戻ってきたのですか?」
剣を引かない少年に催促するように名を呼ぶと、言葉を遮るように冷たい声で質問してくる。人を人とも思わぬような冷え切った目をし、首に突き付けた剣は震え一つない。
七、八歳の少年のできることではない。きっと誰かに操られている。と雁夜は予測した。これは人間のすることではないと、内心で怒りをためながら、少年に優しく答える。
「どうしてって、えーと、黄泉君や桜ちゃんが離れて暮らさなくていいように、時臣さん…君のお父さんと話しをするため…かな?」
話をする。というよりは聖杯を以て、その願いをかなえるためなのだが、少年に言っても伝わらないと思い、少々婉曲して伝える。
実際は、あの三人兄弟の幸せのためという大義名分の下、遠坂葵という最愛の人を奪い去るために戻ってきたのだが、そんな感情を素直に言うはずもない。自身すら騙して、そんな感情は無いと否定しているのだから。
多少は少年の心に止まり、操られた心を取り戻せるかもしれないという淡い期待を持った発言でもあった。揺さぶられた心で、自身の心を取り戻してくれるかもしれないという思いで、また少年の顔を見た。
しかし、そんな思いとは裏腹に、少年の顔色は無のまま。しかし、どこか呆れたような声色になっていた。
「…そんな…そんなちっぽけで、そんなどうでもいい理由で戻ってきたのですか?」
「ちっぽけで、どうでもいい?黄泉君はそんな人の思いを踏みにじることは言わない!…ゾォルケンいるんだろ?出てこい!黄泉君を操って人質にしたんだろ?俺は間桐に聖杯を持ち帰ってやるからさっさと黄泉君を開放しろ!」
少年の発言はゾォルケンが後ろで操っているに決まっている。あの誰にでも優しく、どんなお願いもしっかりとこなす黄泉君が、ちっぽけでどうでもいい、何て言うはずがない。
「いえ、ゾォルケンはいません。死にましたから。というか私が殺しました」
少年は流れるような動きで雁夜の首から右腕に黒鍵をスライドさせた。
え?という疑問の声を上げるより早く、雁夜の右腕が胴からお別れを告げる。
「あぁぁあああああ゛!」
「おじさんの兄も、その息子も殺しました」
少年は右腕から左腕に黒鍵をスライドさせる。
叫び声もやまないうちに左腕が胴からお別れを告げる。
「あぁぁあああああ゛!」
たっぷりと流れ出す鮮血が縛り付けられた椅子を伝って地面に流れていく。もはや水たまりまで出来るほどの量だ。
「どう…して…!?」
「どうして?何がどうしてなのでしょう?腕を切ったことですか?ゾォルケンを殺したことですか?兄弟を殺したことですか?甥っ子を殺したことですか?まあ、どれでもいいですが、答えは桜のためと」
雁夜の思考は痛みでまとまらない。ゾォルケンは本当は生きているのだ、という先入観が未だ拭えない。それでも、答える少年にまた問いかける。
「桜…ちゃん…の…?」
「ええ、桜をどうしてでも、間桐には行かせないためには、間桐があっては困るのです。貴方を殺せばそれで終わりだ。よかったですねおじさん。貴方は桜のためになりました。ここで死ねば桜は平穏に暮らせるでしょう。恨むなら、間桐を、自身の愚かな選択を恨んでください」
「キャス――」
心臓に黒鍵が突き刺さる。
これで間桐家が完全になくなった。
「いやはや、やはり貴方はそこな元マスターより面白い方でありますなあ!!肉親のためとはいえ、障害になるかもしれないというだけで、一族郎党皆殺しとは!これぞまさしく悪の体現者!いい題材になりますなぁ!」
傍観していたキャスターが端から入ってくる。
しかし、マスターを失ったサーヴァントは自身を現界するだけの魔力を供給できないために、淡い光とともに消えかかっていた。
「それはいいですが、マスターを失った貴方では長くないでしょう?どうです?その悪の体現者の手を取り、私の願いを近くで見たくはありませんか?」
少年がキャスターに手を差し出す。
「おや、おや、それは大変魅力的な招待でありますなぁ。ええ、いいでしょう。――神に仕える聖職者見習いであり、魔道を極める魔術師見習いであり、誰にでも手を差し伸べる慈悲深い聖者であり――
――『この世全ての悪』である歪な存在の貴方に仕えましょう」
未だ聖杯戦争は序盤だと思っているマスター諸君。気を付け給え。
ここから加速するイレギュラーの数々に置いて行かれるようなことがあれば、それは汝の人生の最後となるだろう。
――――――――William Shakespeare
ありがとうございました。
切りの良いところで割ると、話が短くなってしまい、最近短くなってしまっていました。申し訳ありませんm(__)m
出来る限りもう少し書くようにします。
加えて、次の更新が遅れます。申し訳ありませんm(__)m
次の更新は来週の金曜日(2018/3/31/17:00)に更新します。